#03 目には目を





 カナちゃんとは幼稚園の頃からよく遊んだ仲だった。


 昔は人見知りで大人しくて、今みたいに社交的ではなかった。


 遊び相手も僕くらいしか居なかったと思う。


 幼稚園ではいつも僕のあとを着いて来てた。



 小学校や中学校では他に友達も出来て、いつも一緒という訳では無かったけど、放課後や週末なんかはよく僕の部屋に遊びに来ていた。

 まぁ来ても、今と同じでほとんど会話は無く、マンガ読んでるかゲームしてるかだったけど。


 中学で付き合うようになってからも、特に変わることは無かった。


 中3の受験生になると、マンガやゲームが勉強に変わっただけで、僕の部屋に来てはほぼ無言で一緒に勉強するだけだった。


 唯一変わったのは、受験が終わった春に初めてセックスしたことくらいかな。


 今じゃ、セックスする時だけしか部屋に来なくなっちゃったし、ずっとこんな感じで、10年以上の付き合いだけど、未だに何考えているのかよく解らない。


 たぶんだけど、嫌われてはいないと思う。


 でも、僕に対して興味が無いんだろうとも思う。


 恋人同士の会話の定番の「今日、何してた?」なんて聞かれたこと、一度も無いし、例えば僕が体調崩して学校休んでも、心配されたことも無い。



 多分、カナちゃんにとって、冷めた仲の兄妹きょうだいみたいな感じなんだろう。

 セックス出来る兄妹。


 これといって会話する必要性を感じなくて、でも一緒に居るのが当たり前。

 それでいて、性欲が湧くとセックス出来る相手。


 ああ、そうか、都合のいい相手なんだ。

 つまり、セフレなんだね、僕は。


 近所に住んでるし、不満も言わずに言うこと聞いてくれて、ベラベラと自分達のことを他人に喋らない。

 これほど都合の良いセフレはそうそう居ないだろう。


 だから、カナちゃんは僕との関係を切らずに、付かず離れず続けているんだ。








 セツナさんから「別れなさい」と言われ、ようやくその事に思い至った。




『カナちゃんが僕のことをどう思ってくれてるのかは解りませんが、なんとなく思うのですが、多分、僕が別れたいと言っても、すんなり聞いてくれないような気がします』


「どうしてそう思うの?」


『カナちゃんにとって、僕ほど都合の良い相手が居ないからです』


「はぁ・・・ムギくん、ホントにそれでいいの?」


『わかりません・・・』


「・・・・・さっきのアレ、浮気してるって言われてもおかしくない雰囲気だったよ? それでも許せるの?」


『・・・・・もしそうなら・・・仕方無いんじゃないですか?』


「どうしてよ! 彼氏ほったらかしで、他の男友達とばっかり遊んで、挙句にあんなに堂々とイチャついて、なんで仕方無いのよ!」


 セツナさん、いつもお節介だけど、今日のセツナさん、しつこいな・・・


「だったら、ムギくんも浮気しなさい」


『・・・え?』


「あの子、ムギくんが何でも言うこと聞いて、怒りもしないから、調子に乗ってムギくんのこと舐めきってるのよ。 だから危機感煽ってビビらせなさい」


『それはちょっと・・・』


「ちょっとってナニよ」


『浮気するのは、僕の良心が・・・』


「まだそんなこと言うつもりなの? はぁ・・・判った、今日から私がムギくんの彼女になる」


『え!? なに言ってるんですか?』


「もう決めたから。ムギくん、アナタは今から私の彼氏よ」


『無茶言わないで下さい』


「うるさい。黙って言うこと聞きなさい」

 セツナさんは今まで以上の迫力で有無を言わさず、そう言い切った。

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