第30話 宝箱の中身は・・・

「ハハハ!こいよゴブリン!うおぉぉ!」


「フハハハ!もっとこいよぉ!うらぁあああ!」


ナナバ東の森のダンジョン第一層。

薄暗い洞窟の中、二人の男が喜々としてゴブリンを殲滅していた。

この第一層では棍棒を持ったゴブリンが3~4匹の集団で出現する。

しかし全員がレベル10を超える彼らには通常のゴブリン等相手にならない。

ジンはバスタードブレードでゴブリンを一刀両断し、鉄盾でシールドバッシュを放てば殴られたゴブリンは力を失い消滅。

バーンズは両手持ちで鉄刀を振り回し、ゴブリンを切り捨てる、当然一太刀で切られたゴブリンは消滅する。

二人が敵を見つけるたびに突っ込んで、無傷で殲滅するので、魔法を使う必要が無いミコブと四余子シヨコは今、手持無沙汰でついていくだけであった。

ジンの戦う姿をジッと見つめ怪しくほほ笑む四余子シヨコの隣で、暇を持て余した一匹一人ゴブリンミコブがニヤリと笑った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(雑魚しか出ないと暇だナ・・・そうダ!)

前衛二人が雑魚を殲滅してしまうので、やる事が無い。

そしてやる事が無い仲間がもう一人居る。

濡羽色の長い髪をまとめ、ポニーテールにし色っぽいうなじを見せつける女性

四余子シヨコ

彼女にちょっかいを出そうと思う。

理由は特に無い!しいていえばゴブリンの本能とでも言っておこう!

闇縛の魔法を発動する、黒い糸で相手の行動を妨害する魔法だ。

これは実は集中すればある程度操作が可能である、突然縛られたら彼女はどんな顔をするであろうか!グギャギャ!楽しみだ!そしてオデはサッと彼女の後ろへ回り込んだ、なぜか?理由はちゃんとある。

装備を新調した彼女は[スカート]を穿いている、何故か突然転んでしまったらそれが捲れ・・・ゴクリ、はたして中はどうなっているのか?純粋な知的好奇心が湧いてくる。

歩き始めた彼女の足へ黒い糸が絡みつき・・・前方へ転倒!


「なっ!?」


「グギャギャ!」


笑いながらその様子をバッチリ鑑賞!

・・・・・・

捲れねーじゃねーカ!クソ!見えそうで見えなかった!!


「おっト!スマン、シヨコ!練習してたラ、うっかり当たっちまったんだナ!」


咄嗟に言い訳をする、オデはゴブリンなので罪悪感は無いが見えなかった悔しさはあった、まぁ実際、見えたとしても闇でおおわれていたり、謎の光が出現したり、短パンのようなものが装着されていたりと健全さを損なわないようなものであろうが。

例えそうだとしても気になるものは気になる!そして健全の中に潜む不健全を探求する!オデはVRゲームでは、そのような事に情熱を燃やしていた!

結果は残念であったが、また違う方法のアプローチを考えればいい事だ。

目を瞑り、考えながらうんうん、と頷いていると不意に視線を感じたので前を見る。

・・・・凍り付いたような無表情シヨコがジッとこちらを見ていた・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「グギャー!?ちょ、スマン!やめてくレ!悪かったっテ!」


後ろからミコブの叫ぶような声が聞えた。


「えっ?どうしたの?」


「なんだなんだ?」


俺とバンが駆け付けると、なんと!

シヨコが剣を振り回しながらミコブを追いかけていた!

ミコブは振り下ろされる剣を必死で躱すも、体勢を崩して転んでしまう!

そこへシヨコが鉄剣を振りかぶって・・・


「グギャー!ヤ、ヤメッ」


「な!?シヨコ待って!どうしたの!?」


寸前で割って入るとシヨコは振りかぶったまま動きを止めた。


「・・・ウフフ、暇だったもので、ちょっとですわ」


そう言って鉄剣を下ろすシヨコ、なんだそういう事か、びっくりした。

それにしてはミコブは必死な様子だったけど・・・

後ろのミコブへ視線を移す。


「ナッ・・・アッ・・・そ、そうなんだナ!してただけなんだナ!」


一瞬言葉が詰まったようであったが、同意してコクコクと頷くミコブ。

本人達がそういうならそうなんだろうけど・・・

再びシヨコを見ればいつものように微笑んでいた・・・いや、なんだか優し気に垂れた目は笑ってないような気もする・・・き、気のせいだよな?・・・


「私達二人で殲滅していたから暇だったんだな、すまない」


「あっ、そうか・・・ごめん」


なるほど、バンが言うようにダンジョンに入ってからまだ複数の棍棒のみのゴブリンにしか出会っていない、今の俺達なら余裕で倒せるからついつい突っ走っていたけど、後衛の二人はそれだとついていくだけで暇だったのだ。

