第111話 混戦2
カトリーヌのテントでの食事が終わりかけた頃、ライアンがやって来た。
私の隣の席に黙って座り出された食事をムッとしたまま食べ始めた。
「辛気臭い顔で食べるんじゃない。」
カトリーヌが鬱陶しそうに彼に言う。
「すまん、はぁ…コレがこの先ずっと続くのか。」
あの後もセオドアに色々言われたようだ。
貴族として生きて行くと決めた日からライアンはその堅苦しさやもどかしさにイライラしていた。
「お前が決めたことだ。モーガンを助けるんだろ。」
カトリーヌはその決断が間違っていたんだと言うかのようにニヤリとした。
「モーガンの母親のヴァレリアはともかく、モーガンには罪が無いのに死なせる事は出来ないだろう。少なくともモーガンは半分血が繋がった兄だ、見捨てられない。」
食欲がないのか少しスープを口にした後レブにポーションをもらって飲んでいた。
「明日は早目に出て敵に深く斬り込むつもりだ。ユキはここで待機してろ。」
「一緒に行くよ、約束でしょ。」
それじゃ話が違うよ。
「この先の状況はまだよくわかっていない。大体把握出来たら呼ぶから待ってろ。」
イラッとして私を睨む。
「私から離れたら何するかわからないわよ。」
カトリーヌと一緒に食後のお茶を頂きながらホッとひと息つきながら言った。
「お前…」
私の脅しとも取れる言葉にライアンは呆気に取られている。カトリーヌはクックックッと笑い楽しそうだ。
「どいつもこいつもオレを悩ませる為にここにいるのか。」
頭を抱えるライアンにニッコリ笑いかけた。
「少なくとも私は一緒にさえ連れていけば言う事は聞くわよ。」
彼は特大のため息をついた。
「早く寝とけ、早朝に出る。」
「やった!じゃあもう行くね。おやすみなさい。」
カトリーヌにも挨拶をしてテントの外へ出るとイーサンが心配そうな顔で近寄って来た。
「ライアンの様子はどうだ?」
「めっちゃくちゃ落ち込んでた。」
「そうか…」
並んで歩きながら私のテントへ案内してもらう。
「でも大丈夫だよ。明日も一緒に行くし。」
「ではユキも夜明け前に出るのだな。」
え?
足を止めるとイーサンを見た。
「夜明け前に馬の所に集合だよね?」
チッ、奴め。私を置いていくつもりだな。
「いや、上手く魔法陣が一つ設置出来たから陣営の西の外れに集合であろ。私はついて行けないがライアンの側を離れるなよ。気をつけてな。」
「ありがとう、イーサン。助かったよ。」
私は指示されたテントに入ろうとして隣のテントの前に若い騎士が立っている事に気がついた。
誰かの護衛かな?
「すみません、ここはどなたのテントですか?」
騎士はジロリと私を睨む。
「お前がユキか?」
「そうです。」
私がなんなの?
「ここはライアンのテントだ。入るのか?今は居ないぞ。」
「入りません。確認しただけです。」
「そうか、女は入れるなと指示されているがお前は良いそうだ。呼ばれたらすぐに行けるようにしておけ。」
ちょっと待ってよ、それって何要員なの?
なんだか勘違いされてそうだが呼ばれる事はないだろうから、まぁ気にしないでおこう。
テント内に入ると部屋の中は戦場にしては結構居心地良さそうな雰囲気だった。簡易のベットもそれほど固くもなく男性騎士サイズなのか大きくゆったりとしている。
ベットに倒れ込むと明日に備えて早々に寝る事にした。
なにせ夜明け前に出発だ。
目を閉じるとあっという間に眠りに落ちた。今日はよく働いたもんね。
深夜にパチっと目が覚めた。
テントの外は一晩中誰かが行き来している気配がしてあまり熟睡出来なかった。
おかげで置いて行かれなくて済みそうだ。隣の様子を伺おうとテントに少し切れ目を入れ覗いて見た。
ライアンのテントには数人の騎士達が入れ替わり出入りしていて、そろそろ出発する感じだ。
小声でボソボソと話し合っている騎士とライアンの声は聞き取りづらくよくわからないが、どうやら私を見張っておくよう指示を出している。
大人しく待ってるわけ無いでしょう。
ライアンが私のテントに近づいて来たのでそっとベットに戻って寝たフリをした。
中には入って来なかったものの、チラッと覗いた気配がする。
私の存在を確かめると出発する為に足早に去って行く。
急いでついて行かないと魔法陣がどこだか知らない私は迷子になってしまう。
慌ててメイスを掴みテントの入口と反対の後ろを切り裂いて出るとコソッと後をつけて行った。
他のテントや岩陰に隠れつつ西の外れの魔法陣まで来るとライアンが頭をかきながら舌打ちをした。
「もうわかったから出て来い。連れて行けばいいんだろ!」
どうやらとっくにバレていたようだ。
「やった!最初から素直に連れて行けばいいのに。」
私は彼に駆け寄ろうとして寸前で見知らぬ二人の騎士に止められた。
「それ以上は近づくな。無礼だぞ。」
騎士達はライアンの側近のように彼に張り付き私を睨みつけた。
怖いんですけど、誰なの?
「そいつはユキだ。構わなくて良い、部下みたいなもんだ。」
ライアンの言葉に騎士のひとりが顔を曇らせる。
「あなたは貴族になるのだから、平民の部下は必要無い。私達がいます。」
どうやら彼らはセオドアにつけられた護衛で跡取り息子を守っているらしい。
「お前達ではコイツには勝てない。平民だからと馬鹿にすると痛い目にあうぞ。」
私の事をあまり知らないらしく彼らは鼻で笑った。
最ダンに来たこと無いのかな。結構知れ渡っているつもりだったけどまだまだダネ。
騎士達の横をすり抜けライアンの側に行った。
「ニヤつくのは止めろ。」
「だってすっかり貴族様ではないですか。」
彼は苦々しい顔をして魔法陣へ向かった。
「連れて行くんだから言う事を聞けよ。」
「どこかへ置いて行こうとしたら聞かないわよ。二度目は許さないから。」
「わかったよ、油断するな。昨日のように雑魚ばかりじゃない。」
こっくり頷き彼の後につくと数人の騎士と魔術師も魔法陣へ乗ってきた。
ケイかレブはいないのかな?コイツらで大丈夫かな。
私はキョロキョロとして彼らを探すと木箱を抱えたケイがやって来た。
「間に合いましたか、やはりユキ様は出し抜けませんでしたね。これをどうぞ。」
ケイは太ももに着けるタイプのベルトに特殊投げナイフをセットした物を渡してくれた。
「ロックは解除してあるのでお気をつけて。こちらは予備の分です。」
もう一セット渡される。
「ケイは行かないの?」
「はい、他に行く所があるのです。申し訳ございません。」
「いいよ、お互いに気をつけようね。」
ケイは私にニッコリ笑い下がって行った。
「いいな、行くぞ。」
ベルトをセットした私を確認してすぐに魔法陣は起動した。
一瞬で転送され、現地に着いてすぐに私の隣の騎士がグラリ傾きと倒れた。
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