第27話 群青色の世界

気が付くと青い世界に居た。

青と言っても明度の高い青では無く、紫みがかった深い青だ。

たしかこういう色は・・・群青色と言ったっけな。

先を見れば、遠くに行く程暗くなり、やがて漆黒に染まる。

その漆黒へキラキラと光の道が伸びていて、俺はその上を歩いている。

周りを見れば、同じように光の道が無数に伸びており、その全てが、俺の歩く道と同じ、漆黒へと伸びている。

ぼんやりとした頭が少しづつ回ってくる。

だが、歩みを止める事は無い、まるで何かに引き寄せられるかのように、ゆっくりと漆黒へ続く光の道を歩き続ける。

そして、気づく、周りに人の気配を無数に感じる。

俺と同じように漆黒へ伸びる光の道を歩いているのだろうか?

姿形は良く見えないが、確かに感じる。

その中の一つ、俺が進む先の遠いところに、確かに知っている気配を感じる。

気になって、歩きながらジッと目を凝らし、気配の正体を探る・・・。


・・・・あれは・・・・


なるちゃん?・・・」




「・・・ン!・・・ジン!」


「あっ・・・」


「気づいたカ?またぼんやりした目で遠くを見てたゾ、一度ログアウトして休んだ方が良いんじゃないカ?」


何度か見た風景、カッセイラの街中だ。

ああ、そうだ、ウルフリーダーを倒した後、戻って来たんだっけ。

疲れているのか、妙にぼんやりとした感じだ。


「そう・・・だね、夕食の買い出しもあるし、一度落ちようかな・・・」


時間を確認した所、すでに15時半を過ぎていた。


「ああ、でもクエストの報告だけしていくよ・・・」


すぐ先に武器屋が見えたので、報告後にログアウトする事にした。

武器屋に入り、店主に挨拶し、クエスト達成の報告をする。


「おお、早いな!もう倒してきたのか!ちょっと待ってろ!今報酬を持ってくるからよ!」


そう言って店主は店の奥へ行く、すぐに戻って来た店主が一振りの剣を差し出す。


「新しく入荷した[バスタードソード]だ!こいつを扱うにはそれなりの腕がいるが、威力はその分高いぞ!どうだ?」


店主から鉄剣より一回り大きい剣を受け取る、レベルが上がって筋力も上がっているのか、片手でも難なく持てる、鉄剣より重量を感じるが、重いと感じはしない。

これなら問題なく振れそうだし、攻撃力も上がりそうだ!!


「良い感じです!ありがとうございます!」


「おう!今後は兄さんみたいな腕の良い冒険者には売るつもりだ!それと、約束の報酬はもう一つあったな、リストを出してくれ!後ろのお連れさんもな!」


そう言われ、俺の後ろに居たミコブとシヨコさんも商品のリストが表示されたウィンドウを出す。

そこには初期装備と500Gの鉄装備の他に・・・

鉄刀や鉄薙刀等の和風な装備が並んでいた!!

お値段なんと2000G、高い!


「旅の商人から仕入れたモンだ!なんでも遠くの街で作られている装備らしくてな!

ここいらじゃそうそう手に入らないぞ!現品限りで今後取り扱いできるかもわからん!値段はちいと高いがモノは良いぞ!良かったら買っていってくんな!」


うーん!かっこいいな!

リストに載っている鉄刀を見てそう思う、刀は男のロマンだ!

だが、今報酬で[バスタードソード]をもらったばかりだし、買うのはやめておこう、それに盾と刀で戦うというのも、今一イメージに合わない。

刀を使うなら両手持ちか・・・短刀なら片手持ちで、持ってない方の手は空手のイメージだ。

もしくは、二刀流か!かっこいいよな~!二刀流!