それでちょっと遊んでいてつい、熱が入ってしまったという所か。


「そこは気にしないで欲しいんだナ!それにもっと奥に行けばオデ達の出番もあるだろうしナ」


ミコブの言葉にそれもそうだとなり、とにかく今はどんどん奥へ進む事にした。

そうして移動を開始するとすぐに、横道を発見した。

覗き込むと行き止まりになっており、その前に宝箱が一つ置いてあった。


「おお!宝箱だ!」


GMOをプレイしてから初めての宝箱を発見した!

何が入っているのだろうか?


「ジン、開けてみるといいんだナ、二人もそれでいいカ?」


ミコブの言葉にバンとシヨコが了承する。


「ありがとう!じゃあ開けるね!・・・これは・・・!」


礼を言ってドキドキしながら開けるとそこには・・・・


草の束が一つ入っていた・・・。


「薬草が一つ・・・だった・・・」


俺がなんともいえない顔で報告し、薬草をみんなに見せる。


「まぁ最初はそんなもんだ!」


バンに肩を叩かれながらそう言われる、うん、そりゃ街に近いダンジョンの入口から一番近い宝箱なんてそんなもんだろうけど・・・けど!!

ゲットした薬草は俺がもらう事になった。

ダンジョンに入る前にアイテムの分配方法について決めておいたのだが

基本はランダム分配で、宝箱やドロップアイテムで武器や防具が出た場合は、それぞれの役割で使う人が優先的に受け取れる事になった。

両手剣ならバン、杖ならミコブと言った感じだ、それ以外の物や欲しい人が複数いた場合は欲しい人のみでランダム分配する。

他にもオークション形式で欲しい人同士が金を提示し、競り落とした人が支払ったGを他の人で分配するやり方等もあるらしいが、それは少し面倒だ。

幸い4人とも役割が被っていないし、防具を除けば武器も被っていない、俺とシヨコは片手剣を使うがシヨコは特にこだわっていないそうで、[ヒーラー]系の装備や防具を優先的に回してくれればいいそうだ。

まぁ、全員フレンドなんだし、何かあれば都度話し合えばいいだろう。

薬草等の消費アイテムはまんべんなく全員が受け取る事になっているが、今の所誰も消耗していないので、とりあえずタンクである俺が薬草をもらったという形だ。


気を取り直して通路を進む、すると階段を発見した。


「複数階層になっているのか?ってことは下りたらモンスターが強くなるってのがお約束かね」


「ま、そーだろーナ、他に道も無かったしナ」


バンとミコブに同意し、俺達は階段を下りる。

階段の幅は二人並んで歩けるほどで、降りてすぐに次の階層へ到着した。

進んでいくと盾を持ったファイター、杖のメイジ、弓のアーチャーのゴブリン3種とたまに棍棒のゴブリンという組み合わせの3,4体が出現した。

しかし、それでも俺達4人は余裕で殲滅できた。

ミコブがメイジを妨害している間に俺達3人が殲滅する。

盾で防げば矢も棍棒も効かないし、ウルフに比べれば動きは遅い!

