第6話 新生活始まる⑥
体を拭き清潔な下着に着替え、パジャマを身に着ける。シェアハウスとはいえ部屋までの短い道中わざわざ服を着て歩くのも面倒だ。廊下で女性たちとすれ違っても何食わぬ顔で歩けばいいし、これからそうするつもりだ。
風呂を出るとキッチンを通りぬけ階段へのあるホールへ出る。僕は冷やしてあった飲み物を取ろうと冷蔵庫に向かった。
その時視界に先ほどの女性が入った。
あっ、さっきの人!
「あのう、僕今日からここの住人になった木暮夕希です。自己紹介が遅れてすいません」
「ああ~~、さっきは驚いたあ。変質者が忍び込んでるのかと思って焦ったのよ。でも、他の人に聞いて今日から入居した人だってわかったから、もう安心して」
「やっぱり、女の人が来ると思ってましたよね」
「そうなの、みんなそう思い込んでたし私もね。思い込みって怖いわね」
そういいながら、彼女は缶ビールをくいっとあおった。ここはちょっと休憩するにもいい場所だ。
「よかった、誤解がとけて。これからよろしくお願いします。男は僕一人みたいで、やりにくいと思いますが、よろしくお願いします」
「まあ、堅苦しい挨拶はやめにしましょうよ。あなた、まだ未成年?」
「はい、大学一年です」
「そっか、じゃ風呂上りにビールで一杯やろう、は無理ね」
「いえ、結構飲めると思います」
「ふ~ん、そうなの。飲んだことあるのね」
すると、彼女は冷蔵庫からもう一缶ビールを出して僕の前に置いた。
「どうぞ」
「じゃ、遠慮なくいただきます」
図々しいかなとは思ったが、先ほどの裸体を思い出すと一杯やりたくなった。
風呂上がりの体に、冷たい飲み物が染みわたる。家で数回飲んだだけのアルコール飲料が体をほてらせる。ようやく余裕ができて、彼女の事をまじまじと見た。
やっぱりそうだ、あのふくよかな体。あの裸体にパジャマを覆いかぶせれば、こんなふうになる。体と同じで顔も幾分ふっくらしていて、頬は丸い。その顔を包み込むような髪が肩まで伸びている。少し茶色に染めているので、光に反射して輝いている。
今家にいるってことは、夜の仕事ではなさそうだが、あの派手な下着は何のために着けているんだろう。これからデートにでも出かけるのか。
「疲れたわ、今日も」
「お仕事大変ですね。今日はこれから出かけたりはしないんですか」
「ううん、家で寛ぐわ」
「仕事は遅くなることもあるんですか」
「時々ね、残業があるから、今日は早く帰れた方よ。学生のうちよ楽しめるのは、いいわねえ」
「そうですか。やっぱり社会人になると大変ですよね」
「ほんと、いろいろ苦労があるわよ」
何の仕事をしているのかは全くわからない。
「美味しいなあ、ビールは。僕も今日は一杯飲んでゆっくりします」
「そうよ、それがいいわ。この時間が一番幸せなのよねえ。う~~ん、最高~~~っ」
体をゆするたびに、大きな胸がゆらゆら揺れる。
「あのう、さっきお風呂場で、全部見えちゃいましたよね、僕の事」
「ああ、丸見えだったわね。でも、気にしなくていいから。私も気にしないよ」
「は……い」
こっちは大いに気にしてるんだけど。僕もカーテン越しに全裸を見てしまったことは秘密だ。
「あのう、お名前をまだ伺がっていなかったんですが……」
「そうだったわ。私は夏目萌(なつめもえ)、会社員よ」
「萌さん、いい名前ですね。会社員なんですね」
「そうよ、それがどうかした?」
「いえ、べつに……」
何か疑問でも、と言いたそうな表情だ。
彼女は話しやすそうだからいろいろ聞いてみよう。
「個性的な人が多くて、楽しそうですね、シェアハウスって」
「そうね、適度にプライバシーがあって適度に関わりができて、上手く生活できるといい環境よね」
「もうほかの人たちみんなにご挨拶しました」
「そう、男の子だってわかって驚いてたでしょ、君一人だからね。可愛がられるわよ、きっと。年上が多いから」
「そうですね。あのう、日南ちゃんは同い年なんですが、いつもあまり喋らないんですか?」
「あら、おとなしかった。そうねえ、私たちの前でもあまりおしゃべりしないし、必要最低限のことしか言わないみたいね。ただ、今のところはだけど。話しかけても、もじもじして下を向いてたりするわ。だけどわからないわよ、まだほんの数日しか一緒にいないんだもの。慣れてきたら、意外と積極的な子かもしれないわよお~~」
「そうですか」
やっぱり誰の前でもおとなしいのか。
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