第5話 新生活始まる⑤

「道理で家にいるようなアットホームな雰囲気なんですね」

「今ではこっちの部屋に来ることは珍しいんだけど、随分今日はにぎやかだったから、何事かと思って気になって、つい開けちゃったわ、ドアを」

「すいません、僕が夜遅く来たせいで」

「いいの、いいの、気にしないで。荷物はお部屋に置いてあるから、今日はゆっくり休んで、新しい生活の準備をしてね。部屋は二階の一番端よ。皆さんのお部屋は全部二階にあるの。お風呂とキッチンだけが一階ね」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 ドアの向こうには台所が見え、床には猫が座っている。とろんとした目をこちらへ向けて見ている。何をしてるんだお前は、といいたそうだ。可愛いとは程遠いような容貌で、訳知り顔でこっちを見ている。こいつは意外と手ごわそうだ。


 大家さんは僕たち二人を見て、手をもみ合わせて嬉しそうに微笑んだ。


「大学生が二人いなくなったと思ったら、新入生が入ってきてまた活気が出るわね。日南ちゃんに夕希くん。困ったことがあったらいつでも相談してね」

「はい」

「二人とも同じ大学の学生さんなのよね。よかったわね」


「……」

「……」


 日南ちゃんという名前なのか。僕はちらりと彼女の顔を見たが、あちらは知らん顔だ。


 大家さんがドアを閉めると、再び静寂が訪れた。聞こえるのはカチカチという食器とスプーンが触れ合う音だけ。知らない者同士が学食にいるような感じだ。


「あのさ、日南ちゃんていう名前なんだね」

「それがどうしたの?」

「なんでもない」

「変な人」


 変なのはそっちだ。


 何号室か聞こうと思ったが、無理だ。食事が済んだので、部屋へ行くことにしよう。


「じゃ、ぼくは部屋に行くから」

「……あ、そう……」


 彼女はぽつりと答えた。


 台所を出て、不動産屋で受け取った鍵を持ち二階へ上がる。階段を上ると目の前には長い廊下が続き左右に部屋が並んでいる。一番手前の部屋の番号を見ると向かい合う形で一号室と四号室があった。次が二号室と五号室、そして突き当りに三号室と六号室があった。


 ここだ!


 今日からここが我が家、僕の城だ!


 鍵穴に、鍵を差し込む。かちゃりと音がして鍵が外れた。ドアを開けるとフローリングの床が見えた。きれいに磨かれていて、窓には真っ白なカーテンがかかっている。壁に沿うように手前にはベッドが、窓際の方には机があった。


 学生寮のようだ。この部屋の中で大抵のことはできそうだ。部屋に置かれた段ボール箱を開け荷物を取り出す。パソコンに着替、掛け布団、身の回りの物などを所定の場所に収め新生活の準備が整った。

 

 そこまでやり終えると、入ってくるときに見た裸体の持ち主の事を急に思い出した。あの人はどこの部屋に住んでるんだろうか。


 カーテンを開けて外を見ると、僕の部屋からは畑が見えた。ということは、向かい側の部屋が道路側になるわけだから、反対側の部屋の人だ。


 さて、風呂に入ろうかな。


 着替えを持ち風呂場へ向かう。一階に降りていくとラッキーなことに誰も入っていなかった。ゆっくり湯船につかり、体を温めよう。もう僕が最後なのかな。新学期まではあと数日あるから、明日はこの辺の探検をしてみよう。


 十分に体を温め脱衣所に出る。持参したバスタオルを取り体を拭こうと広げた。


 すると、閉めてあったドアがいきなり開いた。そこには女の人がパジャマ姿で立っていた!


 物凄い形相で俺の体を上から下まで見ている。


「ぎゃああ~~、男がいる、どうしてっ!」

「わあ、見ないでくださいっ」

「やだ~~~~、お・と・こ・がお風呂から出てきた~~~~~!」

 

 再びドアはばたりと閉められた。


 見られた。誰にも見せたことがないこの全身が女の人に、見られた…。


 ショックだった……。


 見た方もショックを受けているようだが、こちらの驚きはその比ではない!


 まてよ、あの女性、どこかで見たような……顔は確認できないがきっとそうだ、そうに違いない! 窓際から全裸を見せてくれたあの女性だ。四人はすでに対面済みだから、あの人しかいない!


 あの巨乳のセクシー下着を身にまとった女性! 


 あの人に不覚にも全裸を晒してしまった!

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