第119話 各個撃破5
一体どれほどの時間が経過しただろう。
最初は沈黙の極寒の中…後に体が冷えるだろうと勧められたテントの中…
「一体何考えてるんだ。」
「すみませんでした。」
延々と同じ言葉が繰り返される。
「まぁまぁもういいじゃないか。ユキがオレに会いたくて我慢が出来なかっただけだろ。」
火に油を注ぐようなセリフはやめて欲しい。
「そんなにレジナルドに会いたかったのか。」
「そんな訳ないの分かって言ってるでしょ。」
「わからんな、どこがどうなって自分のテントに行ったはずのお前がエストート国の陣でシャワーを浴びてたんだよ。」
本当にスッキリしたよ。
「自分の陣営じゃ使わせてもらえないもん。いくら魔物を倒してもただの平民だもん。」
私の言葉にライアンはちょっと黙った。
自分の国では騎士団長のテントにすら入れてもらえないのにお隣さんは優しい。
国によって平民でも扱いが違うのかな。
「とにかく帰るぞ。」
「その前にエドアルド様に挨拶くらいして行け、ユキをえらく気にいってる。」
流石にそれは無視は出来ず、ライアンは仕方なさそうに騎士団長が待つテントに向かった。
「まさかあの距離を迷うとはな。」
歩きながら苦々しい顔をする。
「だって、私のテントどこですか?なんてあの周りにいる騎士に聞いても知らなそうだし。」
「だったらオレのテントを聞けばいいだろ。」
「それもなんか変な扱いされそうだし。あなたが女は私だけ入る許可を出したって言われて、いつでも呼ばれたら行けって言われたんだよ。なに要員だよ。」
またライアンが黙った。
「せめてカトリーヌの所へ行けよ。」
どうやら散々探し回ったのかウンザリしたようすだ。
「ごめんなさい。私もすぐに戻ろうとしたんだけど。」
「まぁエドアルド様なら仕方ないか。人の話をあまり聞かないから。」
ライアンも当然わかっているらしくそれ以上は何も言わなかった。ふぅ〜。
騎士団長のテントに着き、中へ通されるとまだ鎧も脱がず部下達から報告を受けていた。
ライアンに気づくと片眉をクイッとあげ面白そうなモノを見つけた顔をした。部下を下がらせるとテント内はレジナルドと私達、騎士団長の四人だけとなった。
「えらく慌てて来たそうだが、何かあったのか?」
意地悪そうな質問にライアンは無表情で答える。
「いえ、ユキがここに勝手にお邪魔したようだったので迎えに来たまでです。」
「うちは別に構わん。助かったし、其方の相棒であろ。」
「部下ですよ。」
「パーティなのであろ。」
「…うるさいので仕方なく。」
「其方が女に振り回されるとはの。」
「別にそのようなわけではありません。」
「まぁ良い。だがうちの娘との婚姻の事は進めるぞ。」
はぁ?
「御冗談を、私は平民です。」
「すぐに貴族になると聞いた。」
ニヤリと笑うエドアルド。私は固まったまま身動き出来ずにいた。
「エドアルド様のお嬢様は既に結婚してらっしゃいますよね。」
「末がまだ残っておる。」
「まだ三歳ですよね。」
「待ってくれぬのか?」
「十三年待てと?」
「気の短い男だな。もう良い。」
なんだからかわれてるのか。
ふっと力が抜けた。
「ではユキはどうだ?」
『はぁ?』
今度は声に出してしまったが、それはライアンも同じだった。
「なぜ私ですか?」
「なぜユキなのですか?」
同じような疑問にエドアルドは嬉しそうに笑った。
「レジナルドとの子を作れ。こいつは結婚しないと言っておるが子を作ることはやぶさかではないであろ。其方らなら強い子が出来そうだ。」
「もちろんです。ユキとの子なら認知するぞ。」
即決するんじゃない!ヤリたいだけだろ!
「お断りします。」
何ココ、面倒くさい。
私はライアンのマントをちょっと引っ張ると帰りたいと合図した。
「ユキが思わぬ連戦で疲れているようなので下がらせてもらいます。」
勝手にこき使ったよね、って感じを出して何とかテントから脱出した。
もう引き留められないようにエストート国の陣内を足早に歩いているとすれ違った騎士に声をかけられた。
「さっきは助かった、ありがとう。」
顔は覚えてないが一緒に戦った騎士だろうか。そこからも数人から礼を言われ、やっと自領内へ戻った。
「はぁ…ホントに疲れたよ。それよりモーガン様とイーサンはどうだった?」
流石に他国の騎士団長の前では聞きづらくて今迄黙っていたがずっと気になっていた。
ライアンも少しため息をついたが足を緩め歩きながら話してくれた。
「二人とも無事だが被害は酷かったようだ。最後まで魔法陣の存在にも気づけなかったようだ。」
一定の数を揃えるよう送り出す事になっている事を話すとレジナルドから聞いていたらしく頷いた。
「それも報告しなきゃならんな。」
また騎士団長の所へ行くのだろう。
「じゃあ、私は先にテントに帰ってるね。」
くるりと方向転換し行こうとして手を掴まれた。
「なぜまたエストート国の方へ行こうとする。」
「私のテントあっちじゃないの?」
「もう何も信じられん。」
そのまま手をつながれ自分のテントまで連れて行かれた。今は酔ってないのにね。
「ここから出るな。」
「疲れたしもう寝るから大丈夫。」
安心させようと思って言ったのに睨まれた。
自分のテント内に入るとホッとした。洗濯してもらった物を干し、ベットに横になり目を閉じると眠ってしまった。
スッキリと目を覚ました。シャワーを浴びたせいだね、気持ちよく眠れたよ。
空腹を覚え物資を供給している所に取りに行こうと外に出ると夕暮れのなか、ブレイクが立っていた。
「ブレイク様、何かあったのですか?」
私に用があるわけじゃないよね。
「いや、ライアンがここで人の出入りを見張ってくれと言ってな。」
「それでブレイク様ですか?そんなのいりませんよ。お疲れでしょう?」
「いや、構わない。お前の居場所が不明だとライアンが心配するのでな。エストート国の陣営まで行ったそうじゃないか。」
ブレイクは困った子を見るような目で私を見てる。
「ちょっと迷っただけですよ。今もお腹が空いたので食べ物を取りに行きたいだけです。」
「こっちだ、一緒に行こう。」
どう見ても年下の騎士が付き添ってくれ食事をもらいに行くとすぐにテントに帰された。
手のかかる子扱いがウザいが今回は仕方ないか。
ベットに腰掛け食事をすませたがすっかり目が冴え眠れる気がしない。外に出ても騎士がついて来そうで面倒くさい。
干していた服が乾いていたので着替えた。いつ出陣と言われるかわからないし、この方が落ち着く。メイスの手入れをして、投げナイフとハイポーションを補充していよいよ何もする事がなくなった。
「ユキ、入って良いか?」
突然、テントの後ろから声をかけられ驚いた。
「ライアンなの?」
私のテントの後ろはこっそり抜け出す事が多く今もグイッと開ければ通れる。
「どうぞ、っていうかなんで後ろから?」
ライアンは大きな体を何とか通すと中に入りベットに座るとため息をついた。
「お疲れ様、いま会議が終わったの?」
「あぁ、」
「どうなった?」
「魔法陣の話は周知された。魔術師が同行して魔法陣が作動した時の魔力を感じたら一番にそこを攻撃するよう通達された。モーガンの方は明日同じ所を再び攻める。オレたちは次の場所だ。しばらくは各個撃破して、こっちの仕掛けが済み陣を固めたら決戦だ。」
ライアンはごろんと寝転ぶと目を閉じた。
「仕掛けって?」
「魔王のいる場所を囲って逃げたり他の魔物を補充出来ないように結界を張る。今、ケイとカトリーヌがやってる。イグナツィを上回る魔術師が必要だからな。二人にしか出来ん。その間、奴らの気を引き付ける為にも攻撃の手は休められん。」
そう言ってまた私のベットで眠った。
自分のベットの方が豪華で大きいだろうに。
体を丸めて寝息を立てるライアンの髪を撫でていた。
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