儚いの英雄

SEN

儚いの英雄

台本:SEN  声劇2人台本(男1・女1) 所要時間:30




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カイラス(男・27歳)人間。木こりの男。

ミフィア(女・25歳)魔族




本編↓





カイラス

「死ぬ前に……話しておこうと思う……これは、ワシが……儚くも、英雄になってしまった話じゃ……」





ミフィアN

儚いの英雄






カイラスN

「あれは……27の時じゃった……わしはいつものように森で木を切っておったんじゃ」




間(次回想) 





◆SE 木を切る→倒れる



カイラス

「っし……ふぅ、今日は結構いったなぁ。んー…もぅ少ししたら日も暮れるか…あと一本切ってしまいにするか……っ!?これは…でっかいヤマギの木だなぁ……なんで今まで見つけられなかったんだ……物騒だな、よっし!切っとくか!」


カイラスN

「ワシは木こり仲間から聞いていた…ヤマギの木には魔が宿ると。魔力を吸いに魔の者が休みに来ると…見かけたら切るようにと皆で言い合っていたんじゃ」


カイラス

「よーし………ふんっ!!」



◆SE 振りかぶり斧を当てる



ミフィア

「っきゃ!?」


カイラス

「え、なっ!?」



◆SE ドサッ



カイラスN

「そのヤマギの木に渾身の力で斧を入れたとき……女の子が落ちてきよった……ワシはその子をかばって受け止めるように下敷きになった……」





ミフィア

「いててっ……ん?…っ!?……人間だ…あの?もしもし?……気を失ってるのかしら……にしても人間をこんな近くで見るのは初めて……私達と同じ形……へぇ」


カイラス

「ん…うぅん……」


ミフィア

「わ……起きる」


カイラス

「いてて…ん……あ、大丈夫?」


ミフィア

「え…」


カイラス

「怪我は?」


ミフィア

「私は……大丈夫…」


カイラス

「良かった……あの、さ…」


ミフィア

「はい?」


カイラス

「降りてもらえるかな?…俺から」


ミフィア

「あ…あぁ!!ごめん…なさい……」


カイラス

「あははっ!まぁ貴女のような軽い女性にならいつまでも乗っていてほしいですがね」


ミフィア

「ごめんっ…本当に…」



カイラス

「大丈夫大丈夫!いやぁびっくりした……何故こんなところに?それにこの木はヤマギの木。魔の力で満ちている…知らずに登ったのなら気を付けたほうがいい」


ミフィア

「え、えぇ…」


カイラス

「切ってしまうので離れていてください」


ミフィア

「あ……待って、切らないで!」


カイラス

「え…なぜ?ヤマギの木は魔の者を呼び寄せてしまう…有名な話だ……しかもこれは稀に見る大きさ……今切っておかなければ大変なことになるかもしれない」


ミフィア

「わかっています……けど、この木には私の想いが……思い出がいっぱい宿っているのです……どうか、切らないで…お願い」


カイラス

「……そぅなんですか……どんな思い出が?」


ミフィア

「……私の一部みたいなもので…好きで……この木だけは何故か特別で……親、みたいなもので……だから…」


カイラス

「……わかった。」


ミフィア

「え……いいの…ですか?」


カイラス

「あぁ、君の真剣に話す目……何か思い入れがあるんだろ?そんな木を俺は切れないな…みんなにも言っておくよ」


ミフィア

「ありがとう…優しい方で嬉しいっ」


カイラス

「もぅ日が落ちる…最近は魔族も増えてきている。家まで送るよ」


ミフィア

「大丈夫です!ここで…あ、アナタの名前、は?」


カイラス

「カイラス…君は?」


ミフィア

「本当は長いんだけど……ミフィア…ミフィアでいいわ」


カイラス

「ミフィアか、良い名だ。気をつけて帰るんだぞ?」


ミフィア

「うん!ありがとうカイラス!…あ、またここで会えるかな?」


カイラス

「ん?あぁ…また他の木を切りにくるからその時にでも」


ミフィア

「嬉しい!じゃぁ!」





カイラスN