いずれにせよ、[タンク]の俺とは少し、相性が悪そうかな?・・・

ならば後ろの二人の反応はどうかと言うと


「ほウ!刀カ!絶対人気のある武器だガ、確かに持ってるやつはまだ見かけてねぇナ!」


「そうですね、私も見かけていませんわ」


やはり何か惹かれるものがあるのか好感触ではあった。

とは言え、二人も今すぐ買うつもりは無さそうである。

聞けば「装備で目立ちたくないしナ」「先に防具を新調したいですから」

と、言う事だった。

今回はクエストの報告だけとし、店主に礼を言った後、武器屋を出た。


「なんだか俺だけしか報酬もらえなかったみたいで、悪いです」


そういって、素材を二人に渡そうとするが


「権利はもらったシ、報酬の話は最初から聞いていたんダ、気にするナ」


「そうですよ、それにレベルもあがりましたから」


そう言われてしまい、結局素材も換金し、均等に分ける事になった。

そして俺がログアウトするため、ここでPTを解散する事になる。


「ジン、夜は出来そうカ?」


「はい、少し休めば大丈夫だと思います、あ、そうだ、シヨコさん、良かったら―」


今回、最初はミコブと相性が良さそうだからという理由で組んだシヨコさんではあるが、一緒にウルフを討伐したり、雑談する内、今後も一緒に冒険したいと感じたので、意を決してフレンド申請を送った、シヨコさんは少しミステリアスな雰囲気があり、優しげな顔をあまり崩さないので受けてくれるか少し心配だったが、それは杞憂であり、すぐに承諾された!こうして俺に4人目のフレンドが出来た!


「こちらこそよろしくお願いいたしますわ、では私も一度落ちます、また夜に・・・」


「シヨコ!オデもフレン・・・ってもうログアウトしやがっタ!」


ミコブの誘いは承諾されないまま、シヨコさんはログアウトしてしまったみたいだ。


「・・・・なァジン、なんかシヨコっテ・・・・いや、なんでもなイ、オデも飯にするかナ・・・」


ミコブが少し寂しそうにつぶやく、まぁ、後でログインした時に承諾されるだろうし、大丈夫だろう。

夜にはバンも来るだろうし、都合が良ければ4人でPTを組もう!と、話してから俺もログアウトした。





家の外へと出て深呼吸する、新鮮な空気を吸い込むとまだ本調子ではなかった頭がすっきりとした。

外はまだ明るく、日が沈むまで1・2時間はあるだろうが、帰る頃には空の色が変わっているかもしれない。

ふと、立ち止まって、青く晴れた空を見上げながらそんなことを考えていた。

温かく柔らかい風が頬を撫で、過ぎていく。

もう一度深呼吸し、歩き出す。

GMOはとてもリアルな世界で、森を歩けば草葉の香がしたり、綺麗な木漏れ日が差し込んだり、木々の間から風が抜けて行ったりする、そこに非現実的なモンスターとの戦いも加わり、リアルな世界で非現実な体験もできる。

それはとても楽しいのだ、楽しいのだが・・・・。

こうして外に出て、本物の空や緑を感じると、また違った、現実世界の良さみたいなものを強く感じる。

今もVRの世界を冒険しているであろう、妹にも、この良さを感じてもらいたいな・・・・。



スーパーに並ぶ野菜や肉を見る。

モンスターとの命を掛けたスリルのある戦いも良いが、こうして夕食の献立を考えながら今日は何が安いか、帰りにいつもの洋菓子店で妹の好きなプリンでも買おうか、なんていう何気ない日常の楽しみを感じる。

