第113話 混戦4
少し食事を取り、休憩を終えたがお付きの騎士は復活出来てなかった。もう一人、離れてしまったお付きの騎士は戻って来ず。
ライアンは私だけを連れるとまた戦いへ向かった。
「結局お前だけが残るのか。」
ちょっと諦め気味で振りかえる。私はニッコリ満面の笑みで答える。
「優秀なもので。」
「否定出来なくなってきたな。」
笑いながら味方の陣営から出ると騎士達が数人で連携して戦う場へ二人で向かった。
騎士は基本的に集団行動する。個別で戦わなくてはいけない時は大体五人一組で行動し、優秀な者ほど少数で戦う傾向があるようだ。
魔術師達は基本的に後方にいて集団で指示された箇所を攻撃していく。
カトリーヌ程の力の持ち主は単独で攻撃出来るが騎士団にはそこまでの者はいないようだ。
ここに来て彼女の奴隷のケイがどれほど優秀なのかがよくわかる。レブもそこらへんの魔術師に引けを取らないがケイは別格だ。
そりゃカトリーヌがサイコパスでも奴隷にしてでも手駒にしたがるはずだ。騎士団の半分以上の魔術師が火の魔術しか使えない。
魔術師の力量は高いほど多彩な魔術を使えるらしいので、火、土、氷と使っていたケイはかなり高いレベルだ。
前線ではそこまで強力な魔物はいなかったが数が凄かった。敵味方が入り乱れ騎士達の奮闘にも関わらず次々と魔物がやって来る。
「魔術師たちへ指示を出せ!」
ライアンが伝令に遠方の魔物へ攻撃をするように言ったがあまり期待は出来ないだろう。
「カトリーヌは来ないの?」
オークを叩きのめしグールを蹴り飛ばしながら彼に叫ぶ。彼女の力なら一度にかなりの魔物を消せる。
「予定では一日置きの出陣だ。最後の魔王戦まで
いくら元気でもカトリーヌは先代の勇者で結構なお年だ。認定はエクトルだけだが一緒に戦った彼女にも本当は権利がある。きっと面倒でエクトル一人に押し付けたのだろう。
確かカトリーヌが一番年長だと言っていたがそこは口が裂けても言ってはいけないだろう。
際限なく出てくる気がする魔物に嫌気がさしてくる。
体力はポーションで回復出来ても気持ちの維持が大変だった。
「そろそろエストート国と合流するぞ!もうひと踏ん張りだ!」
ライアンが士気を上げようと皆に声をかけた。
騎士達ももうすぐだと最後の力を振り絞り気合を入れて魔物の大群を押し出した。グッと味方の軍が魔物達を追い込み始めた時。
「ハイオーガだ!!」
騎士の体が宙を舞いドサリと地面に叩きつけられる音がしたかと思うと誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「ここに来てオーガの高位種!?」
確かハイがつくとより強力な魔物のはず。
「引け!オレが行く。」
騎士達を下がらせライアンが向かって行った。彼なら例の一刀でバッサリ切れるはず。
私も後ろからついて行くとハイオーガは一体では無くゾロゾロと後から続いて数体出てくる。これは流石にひとりではやりづらいだろう。
ライアンの一刀は強力だが結構スキが出来る。ひとりで多数を相手にする時は誰かがカバーしなければいけない。
身の丈三メートル以上はあるかと思われるハイオーガは棍棒を振り回し暴れている。
騎士達も数人で一体を集中的に攻撃し、なんとか戦っている。
私とライアンも二人で連携し攻撃をしかけた。
ザコたちとは違いハイオーガは強かった。ただ攻撃を仕掛けてくるだけで無く、弱そうな所を狙ったり数体で連携したりして頭を使っている感じだ。
当然、ライアンよりも弱そうな私に攻撃が集中し始める。
「クソっ!いけるか?」
「もちろん!」
自分も三体同時に相手をしているのにこっちの心配とか。
私には二体のハイオーガはが襲いかかって来ていたが、特殊投げナイフで一体を狙って放った攻撃が見事、目に当たり爆発した。
これであと一体ね。
残る一体が棍棒を振り下ろして来たがメイスでガッシリ受け止め蹴りを入れた。ハイオーガはザザッと後方へ滑ったがなんとか踏ん張ると再び攻撃してくる。
奴の一撃をまともに食らったらヤバい。必死に避けながらメイスで仕掛けるが決定打には欠けていた。
もう少し深く行ければ仕留めれるかな?
