第5話「火喰鳥」

 奇抜な服装の女は、サングラスを上げて兵士を確かめてから、

 そのまま外して私達に挨拶してきた。


「ごきげんよう、おチビちゃん達。

 わたくしはカスアリウスの軍事幹部が一人、

 「ソレイユ・キャメレーズ」と申しますわ。

 こいつ含め、幾人かの部下と共に出張でキャメルに滞在しておりますの」

「ご丁寧にどうも。

 私はミオ・シャトレス。フェレスにあるシャトレス王国の王女。

 こっちが妹のアカリ・シャトレス。

 同じく王女で、この世で一番賢くて、可愛いの!」

「(そんな挨拶でドヤるなって……)」

「随分と熱狂的な紹介ですこと。家族仲は十分伝わってきました。

 ですが、わたくしの部下を白昼堂々甚振るのは褒められませんわね」


 早速主張を始めようか。


「甚振るとは心外だなぁ、おばさん。これは正当防衛だよ。

 私達は悪いやつを懲らしめてたの」

「おばっ……?」


 兵士が立ち上がりつつ、ソレイユに向かって保身のための出鱈目を宣う。


「か、彼女達はどうやら俺の出した飲み物が大層気に入らなかったようでっ」

「……説明を、していただいても?」

「ソレイユ様っ!?」


 兵士と私達を一通り見て考えてから、詳細を聞いてきた。

 思ったより話が通じそう。

 それではアカリ、お願い。


「こいつは店で飲み物を振る舞うふりをして、あたし達に薬を盛り、

 はつ……錯乱させた隙に誘拐し、奴隷として売ろうとした。

 今までの手慣れた演技、犯行中の口ぶりからして、常習犯と考えられる。

 最近、こいつがやけに獣人の女子供を連行してたりしない?」


 ソレイユは腕を組み、顎に手を当てて考え込む。


「そういえば……数日前から急に持ってくる金額が増えて、

 それと同時にこいつの日毎の報告もより曖昧になりましたわ。

 偶に見かけたと思えば、アヴェスにはあまりいないはずの

 犬や猫獣人の女子供をいつも連行したり、補導したりしてて……

 依頼だの犯罪者の連行だの言ってたけど、

 鷲下級レッサーイーグルならもっと効率のいい仕事があるでしょうし、

 そもそもここらの取締はキャメル騎士団の仕事なのに、何をそんなに……」


 ソレイユの兵士への眼差しは段々と冷たくなってゆく。

 初対面の私達以上に冷たい接し方するってことは、

 元からあまり良くない奴なのかな。


「こ、こんなどこの鳥の肋かも分からない奴らの言葉を真に受けてはダメですよ!

 きっと我が国の厳しい処罰を怖れてこのような事を宣っているのです!

 さぁ、早く我らに狼藉を働いた不届き者に厳正な処罰をっ!」


 兵士は小走りでソレイユの目の前に跪き、縋る。


「黙りなさい」


 が、容赦なくソレイユは兵士を蹴飛ばした。


「ぐあっ、そ、ソレイユ様っどうして!?

 見ず知らずの獣人のガキを信じると!?」

「別にそんなんじゃないわ」

「なら何故!」

「お前のほうがより信じられない。至極明快な道理よ」


 兵士を睥睨しながら、突き刺すようにソレイユは言い放つ。

 中々怖いおばさんだこと。


「そんな、こんなにもあなたに忠誠を誓っているというのに!」

「はぁ~……アヴェスの民なら、

 口先や犯罪ではなく正しい行動で示してちょうだい。

 落ちこぼれわたくしの部下は全員訳ありではあるけど、

 まともな資金集めもできずにこんな不正に感ける無能はお前が初めて。

 これだとどうせ等級も不正に取ったりしてるんじゃないの?

 そんなだから適当に捕まえた子供にすら負けるのよ」

「こ、これでも等級は本物です!物心ついた頃から戦いだけは俺の取り柄でした!

 あいつらがおかしいんですって!

 白い方は獣人なのに白剣流鷲下級の技を全部見切って、

 黒い方はあろうことか、N1の石を持ってるんです!」

「……なんですって?」


 常に周りを見下すような冷たい顔をしていたソレイユの瞼に、初めて力が入った。


「お前、自分がどれだけ突飛な事を言ってるのか理解してる?」

「えぇ信じられないでしょうとも!俺もそうでした!

 しかし、実際にこうして滅多打ちにされてるんです!」


 大して怪我してねぇだろ。

 盛るな。


「これが本当なら、

 ミオは少なくとも鷲上級グレーターイーグル以上の白剣流剣士、

 アカリは最上位クラスの魔導師ということになるんだけど。

 さて、当人方からはどういった答えを頂けるのでしょう?」


 どうしようか。

 別にあの兵士が豚箱にぶち込まれれば何だっていいんだけど。

 アカリは……そっか、ソレイユの強さが未知数だから、

 開示するのはリスクのほうが多いと。


「そちらの想像に任せるよ。私達はこのいざこざを解決して、

 そこのクソ野郎が然るべき報いを受ければそれでいい。

 以上を叶えるのに、私達が強いかは関係ないでしょ?」

「(はぐらかした?

 鷲下級を簡単にあしらうのに、その力を誇示しないだなんて。

 それとも本当は何かの小細工でこいつを制圧して、

 実力はそうでもないことを悟られないための虚勢?

 まさかわたくしが部下だからって犯罪者を庇うとでも?

 ……いや、他人に素性を知られる事自体が不都合なのかしら?

 何にしろ、考えなしの応酬じゃない。獣人の子供にしては不自然過ぎる。

 まさか、人間が変装をしている?でも、耳と尻尾は本物にしか見えない……)

 なるほど、それもそうですわね。

 その代わり、別のことをお聞きしても?」

「何?」

「あなた達の横髪を掻き上げて、側頭部を見せていただけませんこと?」


 ……まさか、勘付かれた?

 カスアリウスの情報網なら、純半ネフィリムをすでに見つけている?

 あるいはリューニアからそういう見聞でも伝わった?