それから私とミフィアの楽しい毎日が続いた…日が暮れるまで毎日会い、他愛のないことを語り合い過ごした…





ミフィア

「カイラス!待ってた、これ食べて!野いちごだけど甘くて美味しいから」


カイラス

「ぉ、毎日ありがとう。これだけ集めるの大変だったろう?…いいのか?」


ミフィア

「うんっ!カイラスに食べてほしくて朝から探してたの!」


カイラス

「ん、じゃぁ貰うね…あむっ…もぐっんぐ……ん!甘くて美味しいっ!!疲れが吹き飛ぶよ!ありがとうミフィア」


ミフィア

「えっへへへ~」


カイラス

「お、そろそろ日が暮れる…戻らないと……じゃぁ、また明日な!ミフィア」


ミフィア

「うんっ!また明日!……また…明日…大丈夫………日が暮れて魔族が暴れても……あなたの村を……襲わせないから」





カイラスN

半月を過ぎたとき……ある重大な出来事が起こった





ミフィア

「っ!?」


カイラス

「いないのか?ミフィ……ミフィア!!そいつから離れろ!!!


◆SE魔物唸り


ミフィア

「……大丈夫……カイラス。私の従者……なの。ビヴィル…あの方を襲ってはだめ、いい?」


カイラス

「従者って……ミフィア…君は…何者なんだ……」


ミフィア

「ごめん、私……カイラス──」


◆SE魔物咆哮


カイラス

「くっ!?」


ミフィア

「襲うなと言っただろうがぁっ!!!!」


◆SE燃えさかり焼き焦げる

◆SE魔物叫び


カイラス

「っ!?君は…何者なんだ……なんだその力は…」


ミフィア

「……ごめん、カイラス……正直に話す……私は、魔族。リ・セヒミラム・ラギカ・タシア・ミフィアレム……と呼ばれているわ」


カイラス

「魔族………人間じゃぁ……なかったのか……」


ミフィア

「ごめんなさい……カイラス……でも私はアナタを決して殺したりしない……あの村を襲ったりはしない…なぜならアナタは私を助けてくれたから…私はアナタを守るの」


カイラス

「助けた?……私が君をか?……覚えていない…」


ミフィア

「ヤマギの木……切らないでくれた……私はあの木から生まれ。あの木で眠り、傷を癒している。私の無限の魔力はあの木がくれているの。魔族は自分の命が宿るとされるヤマギの木が一本ずつあるの。だからあの時も私はあの木に居たの……無敵と言われている魔族の弱点は……ヤマギの木なの」


カイラス

「……なるほど……私はいつの間にか魔族の手助けをしていたということか…なんたることだ…」


ミフィア

「でも、聞いて。カイラス」


カイラス

「……なんだ、ミフィア」


ミフィア

「隠してたことは…ごめん。謝る。…けど…私はカイラスがスキ…人間だけど。好き」


カイラス

「……あぁ……俺もだ、俺もだよミフィア…例え魔族だろうと俺は君が好きだ……」


ミフィア

「うん……カイラス」


カイラス

「ミフィア……」





カイラスN

そして私たちは結ばれた……人間の姿に限りなく寄せたミフィアと一つ屋根の下で新しい日々が始まった……村の皆もミフィアを歓迎し盛大に結婚式を挙げた。しかし…こんな平和は長くは続かなかった……





ミフィア

「え……あの木を……切る命令が出て…いる」


カイラス

「あぁ……王政からの命だ…切らないと……反逆罪としてこの村を焼き払うと……世界中のヤマギの木を切れと……英雄達による決断が出たそうだ」


ミフィア

「そん…な……あの木は私そのもの……切られてしまうと私は…私は……」


カイラス

「させはしない……例え反逆罪として囚われようとも…俺はあの木を護る」


ミフィア

「カイラス……ありがとう…でも……いいの、仕方のないことなのよこれは…」


カイラス

「だめだ」


ミフィア

「人間は日に日に力をつけていっている……英雄達はあらゆる手段で魔族の力を弱めようと考えている……ヤマギの木に狙いをつけ切り始めた英雄達は賢い……それは私が一番よくわかっている……どこかのヤマギの木が切られるたびに……どんどん魔力が弱くなっていっているもの……そして木が切られる度に…仲間が死んでいる……私も…いずれ……」


