第23話 顔を見せて
「あの、すみません、少しよろしいですか?」
「・・・はい?」
[買い取りボックス]で、素材の換金を終えたのを見計らって、声を掛ける。
振り向いた目的の人物は、目じりの垂れ下がった優し気な目で、凝視するかのように、俺を見つめた。
「・・・あなた、何処かでお会いしましたか?」
俺がGMOを始めてから話した女性と言えば受付の女の人と、先程フライドポテトを注文する時のウェイトレスの人、それに妹ぐらいだ。
この人を見かけたのは先程酒場の入口から入って来た時が初めてのはず・・・
ならばそれは、記憶に無いけれど、何処かで会ったかもしれないからそう尋ねたという事か、うん、そう考えた方が自然だな・・・。
なぜかちょっとした引っ掛かりのようなモノを感じつつ、本題に入る。
「あ、いえ!実は今、PTに入ってくれる方を探していて、それで声をかけたんです!よかったらPTに入りませんか?」
「・・・・・・・」
女性は無言で俺の目を凝視する、俺は目を逸らすのもなんだか悪いような気がしたので、少しの間お互い見つめ合う形になった。
すると女性は首を少し傾げ、口を開いた。
「・・・・そうですか、ですが私・・・」
悩んだ様子の女性が再び黙ってしまう、無理強いは良くないが、何かの判断材料になるかと思い、現状を女性に伝える。
「俺たちは今、ウルフの討伐依頼を受けていて、あっちにもう一人仲間が居ますが、二人だと厳しくて・・・もしよかったら一緒に戦って欲しいのですが・・・・」
そう伝えると、女性は俺の示したテーブル、ミコブの方を見る。
怪しい恰好ではあるが、ちゃんと肌を隠しているため、ゴブリンだとは分からない。
勿論、PTを組むならそのことは伝えないといけないが・・・。
「・・・!わかりました、まだ決めかねますが、もう少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「ありがとうございます!では一度仲間が待ってるテーブルに行きましょう!」
おお!前向きに検討してくれるみたいだ、俺は女性と共にミコブの待つテーブルへ向かう。
「っと、申し遅れました、俺は[ジン]って言います」
「[
テーブルに到着し、シヨコさんに「どうぞ」と、席を勧める。
酒場のテーブルは大勢で座るものもあるが、一番多いのは俺達が座っている長方形で4つの椅子がそれぞれテーブルを挟んで二つづつ置かれているものだ。
初対面の俺やミコブの隣に座ってもらうのもどうかと思ったので、俺はミコブの隣へ、シヨコさんは俺たちの向かいの席へ座ってもらう。
フードを被り俯いているミコブが余程気になるのか、シヨコさんは先程から食い入るようにミコブを見ている。
「紹介します、仲間のミコブです、ミコブ、こちらはシヨコさん、まだPTに入るかは決めてないそうだけど、話を聞いてくれると言ってくれたんだ」
「おウ!・・・ゴホン、おう、そうか!」
ミコブが普通に話し始めた!?
って、そうだ、前にあの独特の喋り方はキャラ作りだって言ってたっけ、でもそれに慣れすぎて違和感がすごいぞ・・・
「すまない、事情があってな、顔は隠させてもらうぜ・・・」
「・・・そう、ですか」
それでもミコブをじーっと見つめるシヨコさん。
ミコブはテーブルの下で何か操作していた。
ん、こんな時にメッセージ?・・・ミコブから?
怪しまれているのか?めっちゃ見られてて話しづらい!ジン!話を進めてくれ!
メッセージにはそう書かれていた・・・そういう事か、では改めて・・・
先程も話したが、もう一度俺たちの目的を話す、そして
「俺が前に出て敵を引き付ける[タンク]役を、ミコブが魔法で敵を妨害したり、俺が敵を引き付けている間に攻撃したりしてくれる、えー・・・と」
「[デバッファー]兼[アタッカー]だ」
ゲーム用語等に詳しくない俺は、咄嗟に言葉が出てこずミコブが補足してくれる。
確か・・・デバッファーは敵を弱体化させたりする役割で、アタッカーは攻撃に集中して、敵を倒す役割・・・だったかな?
ミコブは前にデバッファーをやりたいと言っていたけど、俺達二人ではどうしても手が足りないので、デバッファーに専念してもらう事が出来ず、アタッカーも兼ねてもらっている状態だ。
ちなみに俺もタンク兼アタッカーであるが、仲間を守るために敵を倒すのもタンクの役割だと思うので、問題無ければこのまま続けたい。
「・・・なるほど、ミコブさん・・・と言いましたね、顔を見せてもらっても?」
「・・・事情があるんだ、見せてもいいが驚いて騒がないと約束できるか?」
「ええ、約束しますわ」
シヨコさんは、怪しい恰好で顔も見せないミコブの事が余程気になるのか、悩みもせず、すぐに約束すると返した。
そこでミコブがシヨコさんだけに見える様に、顔を上げると、シヨコさんは顔色一つ変えずに、ミコブの目を覗き込むようにして凝視する。
「な!近いゾ・・・」
「あら、失礼・・・どうやら違うようですね」
何か納得したように顔を離し、小さい声でそう呟いたシヨコさん。
ミコブを見れば、先ほどの様に俯いて顔を隠し、「なんだ?案外驚かないな」
とこぼす。
ふと視線を感じシヨコさんの方を向くと、目が合う。
「あの・・・俺はVRゲーム初心者で、まだまだ不慣れですが、ミコブは姿こそ人族では無いですけど、とても頼りになる仲間なんです、シヨコさんが良かったら・・・ですが、PTに加わっていただけませんか?」
俺の目を見たまま、シヨコさんが口を開く・・・
「あなたは・・・なぜ私を誘ったんですか?」
なぜ・・・か、たまたま目についたから!ミコブと相性良い女性プレイヤーだから!ミコブがGOサインを出したから!・・・なんて言ったらこの勧誘は失敗する気がする・・・。
かと言って、適当にごまかすなんて事は出来ない、でも、せっかくこうして縁が出来たのだから、今は俺としてもシヨコさんと組んでみたいなと思っている。
ジッと俺の目を見つめるシヨコさん、まるで、嘘をついたら分かりますよ!と言ってるみたいだ・・・・、その目を見ていて、思った事があるので、そのまま伝えてみる。
「シヨコさんが・・・優しそうだったから?」
「・・・・はぁ?・・・そう、ですか」
怪訝な顔をするシヨコさん、俺は他に上手い事を思いつかず、シヨコさんを見て思った事をそのまま口に出したのだが、さすがにおかしかったかな・・・。
「・・・分かりました、PTに加わります」
おお、一瞬ダメかと思ったが、シヨコさんが仲間に加わってくれる事になった!
加わると言った後に小さい声で「気になる事もありますし・・・」と呟いていたが、PTに入ってくれるのには変わりはないのだし、触れないでおこう。
すぐにPT申請を送ると、PTメンバーが一人増えた。
こうして、俺とミコブのPTに[黒髪ポニーテールの女性]、プレイヤー名[
酒場を出た俺達は、再びカッセイラ東の街道に来ていた。
当初の予定では4人PTにするつもりだったのだが、ミコブと相性が良さそうなプレイヤーは殆どおらず、このまま探し続けると時間がかかりそうだ・・・と。
それに加えて、もう一つ理由があった。
新しくPTに加わったシヨコさんが、回復魔法を使えるからだ。
聞けばシヨコさんは、一緒に冒険するフレンドもおらず、PTに入るのも面倒なので、しばらく一人旅になるだろうと考えていた、そうすると被弾のたびに休んだりHP回復ポーションを使っていたら効率が悪い、そんな時、丁度カッセイラの店で回復魔法のスキル書を見つけたので、すぐに購入し習得。
その後は、1人で回復しながら黙々とモンスターを狩っていたらしい、レベルも9と俺達とそんなに変わらなかった、俺はミコブやバンとPTを組んでレベル上げをし、ミコブはレベルが上がるのが早いゴブリン族という事を考えれば、今まで1人で戦っていたのに、lv9というのはすごいのではないだろうか?
シヨコさんは防具も皮シリーズをしっかり揃えていて、盾は装備していないが、鉄剣を装備していた。
一人で冒険をする上で、棍棒のままでは厳しいと判断し買い替えたそうだ。
鉄剣を選んだのも特に好みの武器が無かった為、無難な剣を選んだだけと言う事。
VRMMOの経験はそこそこあるようで、「それならいけそうだナ」というミコブの判断により、こうしてウルフと再戦しに来たという訳だ。
しばらく道を進んでいると、先程と同じように脇の森からウルフが飛び出してきた!
「出たなウルフ!来い!」
まず、いつものように俺が[アピール]、ウルフが俺に向かってくる!
「ガウァ!」
カン!ウルフの攻撃を鉄盾でガード!直後に俺の鉄剣の反撃がウルフを一閃!
「さっきは出す暇が無かったガ!くらエ![闇打]!
ミコブが新しく覚えたという魔法[闇打]が発動する!
ウルフの近くに1本の太い黒糸が現れ、ムチのようにしなり、ウルフの体を打ち付ける!ヒット!ウルフは消滅はしなかったが体勢を崩した!
「いきます!はっ!」
そこへシヨコさんが飛び掛かり、鉄剣で切りつける!ヒット!
そこでウルフが力尽き消滅、先程の苦戦が嘘のように簡単に勝利した!
「おお!3人になるとこんなに簡単に倒せるんだ!」
「仲間を呼ばれなかったのもあるガ、楽勝なんだナ!」
「PTを組むと楽ですね・・・」
俺達は顔を見合わせ、感想を口にした。
1人より2人、2人より3人、仲間が増えるとそれだけ戦闘が楽になる!
こうなるともっと強い敵や、複数の敵と戦ったほうが、レベルが上がるのが早そうだ、ミコブもそう感じたのか「わざと遠吠えさせてみないカ?」と提案する。
俺もシヨコさんも了承し、次に出たウルフに俺が一発加え、様子を見る事になった。
再びウルフが飛び出してきた所でそのように行動する。
「ワォーーーーン!」
ウルフが遠吠えすると2匹のウルフが飛び出してきた。
先程は数の不利があったが、今回は3対3の同じ数!その上1匹は手負いだ!
「ジン!さっき話したようにアピールでヘイトを取ってくレ!シヨコ!仕留めるゾ!
[闇打]!」
ミコブの指示に従い、俺はアピールし、3体のヘイトを受ける、その間にミコブが闇打を発動!最初に出てきて俺が一発攻撃を食らわせた手負いのウルフへ攻撃!それに合わせシヤコさんが攻撃!最初の一匹を倒した!
「グルァ!」「グワォ!」
2体の狼はシヨコさんを無視して通り過ぎ俺へ攻撃してきた!
構えた俺はその内1体の攻撃を鉄盾でガードしたが、今回は同時に別方向から攻撃してきた為、もう1体から攻撃をもらってしまう。
直後に鉄剣を振ったが、ミス!攻撃は当たらなかった!
「私を忘れていませんか?はっ!」
鉄盾に攻撃を防がれたウルフの後ろを取ったシヨコさん。
俺しか見えていないウルフへ、シヨコさんが攻撃!ヒット!ウルフは不意を突かれ、こちらの近くへ吹き飛んできた!チャンス!くらえ!
「シールドバッシュ!」
ウルフの頭へ直撃!ウルフは舌を出して倒れる!そこへシヨコさんが追撃し、とどめを刺した!
「ジン!もう一匹がくるぞ![闇縛]!」
ミコブの声にすぐに反応した俺が右手側を見れば、丁度飛び掛かって来たウルフへ黒い糸が絡みつく!ウルフは攻撃できずにその場に落下!黒い糸はすぐに消えてしまったが、十分だ!
「サンキュー!ミコブ!くらえ!」
俺の一閃がウルフへヒット!ウルフが軽く吹き飛んだ!
手負いの上に3対1のウルフ!再び遠吠えをし仲間を呼ぶか・・・?
と、思ったがそれをせず、やけくそと言わんばかりにこちらに突撃してきた!
「残念だけど、見えてるよ!」
飛び掛かって来たウルフ!その攻撃を避けながらシールドバッシュを食らわせる!
ウルフは何とか着地したものの、よろけて隙だらけだ!そして位置が悪い。
待ち構えていたシヨコさんがウルフに攻撃!こちらへ顔を向けようとしていたウルフにヒット!すでに鉄剣を振りかぶっていた俺の攻撃でトドメを刺し、消滅!
ウルフ3匹に対して、こちらの被害は俺が1発ダメージを受けたのみ。
3匹でも問題なく勝てる事が分かった俺達は、わざと仲間を呼ばせてウルフを3匹にしてから倒す方針で、レベル上げを行う事にした・・・。
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