第118話 各個撃破4
現場は騒然としていた。
「回復薬を調達しろ!!」
後方で待機していた救護隊の所へ怪我人が続々と運び込まれ地面に寝かされいく。
「何ということだ。」
エストート国の騎士団長は眉間にシワを寄せ拳を握りしめている。
「エドアルド様!どうしてここに、危険です。すぐに引き返して下さい!」
騎士団長に気づいた騎士が叫んだが、見向きもしないで戦況を報告するように命じている。
私は倒れた騎士の様子を確かめ、重症な者にベルトに差しているハイポーションを与えた。
「助かった、すまぬな。」
救護を担っていたらしい男に礼を言われ追加で数本のハイポーションを渡すと前線へ向かった。
ここでこの状況なら向こうはもっと酷いはず。
勇者に準ずる者のレジナルドに万が一は無いとは思うものの、知り合いが傷ついているかもしれない状況は見逃せない。
怪我人を抱えて戻って来る人と反対方向へ走って行くと魔物と騎士が入り混じっている場所にでた。
森から近い拓けた場所で騎士達が奮闘している。
「もう少し踏ん張れ!!すぐに応援が来る!」
声を張り上げ剣を振るっているのはレジナルドだった。森の中から続々と魔物が攻めてきてる。きっとそこに魔法陣があるはずだ。
レジナルドは仲間を庇いつつ戦っているが魔物の数が多すぎる。負傷者も多く、押され気味だ。
その時森から体をうねらせながらその気持ちの悪さを見せつける様に巨大なワームが現れた。
「クソっ!一旦引け!オレが殺る。」
疲れ切った所へ現れた巨大な魔物に騎士達は愕然とし諦めの表情を浮かべていた。
疲れているのはレジナルドも同じだろうが準ずる者としての義務感なのかしんがりを引き受けていた。
レジナルドに声をかけようとした時、彼の側でオークが棍棒を振り上げていたのでナイフを投げ、首に命中させると吹き飛ばした。
驚いたレジナルドが振り返り私を見てニヤッと笑った。
「そんなにオレに会いたかったのか?」
「違うわよ!あなたのとこの騎士団長に連れて来られたの。ちゃんとライアンにそう言ってよ、また機嫌が悪くなる。」
レジナルドは他の騎士が撤退して行くのを確認しつつ私に近づく。
「帰ってから一杯付き合うなら良いぞ。」
「遠慮しとく。」
ワームが騎士を追いかけ始めた為、レジナルドとの会話は途切れすぐに助けに向かった。その騎士は逃れたもののまだまだ他の魔物も多く、ワームも暴れまわっていて撤退も上手く進まない。
「レジナルド、私がちょっと足止めするからその間になんとかして。」
「おい、いくら何でもユキを足止めに使うのは…」
「大丈夫、見てて。」
私はワームに向かって行くとその体の最後尾をメイスで突き刺し貫通させると両手でメイスの両端を持ち奴の体を大きくぐるぐる振り回し始めた。遠心力が働くせいでワームは無抵抗に体を伸ばしていた。
「当たらないでよ!」
味方の騎士を怪我させたらヤバい。
私は叫びながら五メートルはあるワームの体で魔物をなぎ払い始めた。
「わわわ!無茶するな!まったく。皆、ユキがこれだけやっているんだ!オレたちもやるぞ!」
比較的傷が浅い騎士達は仲間を逃がすと戻って再び戦い始めた。
「レジナルド!多分、森の奥に魔法陣がある!」
私の叫びを聞いてすぐに理解したのか彼は二人の騎士を連れ森へ向かった。
「ここを頼むぞ!」
任されたのはいいが、もう目が回りそうだ。
私に武器のように扱われブン回されているワームも流石に反撃を開始し始め、口を開くとうまく木に食らいつきその回転を止めた。
急に回転を止められ私はズルっと転ぶとメイスもワームの体から抜けてしまった。
ちょっとお怒りのワームは私に狙いを定めると大口を開け飲み込もうと襲いかかって来た。
絶っ対に食われたくない私は慌てて立ち上がりナイフを投げた。変な態勢で投げられたそれは狙いを外し、木に刺さると爆発した。
その爆発に一瞬気を取られワームが油断したすきに近くにいた騎士達が一斉に攻撃した。
私がワームを振り回したおかげで他の魔物たちがなぎ払われ、倒れた所を次々とトドメを刺していったようで、周りにいた魔物の数がかなり減っていた。
騎士達の活躍でワームも切り刻まれ、やっと現場は落ち着き出した。
後はレジナルドの方だと振り返ると森の方から竜巻のような渦が空へと魔物を巻き上げているのが見えた。
新手の魔物なの?
「あれはレジナルドの力だ、心配ない。」
私が驚いているのを見て、騎士のひとりが教えてくれた。
「レジナルドも特別な剣を持っているんですか?」
ライアンの剣もエクトルから譲られた特別な物だ。
「あぁ、アレは我が国の勇者が持つ物だが、あれ程の力でもまだ全開ではないらしい。レジナルドはまだ勇者では無いからな。」
騎士はそれだけ言うとわずかに残った魔物を倒しに向かった。
しばらくするとレジナルドが一緒に行った騎士を連れて戻って来た。
「やっぱりあった?」
確信はあったが魔法陣の存在を確かめた。
「あぁ、助かったよ。まったく、あんな分かりにくいところに設置しやがって。」
一緒に行った騎士のひとりが魔術師だったらしく詳しく調べて来たようだ。
魔法陣は一方通行で送り込まれるばかりだが、細かい調整がしてあり、この辺りの魔物の数を一定にするよう仕組まれていたらしい。
「それってダンジョンの魔法陣と同じじゃない。」
最ダンの魔法陣も一定数の魔物がダンジョンにいるように調整されている。
結構ポピュラーな仕掛けなのかな。
「割と面倒くさいしかけだから腕のいい魔術師が絡んでることは間違いない。イグナツィあたりだろ。」
レジナルドがウザそうな顔した。彼もカトリーヌのストーカーの存在を知っているようだ。
後始末を騎士たちに任せると、レジナルドは私を連れて帰るために魔法陣の方へ来た。
そこには応援部隊が到着し怪我人を送り返してこちらへは向かう寸前だったようだ。
「レジナルド、まさか片付いたのか?」
ちょっと残念そうな騎士団長エドアルドが言った。
「あぁ、ユキが軽くやっつけた。」
「いや、軽くないから。ワームに食われかけたから。」
私はレジナルドの軽口を否定する。
「そうであったか。ユキ助かったぞ、いなくなったと思ったらあっという間だったの。流石、ライアンとパーティを組むだけの事はある。」
うんうんと勝手に納得している騎士団長には悪いが早く帰らないと私の命が危ない。
放っておいたら長くなりそうな騎士団長の話を無理やり遮り何とか魔法陣に乗るとすぐに転送してもらった。
だけど騎士団長と一緒に帰ってきたのが間違いだったのか、そこから汚れた格好で返すわけにはいかないと言われ嫌がる私をエストート国のテント村…じゃなくって陣営のとある場所に連れて行かれた。
「まさかのシャワー…ここは天国か…」
特別に作られたテント内の熱いシャワーを存分に浴び、流石にビスチェとキュロットの替えはないけど洗濯してもらい、着替えを与えられスッキリとして気分良く外へ出た。
外は中と違い極寒の地獄だった。
ライアンが顔を引きつらせ腕組みして待ち構えていた。
私のせいじゃないからね!
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