第26話 VSウルフリーダー

「グルァアアアア!!」


ガードも攻撃も分が悪いと判断した俺は、咄嗟に横へ飛び込んだ!

体を宙に投げ出す全力の回避だ!

普通に躱す事が出来たなら、それは反撃のチャンスになりえる。

だが、ウルフリーダーの攻撃はリーチが長い為、普通に躱すのは難しい。

なりふり構わず全力で回避した事で、本当にギリギリであったが攻撃を避ける事に成功した・・・。

・・・が、その代償は大きかった。

スタントマンのように転がってすぐに立ち上がれれば良かったのだが、受け身を取った瞬間、体が重くなる。

強制的に体勢を崩した状態になってしまった!


「くそ!ま・・・ずい・・!!」


ダメージは受けなかったが、体勢を大きく崩した状態だ、そして・・・

ウルフリーダーの追撃が来る!!


「ガァァウウウアアア!」


「ジンさん!はっ!!止まらな・・・あうっ!」


追撃しようとするウルフリーダーにシヨコさんが立ちはだかった!そして攻撃がヒット!だがウルフリーダーから反撃を受け、シヨコさんが弾き飛ばされる!!!


「ジン!シヨコ!クソ!止まレ!」


さらにミコブの発動した闇打がヒット!!・・・が!

ウルフリーダーは構わずこちらに向かって走り出す!


あと少しで立ち上がって、体勢を立て直せる!という所で・・・

それより速くウルフリーダーが飛び掛かって来た!!


「グルァアア!」


「ぐっ!!」


攻撃が直撃し、かなり強い振動を受け弾き飛ばされた!

さらにガンッ!と、背後から衝撃を受けた!!

近くの木に背中からぶつかって、転げ落ちる。

ま、まずい・・・体が重い・・・HPは・・・!?

咄嗟に確認すると1割残っているかどうかだ。

今の一撃で総HPの7割程を持っていかれた事になる。

これはまずい!!!

瞬間、!瀕死のせいかまるで、世界がスローモーションになったかのように

多くの考え・感情が頭を巡っていく!


俺はスキル[踏み止まり]を持っている。

HPを超えるダメージを受けた時に瀕死で耐えるスキルだ。

だが、受けたダメージが残りHPを超える程、このスキルの発動率は下がってしまう。

どのくらいの確率で発動するのかは分からないが、1割も無いHPでウルフリーダーの攻撃を受けてしまえば発動する確率は極めて低そうだ。

ただ、今受けたダメージがもう少し大きくて[踏み止まり]が発動していても、体勢を崩したノックダウン状態で弾き飛ばされるノックバックしなかったら、最悪、そのまま追撃を食らっていたかも知れない。

強力なスキルではあるが、条件とデメリットもあるのだ。

そして、今、俺はぶつかった木の根元で、立ち上がろうとしているが、体が重く時間がかかっている。

今攻撃を受ければ俺は死ぬ。


ドクン


シヨコさんは回復魔法が使えるが、蘇生魔法は持っていない、ミコブもだ。

運よく低確率の[踏み止まり]が発動しても、この状態では追撃でやはり死ぬだろう。

絶体絶命のピンチだ!

死んだらどうなるか?現実ならばそこで終わり、そのあとどうなるかは分からない。

だが、ここはゲームだ。

GMO内で死んだらどうなるか?といえば街に戻され復活する。

多少ペナルティがあるかも知れないが、レベルを上げてリベンジする事も可能だろう・・・・・。


ドクン


・・・・・・・

ウルフリーダーは何度か攻撃を受けているものの、まだ消滅するようには思えない。

俺が死に、街に戻されたら残されたミコブとシヨコさんは・・・?

・・・勝つのは難しいように思う、恐らく二人も死に、PTは全滅だ・・・。


ドクン ドクン


・・・・

本当に死ぬ訳じゃないんだ、レベルを上げてまた皆でリベンジすればいいじゃないか、今回は連戦後だったし、敵の強さも分からなかった、人数だって4人にすればもっと楽になっただろう。

レベルを上げ、フルメンバーで、しっかり準備をすれば勝てるはずだ・・・。

ゲームなのだから。

・・・・・


ドクン ドクン


・・・・だが、このウルフ達はどうだ?こいつらは死んだら消滅、他のウルフリーダーはまだ居るんだろうが、この個体はこの世界から消滅する、こいつらは現実世界に体があるわけじゃないだろう、だからこいつらにとってこの世界ゲームは現実なんだ。

死んだらそれで終わりだ。

本当に命を懸けて戦っている!そんな相手に・・・・

やり直せるから、という気持ちで戦うのか?・・・いや、俺にはできない!!