 実は、純半と獣人を簡単に見分ける唯一の方法がある。

 それは、人の耳があるかどうか。


 ベースの形は人間に近いが、あくまで獣人は別の種族。

 見えている獣耳がそのまま機能していて、人の耳はない。


 対して私やアカリの身体は、お母さんという「人間」の情報が基礎になっているから人の耳があるし、頭の中に繋がってるのもこっち。

 獣耳は神経も血も通ってるけど耳の穴はないから、

 気持ち集音の補助と感情表現で使ってる。


 幼少期は長髪だったり、ここ五年くらいは二人ともボブヘアーに落ち着いてたり、

 今まで耳が見える髪型は殆どしなかったし、見られても大体誤魔化せた。


「そう警戒する必要はありませんわ。

 ただの好奇心ですから」

「……」


 私達は、耳を見せずに黙っていることしかできなかった。

 しかし、この沈黙自体が答えになってしまうだろう。


「……なるほど。分かりましたわ。

 どうしても嫌というのならやめておきましょう。

 デリカシーに欠けた要求であった事、謝罪いたしますわね」

「ふん……」

「改めて、この度はわたくしの部下が無礼を働いたようで、大変申し訳ありません。

 相応の処罰を与え、以後厳しく反省と指導を徹底致しますので、何卒ご容赦を」

「んじゃあ、さっさとそいつを騎士団に突き出してきて」


 一礼を終えたソレイユは兵士を引きずって、一瞬で遠くへと消えた。


「そんじゃ、店に戻ってご飯食べよ~」

「うん。もっと腹減った」


 店に入ろうとしたら、何故かソレイユが入口の前に立っていた。

 兵士はいない。

 この一瞬で突き出してきたんだ……


「うわっなんでおばさんいんの!?」

「っ……先程までは本邦の幹部としての対応だけど、

 ここからはわたくし個人としての用事よ」

「用事?」

「あなた達みたいなお子様には分からないでしょうけど、

 アヴェスの戦士ってのは体裁メンツを大切にするものなの。

 特にミオみたいな、大人に舐め腐った態度を取る生意気な奴は

 一回、懲らしめてやらないとね!」


 半身を乗り出し、スムーズな体重移動で力と速度を乗せた拳を私に向けてきた。

 嘘だろ、いい年した大人ババアがこんなしょーもない理由で殴りかかってくんのかよ。


「何避けてるの!」


 いや、分かりやすく顔のど真ん中向けてきたんだからそりゃ避けるよ。

 アカリみたいに可愛い顔を台無しにされたくないし。


 ほら、このまま前のめりだとバランス悪いぞ。

 足引っ掛けてやろ。


 あっ、転んだ。


「いっだっ!」

「ぶっ……」


 アカリが失笑した。

 うん、こんな格好したおばさんが転んでるの、ちょっと面白い。


「よくもやったわね!

 『空より落ちる水礫すいれきよ、彼の者の戒めとなれ!』」


 あら、魔導術?

 これはアカリの出番だね。


『炎、蒸発』


 大きめの水玉が上に生成されて、私の頭に落ちるとこだったけど、

 精霊術の出力とそこそこの瞬発力に物を言わせて、

 アカリは瞬時に大半を蒸発させた。


 温かい霧が降ってきた。

 これで肌も潤うかな。


「えっ、今何をっ?

 ストレージじゃなくてメインの回路で、見てから間に合わせた!?

 どれだけ熟練したらそんな短い詠唱で高速な設定が……

 しかも凍結や風とかでなく、わざわざ効率の悪い炎で相殺?

 あなた達、揃いも揃って虚仮にしてくれるじゃないの!」

「ちっちゃい子にムキになってんのカッコ悪いよおばさぁん?」

「さっきからそのおばさんって言うのやめなさい!

 わたくしはまだ二十一よ!」

「「えっ、年下!?」」

「……なんて?」


 お互いに大層驚いた顔になり、私達も年齢を明かした。

 こんなピチピチつるつるぷにぷにの完璧な身体だから

 信じられないのも無理ないけど、

 純半の事はまだ開かせないので先天的な体質って事で誤魔化した。


 にしても、二十一にしてそんな徒長した身体に、

 ファッションセンスも壊滅的になるなんて……

 可哀想……


「どういうこと……一体何がどうなってるのよ!

 若者のわたくしが年上に「おばさん」と呼ばれるなんて!

 おかしい、絶対におかしいわ!」

「おかしいのはおばさんの見た目だよ」「うんうん」

「お黙りっ!これは事情があるのよ!」

「大丈夫だよ、感性は人それぞれだから」「そうそう」

「うあああぁぁぁ!!!」


 壊れちゃった。


「よちよち、こわかったね~つらかったね~」

「……十分分かったわ。

 あなた達はただの姫様でも兵士でも無さそうだし、

 少々本格的な教育をしても問題無さそうね」

「え~今度は「今までは本気じゃなかったのよ」パターン?

 おばさんダサすぎ~っ!」

「(お姉ちゃんの煽り顔やばすぎ、傍から見ても死ぬほどウザいな)」

「……そのふざけた態度、今に崩してあげる」


 次の瞬間、倒れ込んでいたソレイユが揺らいで、

 一瞬で立ち上がり逆手に持った短剣を突き立ててきた。


 動きの質が上がって、殺意も見え始めた。

 確かにこれは本気だ。


 私は首付近に向けてきた短剣を、

 上に抜刀した「三尺」の鍔に引っ掛けて受けた。


「武器を、取ったわね」

「ね、ねぇお姉ちゃん……」


 アカリが元気無さそうに声をかけてきた。

 どうしたの?


「もう限界だから、先に食べてていい?

 あと、ソレイユには勝っても負けてもいいけど、

 街と一般人は傷つけないでよ」

「うん!分かった!」

「あなた達まだそんな事をっ……」


 店に入るアカリを見届けた後、腕ごと短剣を跳ね返した。


「アカリはお腹空きすぎて倒れそうなの!邪魔しないで!」

「じゃあ先にミオから叩き直してあげる」


 ソレイユと私は大通りに出て、剣を構えた。

 道を歩いている人たちが、私達を観戦するように立ち止まりつつある。


「ん、何か始まるの?……あら、ソレイユさんじゃない?

 何であんな服着てるんだろう」

「相手は……猫獣人の子供?しかも、結構可愛い……」

「あの子の服、絵本の騎士みたいでかっこ可愛い!どこで仕立てたんだろ」


 観衆達の呟きが段々と重なってきた。

 一応特殊な任務中なんだから、目立って大丈夫かな。

 アカリが止めないってことはこれくらいならいいのか。


「ねぇ、こんな街のど真ん中でおっ始めていいの?」

「問題ないわ。何せここキャメルは、「守護」の国なのだから」

「……どういう関係が?」

「何かを守るために必要なのは強さ。

 そして強くなるために必要なのは研鑽。

 そう、わたくしがこれから行う事は一対一の稽古であり、

 殺陣として見世物にもなる。

 刃のぶつけ合いで実力を研鑽するのは立派な守護の礎だから、

 せいぜい好きなだけ足掻くといいわ」

「ふーん」


 んじゃ、ある程度暴れさせてもらおうかな。

 思えば準一級以上とやり合うのも久しぶりだし。


「こうなれば、戦士としても名乗っておくべきね。

 カスアリウス軍事幹部、ソレイユ・キャメレーズ。

 白剣流キャメル派の剣士および魔導師。

 等級は鷲上級グレーターイーグルよ。

 ……フェレスだと、準一級だったかしら」

「へぇ、両刀というだけでなく、準一級か……

 おばさんって見かけによらず天才なんだね」

「天才とだけ言いなさい!普段はこんな服着ないわよ!」


 遠征して早々に魔導師兼剣士に出会うなんて。

 一部の物好きとか言ってたそばからこれか。


「それで、ミオの方からは未だに紹介してくれないの?」

「んー……」


 アカリに今一度聞いておいたほうが良かったな。

 これほどの強者なら、こちらからも名乗る方が自然だろう。


 セイラの情報が本当なら、本邦から離れて出張に行かされた……

 それとも、自ら離れたとか。だとしたら、

 少なくとも今現在のカスアリウスにはあまり入れ込んでいないか、

 運が良ければこっちに味方してくれる可能性も出てくる?

 肌感覚でしかないけど、悪人には見えないから、

 どうにかして伝えたいものだけど……


 オンカでアカリに言われたように、

 純半のような例外ってのは少なくない印象を与えるし、

 それが強者なら尚更目立って、噂も広まりやすい。

 人々も集まり始めてるし、カスアリウスから遠くても

 どこでどんな奴が聞いてるかも分からない。

 だからここで口上を張り上げるのはリスクがある。


 となれば、これ一択。


 私は、軽やかかつ重く、力を全て速度に変えるような、

 とても強い踏み込みで数歩の助走を行った。


『白猫流・洞穿どうせん

「!!」


 数歩目にして最後の助走で、剣を真っ直ぐ突くよう構えて、

 空気を劈く突進を繰り出す。

 赤爪流を強く受け継いだ、渾身にして究極の突き攻撃。

 狂ったような加速でどんな距離も一瞬で詰めて、反応すら困難にした上で、

 一点集中のエネルギーを相手に全てぶつける。


 本来なら、でかい建物とかも容易く貫く威力になるけど、

 今回は周りに悟られずに距離を詰めるのが目的なので、控えめにする。


「ぬあぁっ!!!」


 ガキンと、重く甲高い金属音と微かな火花。

 剣の切っ先から、腕に伝わってくる衝撃。


 本気じゃないとはいえ、ソレイユはこれを真正面から短剣で受け止めた。やるな。

 手が震え、足も少しガタガタしているが、後ろに押されてはいない。

 上手く受け止めるのと同時に力を滑らかに逃している。


「っ!?……人間みたいに話すくせに、獣人みたいな動きっ……」

「我流一級剣士。および白剣流柳生派一級、赤爪流一級」

「……へぇ!」


 目を見開いた後、ソレイユが力を込めて私の剣を弾いた。

 信じて驚いたのか、それとも突飛すぎて一笑に付したのかは分かりかねる。


 私は翻りながら一旦着地して、そのままお互いに剣撃の応酬へと繋がる。

 流派の方向性なのか短剣の使い方はかなり防御寄りで、

 基本的に私の攻撃に合わせた受け流しをしてくる。

 故にただでさえ守りが固く、「三尺」とのリーチ差や

 私が頑張って作った隙も魔導術で埋めてくる。


 例えば無防備なところに向けた剣には的確に狭く高密度のシールドで防ぎ、

 開いた距離を詰めようとする瞬間に大量の様々な属性の魔法が掃射され、

 受け流されて前のめりになりかければ懐から魔弾を撃たれる。

 こんな色とりどりの魔弾にわざわざ枠を……?

 いや、あえて属性は設定せず、ランダムにしているのか。


 G1のストレージは確か……七枠だっけ。手札の半分も見せてないし、

 メインの回路を使われたらそれこそ対処が非常に難しい。

 私の剣を捌きながらここまで魔法を使うのはすごいな。


 等級での単純な戦力換算なら数倍から十数倍くらいあるんだけど、

 これに打ち勝つのは簡単ではない。


 文字通り天に二物を与えられて、

 比較的簡単に一級になったからついつい忘れがちなんだけど、

 二級や準一級であっても戦士の中では結構な上澄み。

 国によっては最高戦力や重要な立ち位置にも普通に居たりする。


 それほどのレベルで、

 俊敏に近距離を受ける剣と遅くとも広範囲を制圧する魔法という、

 正反対の術を両方とも最大限に連携させてくるから、

 一対一なら一級の戦士ともやりあえそう。

 ……あ、まさに今やりあってるか。


「ほらっ隙ありよ!」


 剣を大きく弾かれて、私の右脇腹周辺がガラ空きになった。

 よそ見しすぎちゃったかな。


 腕を戻そうとしたが、そこにソレイユの強い蹴りが直撃して、

 私の身体ごとふっ飛ばされ、レンガ造りの壁に突っ込んだ。


 この寸胴な脇腹は手で揉みしだいて肉感を楽しむためにあるの。

 それを足先で蹴るだなんて、実に勿体無い。


「街壊してどうすんの!印象悪くなるじゃん!」

「少しくらい平気よ!弁償もわたくしがするから心配ないわ!」

「資金、こういう事にも使うんだ……」


 そこそこの速度で突っ込んだから、結構な土煙が舞い上がっていた。

 これ、使えそうだな。

 落ちたレンガを一つ持って、素早くソレイユの前まで戻る。


「(迅速に立て直して……待って、何か投げる?)」


 走りながらレンガを地面に思いっきり叩きつけて粉々の土にした後、

 それを剣や足で強く舞い上げて目潰しや煙幕のような効果を狙う。

 周りの環境も活かすのは白剣流の大事なテクニック。


 ソレイユは腕で顔を覆って、一瞬怯んだ。

 自分への攻撃として投げてくる予想が外れたんだろう。


 視界が一瞬途切れた隙を逃さず、ソレイユへ向かう速度をそのまま回り込む動きに変えて、私は背中を取った。これで一本取れれば……


『……猛き風よ、塵に淀む俗世を晴らせ』


 背中に剣が届くかと思えば、ソレイユを中心とした突風というか、

 空気の爆発のようなもので塵もろともふっ飛ばされた。これは芳しくない。

 明らかに距離が離れれば、大規模な魔法を連発されて面倒な事になる。


『迸る火炎は、小さき者の傲りを焼き尽くさん』


 翳した手から、オンカの時の虎みたいに強大な炎が噴き出し、

 私を覆い尽くすように襲いかかった。


「ふん、わたくしを舐めるとこうなるのよ。

 後で治してあげるから、この熱でたっぷりと教訓を得なさいな」


 ……確かに、舐めていたようだ。

 街中だからとセーブしていては勝つどころか、

 本当に仕返しをされてしまう。

 有象無象みんしゅうにチヤホヤされたって嬉しくないから、

 私が実力をひけらかす動機はそこではない。


 ただ、魔法で焼かれるならアカリからがいい。


「ッ……すぅ……」


 うん、ちゃんと集中しよう。

 今だけ、面白いおばさんじゃなくて、敵として捉えるんだ。


『白猫流・一鳴ひとなき


 身を翻し即座に着地し、剣筋に対して剣の腹を向ける。

 繊月に限りなく近い神速で、逆袈裟に一回振るった。


 繊月が細い線の真空の刃ならば、こちらは面を成す衝撃波。

 殺傷力は無いが、広範囲の破壊力に優れる。

 脆い壁やガラスは砕けて、人は吹っ飛んだり耳にそこそこのダメージを与える。


 剣筋に沿って炎が斜めに掻き消され、奥に居るソレイユまで攻撃が届いた。


「(全身に何かがぶつかって……!?

