第18話 刺激的な日々①

 ほんわかした気持ちでそれぞれが部屋へ戻っていく。それから各自、自分の用に取り掛かった。


 日南ちゃんは昼間の疲れが出たようで部屋へ引き上げ、僕は真っ先にお風呂に入らせてもらった。光さんとみのりさんは鉄板の後片付けをしている。テーブルには楓さんと萌さんが座りレモン味のアルコール飲料を片手に二次会をしている。


 僕はゆったりと風呂に入り十分に温まった。出てからキッチンを覗くと光さんとみのりさんはいなくなっていて、楓さんと萌さんは先ほどのまま宴会をしていた。楓さんの方が圧倒的に声が大きく萌さんに絡んでいる。


「ぷは~~っ、美味し~~~っ! 今日は楽しかったあ、ねえ萌さ~ん!」

「本当、苦労しないで美味しいものにありつけてよかったわあ」

「ところで萌さん、あなた本当に胸がでかいわね! どうしてそんなに成長したの、んっ? さてはこつがあるのかな?」

「もうやだあ、コツなんてないわよお」

「誰かにもんでもらってるんじゃないの、どう? 正直に言いなさいっ!」

「この胸はね、生まれつきなのっ! 楓さんの力が強いのと一緒よ」

「そっかあ、それじゃあ仕方ないか……。ふんっ!」


 あ~あ、完全に絡んでる。でもいいよなあ。こんなふうに気さくに話ができて。僕は話を聞きながらそうっっと冷蔵庫に近づき、飲み物を取り出す。そのまま立って喉を潤しながら背中で話を聞く。


「萌さん、私に似合うブラジャーってどんなのかしら? 教えて~~!」


 やややっ、萌さんのブラジャー談議が始まるか。


「そうねえ、楓さんは体つきも表情もきりっとしてシャープだから、断然黒が似合うわよお」

「わあ、黒の下着かあ! セクシー、ひゅ~~っ! だけどプロポーションには全然自信がないんだけどな……」

「胸がなくても大きく見せるタイプのもあるのよ。パットが厚めに入ってたり、寄せてあげたり。私黒も持ってるからつけてみなさいよお」

「えっ、いいの? わあ、私それをつけて変身するう~~~っ!」

「それじゃあ、後でね!」

「楽しみ~~~!」


 こんな話を聞いていると、後ろを向けなくなってしまった。しかし冷蔵庫の前でいつまでも突っ立っているのもバカみたいだ。静かに振り返りながら、横に体をずらす。目が合わないようにカニのように移動する。


 だがやはり呼び止められた。


「あれっ! 夕希くんではないの。そこにいたのねっ! オ~~ス! お風呂入ったんだ」

「オッス、そうです。あったまったんで水分補給をしてました」

「もう、何気なくレディーの話を聞いてたわねっ!」

「聞いてませんっ! お二人は何を話していたんですか?」

「聞いてなければいいのよ、ねっ萌さん」

「あはは、まあね。飲み終わったから私もお風呂入ろうかな」

「あ~~ん、先に入っちゃうの、まだいいでしょう」


 楓さん今度は甘えてる。アルコールが入って目がとろんとして色っぽくなってきたみたいだ。


「じゃ、おやすみなさ~い。あまり飲みすぎないでくださいね」

「もうっ、年上の女の子の事は心配しなくていいのっ、可愛いんだから! おやすみっ! 行ってよ~~しっ!」


 はあ、全然大丈夫じゃない。僕は二人に手を振り部屋へ戻った。




 事件が起きたのはその日の深夜の事だった。


 僕は目がさえてしまいなかなか寝付けずトイレへ行こうと部屋を出た。喉も乾いてきたのでキッチンで飲み物を取り、忍び足で部屋の前まで来た。念のため鍵をかけておいたので、鍵を開けようとポケットからキーを取り出す。廊下は自分の歩いた時だけ自動的に点灯する仕組みなので、自分の後ろは真っ暗になる。


 すると、暗がりの中でどこからが女の人の声が聞こえてくるではないか。


 えっ、またしても楓さんの部屋からだ。甘く囁くような声がしている。もしかしてまたもや男の人と一緒なのか。夜お酒を飲みながら黒い下着を着て変身する、なんて言っていた。前もって誰かが入り込んでいたのだろうか。


 声は次第に大きくなっていく。僕は前回同様固まってしまい、部屋のドアに耳をくっつけた。するとさらに声は鮮明になった。


「はあ~~ん、そこよ~~ん」


 これは確かに楓さんの声!


「はあ~~ん、いいわ~~~」


 黒の下着を着て悶えているんだ。ああ、聞いていていいのだろうか。廊下には誰もいないし、こんな遅い時間に誰も出てくるはずがない。だって、今日は夜勤の人はいないんだから。皆がぐっすり眠りについていることだろう。


 声が聞こえるのは楓さんの部屋だけだ。


「うっふ~~ん、あっは~~ん、はっ、ああ~~ん」


 お酒に酔っているからいつもの声からは想像できないような色っぽい声だ。楓さんとは思えないような艶っぽい声。


「うっ、ふう~~ん、あっ、あ~~~ん。はっ、はっ」


 苦しそうな息づかいになってきた。僕の方も息苦しくなっていく。体も硬くなってしまい、一歩も動けない。


 だけど今日は彼女の声だけしか聞こえない。男の人は何をしているのだろう。


 っと、体を固くした瞬間、ガタッ、と音がした。


 うわっ、まずいっ! 飲み物を落とした! 


 そう思ったときには遅かった。部屋の中の声がやんだ。


 しまった、気付かれた! 早く部屋に逃げ込まなければ!


 僕は落としてしまった飲み物を拾おうと暗闇の中を這いつくばった。しかし、どこへ転がってしまったのだろう。ペットボトルが見つからない。


 早く見つけて逃げ込まなければ。そう思えば思うほど気持ちだけが焦る。その時、ドアが開いた。見上げた僕を萌さんが見下ろしていた。


 うわ~~、絶体絶命だ!

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