次かあるから、と、簡単に勝利を諦めたくない!

ゲームだから、といって!適当な気持ちで遊びたくない!

それに、もっと単純シンプルに、俺は・・・負けたくない!!


ドクン! ドクン!


仲間を守る役割の[タンク]が仲間を置いて先に死んでいいのか!?

仮にも[PTリーダー]を任されたのに、俺が死んだせいでPTが全滅する、それでいいのか!?・・・・・よくないだろ!!!!




ドクン!! ドクン!! ドクン!!




心臓が激しく高鳴る!!!


体は変わらずに重い!だが


「ぉぉぉぉおおおお!!」


気合を入れ、思わず声を上げながら

重い体を無理やりにでも動かして立ち上がろうとする!!!


スローモーションな世界の中で、心臓だけがドクン!ドクン!と激しく動いている!


頭が・・・いや!体全体が!!!!


その時、キンッという耳鳴りがし、辺りの空気が一瞬、した!


「おおおおおぁぁああ!!!」


瞬間!体が軽くなり、雄叫びを上げながら立ち上がる!!!


目の前には俺にトドメを刺そうと向かってきたウルフリーダー。

突然軽くなった体で構え、対峙する!!

ウルフリーダーとの距離はどんどん縮まる!!

あいつの目は俺を捉え、離さない!

だが、それはこちらも同じだ!今!俺の目にはウルフリーダーしか見えていない!

頭も体も熱い!が!俺は冷静にウルフリーダーの動きを見極める!!

実際は数秒も経っていないし、ウルフリーダーの動きは変わらず素早い!

なのに・・・俺の感覚は世界の流れを遅く感じさせ、俺の目にはウルフリーダーの動きがゆっくりと、良く見える!!!


「グルアアアアアァァァア!」


トドメだ!と言わんばかりに飛び掛かって攻撃してくるウルフリーダー!


俺は・・・・!!!


「おおおおお!!」


ウルフリーダーの攻撃を、姿勢を低くし、搔い潜るように前へ出て回避!

それと同時に鉄剣で一閃!すぐに振り向きそのまま鉄剣を返すように翻し、さらに一閃!!

こちらに顔を向けたウルフリーダー!

その顔を横から[シールドバッシュ!]そのまま体を移動させ、ウルフリーダーの死角へ!!!

体が異常に軽い!!今まで思い通りの動きさえ、できない時もあったのに!!

心臓が高鳴り続け、熱い体に力が漲る!


鉄盾の一撃を横っ面に食らったウルフリーダーは一瞬俺を見失う!!


そのチャンスを俺は逃さない!!!


全身全霊の力を振りかぶった鉄剣に込め、ウルフリーダーに向け解き放つ!!


「ぉぉぉおおおおおオオオオオ!!!」



全力の攻撃が、ウルフリーダーの体を捉え、会心の手応えを感じた!


ザンッ!という音と共に、剣を振りぬき終える。


ウルフリーダーの体に剣閃が走るとそこから体が二つに分離するように動く!




     一 刀 両 断!!! 




瞬間!光に包まれたウルフリーダーの体は、弾ける様に、消滅!


