第7話 勤務初日2
おいて行かれそうになりながらライアンに着いていくと段々と落ち着いた人通りが少ない所にやって来て、そこある古ぼけた家の前に立った。
「起きろ!仕事だ!」
ライアンがドンドンと乱暴にドアを叩くとしばらくしてカギを開ける音がした。ゆっくりとドアが開かれ起きたばかりだという感じの小太りの中年の男がヨレヨレのガウンをだらしなく羽織りあくびを噛み殺しながら出て来た。
「ライアンか…」
それだけ言ってそのまま背を向け中に戻って行く。ライアンは無言でドアを大きく開けると何も言わず入り私もそれに着いて行った。
部屋の中は散らかってはいるものの普通な感じで何か商売をやってる風でも無かった。家の主らしき男はどこかへ消えライアンは勝手に部屋のソファに座ると私を横に座らせた。
「すぐに来る。」
その言葉通りさっきの男がカップを片手に戻って来ると向かいに腰掛け大あくびをした。
「ほぁ〜、朝はやめてくれよ…さっき寝たばかりだ。」
「いいから早くやれ。」
男は舌打ちするとカップの中身を一口飲み。ため息をつくと私をグッと見つめてきた。
「鑑定…」
急に低い真面目な声を出されビクつく。じっと見つめられなんだか怖くなってきた。
「ライアン…これ何?」
「いいから待て、じっとしてろ。」
そう言われても気持ち悪い…
言われた通り待ってると男はフッと力を抜いて再びカップに口をつけた。
「で?どうだ、何が出た?」
ライアンが面白そうな顔をした。
「27才、独身、行き遅れか。可哀想に、カワイイのに。健康状態良好、酒には弱い、ノーブラ。」
「コイツぶん殴ってもいい?」
いきなり失礼な事を言われ頭にきて立ち上がるとライアンが私の腕を掴みそれを制した。
「オイオイぶん殴るのは勘弁してくれ。まだ頭と胴はくっつけていたい。」
男がおどけて手を振った。
「って事は?」
「察しがついていたのか?このお嬢さんのスキルは『怪力』だよ、まだ初級だがな。」
は?今、カイリキって言った?カイリキって怪力?
「やっぱりか!くぅ~、ヨシ!これで完全に取り込む事に決めた。」
「なに?何の話?怪力って何?なんか嫌なんだけど。」
怖くて何も聞きたくないけど聞かなくても怖い。もう嫌な予感しかしない。
「お前のスキルは『怪力』、つまり力がバカ強いって事だ。」
終わった…転生してスキルがつく事があるって薄々知っていた。そこまで本気で異世界転生ものの本を読んでなかった事が悔やまれる。スキルって選べないの?勝手に怪力とかつけないで欲しい。女子だよ、女子!
「それって無くせないんですか?」
ガックリとうなだれて涙を堪える。
「は?無くすってどういう事だ?スキルだぞ、しかも怪力!喜ぶだろ普通。」
「わたしは女子ですよ。怪力なんて嬉しいわけないじゃないですか。」
ライアンは頭をワシワシかいた。
「そんなもんか。だが強ければ給料があがるぞ。」
給料と聞いて私はピクッと反応する。
あ、そう言われればそうか。
「早くレベルをあげて借金返済した方が良いんじゃないか?今のままじゃずっと事務所住まいだぞ。」
うなだれた顔をあげるとライアンを見た。
「部屋を借りるのっていくらかかるんですか?」
早くベットでゆっくり眠りたい。
「そうだな最低、台所、シャワー、トイレ共同で月小銀貨三枚ってとこか。」
共同…嫌だけどこの際贅沢は言えないかも。給料の安さを考えてもそれくらいが妥当か。
私は長〜く息を吐くと覚悟を決めた。
「頑張ってレベルをあげます。その為にそのスキルを有効活用します。」
「よく言った!じゃぁ、早速帰って訓練だ。行くぞ、金払え、小銀貨三枚だ。」
「はぁ?私が払うんですか?」
「当たり前だろ、お前の鑑定だぞ。」
「頼んでないし、っていうか本人の許可無く勝手に鑑定していいんですか?」
「本来駄目だ、鑑定は本人が書類にサインして結果は秘匿すべきもんだ。」
やっぱりそうなんだ。自分はレベルだって内緒にしてしてたくせに私だけさらされるのは許せない。
「ライアンはスキルあるんですか?」
「秘匿すべきもんなんだよ。言うわけ無い。」
キーッ、腹が立つ。
「せめて半分払ってくださいよ、勝手に鑑定したんだし。サインしてないんだから違法なんじゃ無いんですか?」
「そもそもここはモグリの鑑定屋だ。今更違法とか言われても誰が気にするか。言っておくが正式な鑑定は小銀貨五枚からだぞ、今からそこに行くか?」