ああ、パンのシール集まってたな、よしちゃんとあるぞ。

交換の時、近所のおばちゃんに話しかけられた。

おばちゃんも先日シールが集まり交換したらしい。

軽く雑談したのち、ここ何週間の成果である綺麗な白い皿を受け取ると、おばちゃんと別れ、ホクホク気分で店を出た。

おばちゃんと雑談している間、周りから視線を感じて、ちょっと恥ずかしくなった。

あのおばちゃんの声は良く通るから、注目されたんだろうか・・・。

考えてみればリアルでも割と予想外の事って起こるんだなぁ、と考えつつ帰路につく。

おっと、勿論プリンも忘れずに買って帰るぞ、洋菓子店は家とは別方向だが、妹の笑顔のためなら多少距離があろうと関係ないのだ!。





――――――――――――――――――—―――――――――――――――――――



妹にプリンを買うため、商店街を歩き去る彼をジッと見ていた者が一人いた。

その者は買い物袋を片手に下げながら、後を追うようにして店を出ると小さな声で呟く。


「・・・・運命・・・・」


妹の事を考えながら歩く彼・・・しのぶは今も向けられるその視線に気づく事も無く、マイバックを揺らしながら去っていくのであった。



――――――――――――――――――—―――――――――――――――――――







夕飯の準備を終えた頃、ちゃんと妹が下りてきたので、食事にする。


「「いただきます」」


今日の献立は牛肉とタケノコの春巻きと、中華風サラダ、卵とワンタンのスープだ。

春巻きのサクサクとした食感でゴハンが進む。


なるちゃん、熱い肉汁が出てくるから口の中火傷しないように気を付けてね・・・ああ、切ってあげるよ」


揚げ物はやはり揚げたてが一番上手い!が、揚げたての春巻きを齧ると牛肉から出る肉汁によって火傷するので危険だという事に気づく!妹に火傷させるわけにはいかないので、半分に切ってあげる。


「ふー・・・ふー・・・サクッ・・まだちょっと熱いや、けど美味しい!」


妹が春巻きに息を吹きかけ冷ます様子を見て、顔がほころぶ。

仕草もだが、俺の作った飯を美味しそうに食べる妹はなんて可愛いんだろう。

その顔を見れば疲れが吹き飛び幸せを感じる・・・。

・・・今日は居ないが、ねーさんもすごくおいしそうに食べるよなぁ・・・

居たらうるさいし、面倒だが、いないとなんだか少し寂しい気もする。


「おにいちゃん・・?」


なぜか妹がジトッとした目でこちらを見てくる、どんな顔をしていても可愛らしいのは変わらないが!


「ああ、そうだ!デザートにいつものプリン買って来たよ!」


なんとなくごまかすようにプリンの話を振る。

妹は目を輝かせ、「プリン!やった!プーリーンー」とはしゃぎながら食事を進める。


「スープも熱いから気を付けて!あ、あとよく噛んで食べるんだよ?」


「もぐもぐ、こくん、はーい、はむ」


プリンが楽しみで食事のスピードを上げた妹が心配になって声を掛けた。

言っていてなんだが、過保護すぎるか?妹だって小さくてももう小学5年生なんだ。

言われなくたってわかっているかもしれない、いやしかし・・・!

そう考えつつも、小さい頬をリスの様に膨らませながら、俺の言葉に従ってもぐもぐ良く噛みながら食事を続ける可愛い妹を見ていると、「ま、まだこのままでもいいか!」と思考を切り替えた。



「はむっ!う~!プリンうまうま!」


幸せそうにスプーンでプリンを掬い食べる妹のとびっきりの笑顔を見るたびに、人生で一番の幸福感を感じる、ああ、この前も感じたばかりなのだが!!

毎日でも買ってあげたい衝動を抑えるのが辛い。

甘いものの取りすぎて太ってしまったらどうするんだ!と自分に言い聞かせる。

妹は普段あまり外出しないため、当然運動量も少ない。

だけど、食事もちゃんと取ってるはずなのに、小さくて痩せている。

母さんもねーさんもそうなので、うちの家系はそうなのだろうか。

ねーさんに至ってはその小さい体のどこに入るのかというくらい食べたりするのだが、「ねーさんはいくら食べても太らない体質なのだ!げふーっ!」なんて自慢気に話していた、家族の前だからって、ゲップをするんじゃあないよ・・

まったく、ねーさんは・・・・はぁ・・・・。

前に合った出来事を思い出しながらため息が出る、あんなのでもなぜか昔から周りの評判は良いんだ、外でもあのハイテンションは変わらないのに・・・。

なぜだろうか・・・?それは今でも謎だ・・・。

これは考える程モヤモヤした気分になるので「ま、どうでもいいか・・・」と思考を放棄した。


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