同時にドクンドクンと激しく高鳴っていた心臓の音が収まり、俺の体から熱が抜けていく・・・・。


力が抜け、その場で尻もちを付くように座り込んだ俺。

限界まで息を止めた後のような激しい息切れ。

だが気分は悪くなく、妙に高揚しふわふわとした感じだ。

全身に力が入らず立つことができない。





「ッ!・・・・おい!ジン!・・・」


「・・・ミコブ?」


いつの間にか傍に来ていたミコブが俺の肩を揺らす。


「大丈夫か!?体に何か異常があったりしないか!?」


「え?・・・あ、うん、大丈夫・・・だと思うよ?」


ぼんやりした気分で返事をする。

ミコブは息を吐き、ホッとした様子だ。


「ジンさん・・・遅くなりすみません、今回復しますわ・・・」


先程弾き飛ばされ、体勢を崩していたと思われるシヨコさんが近寄ってきて、回復魔法をかけてくれる。


「ありがとうございます・・・っ!ウルフリーダーは!?」


そこでようやく頭が回ってきて、咄嗟にミコブへ問いかける。

戦いに必死で・・・確か俺の攻撃がヒットし、倒したと思ったが・・・。


「おい、しっかりしろ、本当に大丈夫なのか?」


ミコブは心配そうに言う、大丈夫と返せば状況を教えてくれた。

俺がリーダーを倒した後、周りの気配も消えたらしい。

だが、俺の様子がおかしかったので、心配したそうだ。

これ以上ここに居る必要はないのだが、力が抜けて動けなかったので、その場で休憩する事になった。


「しかシ、さっきのジンはすごかったナ・・・ピンチの時に秘められた力を発揮する物語の主人公みたいだったゾ!何かスキルでも覚えたんじゃないカ?」


気づかなかったが、俺はレベルが15に上がっていた。

戦闘前は13だったので、2レベルも上がっている。

ミコブも20、シヨコさんも14に上がっていた。

ステータスを確認すると、新しくスキルを覚えていた。


[シールドチャージ] 盾を構え、体当たりする。


相変わらずスキルの説明が簡素である。

先程の戦闘で試した行動がスキルになった形だ!

盾を構えて体当たりする事で、守りつつ攻撃できる。

上手く行けば、ガード時のダメージを減らせるし、さらに相手を大きく吹っ飛ばせる。

アピールやシールドバッシュの時もそうだが、スキルとして取得すると、効果があがる為、攻防一体のこのスキルはとても有用に思える。


新しいスキルの事をミコブに話すと、釈然としない顔をしていた。


「オデはもっとこウ、[覚醒]とか[解放]とかそういうのを覚えたんじゃないかと思ったんだがナー、それくらイ、さっきのジンはすごかったゾ」


「私は攻撃を受けて転がっていたので最後しか見ていませんが・・・あの状況で倒してしまうのなら、そういうスキルを覚えていてもおかしくありませんね」


言われてみれば確かにそうだ、自分でも先程の状態はおかしかったし、スキルのおかげと言われれば納得できるが、もう一度確認してもそれ以外に見覚えのないスキルは見つからなかった。


ミコブも新しいスキルを覚えており、また[闇打]以外にも覚えていたスキルについても教えてもらった。


[バトルマナ] 戦闘中のMP回復量を増やす


[闇魔適性] 闇属性魔法の効果が上がる


[バトルマナ]に関しては、戦闘中はMP回復量が通常時や、休憩時より大幅に下がるのだが、それが通常時より多少遅いくらいに改善したらしい。

[闇魔適性]は今確認して覚えていたらしいが、その名の通りだろう。

ミコブは黒い糸で行動を妨害する[闇縛]と黒い糸で打ち付けて攻撃する[闇打]を覚えているので、それらの効果が上がるとなれば有用なスキルだろう。


「私も新しいスキルを覚えていました」


そう語るシヨコさんも自分のスキルに関して教えてくれた。


[奉志の心]自分以外を回復時、効果が上がる。


やはり同じ人族でも行動やスキル書で覚えたスキルによって新しく覚えるスキルも違うようだ、俺は最初[クリティカルアップ]というスキルを覚えたが、シヨコさんは[直感]だったらしいし。

自分に使用した時効果が上がらないという条件付きだが、回復効果が上がるのは大きいだろう、こちらも有用なスキルだと思う。


スキルについて話し終えた頃には俺は、多少だるい感じは残るものの、立ち上がれるほどに回復したので、ドロップアイテムを回収する。


ウルフA・Bからは[狼の毛皮]通常のウルフは[狼の爪]を落とすが、たまに[狼の毛皮]も落とす、レアドロップという事か?A・Bは通常のウルフより大きかったので、その分良いドロップになったのかもしれない。

ウルフリーダーからは[狼の心臓]を手に入れた。

目的は果たせた、あとは報告だけだ。

そうして町へ戻る為、移動を開始する。


帰り道、警戒はしていたのだがウルフ達が現れる事は無く、無事カッセイラの街へ戻ってこれたのであった。








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お読みいただき、ありがとうございます。

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