第8話 勤務初日3
結局職場で私のスキルは共通認識されこれからどのように訓練し鍛えて行くか話し合われた。ライアンは実戦が一番早いと初級ダンジョンに入れさせたがったがマルコはまず先に戦うという事がどういう事か理解させてから進めたほうがいいと主張し結局それが通った。
「いきなり戦うとか無理に決まってるじゃない。」
私がライアンに訴えると
「理解とかそんなもの後からついて来るから先に体に教え込んだ方が良いんだよ。」
筋肉馬鹿な発言にはついていけない。だけどそもそもライアンは冒険者だから戦いありきで生きてきただろうし、この世界は魔物がウロついているのが普通だからそちらの方がここでは普通の考え方なのかも知れない。
そう考えればマルコは年配だが柔軟な考えが出来る人物のようだ。変わり者なのかな。
私はとりあえず当分の間はライアンと一緒に救助要請について行きそこで戦いを見学する所から始める事となった。それと同時に空き時間には彼から戦いの基本を教え込まれるらしい。もうすぐ騎士達の昇段試験のシーズンが来るがそれまでは割と暇な時期らしく時間はあるようだ。
私そっちのけで私の戦闘スタイルが検討され始めた。
「やっぱり怪力を活かして両手剣を持たせるほうが良いんじゃないかの?こんなカワイイ女子が大きな剣を振るう姿とか見てみたいのぉ。」
マルコが褒めてるのか追い詰めようとしているのか理解できない発言をする。
「だから、知られたくないんですって。どうにかアレだって知られずに戦う方向でお願いします。」
なんとか見た目だけでも女子として通常運転で生きたい。
「だが戦っている所を見ればきっとどうしてもわかるぞ、異常だって。」
「異常って言わないで下さいよ。出来るだけ人目につかない様に戦おうと思ってるんで。」
女子が怪力スキルとか絶対にモテない。自分より強い彼女なんて普通の男は望まないだろう。
「面倒くさい奴だな。せっかくのスキルを活かさないなんてもったいない。まぁ、そこは自分で考えるんだな。目立つのが嫌ならやっぱり小型の武器か…ククリかダガー位しか持てないな。あれなら女性騎士もよく持ってるし軽くて扱いやすい。」
ライアンはそう言うと昨日私が着替えた物品倉庫らしき部屋へ行き、ゴソゴソと探る音がしたかと思うと二つの短めの剣を持って来た。
ひとつは本なんかで見たことがある感じの普通ぽいナイフの様な剣で、もう一つはくの字を描いて内側に反っている特徴的な形だ。
「オススメはククリだが…」
そう言ってライアンはククリを手に持つと重さを感じさせない軽い動きでシュシュっと振るって見せた。
怖いけどちょっとカッコイイかも。
私がオォって感じで見ているとスッと差し出され持つように言われた。手にしたそれはズッシリとし、初めて持つ武器の重量感に驚いた。
「
「そりゃある程度の重さも無ければ武器として頼りないだろ。耐久性も欲しいし。」
ですよね、でもこんなの振り回せないよ。すぐに手首がやられそう。
「重すぎます。もっと軽いの無いんですか?」
「ダガーはなぁ…軽いが初心者が使って殺傷能力が発揮できるかと言われれば難しいな。」
「どちらにしても初心者で非力な私には無理なんじゃないですか?」
スキルが怪力と言われても常時発動してるわけではないので生活的には今まで通りだ。ライアンはう〜んと悩みとりあえず私にダガーを渡すと「ちょっとやってみるか。」と言って廊下に出るとシャワールームの向かいのドアを開けた。
そこは少し広めの部屋で誰もいなくてガランとしている。
「ほら、ボーッとしてないでかかってこい。」
どうやらここは訓練場らしく、軽く手招きされ早速訓練開始だ。
私はとりあえずダガーをグッと握りしめるとライアンを見た。
「どうすればいいんですか?」
「は?かかってこいよ、ダガーで突け。」
ダガーで突く?ライアンを?