私が焦れて踏み込もうとした時、足をグッと掴まれ引っ張られると地面に倒れた。
それはさっき倒したはずのハイオーガで、頭が半分ほど吹き飛んでいるのにまだ息があったのだ。
マズイ!
すぐにメイスを掴み直し棍棒で攻撃してくるハイオーガに備えたが少し遅かった。
構えたメイスのおかげで直撃は避けれたが頭をかすり肩を強打され骨が砕ける音がする。
「ユキ!!」
ライアンが叫んでいるが自分に攻撃を仕掛てくるハイオーガが行く手を阻みこちらへは来る事が出来ない。
意識が薄れかける中、使える方の手で特殊投げナイフを探り放った。それはハイオーガの腕に刺さり爆発すると奴の腕を吹き飛ばした。
怒り狂うハイオーガは片手で再び棍棒を振り下ろそうとしたが、ビクリと体を震わせると横倒しに消えて行った。
「やっぱりオレ様が必要なんじゃないか?」
聞き覚えのある軽口を遠のく意識のなか聞いていた。
レジナルド、面倒くさい奴に助けられちゃったな…
「ユキ、目を開けろ。」
軽く頬を叩かれ意識が浮上した。
ライアンに抱えられハイポーションをかけられたのか痛みはない。
「起き上がれるか?」
支えられ体を起こすと当然のごとく血まみれで、べっとりと張り付くブラウスが気持ち悪い。
エストート国と無事に合流し、お互いの騎士団が魔物の大群を追い込み味方の陣営の拠点を進められたようだ。
いつの間にか後方へ運ばれていた私はまだボーッとする頭で立ち上がった。
「無理するな、けっこう出血してた。」
ふらつくのは貧血のせいらしく、何か薬も与えられた。
支えられながら割り当てられたテントへ連れて行ってもらい中へと入った。
「レジナルドが来たよね。」
「あぁ、いま騎士団長の所へ行ってる。」
「打ち合わせ?ライアンは行かなくていいの?」
「後で行く。ちょっと休ませろ。」
私をベットに座らせると自分も横に座った。
テントは狭くてベットと小さなテーブル代わりの木箱が一つ置かれているだけだ。
「大丈夫?横になったら?」
「それはお前の方だろ。ここはお前のテントだし。」
「だったら自分のとこに行ってゆっくり休めば?」
「あっちに行けばすぐに誰かが呼びに来たり会議だとうるさく呼び出されるから嫌だ。」
疲れてるせいかちょっと駄々っ子のようだ。
「ここには誰も来ないよ、ほら、横になりな。」
無理やり押さえつけて寝かすと意外と素直に従った。
やっぱり疲れてたんだね。
「もしかしてあんまり寝てない?」
「あぁ…そうだな…」
ちょっと体を丸めながら目を閉じる彼の髪を撫でていると、あっという間に眠ったようだ。
ずっと緊張してたのかな。エストート国と合流出来てひと安心というところか。
しばらく寝顔を眺めていたが着替えも欲しいし、喉の乾きを感じてそっとテントを出ると水をもらう為に物資を供給している所へ行った。
真っ直ぐ行けばいいだけで良かったよ。こんなとこで迷ったら一生自分のテントに帰れない。
水筒をもらい、着替えがないか尋ねると仕切っている騎士に嫌な顔をされた。
「お前どこの下っ端だ?下手うって怪我したのか、大袈裟に汚したもんだな。」
死にかけたんだから大袈裟ではないんだけどな。
ただの平民の女の私の事を知らない騎士の方が多い。
まだ本調子では無く、逆らうのもバカバカしくて黙っていたら後から来た騎士が着替えと軽食を渡すよう言ってくれた。
お礼を言おうかと顔を見ると、ライアンのお付きの騎士だった。回復したのか数時間前に別れた時より顔色がいい。
「無事に帰ってきたのだな。ライアンは?」
「いま寝てます。もう少し休ませてあげたいんですけど。」
彼が来たという事は会議に呼び出されるかもしれない。
「私はいま、ここに水を取りに来ただけだ。ライアンが戻ったら会議に連れて来いと言われているが彼は今どこにいるのかわからない。探し出すまではしばらくかかるだろう。」
そう言って立ち去っていった。
なんだ、いいやつじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます