第13話 新たな出会い①

 大学生活が始まった。


 入学式やらオリエンテーションなどのイベントが終わり、いよいよ通常の講義に合わせて通うことになる。これらのイベントは自分にとっては最大の難関だと思っていた。これからの大学生活をどんな人々と過ごすのか、そこが最も気になるところだったのだ。だが、彼らの様子を見て恐れることはないとわかると、緊張の糸がふっと切れた。


 この間まで高校生だった連中だ。浪人していたとすると、何歳か年上だろうが、同級生は同級生だ。だが、全く同じように接していいものかは悩みどころだ。


 

 昼食時間が来て、フードコートへ行く。


 こんな形式のカフェテリアは僕の目には超おしゃれに映った。田舎に住んでいるときにはそのような形態の店がなかったせいかとても目新しい。


 ここで食事をしたり飲み物を飲んでいると、思いもしない人から声をかけられたり、恋が始まったりするんだろう。なんてことを考えながら本日のランチの載ったトレイを持ち、空いている席を見つけ座る。


 学食なので、同席してもいいですかとは訊かなくていいのだろう。


 高校の時とはテーブルの配置も違う。


 他の学校はどうなっているのかは知らないが、僕の通っていた高校の学食のテーブルは壁から壁までぴったりとくっつけて並べられていて、細長~~く両サイドに一列に生徒たちが座り黙々と食べていた。


 あれでは両隣と前にいる人としか会話ができないし、素敵な人がいても近くの席へ割り込むことは難しい。素敵な出会いなんて想定されていなかった。


 ここもテーブルの形が変わるわけではないが、数人単位のグループが座れるぐらいの大きさで、広い空間に不規則に配置されている。これなら、空いている席があれば一緒に座ることも自然にできる。


「ここ、いいですか?」


 お~っと、女性の声がした。


 声の主はくっきりとした目元に、魅力的な口元の女子学生だった。ハンバーガーとアイスティーをトレイに乗せ、すぐ前の席に立っている。


 口元が魅力的に見えたのはその形のせいだろう。


 上唇が富士山のようにくっきりと三角形をしていて、下唇がそれを支えるようにぽってりしている。顔は卵型で髪型はセミロングというのだろうか。肩に少しかかるぐらいの分量だ。


 ドラマに出てくる女優さんのようだ、と見とれてしまった。


「はい、もちろん!」


 僕の声も急に明るくなる。拒否する理由はない。


 そして、せっかく座ったので会話してみようと思い立つ。


「それ、ハンバーガーですか?」

「はい、メニューの種類が多くていいですね」


 見ればわかるだろ、と返されなくてよかった。


「僕は定食にしました。一人暮らしなんで、この方がバランスがいいかな、と思って。いや、ハンバーガーをバランスの悪い食べ物だと言っているわけでは決してありませんよ」

「面白い人」


 そういってクスッと笑った。


 笑い顔も綺麗だ。


 笑った顔が美しい人っていいなあ。そのあとは特に話題が見つからず、時折顔を上げては眺めるだけで終わった。


 食事が終わり出口へ向かって歩いていくと、隅の方に書類の入ったボックスが並べられている。ずらりと並べられた書類の上方には新入生歓迎チラシ、と表示さていた。


 へえ、こんなやり方で募集しているんだ。どんなサークルがあるのかと端から覗いていく。高校にもあった運動部や文化部のようなサークルがまずは続いた。大学でもがっつり部活をやりたい人もいるだろうなあ、と感心しながら続けて見ていくと将棋や囲碁、ジャグリングなどの趣味系に移った。その中の一つが目に留まった。


(フットパス愛好会)


 はあ、フットパス……愛好会?

  

 フットサル、フットボールはは運動系だがフットパスは英語では散歩道の事。イギリスの郊外にはよくそのような遊歩道がある、とガイドブックなどには書かれている。それを愛好するとは、どういうことだろう。


 外国へ行って気軽に散歩することはできないから、道の写真を見て愛でる会なのだろうか。


 僕はチラシを取りバッグにしまった。興味が沸いたので、講義が終わってからサークル室へ行ってみた。


 サークル室の並ぶ建物へ行きドアを開けると。


「誰も…いない」


 今日は活動日ではないのかな。再度チラシを見ると、ご連絡ください、と電話番号が書かれている。そこへ電話すると、はいこれからサークル室に向かいますという女性の声。


 待つこと十分、現れたのはジーンズにトレーナー姿の女子学生。上級生だ。


「お待たせしました。わがサークルへようこそ。私は部長の町田美和です」

「町田さん……僕は木暮夕希です」


 簡単に自己紹介し、座って話を聞くこと十分足らず。その間に重要な情報はほぼキャッチすることができた。このサークルは現在数人しかいないこと。しかもここでも女子学生のみ。連絡が来て入部したいと言ってきた新入生がほかにもいること。


 活動は不定期で、特に集まる日は決まっていないし、どこへ行くかもその時の気分次第、歴史ある街道を歩くこともあれば、自然の中の遊歩道を歩くこともあり、どんなところでも構わないということ。


 要するに、散歩同好会か? さすが大学。


「君が入ってくれると新入生が三人になるわ。そういうことだから、兼部はもちろん可能! どうする? 返事は今じゃなくてもいいわ」


 それならばと、僕は即答した。


「入部します」

「それじゃ、顔合わせの日にちを追って連絡するわ」


 どんなもの好きな人が来るんだろう。僕はサークル室を後にした。

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