「刺さったら危ないよ。」
「お前ごときの攻撃がオレに刺さるか!早くしろ!」
ん〜そう言われても…でもやらなきゃ仕事にならない。
私は思い切ってダガーを持った手を躊躇いながらライアンに突き出した。
「痛い!!」
突き出した私の手は蚊でも叩くように手刀でパンと払われすぐにダガーは床に落とされた。
「酷すぎる。こんなのどうやって鍛えるんだよ。」
呆れた顔で言われても困る。こんな事想定して生きたこと無い。
「まずは何か
「そんな事やってる時間は無い。ナイフを突き刺す事も出来なければ初級レベルでも即死だぞ。」
「だって、した事ないもん。何かを殺すなんて…」
「は?無いってどういう事だ。食料を調達したり、肉を捌いたり、」
「死んで部位に切り分けられた肉は扱ったことあるよ、料理はするから。でも生きた何かを殺すなんてしないよ。」
私の言葉に一瞬思考が停止したような顔のライアンがポツリとこぼした。
「一体どんな国なんだ…」
彼は気を取り直すと再び私にダガーを持たせ今度は横について構え方を教えてくれた。
「もっと腰を落とせ、敵から目を離さず、すぐに移動出来るよう足は踏ん張らず軽快に…」
「待って、いっぺんに言わないで。そもそもスポーツとか苦手なのに色んな動きを同時になんて出来ないよ。」
「同時に色々な事に気を配らなきゃ死ぬんだよ。」
「もう、死ぬ死ぬ言わないで怖いから。」
「ダーッ、マジかこれじゃ子供と同じじゃねぇか、オレ子供嫌いなんだよ。ウザったい…」
ライアンは自分の頭をかくと面倒くさそうに言った。
「誰が子供よ、私はちゃんと大人よ!」
「体だけな。」
そう言って私の胸を指差す。
「ムカつく!」
私は持っていたダガーを隣のライアンに思い切り振り抜いた。彼はスッと避けると馬鹿にしたように笑った。
「おっと、そうそう、その感じ。ほら続けろ、ガキ!」
「うるさい!ガキって言わないで!」
逃げるライアンに腹が立ち追いかけながらダガーナイフをめちゃくちゃに振り回した。
「振り回すんじゃ無くて突くんだよ、ガキ。」
軽口を叩きながら平然と私の攻撃をかわし部屋の中をアチコチ動き回るライアン。ムカつくけど全く追いつかないしカスリもしない。
「もう駄目、動けない…」
ものの十数分で私は座り込んだ。追いかけながら攻撃して空振り、これがホントに疲れる。
「体力も無いか…見たまんまだな。もっと体作らなきゃ駄目だな。」
「え〜筋トレとか無理。ムキムキになりたく無い。」
「お前なぁ、見た目と命とどっちが大事なんだよ。」
「もちろんどっちも大事。」
私の答えにガックリと肩を落とし呆れたライアンは去って行った。
今日の訓練は終わりかな?だったらシャワー浴びたい。汗ダラダラだし髪もバシバシしてる。ここってシャンプー、リンス、コンディショナーあるかな?無いだろうな…
関係者用のドアから細い廊下に出て事務所へ戻るとライアンはもうソファに寝転びタオルを顔にかけ眠っていた。
あの匂い…ライアンのか。早く部屋借りたい。
私はエリンがくれた紙袋の中を探った。ブラウスやパンツ、スカート、ワンピースが入っており当分買わなくてもなんとかなりそうだ。そしてふと袋の底にある小瓶に目が止まり、出して手に取り瓶をくるりと回すとラベルには髪用と書かれていた。中身はハーブの香りがするオイルだった。
神…女神エリン!こんなに気が利く人が居ますか、いや居ません。
エリンの心遣いに胸がキュンとした。
私は女神エリンがくれた髪用オイルを手に着替えを持つとシャワールームへ行った。
朝、顔を洗った洗面所が脱衣場と兼用でドアを隔てて隣がシャワールームだ。
シャワーは固定されているタイプで天井近くから降りそそぎ若干使い勝手は悪かったがちゃんとお湯が出る。蛇口はひねるんじゃなくてボタンを押すと出るようだ。お湯の温かさにホッとする。
置いてあった石鹸で体を洗い、多分それで頭も洗うのだろうと思いきって髪を洗った。やっぱりゴワゴワになったが大丈夫。私には女神エリンの髪用オイルがある。
タオルである程度乾かした後オイルを少しずつ 少しずつつけるといい香りと共にしっとり潤う髪に仕上がった。
う〜ん、幸せ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます