第112話 混戦3
「敵襲!!散開しろ!!」
誰かの叫び声で皆一気に散らばった。固まっていては全滅する。
「こっちだ!」
ライアンに腕を引っ張られ引きずられる様に岩陰に連れて行かれた。
「待って、回復を使うから。」
私はハイポーションを倒れた騎士にふりかけた。ライアンが私を引っ張った時、倒れた騎士の腕を掴んでいたのだ。
「連れて来てたのか、どおりで重いと思った。」
「私が鎧を着た騎士ひとり分も重いわけ無いでしょう。わかってたクセに。」
意地悪なライアンを睨みつけながら騎士の回復を待ち、状況を把握する。
先に魔法陣でここへ来ていた者達が襲撃にあった所へ飛び込んで来てしまったらしい。皆散り散りになりあちこちで戦闘が始まっている。
「行けるか?」
ライアンが回復した騎士に声をかける。
そいつはさっき私を邪魔者扱いしたセオドアご指名の護衛だ。というか見張りだな、これは。
「申し訳ありません。油断しておりました。」
私をチラリと見ながらライアンに謝罪する。
「別にいい、それより移動するぞ。ここじゃよくわからん。」
サッと立ち上がり移動し始めるライアンの後を騎士は慌ててついて行く。その後を私もついて行き、激しく戦闘が行われている場所へ向かった。
駆けつけた現場には数人の騎士が逃げ惑い、お馴染みのケルベロスとトロールがいた。オークもチラホラいてなかなか面倒くさい状態だ。
「ウザ。」
私は早速特注の投げナイフでケルベロスの三つの首の内、真ん中の一つを狙って投げた。
それは上手く奴の首元に刺さり次の瞬間バンっと弾け飛び、魔物の首がゴトリと落ちた。
「うわ、グロい。」
そのまま走り込みもう一つの首をメイスで叩きのめすと最後に一つ残った首を他の騎士が斬りつけ倒した。
「助かった…ユキ、来ていたのか。」
どうやらその騎士は最ダンで会っていたらしく私を知っていた。
ライアンはトロールを軽く倒し、オークを他の騎士に任せるとまた移動を始めた。
空が白みはじめ段々と周りが明るくなると、起伏の激しい戦場へ多くの魔物が攻め込んで来ている様子が見え始めた。
こんなに大量の魔物を本当に倒せるの?
今ここに魔法陣で運ばれて来ているのは三十人ほど、とても対抗出来ない。
「ライアン、どこまでやるの?状況だけ確認したら終わり?」
先頭を行く彼は振り返らず答える。
「レジナルドと連携してるはずだ。上手く行けば左翼から攻め込んでるアイツと合流出来るはず。こっちは奇襲にあってバラけてるから遅れを取ってる、失敗すれば向こうも危ない。急ぐぞ!」
走り込みながら次々と魔物を斬り倒し進み続ける。
「援護を待った方が良くない?」
なんとかついて来ている騎士が一人いるだけで三人でこのまま行くのはあまり良くないだろう。
「いや、前に誰かいるのはやりにくい。」
味方が散っていった場所から抜け出し前方に魔物だけが存在する所まで来るとライアンが大きく両手で振りかぶるのが見えた。
わ、アレが出る。
私は急いで耳を押え身構えた。
日が昇り始めたばかりの薄暗さの残る空を切り裂くように雷鳴が轟き、地響きの様な振動に空気が震えた。
鼓膜が破れるかと思うほどの轟音に騎士がふらつく。
「ほら、しっかりして下さい。置いてかれますよ。」
私は耳を覆っていた手を離し、それでも耳鳴りがする不快さを我慢しながら騎士に声をかけた。
流石に手を引くのは不味いだろう、プライドがある。さっきは意識がなかったから仕方がないが。
「何故お前は平気なのだ。」
「慣れですよ、すぐに慣れます。急ぎましょう、もう行っちゃいましたよ。」
側にいろと言ってた割にサッサと先へ進むライアンを慌てて追いかけた。
行く先々で多くの魔物が現れなかなか思うように進めない。
