第22話 春風が吹いている②
緊張して受けた授業がようやく終わり、待ちに待った帰宅時間になった。
香月さんとカフェに寄る約束を取り付けていたので、邪魔が入る前にそそくさと学校を後にする。上村君に見つからないことを祈りながら、二人並んで歩く。
風が吹くたび彼女のフレアスカートが揺れ、歩調に合わせて髪の毛が揺れる。さらさらと流れるようなきれいな髪だ。一定の距離を保ってはいるが、心までゆらゆら揺れてくる。
同級生とデートができるなんて、しかも始まっていきなりっ!
上出来だ!
今日一日をほとんど一緒に過ごしたのだが、授業を受けていたのでおしゃべりをするわけにはいかなかった。これからの時間が超楽しみだ。
ひょっとしていきなり付き合ってくださいとか、そんな展開になるかなあ……。なったらもう舞い上がってしまうなあ。他の同級生たちも驚くだろうし、何より上村君も……
妄想をたくましくしていないで、気持ちを落ち着けて会話しなきゃな。
「駅まではここから十分ぐらいだね」
「そのくらいね」
「カフェはそこから」
「そんなに離れていない」
おお、たった十分プラスちょっと歩けばカフェに入れるのかあ。ううう……ロマンチックな展開。ここへ来てから初のデート! 彼女はスカートもロングだしトップスもトレーナーだから露出度は低いが唯一見えている足首がきゅっとしまっていて細い。そこだけ見てもすらりとした体形のような気がする。ウエストも細く足が長く見える。
ただ歩いているだけでもいい雰囲気だ。ずっと着かなくてもよくなってきた。こうして歩いていると、僕たちはカップルに見えるかもしれない。
「あのう、疲れてる?」
「いや、全然」
「黙ってるから、疲れたのかと思った。疲れたら無理に寄らなくてもいいのよ」
「元気元気っ! 超元気いっぱいだから、ぜひ寄ろう!」
「みたいね~」
「こっちの道に入るの」
あっ、大通りから脇道へ入るんだ。こんなところにあるのか。
「へえ、この道沿いにもお店があるんだね」
「脇道をちょっと探検してみようかな、ってことで覗いてみた」
「どちらの提案?」
「私が提案したの。これから何年かお世話になる街だから知っておきたいもの。私たちフッとパス愛好会の会員でしょ。脇道をいろいろ見て回るのは活動の一環!」
「そうだ、いい考えだ! ふ~む、レトロな感じの店が多い」
「そうなのよ!」
「駅前の商店街の方が新しいんだな。ここが昔からあった街並みのようだ」
「そのようね!」
建物もほとんどが二階建てで、高い建築物はない。ゆっくり歩きながら、カフェの前に着いた。
「ここです!」
「この店もレトロでいいなあ!」
「でしょう。写真で見たような昔の喫茶店」
「こういう店今は珍しいな。店名は……柿の木。名前もレトロな雰囲気」
「和風なのよね!」
ドアを開けると、カランとドアベルが鳴った。へえ、洒落てる。
メニューを見て驚いた。
コーヒーや紅茶レモンスカッシュなど定番の飲み物のほかにパフェがある。ここまでは喫茶店としては普通だ。パスタやピザがあるのもまだわかる。それからさらに、桃の大福、栗のケーキ、柿の羊羹などがある。地元産の果物を使ったオリジナルのメニューなのだろうか。そして、最後に汁粉があった。
「このメニュー、おかしいでしょ」
「どこが?」
「ほら、この三種類」
「桃、栗、柿……。そうだ、桃栗三年柿八年にかけてるんだね!」
「その通り。まあここに書いてあったから確信できたんだけどね」
メニューの隣に小さなカードが置かれていて、三種類のお菓子の説明が書かれていた。しゃれっ気のある品ぞろえで、インパクト十分だ。「柿の木」を店名にしたのは、三つの中で最も年数が長いから。じっくり長く愛されるお店にしたかったから、とあった。
「さて、何にしようかな、これは迷うでしょ」
「体は一つしかないから、いっぺんにそんなには食べられないからね。それでは、じゃん。選んでください! 一番、飲み物だけ、二番、甘いもの、三番、食事。さあどれがいい?」
「う~ん、難しい質問」
「この前はどれにしたの?」
「飲み物と桃の大福!」
「いいねえ、美味しかった?」
「と~っても!」
「わっ、僕も食べたいけど、今日は違うものがいいよ。時刻は……」
僕は柱にかけてある時計を指さす。午後の授業も受けゆっくり帰ってきた。
「五時!」
「おやつにしては遅いし夕食にしては少し早い。いいわっ、三番にする」
「賛成!」
僕たちは夕食を兼ねてピザとパスタを一つずづオーダーしシェアすることにした。
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