第14話 新たな出会い②

 部長の町田美和さんに指定された日、僕は一人でサークル室へ向かった。前回面談のような形で彼女に話を聞いた部屋のドアを開けた。


 あっ……。


 心臓がぴくんとはねた。


 食堂で前に座った女子だとすぐわかった。彼女も僕と同じ、もの好きの一人だったとは意外だ……。


「どうぞ、座ってね」

「はい……」


 彼女も驚いている。


「全部で、三人です。今日は顔合わせをしましょう」


 教室にある一人用の机がいくつかあり、お互いの顔が見えるよう円形に配置されている。向こう側に町田さんと女子学生が一人いる。


「声をかけたんだけど、ちょっとほかの人たちは用があるって、一人しか来られなかったの。さあ、一年生の皆さん! 今日は初顔合わせなので、自己紹介をお願いします。ではそちらから」


 はじめに二つ隣の男子学生が自己紹介した。


「上村聡(うえむらさとし)です。旅行が好きで、いろいろなところを歩き回りたいので入りました。よろしくお願いします」


 男子学生お決まりのジーンズにチェックのシャツを粋に着こなしている。おしゃれに気を配る人なのだろう。グリーン系に赤が少しだけ入っているところが、彼のセンスを物語っている。


 次は食堂の彼女だ。ハンバーガーを食べながらアイスティーを美味しそうに飲んでいた、口元の魅力的な人だ。


「私は香月花蓮(こうづきかれん)です。フットパスという言葉に魅かれて入りました。よろしくお願いします。」


 名前まで素敵だ……。


 二人の言葉を聞き町田さんが微笑む。


「興味のある人が入ってくれてよかったわ。これで、廃部の危機は脱出できそう」


 えっ、廃部? 


 そうか……廃部してしまうと、この部屋もあてがってもらえないんだ。それで部員を募集した、ということか。


 花蓮さんは上村君を見て苦笑いする。再びドキリとする。彼女とはこれから会う機会が増える。同じサークルに魅かれて再会できるとは、これは何かの縁、いや運命なのかもしれない。なんてことを考えてて、ぼうっとしていた。


「さあ、どうぞ」


 と促された。


「木暮夕希です。ついこの間近くに越してきたばかりの新参者です。道もほとんどわかりませんが、よろしくお願いします」

「あら、来たときはみんな新参者よ。謙遜しないで。それにこの辺りの道は複雑じゃないから心配ご無用」

「はい、ありがとうございます」


 町田さんはにっこりした。


「さあ、自己紹介もしてもらったことだし、私たちはこれで退席します。後は三人で話をして下さい。あ、どこかへ行くときは招集しますが、それまでは各自自由に活動してください」


 それだけいうと、二人は何食わぬ顔で出て行った。僕たちはあっけにとられて、顔を見合わせた。


上村君がいった。


「置いてかれちゃったな。新入生歓迎会とかがあるのかと思って少しは期待してたんだけど……一年生は三人いるから、僕たちだけでも時々集まろう」


 そうだよな。存続の危機にあったから募集しただけなんだ。上村君は本当に街道とかに興味があって入部したようで、がっかりしたんだろう。


「そうだね、三人で集まるのはいいことだと思う。情報交換にもなるし、僕もいろいろなところを歩いて見聞を深めたい」


 本当にこの辺りの地理はよくわからない。

 

 香月さんの意見はどうだろうか。


「私も時々集まって情報交換したいわ。まだ学校の事もわからないことだらけで不安だから。木暮君は遠くからきているの?」

「うん、結構自宅から遠い」

「食堂で定食を食べたくなる気持ちがわかるわ」

「……あ、覚えててくれたんだ」

「それはね……」


 上村君がふ~ん、という表情をする。


「二人とも初対面じゃなかったんだ。さっきもしかして知り合い、とは思ったけど黙ってるんだもの」

「知り合いってわけじゃない。食堂で相席になっただけで……。上村君は自宅通学なの?」

「いや、俺は北の方から来た」

「北の方って東北地方?」

「いや」

「北海道か!」

「そんなところかな」

「そうなんだね」


 否定はしなかった。


「これからよろしく、上村君」

「こちらこそ」


 ここへ来て知り合ったのは女の人だけだった。彼は初めてできた男友達。男子トークができる貴重な人物だ。大事にしなければ……。

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