ライアンの例の一刀も何度か振るわれたがまとまった数が集まらなければ力の無駄遣いという物だ。私もお付きの騎士に気を配りながら脇から現れる魔物を倒していく。
数時間後、私達が進んだ後から魔法陣で送り込まれたらしい他の騎士がようやくチラホラ到着しだした。
やっとライアンの一点突破だけではなく散り散りになっていた者達も集まり始め、部隊としての隊列を整え戦えるようになっていった。
「そろそろ一旦下がりましょう。」
ずっと先陣を切り部隊を引っ張る形で戦っていたライアンにも限界がある。
あとから来た騎士達と交代する形で一旦後方へ引いた。
お付きの騎士も限界って顔して後方の味方に囲まれるとドッと地面に座り込む。
「大丈夫ですか?」
ライアンに水筒を投げ渡した後、騎士にも水筒を渡すとガブガブと飲み干しバッタリと寝転んだ。
こりゃもうダメかもな。
ライアンも疲れているようだが休めば大丈夫そうだ。
「お前は平気か?」
ここは騎士ばかりで私は平民だ。仕方なく彼らを気遣い水なんかを運んだが結構キツい。
「まぁね。ポーション飲めば大丈夫。」
ライアンの隣に座り不味いポーションを水で流し込んだ。
「もういいだろ、一旦帰れ。」
「まだ平気、足手まといにはならないから。」
あれだけのスピードでどんどん前に行くライアンをひとりにするわけには行かない。きっとあの騎士ももうついて来れないだろう。
よっぽど現場に出ている者ならともかく、貪欲にレベルを上げようとせず最ダンに顔も出さない様な騎士ならここらが限界だろう。女の私よりバテてる。
そろそろまた魔物の元へ行こうかという時、前方の空にポンっと何かが打ち上げられた。
「レジナルドの合図だ。あと少しだな。」
合流地点に迫って来たせいか、一層魔物の数が増えだした。
「ここを押し切ったら大きく陣を張って奴らを追い込める位置を確保できる。」
両軍で囲い込み魔王軍を逃さぬよう攻撃を仕掛けジワジワと戦力を削って行く作戦のようだ。
「あいつらデルソミア国に逃げ込まない?」
ここはエストート国だ、このまま押していけばデルソミア国に散らばって逃げるかも知れない。
「いや、今の所その心配はなさそうだ。デヴィラド国の勇者に準ずる者が出向いて話したところ今回の件は国絡みの事では無いと言われたそうだ。」
「それ信じるの?」
騎士が絡んでたのに知らないって事はないんじゃない?
「公式には否定した。だが身の潔白葉証明しなくちゃいけないだろうと追い込み、魔王軍の背後にデヴィラド国の部隊を配置してもらっている。」
「それと一緒になってかかってきたらどうするの?」
「来ないさ、カトリーヌの魔術で縛ってある。魔王が死ぬまで有効なやつだ。味方ならまったく問題無い契約だ。しかも裏切れば各国から袋叩きだ、魔王討伐より先に攻め込んでやるとエストート国王は大変ご立腹だそうだ。」
国境を越えられ、土地を荒らされ、国内に魔王が居座れば一体どうなるかわからない。
「イグナツィの独断って事?」
「最初は金を引っ張るために上手くデヴィラド国に取り入っていたのかもな。国王も自分が手綱を握っているつもりだったんじゃないか。」
「だけどイグナツィの根本はカトリーヌへの偏執的な執着だもんね。」
イグナツィといい、レブといい、カトリーヌって変人に好かれるタイプなんだね。
「そう考えるとどうしてマルコさんと結婚したのか気になる。知ってる?」
「あぁ…カトリーヌが魔物の毒で高熱を出した時、熱心に看病したのがマルコさんらしい。」
「嘘でしょ!?普通のきっかけ…」
意外過ぎて笑えない。
「マルコさん、若い時分モテたそうだから結婚当初は大変だったそうだ。」
カトリーヌはどうみても独占欲が強そう…よく生き残ったね、マルコさん。
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