「行くわけないでしょ、もうスキルはわかってるんだし。」
「それにスキルは種類によって国に知らせる義務が生じる。」
危険なスキル、もしくは国に有意義なスキルは報告義務があるらしい。そもそもスキル持ち自体数が少なく冒険者の中や騎士達だってほとんどスキルなんて持ってないそうだ。
報告なんてしたくないし、怪力なんて誰にも知られたくない。私みたいに国に報告したく無い人はこういうモグリの鑑定屋に頼んで密かにスキルの確認をしているようだ。仕方ない払うか…
昨日借りたばかりのお金が飛ぶように消えて行く。このままじゃ給料前にまた追加で借りなきゃいけないかも。
ノロノロと立ち上がり帰るために部屋を出ようとするとライアンが男に呼び止められ二人でコソコソ話しだした。
「なに話してんですか?私の話じゃないでしょうね?」
ライアンはニヤッと笑うと鑑定屋に何か渡した。多分銀貨だ。
「なんか悪だくみなの?」
私が怪しんで言うと「何でもない。」とかわされ鑑定屋を後にした。
来た道を引き返しライアンに腕を掴まれ支えられて走ってきた馬車に走って飛び乗るとまた馬車に揺られた。さっき乗り込んだ周辺で馬車を降り通りを歩いていると一軒の店の前で止まりライアンが私に入るように言った。
「なんでここ?」
店の中をよく見るとそれは婦人服を売っている店だった。
「アレ、買ってこいよ。」
「アレ?」
ライアンの視線が私の胸元を指していた。とっさに胸を隠すとキッと睨みつけた。
「さっきの鑑定屋も私の事ノーブラとか言ってたけど鑑定ってそんな事までわかるの?」
「そんなわけ無いだろ、時々、その、薄っすらと、」
「もう言わなくていい!ちょっと待ってて!」
全く男って奴はどこまでもイヤらしいんだから!
私は店に入ると店員に下着上下三セット頼み買うとすぐに試着室で着替えた。もちろん私が知っているブラジャー&ショーツとは違いワイヤー等が入っていない布を縫い合わせただけの物だが紐でキュッと締めて着る思っていたより可愛くシッカリした感じだ。ショーツもドロワーズタイプかと思いきや太もも辺りまでのトランクスっポイ物だった。
ホッとするよ、ずっと心許無かった。流石に鑑定屋にはノーパンまではバレてなかったから良かったけどライアンは何となく察していた感じがしてウザい。
急いで店を出るとすぐにふたりで店に向かった。お腹が空いたとライアンに訴えるとトルティーヤのような皮に野菜や肉を巻いた物を売っている店に寄ってくれた。流石に奢ってくれなかったけど美味しかった。
関係者以外立ち入り禁止のドアから入り細い廊下を通り事務所に入った。
マルコが来ていて挨拶をする。
「おはよう、仲良く出かけておったのか?は!まさかライアンの部屋に…」
「違います!ちょっと出かけてただけですよ!」
朝から動いて疲れてるのにあらぬ疑いは面倒くさい。
「鑑定屋に行って来ました。朗報です。」
ライアンは黒い笑顔でマルコを見た。
「ちょっと待って、秘匿するもんなんでしょ。勝手に言わないでよ!」
私は慌てて話を遮った。
「言わなきゃ給料に反映出来んだろ。」
「レベルが上がればいいんでしょ。別に言わなくても良いんじゃない?」
出来るだけ広めたく無くて密かにレベル上げが出来ないかと思い言ってみた。
「えぇ?!ワシだけ仲間外れなのか?助けてやったのにそんな事されるなんて、ワシ淋しい…」
ガックリと肩を落として背を向けるとひとり静かにイスに座った。シンと静まり返った事務所の中なんとも言えない雰囲気になる。これじゃ老人をイジメてるみたいだよ。
「ん〜もう、わかりましたよ。その代わり誰にも言わないで下さいよ、知られたくないので。」
私がそう言うとマルコがキラキラした目で嬉しそうに振り返った。
「で、なんじゃ?」
ライアンはまた嬉しそうに笑うと
「こいつはやっぱりスキル持ちでしたよ。しかも『怪力』です。当たりですよ。」
「なんじゃと!大当たりじゃな!これは本格的には鍛えねばいかんな!頼んだぞライアン!」
「任せといて下さい!」
ふたりは固い握手をかわすと私の方を見た。
「絶対に逃さない。」
ライアンが獲物を捉えた様に言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます