第25話 高みの見物

薄暗い森の中、木漏れ日がキラキラと降り注ぎ、幻想的ともいえるこの場所の周りから、不気味なウルフ達の遠吠えが響く。


「さっきまでと違う・・・リーダーが来るのか!?」


「遠吠えの数が多いんだナ!・・・やべぇんじゃねーカ!?」


「・・・どうやら、囲まれているみたいですわ」


四方八方から響く遠吠えを警戒し、3人で背中合わせにして構える。

一度撤退するつもりだったが、逃げ道を塞がれたか!くそ!

3人ともHP・MPは回復しているが、連戦により精神的に疲れている。

万全とは言えないが・・・やるしかないのか!!

先程から遠吠えが近づいてきており、すでにウルフと思われる気配を回りに感じていた、そして、木々の間からモンスターの影がゆっくりと現れた。

灰色の毛並みに鋭い牙を持ち、普通のウルフより二回り以上大きい、[ウルフリーダー]だ!


「出やがったナ・・・ジン!」


「準備は出来ております、ジンさん!」


「やるしかない!二人とも生きて帰ろう!いくよ!」


ウルフリーダーの方へ一歩進み、声を上げる!


「探したぞ!勝負だ!ウルフリーダー!」


飛び掛かってくるかとも思ったが、そうはならなかった。

ウルフリーダーは無言で一歩下がると、合図をするかのように首を振った。


「「グルァ!!」」


すると2匹のウルフが左右から同時に飛び出してきた!

ウルフリーダー程ではないが、この2匹も通常のウルフより大きい!


「ジン!ウルフリーダーは動かないようだゾ!部下に任せて自分は高みの見物しようって感じだナ!」


ミコブの言葉に、というよりは・・・と、シヨコさんが呟く。


「自分が手を下すまでも無い・・・という事でしょうか・・・」


どちらにせよ、ウルフリーダーは動かないならこちらとしては助かるな。


「油断してくれているなら都合がいいね、2匹のヘイトを取ります!来いアピール!」


同時に動き出した2匹のウルフが、タイミングをズラして攻撃してくる!

大丈夫だ!見える!!

2匹という事もあるが、こいつらは通常より大きめなので、見失う事は無かった!

片方に向けて盾を構えつつ移動し、攻撃をガードしつつ、もう片方の攻撃を回避!

・・・・が!ガードした鉄盾に受ける振動が普通のウルフより強い!

くそ!ガードしたのに多少HPが削られた!!


「くらいナ!闇打!」「いきますわ!はっ!」


ミコブとシヨコさんの攻撃が、ウルフにヒット!ダメージを負わせる!

少し怯んだ様子のウルフだが、攻撃だけでなく、防御面も普通より高いのか弱った様子は無い!・・・・まずい!攻撃を受けたウルフのヘイトが俺からシヨコさんに移った!!

ヘイトを取り直すため、攻撃しようとするが、もう片方のウルフが再び攻撃してくる!ややこしいので、こちらをウルフA、俺が攻撃を回避し、ミコブ達がダメージを負わせた方をウルフBとする。

ウルフAの攻撃を寸前でガード!強い振動を受けると共に、俺の目にはウルフBがシヨコさんに向かって行くのが見えた!!


「シヨコさん!」


「1匹なら大丈夫ですわ!」


「周りの気配も気になるんだナ!余裕が出来たら加勢してくレ!」


シヨコさんは皮シリーズを揃えて装備しているし、スキルの[直感]もある、

他に敵が出てこない限り、少しの間なら大丈夫だろう。

だが俺は[タンク]だ、本来なら複数相手取ってもヘイトを取り続けるのが[タンク]の役割だ。

まだ上手く役割をこなせない自分に歯噛みしつつ、ウルフAと対峙する。

ウルフリーダーは動く気配が無く、こちらの様子を見ている。

回りからはウルフと思われる気配がするものの、姿は見せず、ただ[囲まれている]という感覚だけが伝わってくる。

いつ他のウルフ達が飛び出してくるかは分からないが、今は目の前のウルフAに集中する・・・焦りは禁物であるが、早く二人に加勢しなければ・・・!


「ガァゥ!」


ウルフAが勢いよく飛び掛かって来た!

コイツはでかいし、攻撃力もあるが・・・速度は普通のウルフとそんなに変わらない!1対1なら避ける事も、ガードする事も可能だ!でもここは!!


「うぉおおお!!」


俺はあえてウルフに


正確には盾を構えて体当たりをした形だ!

それにより、ウルフの攻撃のタイミングを強制的にずらす!

すると、鉄盾越しに受ける振動も軽く、そして鉄盾での体当たりによる手応えを感じ、少しだがダメージを与えた!さらにウルフは体勢を崩し、大きく吹っ飛んだ!

チャンスだ!!


俺はウルフAから視線を切り、ウルフBへ向かう!

その時、丁度ミコブの[闇縛]が発動し、その隙をついてシヨコさんが鉄剣を一閃した所であった!少しだけ怯んだウルフだが、すぐにシヨコさんに攻撃しようと――


「させるかぁ!」


寸前!俺が鉄剣を振り下ろす!!


クリティカルヒット!!


完全にシヨコさんしか見えていなかったウルフBに会心の一撃を食らわせた!

ウルフBは飛び掛かるつもりだったのか、その瞬間に後ろから攻撃され、撃ち落される形で体勢を崩し、前方へ転げ落ちた、構えていたシヨコさんがそれを見て追撃する!


「ジンさん、助かりましたわ!これで・・・終わりです!」


ほほ笑んだシヨコさんがその優し気な表情から繰り出したとは思えないような、鋭い剣捌きでウルフを一閃した!ヒット!ウルフBが消滅!


「ジン!後ろダ![闇縛」!」


ミコブの声に振り向けばウルフAが走ってこちらへ向かってきていた!

闇縛が発動し、黒い糸が絡みつく、一瞬走る速度を低下させたが、すぐに消し飛ばし、飛び掛かって来た!避けるのは無理そうだ!間に合うか!?


ガード!


・・・・

ギリギリでなんとか間に合った!ミコブの闇縛が無かったら間に合わず、直撃していただろう、盾越しでもHPを削られる攻撃だ、直撃したらHPをどれだけ削られていたか・・・!

再びウルフAと対峙する、ウルフAは敵意剝き出しといった様子で、こちらをにらみつけているが、俺は冷静に様子を窺う・・・

チラリとウルフリーダーを見れば、まだ動く気配が無い。

瞬間、ウルフAが動き出す!!

先程より速い気がする、相方を倒された怒りのせいか?

だが、多少速くなっても、攻撃力が高くても、攻撃のは通常のウルフと一緒だ!何回も経験して、いる!!

構えた俺は、タイミングを計る・・・ここだ!!

勢いよく盾を振り被り、飛び掛かって来たウルフAにカウンタ―!


「グガァゥ!」

「くらえ!シールドバッシュ!!」


ゴンッ!と鈍い音が響く!クリティカルヒット!良い感触だ!!

攻撃できずに横に吹っ飛んだウルフAは体勢を崩し、また頭を強打された為か、よろけて立ち上がれない様子だ、そこへミコブとシヨコさんが追撃を行う!


「はっ!」「グギャ!」


鉄剣の一閃と、振り下ろされた杖の打撃がウルフにヒット!

二人の攻撃で消滅はしなかったが、HPはもうほぼ残ってないだろう!


「決める!はぁぁ!!」


ウルフAへトドメの一閃!

消滅したのを確認した俺たちはすぐ向きを整えた。

まだウルフリーダーが残っている!

俺を真ん中にし、左にミコブ、右にシヨコさんが立つ。

構える俺達に向かい、ゆっくりと動き出したウルフリーダーが数歩進んで止まる。


「グァォォォォォン!!」


その大きな体を震わせ、迫力のある遠吠えを終えた瞬間!

ウルフリーダーは俺達に向かって駆け出す!速い!!


「やっとやる気になったか!来い!ウルフリーダー!」


俺が前に進みアピールを行う!


「光癒!」「闇縛!」


それと同時にシヨコさんが詠唱していた回復魔法が発動し、ウルフA・B戦で減った俺のHPを回復、ミコブが発動した闇縛の黒い糸がウルフリーダーへ絡みつく!