 いやそれより、耳鳴りと、平衡感覚が……)」


 怯んだソレイユに追い打ちをかけるため、接近する。


『白猫流・隻爪かたづめ


 赤爪流が色濃く残る、全ての力を込めた、渾身の水平斬り。

 膂力をその一振りに全てつぎ込み、荒々しく精密にぶつける。

 人間ならまともに受けるのは非常に危険だろう。


 ソレイユは呻きながら苦し紛れに短剣で渾身の一撃を防御した。

 当然受け流すつもりだったのだが、姿勢が不安定だったため上手く行かず、

 短剣が手から抜けてしまった。

 こうなれば、もうこちらの番が続く。


「一、二、三」


 剣の峰で、ソレイユの身体を何度か打つ。

 これだけでもかなりリードできた。


「シールd、うがっ!?」


 顎を柄で軽く叩いて、物理的に口を黙らせると共に頭に軽く衝撃を与えて、

 詠唱願いを中断させる。

 技名っぽかったからストレージなんだろうけど、

 それでも完全に技名願い言い切らなければ創り終わらなければ発動しない。

 感度が良すぎたらかなり誤動作しそうだから、どうしようもない仕様弱点だね。


「四、五……」


 このくらいでいいか。

 無駄に嬲るのも白剣流では三流のやることだと教わったし。


「そ、ソレイユさんがやられた?子供なのに、そんなに強いのか?」

「何をしたんだ?剣で魔導術の炎を振り払うなんて、到底無理なはずじゃ」

「あの子の動き……荒々しくも洗練されてる!なんて美しいの!

 あ、後でサイン貰えるかな?」


 落ちた短剣のところに向かい、切っ先を素早く踏みつけて、

 ソレイユのところまで短剣を飛ばした。


 力尽きたように膝をつきながらも短剣をキャッチしたソレイユが、

 次の瞬間笑い出した。


「ふふ……あははははっ!なるほど、なるほどねぇ!」


 ……頭には当ててないはずだけど。

 それともちっちゃい子に叩かれると喜んじゃう系の人?


「あなた、強いじゃないの!」

「だから一級だって言ったじゃん」


 衝撃波によるダメージが落ち着いて、ソレイユは立ち上がった。


「そうは言ってもね。あなたは色々と例外要素が多すぎるの。

 見た目と身体能力は獣人の子供。なのに思慮深さは人間。

 そして二大流派一級を修め、それらの長所を受け継いだ……我流を使う」

「確かに普通じゃないけど、準一級相手に実力を詐欺るなんて無理でしょ」

「それはそうだけど……あと、我流ってのは二大流派を満足に修得できなくて拗らせた雑魚が名乗り出るものと相場が決まっているのよ。正式な等級もつけられないから戦力や身分の証明にもなりにくい。わたくしもわたくしの知っている戦士も、我流を名乗る者でまともな戦士に出会ったことは無かった」

「へー、印象としてはマイナスなんだ。まぁでも変えるつもりはないけど。

 白猫流これは私の力だけでなく、愛の象徴でもあるし」

「愛……?」

「うん。最愛なるアカリのために、私はこの力を手に入れたの」

「家族のため、なのね。意外と殊勝なとこあるじゃないの――」


 際限なき愛故に、強大な騎士となり、守る。

 これもある種の孤高かな。


 てか、ソレイユがびっくりしてる。なんかおかしい事言った?

 アカリへの愛に異議を唱えるならリードを数万倍にしなきゃいけなくなるけど。


「あなた……普通の子供みたいに、可愛らしく笑えるのね……」

「???」


 よく分からないけど、まぁいいや。

 ソレイユが強者なのは知れたから、

 一応邪神について話をしてみるかな。

 優先目標ではないけど、するだけならいいでしょ。


「そろそろ第二ラウンドにする?」

「わたくしも力の差を思い知ったから、勝負はついてるわよ。

 もうあなたをガキとも、格下とも思わない。

 ……でも、仕掛けたのは私だからそれくらいで断るのは誠意が無いわよね。

 まぁ、お好きに叩き直してくださいな」


 私達は再び剣を構えつつ適切な距離を置いた。

 ……できるだけ私達だけで会話ができて、

 周りには戦闘中の駆け引きだと見えるような距離。


「ってのは冗談で。

 ねぇおばさん、一つ聞きたいんだけど」

「はぁ……で、何?」


 えっと、世界の危機とまで言っちゃうのは良くないんだったか。

 地方くらいなら大丈夫かなぁ。


「カスアリウスの事、どう思う?」

「どうって……」

「これはとある筋からの情報なんだけど。

 カスアリウスの動向が最近おかしいんだって。

 それも、アヴェス全体を危機に陥れる企みをしてるとか」

「おかしい?ははっ……元からあの国はおかしいわよ」

「ほうほう?もっと詳しく?」


 呆れたように、ソレイユは苦笑した。

 どうやら、何かを知ってそうだ。


「実は、幹部になりたくてなったんじゃないの。

 むしろ、本邦の事は恨んでると言ったほうがいい」

「なんで?」

「あいつは、本当に屑みたいな動機と訳の分からない強さで、

 わたくしから居場所も家族も全て奪った。

 仕方なく本邦に属してみれば、

 大統領を含めた全てが憎悪に塗れている。

 周辺国の民でも知っているはずの面々が誰もいなくて、

 長官や幹部の席にはどこから湧いたかも分からない、

 狂いに狂った外道どもが蔓延っていた。

 ……地獄というものをこの目で見ることになるなんてね」


 入ってから戦士になった描写が無いから、

 カスアリウスに入る前から剣術と魔導術は準一級だった?


 だとしたらキャメレーズという家は結構裕福だったのか。

 ……そういやこの名字、キャメルと似てるな。


「……それで、逃げてきたんだ」

「察しが良いわね。えぇその通りよ。

 人の心がある奴が落ちこぼれになり、外道ほど称賛される。

 あんなところにいたら誰だっておかしくなる。

 兵力の増強のための交渉だの、兵器研究のための調査だの、

 適当すぎる要件をでっちあげたけど、

 何とか一ヶ月程度の出張を手に入れたわ」


 聞いた感じじゃ思ったより深刻そうだね。

 この有様だと邪神に乗っ取られてるのは十分あり得る話になったな。

 お母さんへの復讐で堕天したとしたら、憎悪で動いている可能性が高い。

 万が一邪神関係無く長共がおかしいというのも無くはないけど、

 それはそれでもっと怖いかも。


「ねぇ、おばさん。

 もし国がイカれた元凶を知ってるって言ったら、

 私達のこと信じる?」

「……何がいいたいの?」

「んっとね、その前におばさんは「神様」っていると思う?」

「は?宗教の勧誘なら間に合ってるわ」

「そうじゃなくて、もっと根本的な……

 ほら、アヴェスってラファエルが降臨したでしょ?」


 ソレイユの顔から少し緊張が取れたように見えた。


「えぇまぁ、そうだけど。

 どんなに弱り傷ついた者達も全て癒やし、

 凡人では手に負えない脅威を神業によって排除し、

 何の見返りも求めずに空へと帰っていった。

 その身一つで善行を完遂し、まさに「孤高」を体現した御方。

 ラファエル様の振る舞いと姿勢は、アヴェスの民全員が見習うべきよ」

「ばっちり信仰心あるじゃん」

「信仰なんて軽薄な表現じゃなくて、讃美や尊敬と呼んで欲しいわね。

 確かに地上の理からは大きく外れているけど、

 ラファエル様や他の四大天使は実在したと証明されている。

 わたくし達の祖先への恩恵、そしてその姿勢と実力は本物なの。

 そこら辺の新興宗教と違って、誰かが扇動のために始めた欺瞞じゃないのよ」


 どうやら治癒の天使「ラファエル」は結構な聖人のようだ。

 アカリのように、最強ってだけじゃなく優しさもある。

 単に戦いまくって西方フェレスを血気盛んにさせただけの、

 どこぞの痴幼女とは違うね。


「うおぉ、結構はっきり言うねぇ。

 そんな気質だと面倒な事になったりしない?」

「あんなものに縋るだけの奴らがわたくしに敵うとでも?」

「それもそうか」


 結局のところ、願っているだけでは上手くいかない。

 人の信仰から生まれた天上も天使達も、

 望まぬ変化や思いもしない変化を地上に齎した。

 アカリが使っているように願いそのものは決して弱い力ではないけど、

 真に叶えるためには行動と相応の力がどうしても必要だ。


 まぁ私達はそれでいいんだけど、下々からは

 恵まれた者たちの綺麗事にしか見えないんだろうなぁ。

 道理を説いたところで、その通りにできるやつはほんの一握り。


 アカリが特別だから、私はアカリを愛せるし、

 私が特別だから、そんなアカリの隣に居られて、守る事ができる。

 私は、とっても恵まれているんだろう。


「人間達の信仰から生まれた天使が地上を支配できるなら、

 人間達の憎悪が地上を蝕むこともあるんじゃないかなと」

「人類の負の感情が集まって、あいつらを歪めていると?」

「うん。それで、私達はそういう悪い感情が積もった怨霊みたいなもの……

 邪神って呼んでるんだけど、それらを退治するための旅をしてるんだ。

 率直に言うけど、私達と手を組んでほしい。

 おばさんも職場を浄化しつつ報復したいでしょ?

 利害は一致してるから悪くないと思うけど」

「……思ったよりも、興味を惹かれる話ね。

 分かった、あくまでわたくし個人として、考えておくわ」


 感触は悪く無さそう。

 とりあえず、そろそろ怪しまれるから動かないと。

 必要な事も伝えたし、模擬戦もといソレイユの仕返しも

 区切りいいとこで終わりたい。


 ここは目立たないために負けよう。


「言いたいことは言ったから、あとは私の負けって事で」

「待ちなさい、わたくしより強いのに勝利を譲るつもり?」

「こんなちっちゃ可愛い猫娘が大国の幹部に勝ったなんて事になったら

 噂になるでしょ。カスアリウスには知られたくないの」

「(自分で言うのね……)

 なら、せめて刃は全力で交えてくれない?

 情けをかけられたみたいで、矜持に瑕がつく」

「しょうがないなぁ。じゃあ――」


 剣を構え直した瞬間、轟音と地響きがした。


 連なる施設や民家の屋根の奥に煙が立ち昇る。

 この距離と方向は、東門か。


 周囲の建物からも人々が慌てて飛び出して、

 アカリがスパゲッティを食べながら店主と共に出てきた。


 よく見ると、アカリは自分が啜り上げているものとは別に、

 宙に浮いたもう一皿を同伴させている。精霊が持ってるのか。

 んで、それを私に差し出してきた。


「お姉ちゃんも早く食べて」

「うん、ありがと……あれ、何が起きたの?」

「多分、カスアリウスが動き出した」

「こんな状況でよく食えるわね……とにかく、早く状況を確認しに行かなきゃ」


 ソレイユは走り出して、一瞬で後ろ姿が遠くへと消えていった。

 私達も料理を平らげてから東へと向かう。


 料理は期待以上に美味しく、新しい味だった。

 歯ごたえが程よく残る丁度いい茹で加減のスパゲッティに、

 塩漬けした魚卵の食感、強い塩味と旨味がよく合っていた。




 東門に着くと、そこには数多のキャメル兵士と見られる者達が倒れていた。

 怯える民衆の見つめる先、少なくとも数十人が身体を千切られて、

 そこらに血溜まりができている。


「……何で、お前が、ここにいますの?」


 ソレイユが見ていた先には、鳥獣人の男性が立っていた。

 ロトルのような巨躯と精悍かつ凶悪そうな顔つきに、

 羽角、背中の羽、尾羽根と、典型的な鳥獣人らしい特徴。

 髪や羽の色は白、灰色、黒がメイン。


 やさぐれた剣士のようなボロボロの冒険者装備を着ているが、

 彫刻のモチーフにされそうなくらい逞しい身体に艷やかな毛並み。

 粗末な身なりでさえ、威圧感の演出となっている。


「おやおやぁ、これはこれは腰抜けで落ちこぼれのソレイユ殿ではないか!

 責務も果たさず辺鄙な場所で一体何に感けているのかね?」

「全てを食い散らかす野蛮な猛禽風情が、責務?

 寝言はお眠りになってから仰ってくれませんこと?」

「はっはぁ、相変わらず我らだけに苛つく態度を取ってくるな。

 それを民にも同じように向ければ、容易く出世できるというのに」

「生憎、わたくしにはまだ人情というものが残っておりますから」


 ソレイユにあいつについて聞いてみると、

 こっそりと教えてくれた。


「あの見るからに傲慢な屑鳥は、本邦の国務長官「ハーピア」よ。

 扇鷲ワシ系獣人で、等級は……朱雀上級グレーターヴァーミリオン

 「凶弾」という二つ名があり、

 文字通り凄まじい飛行速度と機動力で何もかも貫く弾丸のような男よ」

「えっ、単独で国レベル?個人にその等級はつかないはずじゃ」

「当然表記上は朱雀下級よ。でも本来の強さはそれくらいあるわ」


 マジか、とても面倒かつあんまイケてないのが来てしまったな。

 武器は見えないから、獣人らしく自らの身体だけで戦うタイプ。

 つまり、その身一つで国レベルの強さがある。

 勝てるとしたらアカリしかいない。


 ハーピアが此方に気づいた瞬間、身体が震えたのと同時に、

 意識が揺らいだような感じを見せて。


「おい、そこの猫二匹っ……」

「っっっ!!!」


 多大な殺意を向けてきたと思ったら、ハーピアの姿が消えて、

 轟音と共に目の前の景色が歪んだ。

 私は、アカリに向かって突進するそいつをギリギリで受け流していた。


 あまりに滅茶苦茶な速度と力で、受け止めたら私達に風穴が空いたかもしれない。

 予測や勘じゃなく、私の身体を間に合わせたのは条件反射とアカリへの本能。

 長らく忘れていた、「恐怖」や「危機感」が背筋に滲んできた。

 ……フィオナの分はノーカウントで。


 攻撃を間一髪で逸らされたハーピアは、

 縦に大きくUターンして元の場所に飛んで戻った。


「(この子、ギリギリとはいえあのハーピアの攻撃を凌いだ……!?)」


 流石に鳥獣人なだけあって空中での動きが半端ないな。

 空に打ち上げられたとしたら大いに不利になるだろう。


 軽やかに着地した後、驚愕と怨嗟を込めた声色で、私達に話しかけてくる。


「……貴様ら、『空の子』だな?それもあいつの……!」


 これで、確定した。こいつらはお母さんが壊した奴らの遺族。

 深界に引きずられて膨れた憎悪で、地上を脅かそうとする怨霊達。


 ソレイユは戸惑った顔で私達を見てきた。純半を知らないのか。

 どうやら、さっきのは私の勘違いだったようだ。

 人の耳を確かめようとしていたのは、純半かどうかではなく、

 変装した、もしくは特殊な体質の人間かもという推測。

 邪神が憑いているカスアリウスの中枢だけが

 純半の事を知っている能性が高い。


「八百年前の事をまだ根に持ってるわけ?