カイラス

「そんな……させない!!村の皆もミフィアのことが大好きだ!!村の者皆で隠し通し護れば!なんとかなる…任せてくれミフィア」


ミフィア

「……うん…私は…ずっとあなたと居たい……」


カイラス

「俺もだよ…ミフィア」





カイラスN

それから数日したある日……




◆SE大勢の鎧兵が歩く



カイラス

「待ってください!この先には何もない!!返ってください!!」


ミフィア

「………」


カイラス

「お願いです!!あの木だけは!!!あの木だけは切らないでくれぇ!!!」


ミフィア

「カイラス……もぅ…いいの……もぅ…多分、魔族は…世界で私一人……あの木が最後の一本……」


カイラス

「そんな…」


ミフィア

「どこかのヤマギの木が切られる度に仲間の気配が感じなくなっていった……でも、もぅ……何も感じない……もぅ私一人…」


カイラス

「だからって……くっ!!切らないでくれ!!魔族は滅んだんだ!!ミフィアは…もぅ争う気なんて無いんだっ…だから…切らないでくれ!!……頼むっ」


ミフィア

「……カイラス……ごめんね…あなたと出会わなければこんな悲しい思いさせないですんだのに…ごめんね…」


カイラス

「うぅ……うぅぅ」


ミフィア

「ごめんね……私の力で………その悲しい思い…消すね……」


カイラス

「何を……ミフィア?」


ミフィア

「さようなら……カイラス……私はとても………




幸せでした」





カイラス

「ミフィア……ミフィア!!!」


◆SEキーン

◆SE倒れる


ミフィア

「さようなら……私の愛した人間……さようなら……我が子」




●間5拍




カイラス

「ん……んん…ん?…ここは……俺は何をしていたんだ……ん?斧?……そうか!ヤマギの木を切ろうとして何か上から落ちてきてそれに当たって気を失ったのか。」



ミフィアN

私の魔族としての能力……それは……



カイラス

「しかし……あれ?ヤマギの木が無くなっている……既に誰かに切られたのだろうか、切株だけになっているな……」



ミフィアN

記憶を操る…消す……何も無かったことにする……そんな力……だから…カイラス



◆SE足音


カイラス

「ん?誰だ?」


ミフィア

「……」


カイラス

「っ!?魔族っ!!?何と醜い姿…今すぐに叩き斬ってくれる!!!」


◆SE歩く→走る


ミフィア

「……っ……ぅ……ぃぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


カイラス

「ふんっっ!!!!」


◆SE斬る→落ちる



カイラス

「よし……如何に魔族といえども首を落とせば生きられぬだろう」


ミフィア

「カイ……ラ……ス」


カイラス

「っ!?…首だけで喋っている………さすが魔族と言ったところか。しかし…こいつ…今」


ミフィア

「あい…し…て……いま…………す」


◆SE灰となって消える


カイラス(段々と泣き出す感じで)

「……なん……だ……なんだ今のは……何が今…目の前から消えた……私は何をした……私は…………はっ!!!!?ミフィアァァァァァァァ!!!!!?」


◆SE走り出す


カイラス

「なんてことを……俺は!!俺はなんてことを!!!ミフィア!!!!ミフィアァァァ!!!うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




カイラスN

ワシは……三日三晩…泣いていたよ……ミフィアの木の元で…切られてしまい切株だけになってしまったヤマギの木の下で……ずっと泣いていた……


疲れ果て憔悴しきったワシは寝てしまった…そして不思議な夢を見たんじゃ…


ミフィアは子供を抱えて嬉しそうに……優しそうに微笑んでこちらを見ていた…このヤマギの木の下で……黄金色に輝くヤマギの木の下で……


ふと目を覚ますと……切株の上に小さな赤ん坊が居た……元気に泣いておったよ……


それが……お前じゃ……





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