・・・・・が!!

ウルフリーダーはそれをものともせずに向かってきた!闇縛は発動したものの効果を発揮せず、弾けるように消えてしまった!


「クソ!闇縛はモンスターが強い程効果が薄くなるのカ!」


闇縛の行動妨害は強いが、どうやらモンスターの強さが効果や成功率に影響するようだ!突っ込んできたウルフリーダーの攻撃は素早さと体の大きさもあり、避ける事は難しそうだ!俺は盾を構え、タイミングをはかる!

・・・・・今だ!!


「グルァアアア!!」

「うぉおおおおお!!」


先程ウルフAにしたように、盾を構え突っ込む!ガードしたまま体当たりした形だ!

上手く行けば攻撃の威力を減らしつつ、ダメージを与えられる!のだが・・・

ガンッ!と鉄盾に大きな衝撃を受けた!瞬間、俺の体は後方へ弾き飛ばされる!!


「ぐぁ・・!」


「ジンさん!」「ジン!」


何とか足を踏ん張って、後ろに転倒するのを避けたものの盾ごしに受けた衝撃は今までで一番強く、HPも、ガードしたというのに4分の1程減らされる!この攻撃が直撃したら3発は耐えられないんじゃないか!?


「気を付けて!一発の攻撃が重い!」


「シヨコ!ジンからヘイトを取らないようニ!まずはジンを回復ダ!」


「ジンさん、今回復します・・・光癒!」


シヨコさんから放たれた回復魔法により、HPが回復した。

だが、ウルフリーダーも素早く追撃に移行しており、回復した時にはすぐそばまで来ていた!

・・・まずは俺からヘイトが外れないようにするために、攻撃を当てなければ!

アピールに加え、攻撃を当てる事でヘイトが蓄積し、その分攻撃対象が他の人に移る事が少なくなる。

また、何度か戦っているうちに気が付いたが、アピールは同じ相手に2回目以降は効果が薄いため、最初にアピールをし、その後は攻撃を当て続けなければならない。

どうする!ガードしてもあの威力で弾き飛ばされたら反撃できない!

避けるか!?いや、それは難しい!ウルフリーダーは素早い!攻撃の行動自体はそこまで普通のウルフと変わらないが、大きさと素早さでまた違った感覚を受ける!

この速度に慣れ大きさに比例して広くなったリーチを見切らなければ避ける事は無理だ!・・・ならばとれる行動は一つ!


ダメージ覚悟で攻撃する!!!


「うおおおお!!!!」

「グルァアアアアア!」


覚悟を決めた俺の鉄剣がウルフリーダーの攻撃より一瞬早く届く!ヒット!

そしてすぐにウルフリーダーの攻撃が俺の体へヒットする!

俺は大きく弾かれ、体勢を崩し、膝をつく。

すぐにHPを確認するとともに、ポーションホルダーからHP回復ポーションを取り出し、使用する、半分弱削られたがポーションにより8割程度まで回復した。


「だ、大丈夫ですか!ジンさん!」


「はい!なんとか一発入れました!」


「無茶しやがっテ!シヨコ!攻撃開始ダ!闇打!」


体勢を崩した俺を狙い、向かってきたウルフへ、ミコブの闇打がダメージを与える!

だがウルフリーダーは気にもせずに、進んでくる!

大ダメージを受け、大きく弾き飛ばされたが、そのおかげで多少距離が開いたため体勢を立て直す事に成功、なんとか構え直したものの、再びウルフリーダーの攻撃へ対処しなければならない!

1発は直撃しても耐えられるだろう、だが何度も攻撃を受けると体勢を崩す確率が上がるのだ、踏ん張ろうとしても体が強制的に体勢を崩してしまう。

先程膝をついたのもそのせいであり、そして次にダメージを食らうと膝をつくだけでは済まないだろう、倒されてしまえばその分起き上がるのに時間がかかる。

そして起き上がっている間は無防備なので、追撃されたらそこまでだ。

・・・ダメージ覚悟で攻撃するのはリスクが大きすぎる。

かといってガードで耐えられるかはわからない、どうすれば・・・!!

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