 しかもその恨みを無関係の地上にぶつけるなんて、

 みっともないにも程があるんだけど」

「無関係?無関係だと!?そんなはず無いだろう!

 俺達の大切な家族が、烏滸がましくも天に昇った人の子によって殺された!」

「その人間に罪なんか無いと天使様は言ってるんだけど。

 それにそいつが当時の空の者達をのは理不尽から生き延びるため。

 気の毒だろうけど、恨むんなら必死に命を掴んだ幼子にビビって

 愚かにも排除なんかしようとした神々を恨むべきだよ」

「天使……四大天使か?唐突に生まれて、人類に媚びるだけの、

 俺達の苦痛も知らない神の犬如きが知ったような事を……!」


 アカリの反論を受けたハーピアは、更に激昂していく。

 顔には青筋が浮かび、目は血走って、濁った声を上げる。


「……それが、わたくしの全てを壊した理由?

 アカリの言葉が嘘だとしても、お前に正義なんかとっくに存在しないわよ。

 逆恨みを正当化するために四大天使まで侮辱するなんて、孤高とは程遠いわね」

「うるせぇよクソアマ!これ見よがしに幸せそうな面ばら撒きやがって!」

「あぁそう、つまりただの嫉妬ってことね。本っ当に、下らない」


 恨みを乗せた声に、かなり顰めた顔をハーピアに向けながら、

 ソレイユは手でこっそりとジェスチャーをしてきた。

 「この隙に、できるだけ、治せるか」……


 願いを受け取ったアカリは、手を合わせて詠唱を始めた。

 知られるリスクより彼ら全員を救うことを選んで。

 アカリは優しいから。


精霊定義ディファイン、機械、並列、生体復元。

 傷兵たちを癒やし、死の淵より救い出す事を願う』


 充満していた血の臭いが消えて、ここ一帯の空気は穏やかになった。

 一瞬にして兵士たちの身体から出た全て、飛沫となった血の一滴まで、

 私の鼻に入ってくる臭いすら掌握したんだ。

 広がっていた夥しい血は意思を持ったようにそれぞれの身体に戻って、

 千切られた数十人分の身体が次々に元通りに組み上がっていく。


 生き物ってのは身体の端から端まで固有の情報が入っているから、

 精霊はどのパーツが誰のかを判別できるんだとか。


 身体が元通りになった兵士達は、段々と身体の端々が動き始めた。


 アカリの所業を見て、ソレイユもハーピアも驚いている。


「ちょっと、できるだけとは言ったけど、

 流石に何十人も同時に処理したら頭と回路が焼け……て、ない?

 それどころか流れた血まで全部集めて、どれが誰の肉片かまで分かるの!?

 大量の液体の精密操作なんて、それだけで処理能力リソース全部持ってかれるはずよ!

 いくらN1だからって、ここまで大量かつ高度な物質操作、生体識別、神経と循環の整合性を要求される治癒が並列でできるものなの……?」

「お、おい、なんだ!それは……!その力の源は何なんだよ!」


 それからお構い無しに、治癒を終えたアカリは詠唱を続けた。

 セイラと同様、ハーピアの言動からするに

 やっぱり天人や邪神には精霊界が見えず、

 教えられないと知ることができないようだ。


『光および炎、よって天光。

 悔悛無き心こそ、大地を乱す咎である。

 暴虐に沈淪する魂に安息の時が流れる事を願い、

 その末は慈悲と集う極光を以て、荘重なる処刑とする』


 東門付近にもう一つの太陽が昇ったように一帯が輝き始め、

 その光はハーピアへと収束し、その巨躯を覆いながら焦がしてゆく。


「うあっうがああぁっ!!!」


 さっき攻撃された時はかなりの気迫があったのに、かなり痛そうに鳴いている。

 元から頑丈な獣人に天人による魔法防御が加われば結構な耐久力になるはずだが、アカリの精霊術はそれすら柵とせず、簡単に心と命に刃が届く。


 国の重鎮を殺すのは問題だろうけど、そもそも民衆に大して知られてないから、

 わざわざ異議を唱える理由がある者はそういないはず。

 そうじゃなくてもこの場でキャメル兵士を殺戮したという凶行があるし、

 アカリの味方をしてくれるだろう証人なら見ての通りたくさんいる。


 これなら、いける――


貪欲な水瓶グリーディーアクアリオス

「……!?『中断キャンセル』」


 どこからともなく声が聞こえたと同時に、アカリの攻撃が瞬時に消えた。

 いや、アカリ自身が止めたのか。

 アカリに直接的な抑止力を与えられるなんて、まさか……

 でも、非術師の人間よりも精霊と関わりの薄い天人が精霊を扱えるの?


「……なにやら、一事起きた後のような雰囲気ですね。

 ハーピア。大統領が命じたのは周辺への「通告」であって、

 民衆の殺害では無いのですが。

 しかも、先程までまんまと攻撃を受け続けているのを見ました。

 なんとも貴重な光景で面白くはありましたが、

 長官ならまず責務を果たしてください」

「おい待て、なんでお前がいるんだよ。

 国あたり一人のはずだろうが」

「大統領に命じられたのみで、詳細は聞いていません。

 恐らくですが、あの「落ちこぼれ」が理由でしょう」


 東門の外からやってきたのは、

 黒いスーツに眼鏡と、とても礼儀正しそうな女。

 体格はソレイユと同じくらいで、白と黒の髪に赤いメッシュ。

 やけに落ち着いた話し方で、全然本性が見えない。


「嘘でしょ、なんで「射手いて」まで……」

「あいつ誰?」

「本邦の書記官長、「射手」のサクレ。

 礼儀正しいし表面上は一番まともだけど、

 今の政権で一定の地位に居るってことは……

 まぁ、そういう事よ」

「強さは?」

「表記上は朱雀下級の魔導師ね。

 でも彼女の本気や魔法の全貌がどのようなものかは知られてない。

 ハーピアのように朱雀上級の可能性もあるわ」

「なる」「……魔導師じゃない」


 アカリが私の肩とソレイユの腰を叩きながら呼びかけてきた。

 それってつまり……


「……やっぱり精霊術師なんだね?」

「精霊……?」


 その言葉を聞いてソレイユは一旦考え込んだけど、次第に目を見開いて、

 畏れすらあるような驚愕を見せる。


「…………いや、え、本当に、本当に存在するの?」

「あっ、知ってんだおばさん、流石準一級ってだけあるね」

「この四獣大陸がある星を手で摘めるような巨人が

 地上にある細い糸を持って針に通すようなものと喩えられる……

 そんな想像もつかないレベルの魔力操作が必要とされるのに、

 アカリは……それが使えるっていうの?」

「ん。あたしの主精霊ロードは上位精霊だよ」


 衝撃すぎて少し笑いを交えつつも、私達の振る舞いに納得がいったようだった。


「はは、あなた達どれだけわたくしを驚かせれば気が済むの……?

 二大流派朱雀下級に、上位精霊術師に、極めつきは神の子……

 なるほど、面白いくらい現実味が無いし、

 万が一本邦に伝われば間違いなく目をつけられるわね」

「やむを得ないからソレイユには教えたけど、口外はできるだけしないように」

「精霊術は存否や認識の有無すら世界に影響を及ぼす……だったかしら。

 分かったわ、肝に銘じておくわね。これ関連のトラブルなんて、

 到底わたくしの手には負えない規模になりそうだし」


 間もなく、サクレが此方に気づいた。


「お久しぶりです、ソレイユさん。

 そして、お初にお目にかかります、猫のお嬢様方。

 本官はカスアリウスで書記官長を務める「サクレ」と申します。

 主に司法裁判や国家運営の諸々の記録・手続にあたる業務を纏め、

 その傍らでは少々、魔導術を嗜んでおります」


 魔導術、ねぇ……


「この場の状況から拝察いたしますが、アカリ様の魔法行使により、

 本邦のハーピアにより惨殺されたキャメルの兵士方を救命なされた、

 と見受けられます」

「まぁ、そうかな」

「私共のキャメルに対する凶行とそれらへの寛仁大度なる対応に関して、

 アカリ様やキャメルの方々には、

 心より深く感謝と謝罪の意を述べさせていただきます」

「……それで、本邦のお偉方がどのような要件で態々キャメルまで

 来てくださったのかしら?」


 サクレは、改めてこの場の皆に聞こえるよう口を開く。


「簡潔に申し上げます。本邦の意向により、

 只今からキャメル王国、チコニア空輸会、ピト修練師団にいる皆様には

 カスアリウスに無条件の従属との提供を義務とします。

 平たく言えば、唯々諾々と従う奴隷となっていただきます」

「……は?」


 案の定、私達やキャメルの住人達は全員呆気にとられ、

 次第に不満が出始めた。


「何考えてんだ今の長共はよ!」

「キャメルの兵器、チコニアの基盤インフラ、ピトの兵力で

 栄えてきたくせに調子に乗んな!」

「うちらに良くしてくれた前大統領と長官はどうなったのか未だに言えねぇのか!」


 数多の声が、ハーピアとサクレに鋭く向けられる。


「カス共がピーピーピーピー鳴きやがって。マジでうるせぇ。

 全員いてやろうか」

「再三言いますが、あなたの仕事は殺戮ではありません。

 貴重な「資源」なのですから浪費は赦されませんよ」

「ったく、しょうがねぇ。なら、服従のためになりゃぁいいんだよな?」

「……それなら、まぁ有意義な範疇でしょう」


 ハーピアから殺意が滲んだ。

 これは……私達ではない……?


 ソレイユも気づいたようで、アカリに助けを求めた。


 ――その時には、もう遅かった。


「黙れカス共」


 ハーピアは先程とは正反対の冷徹な声で、その場を静まらせた。

 ……その右腕には、胴体を貫かれた女性が突き刺さっていた。


「う、うあぁ!ピスターチ……!

 そんな、なんで、なんでだよぉっ!」


 男性が一人大きく泣き崩れた。多分、殺された女の夫。


「今から少しでも騒ぐ奴は、こうなる。

 よく覚えとけ」

「……ふふ、相変わらず恐ろしいですね」


 サクレは、ハーピアの所業を見て、笑みを浮かべた。

 あぁ、ソレイユの言った通り、確かにイカれちゃってるわ。


 ……あれ、ソレイユ?


「っ……このぉ、悪魔がぁ!!!」

「お姉ちゃんソレイユ止めて!」


 短剣を握りしめて走り出そうとしてたけど、

 アカリに言われたので、ズボンのベルトを掴んで止めた。


「離しなさいミオ!」

「離したらおばさん死んじゃうよ」

「あの屑鳥はわたくしの前でまた……またキャメルの民を手に掛けた!

 しかも、見せしめによ!こんな事されて黙っていろというの!」

「まず落ち着いたら?命を無駄にするのは雑魚のやることだよ」

「そんな説教聞きたくない!」

「じゃあ、あたし達のために止まってくれない?

 あんたは自分の命を使うだけだと思ってるけど、

 精霊術師ってのは人間の脳から情報を読み取れるの。

 だから今ソレイユが行けばあたし達の情報が筒抜けになっちゃって、

 邪神に勝てる可能性はかなり低くなる。

 そんな戦犯をしてもいいというのなら、どうぞ?」

「ぐ……ぅっ……!」


 やっと踏みとどまってくれた。


「よく頑張った、偉いぞ」

「私の事も褒めて褒めて!」

「はいはいえらいらい」

「うへへぇへへぇ!」


 アカリからのご褒美を受け止めつつ、東門の先を見てみると、

 カスアリウスの結構大きな兵隊が入ってきた。

 これは本格的な制圧と監視目的って感じか。


「こんな人員まで割いて、一体何をやるつもりなのよ……

 それで、二人はこれからどうするの?」

「……どうすればいいと思うアカリ?」

「このままだとあたし達も持ってかれるかもしれないし、

 「ガーレ」にいくしかないんじゃ」


 その国名を聞いて、ソレイユは戸惑う。


「えっ、ガーレに行くですって?

 まぁ本邦の犬になるよりかはマシでしょうけど、

 それでも、あそこはあそこで、ねぇ……」

「何が気になるの?」

「その、色々とおかしいって聞くじゃない。

 特に、あなた達みたいな幼い容姿なのは気をつけた方がいいわ。

 どんな目に遭うか分かったもんじゃないわよ」

「まぁ大抵の事は武力で解決でしょ」

「お姉ちゃんみたいな変態がいっぱいいるのかな」


 あ、な、ナチュラルに罵られちゃった……♪


「というわけで、おばさんとは別行動だね」

「じゃあ、これ持っていきなさい」


 ソレイユは懐から道具を取り出した。

 これ、おばさんの部下が使ってたやつと同じか。


「携帯型の通信魔導具よ。

 キャメルとガーレの距離ならギリギリ届くはずだから、

 何かあったらお互い連絡しましょう」

「おっけー」「りょ」


 私達が話していると、サクレが近づいて話しかけてきた。


「先程の対応に免じて、一度だけ忠告させていただきますが、

 国に居る人というのは定住者に限らないので、

 人材となる事を望まないのであれば速やかにここを発つ事を推奨します」

「あーそうなんだ?いやー色々見て回りかったけどなぁそれならしょーがないなぁ」

「(もうちょっと自然にできんのか……)」


 という感じで、私達はなんとか南門からキャメルを脱出し、

 ガーレへと向かうのであった。


 キャメルから南に二百キロ弱ほど行ったところにある、ガーレ。

 形態としては一応王国らしいのだが、正式名称は「ガーレ」のみ。

 それに意味があるのかどうかは知らない。


 いつもの方法で長距離を駆け抜け、それらしき城壁までやってきた。


 門には、キャメルの時みたく二人の門番が立っていた。

 鎧ではなく普通の住民みたいな軽装で、男が一人に女が一人。


「お、おおぉ!見ろよ!かなり久しぶりに新しいお客様がいらっしゃった!」

「それだけでなく、お二方ともエンリル様のような美しさを備えております!」

「何という偶然なのだろう!これはくれぐれも失礼のないようにしなければ!」

「えぇ、全く、その通りですね!お嬢さん達、初めまして!」


 なんか異様にテンション高いんだけど。

 もしかしてアカリみたいな可愛い子に会えて嬉しいのかな。

 なら仕方ないか。


「ねぇ、入国したいんだけど」

「「どうぞどうぞ!」」

「えっ審査しないの?」

「「お二方のようなお美しい方が悪党なはずありません!!」」

「お、おぉ」


 おいおい、分かってるじゃねぇか。

 キャメルの堅苦しいマニュアル問答とは大違いだ。

 ……二人のテンションがインパクトあったせいで今更気づいたけど、

 二人共黄色の何かを抱いている。


 鳥獣人の幼子のぬいぐるみっぽいな。

 アカリの観察で培った私の女児スケールによると、

 大体アカリの見た目より二回り下……人間での三歳相当か。


 綺麗な金色のベースに先が緑がかった髪と羽に、

 真ん丸な黄色の瞳に瞳孔が緑とピンクのオッドアイ。

 口を小さく三角に尖らせた、何も考えてなさそうな、

 あるいは常に浮世を見下しているような顔。

 まぁ、可愛いは可愛いけど、アカリには及ばんな。


「その抱いているの何?」

「「よ・く・ぞ、聞いてくれました!」」


 一々圧が強いな。


「この美麗さと荘厳さとぷにぷにさを兼ね備えた偉大な御方こそ、

 我が国「ガーレ」の国王である「エンリル・ガーレローデ」様です!」

「正確にはエンリル様の尊い御姿を御本人様監修により、

 寸分違わずぬいぐるみにしたものでございますが!」


 確かに、顔はもちろん、身体の隅々の指や足まで綿密な造形がされている。

 全体のシルエットは王道を征く寸胴な台形。

 そしてパーツそれぞれがこの年にしても太めなんだが、

 これは無闇に肉感を盛ろうとした凡愚のミスではなく、

 本人も実際に太っているんだろう。


 年齢特有の肉付きという前提にして最重要な土台は易易とクリアした上で、

 余分な脂肪の付き方が破綻なく、見事に表現が完遂されている。

 その叡智Hの結晶とも言える思慮の数々が、フリルや宝石のたくさんついた、

 体型に注目しにくい絢爛な服装の上からでさえはっきりと分かる。


 だからといって大本の可憐さが掻き消されているわけでは決してなく、

 趣のない「色気エロの独擅場」になっているわけでもない。

 普通の人にはただの可愛い衣装を着た子であって、

 分かる人が見れば一気にその情報量が押し寄せるという、

 絶妙なギミックを作り出す事に成功している。


 いくら自分自身だからって、

 どれだけ観察したらこれ程まで知見を深める事ができるんだろう。

 私がアカリの人形を作るとしても、

 このクオリティに一朝一夕で辿り着けるかと言われたら、

 正直難しい。

 これほどの才能がアヴェスの辺境に鎮座しているなんて、

 思いもよらなかった。


「んーぅ。このぬいぐるみ、「本物」……だね?」

「お、おぉ!!!なんと、一目でお分かりになられるとは!!!

 あなたほどの慧眼を持った方には出会った事がありません!」

「例えばこの脇だけど、

 単に皺作るだけじゃなく服への食い込みもしっかり拾ってたり、

 お腹は装飾だらけで一見形が分からないように見えて、

 目を凝らせば土台となる薄い布地はしっかりと纏わりついているから、

 ちゃんと見ればこのぽちゃっとしたラインが読み取れる」

「な、なるほど!恥ずかしながら初めて知りました!

 まさか、そのような魅力を秘めていただなんて!」

「どうやら私達はまだまだ愛が足りないようね!」

「(お姉ちゃんもこいつらもさっきから

 死ぬほどキモい話で盛り上がってる……)」


 ちょっと話をしただけで門番は恍惚とした表情になり、

 とても嬉しそうに国へと入らせてくれた。


「これは御二方に差し上げます!」

「え、くれるの?」

「元々お客様に配給するための在庫ですし、

 私達は既に各自専用のエンリル様が居ますから!

 これは一番安価ですぐ作れるぬいぐるみタイプですので、

 王宮に行けば自分好みの材質や仕様のエンリル様を作れますよ!

「そうなんだ……」


 うわぁ、重さや骨格までそれっぽい。というか、そのものだ。

 私を女児の事でドン引きさせるなんて、やはりこの国只者ではない。


 ともかく、国内を眺めつつ歩き出そうと思ったら、

 悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。


「ああああぁぁぁぁあああぁぁ!!!」


 また何か事件なのか?

 と思った矢先に、その悲鳴の源は道の先にあった。

 一人の十代半ばの少女が、エンリルのぬいぐるみを押し倒している。


 そして、少女はぬいぐるみの服を引き裂きながら片っ端から舐め回し始めた。

 まさに、超絶美味なソースがついた皿から残さず舐め取るかのように。

 顔、顎、耳、首筋、項、髪、翼、肩、腕、手、指、

 胸、腹、股、尻、太もも、ふくらはぎ、足、趾、

 口、鼻や耳の穴、臍、陰裂、肛門……

 全てから何かを摂取するように舌をねっとり這わせて、

 ぬいぐるみが濡れていく。


「あ、あうぁっ!エンリル様ぁ!ぢゅ、ぢゅるるぅ……

 とても美味しいです!美味しゅうございますぅ!」


 はぁ、初っ端からぶっ飛んでるなぁ……

 と思った、次の瞬間。


 徐ろに彼女はナイフを取り出して、

 ぬいぐるみの脳天やら腹やらをかっさばいていく。

 何故か、ぬいぐるみからは血や中身が出てきた。

 そういう仕様のもあるのかよ。やばすぎだろ。


 最終的に、そのぬいぐるみは四肢と首で切断された。


「はぁ、あぁ、はああぁ~~!

 バラバラになったエンリル様も素敵ですぅ~!!

 どんなになっても完璧なエンリル様!!!

 大好き、大大大好きっ!!!!!」


 そして、彼女はエンリルの生首や腕や足にキスをしたり、

 自分の身体というか主に秘部にそれらを擦りつけたりしつつ、

 気色悪い台詞や喘ぎ声を発しながら、快楽に延々と浸っていた。


 ……


 私もアカリも、この惨状に放心状態が長い間続く。


 あぁ、なるほどね。

 これが地獄か。

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