先程と同じように殲滅し、途中宝箱が二つ、中身はHP・MP回復ポーションがそれぞれ一つだった。

問題は次の階層だ、階段を降り少し進むと予想通りの敵が現れた。

ウォリアー スナイパー ナイト そして初めて見るヒーラーのゴブリン4匹PTだ。

ウォリアーとスナイパーは前に苦戦した相手だし、それに厄介な盾と剣を持ったナイトと、恐らく回復魔法を使うであろうヒーラーがいる。

回復魔法を使われたら戦いが長引くので、ヒーラーを先に仕留めたいが、そうはさせぬとナイトとウォリアーがヒーラーの前に立ちはだかっている、戦闘開始を合図するかのようにスナイパーが矢を放ち、それを鉄盾で防いだ!軽い振動を受けるがHPは減っていない!反撃だ!俺は先頭を進みながら声を上げる


「バンはナイトをお願い!シヨコは俺とウォリアーを!」


「分かった!」「ウフフ、よろこんで」


「ミコブはみんなのフォローを!行くぞ!ゴブリン達!」


今までは余裕だったが、ここからはそうはいかないだろう。

事前にPTリーダーに任命されていた俺は、戦闘開始と同時に指示を出す!

まず攻撃力が強いウォリアーを俺が止め、シヨコと二人で仕留めにかかる。

その間バンは被弾覚悟でナイトに攻撃を仕掛ける。

バンの攻撃力は装備を鉄刀に変えた事でさらに鋭さを増し、ナイトが盾で防いだとしてもダメージを与えられそうだった為だ。

逆にウォリアーは攻撃力が高く危険なので、俺が盾で受け止めダメージを減らす。

その間ミコブはスナイパーやヒーラーを妨害したり、隙をついて俺達のフォローをする手筈だ。

ウォリアーが俺に向かって剣を振り下ろす!


「グギャギャ!!」


「シールドチャージ!」


攻撃に合わせ盾を構え体当たりをする!これにより受けるダメージを減らしつつ、相手に攻撃し、上手く行けば相手の体勢を崩すことができる!

ただ、代わりにバスタードソードでの攻撃は少し遅れるが・・・。

攻撃に速度が乗る前に上手く体当たりできた!ウォリアーが体勢を崩しそこへシヨコの攻撃が決まる!少し怯んだウォリアーへ俺がバスタードソードで追撃する!

クリティカルヒット!良い手応えだ!


「ジン!スナイパーが撃ってくるゾ!」


後方で全体の様子を見ているミコブの言葉で、スナイパーの矢を防ぐことができた!

その間にシヨコがウォリアーへ追撃し、ウォリアーは消滅!

ヒーラーが回復しようとしていたが、ミコブが闇縛で防いだようだ。

ナイトはバンと一騎打ちしており、チラリと見た所バンはダメージを受けつつも強引に攻撃していて優勢だ。

ならばと俺はゴブリンヒーラーへと向かって行く!スナイパーが俺を狙って矢を放ってくるが盾で弾く!


「一気に仕留める!うぉおおお!」


バスタードソードを振り下ろし、ヒーラーを叩き切る!良い感触だ!が、さすがに一撃で仕留める事は出来なかった。

シヨコが後ろから追ってきているが、それより早くミコブの闇打がヒーラーにヒットし、ヒーラーは消滅。

スナイパーが放つ矢に被弾しつつも、シヨコとミコブの二人と連携し、スナイパーも仕留めた。


「これで終わりだァ!!オラァァア!!」


叫ぶバンの方を見ればナイトが鉄刀で一閃され、消滅!

一騎打ちをバンが制した!


蓋を開けてみれば、棍棒ゴブリン程ではないものの余裕で俺たちの勝利だ。


「ふう、バン!大丈夫?」


「ああ!多少ダメージを受けたが問題ない!そっちも大丈夫そうだな!」


こちらも俺が少しダメージを受けた以外はシヨコもミコブも無傷だ。


「グギャギャ!案外楽勝じゃねーカ!」


「ジンさんが守ってくださるからですわ、ウフフ・・・」


4人で一度集まり、こちらに近づいて来たシヨコが俺に回復魔法をかける。

俺より一騎打ちしていたバンを先に回復してほしい気もするが・・・


「すまん、私も回復してもらえるか?」


「・・・そうでしたわね、今回復しますわ」


ポッと白い光の玉がシヨコの手から放たれると、バンに当たり、回復した様子だ。

・・・・あれ?さっきは俺に近づいて手を取って発動していたが何か効果に違いでもあるのかな・・・?MPの消費が抑えられるとか?うーん?

体力を回復した俺達は再びダンジョンの奥を目指す。

今回の戦闘を見れば、この階層も苦戦する事は無いだろう。

そうして意気揚々と進む俺達であった。

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