第22話 慧眼
「うーん、でも本当に良かったんですかねぇ?」
「バレなきゃ大丈夫なんだナ、ま、目立たないようにはしなきゃならねーがヨ」
今、俺とミコブはカッセイラの町の冒険者ギルドのテーブルで食事をしながら、話し合っていた。
ウルフ討伐から逃げ帰ったような形で門に付いた俺達は、町に入ろうとしたのだが、ゴブリン族であるミコブは西門では町に入れなかった。
てっきり門の前で待っているのかと思ったが、「試すだけ試してみようゼ」とミコブが言い、俺が何喰わぬ顔で門番さんに挨拶、そのうしろをちょこちょこミコブがくっついて来た。
カッセイラ東門の門番さんと会った時、ミコブはゴブリンだとバレないように、フードで顔を隠していて、その時に仲間だと紹介していた為か、門番さんも特に怪しむことも無く侵入できてしまい、通りがかりの町の人も特に気にしていないようだった。
西の時は最初にゴブリンの姿で一緒に入ろうとしたので、西の門番さんは俺の連れがゴブリンだと知っていたが、東の門番さんはそれを知らなかったためだったと思われる、町の人に関してはまさかモンスターが町に入ってるとは思ってもいないみたいで、特にこちらに注目してくることもなかった。
ちなみに、ゴブリン族は人間の子供くらいの背丈であるが、冒険者の中にも似たような背の人も居る、リアルでそうなのかもしれないし、キャラクター作成時に身長や体格も変更できるからだ、ただあまりにもリアルより変更してしまうと、操作し難くなる、レア種族で体形が変わるのもそうだが、このVRシステムはコントローラーで操作するのではなく、ゲームの中でもリアルと同じように体を動かす感覚で操作するので、そういった事が起きるのだ。
さて、話が逸れたが、そんな訳で無事初めての町に入れたミコブだが、装備等はすでにそろっていた為、武器屋等には寄らず、ある目的の為にこうして酒場で食事していた。
目立たない奥のテーブルに陣取った俺たちはギルドの入口や、受付を注視しながら、フライドポテトをつまむ、皮つきでくし形のフライドポテトは味付けが塩だけではあるが、表面は揚げたてのようにサクサクしていて、中はホクホク、シンプルな味わいでいくらでも食べられそうだ!実際に、ゲーム内なら腹に溜まらないのでいくらでも食べられるのだが、おいしいだけで何か効果があるわけではなく、Gもかかるので程々にしようとは思う、と、俺達の目的はポテトを食べに来たわけじゃない。
「結構人が来ますが、でも4人組が多いね」
「そうだナ、少しモンスターと戦えばPTの方が良いのはわかるシ、多分だガ、城址の情報を知ったヤツらがこっちに来てるだろうしナ」
何かありそうな怪しい場所、カッセイラ城址草原。
その[何か]とは高確率でダンジョンだろうというのは予想できる。
ダンジョンに入るなら基本PT上限である4人が理想だろう。
俺達はまだ城址で何か見つかったという情報は聞かないが、もしかしたらすでに見つかってるかもしれない、見つかっていなくても、見つけたらすぐ突入できるようにする、それが4人PTが多い理由なんじゃねーカ、とミコブが教えてくれた。
だが、俺達の目的は城址草原ではない。
勿論、そちらに興味が無い訳ではないが、今の目標はウルフの討伐、上手く行きそうならまだ見ぬ強敵である[ウルフリーダー]討伐だ。
それに協力してくれる仲間を探している訳だが、絶対の条件が人数だ。
俺とミコブですでに2人なのだから、1人か2人で居る人を誘わなければならない。
先程も言ったように、基本的にPTとして扱われるのは4人までだからだ。
フィールドでは、4人以上で集まる事もできるが、PTではない場合、経験値やドロップ、クエストの討伐数などが無くなるようだ。
メリットが薄いので、何か理由が無い限りは基本的に4人PTでの行動がベストである。
「ナナバの街の噴水近くでPT募集している人達が多かったけど、そっちにいってみますか?」
「いヤ、チラッと見た感じだガ、ポータルの門番はプレイヤーをチェックしてるっぽいんだナ、東門の門番は大丈夫だったガ、次も上手く行くとは限らねーしナ」
そういう訳で、俺たちはポテトをお代わりしつつ、再び誘えそうな人を待つ。
お、今条件に合う、一人のプレイヤーが入店してきたぞ。
俺が「誘ってみます?」とミコブに言うと
「いヤ、ジン、誘うならやっパ、可愛いネーチャンが良いだロ!」
と、言って、拒否された。
・・・今誘おうとしたプレイヤーは金髪の長い髪をしていたが、男性プレイヤーだった。
「しかモ、オデが見た所、アイツめっちゃキャラクリしてるナ、顔も整いすぎだシ、体付きも筋肉質なのに細すぎダ、少なくとも天然モノじゃねーナ、却下だ却下」
うーん、その人は弓を装備していた為、役割的には相性が良さそうだったが、性格や好みでミコブと相性が悪そうだったので、諦める事にする。
「そっか・・・じゃあ誘う人はミコブが選んでもらっていい?俺は特にこだわらないからさ、話してみないとどういう人かも見分けられないし・・・」
「おウ!任せロ!天然物の美少女を見極めてやるゼ!・・・さっきも聞いたが妹ちゃんは来れないんだよナ?」
「初期地点がナナバじゃなくて、どこか分からないみたいで・・・」
妹を呼べれば良かったが、合流できないのでどうしようもない。
可愛くてゲームも上手い
ああ、うん絶対可愛いじゃん間違いない、あー早くこっちのナルにも会いたいな~
「うーん、中々誘える人って居ないもんですねぇ」
4個目のフライドポテトの盛り合わせをつまむ俺達。
PTメンバーを増やしたいが、条件の合う人が中々見つからない。
いや、人数的な条件だけで見れば何人か居たのだが・・・
「あれは駄目ダ!チャラすぎル!男だシ」
「顔が若すぎル!中坊ぐらいカ?ダメダメ、男だシ」
「なんだあの筋肉達磨ハ!ネタキャラかヨ!無理無理」
と、相性が良くない人ばかりだったのだ。
・・・・と、いうか・・・
「ねぇミコブ」
「ン?どーしタ?」
「さっきから・・・さぁ」
俺は見ていて思った事をミコブに告げる。
「女の人で、1人2人で居る人、いなくない?」
「・・・・気づいたカ」
見ていると女性プレイヤーもそこそこ居るのだが、すでにPTを組んでいる人ばかりで、1人や2人で居る人は居なかった、男性プレイヤーならそこそこ居るのに・・・
ミコブはフゥー、と溜息をついて俺にこの世の理なるものを話しだした。
・・・俺には理解できない事も少々有ったが、つまりは
女性プレイヤーは誘われやすく、ここに来るまでにPTに誘われて組んでる事が多い。
と、言う事らしかった。
ゲームだから強そうな人が好まれるのかと思ってたけど、そうでもないのかな?
他にも一人で進めている女なんて大抵地雷ダ!だのよくわからない事を言ってたけどミコブが謎のヒートアップをしてきた所で、一人のプレイヤーが目に留まった。
「メンヘラなんて加えて見ロ!厄介な事このうえな―」
「あ、ミコブ、あの人は?」
ミコブは一瞬顔を傾げ、俺の視線を辿った。
そこには長い金髪をツインテールにした、スタイルの良い女性プレイヤーが一人居た、PTも組んでる様子が無い。
「・・・・おイ、ジン」
「誘ってみる?」
「マテ、ジン、あれハ・・・・男ダ」
「!?」
う、うーん?見る限りは女性っぽいけど・・・初期服ではない何だか露出が多めの装備をし、胸元を大きく開けているので、男性とは思えないが・・・
「オデには分かる、ヤツは男ダ、きっとステータスには(♂)って書いてあるだろうナ」
ああ、そうか、キャラクタークリエイトの際に別性を選べるんだった!その場合ステータスに元の性別が表記される、昔性別を偽った事で起こったトラブルが多く、そのような仕様になるよう法律で決まったらしい、VRを使用する際個人登録するのも法律でそのように決まっていて、データベースで管理されているとか。
まぁ、詳しくは知らないのだけど、ただ別性で純粋にゲームをしたい人も居るから、キャラクタークリエイト自体はできるんだろうけど・・・。
だが、ステータスはPTを組んだり、相手が表示を許可したりしないと見れない。
ミコブは何故か分かるみたいだけど・・・VR慣れすると見分けがつくのかな。
「まァ、一人で居る女プレイヤーなんテ、そんなもんダ、サービス開始から間もない今ならもしかしたラ・・・と期待したガ、仕方ねェ、男でも良いから適当に探すカ・・・・」
「そう?ミコブが良いなら俺はそれで構わな・・・あ、今入って来た人も一人みたいだけど・・・」
「おーそーかそーカ、じゃあもうソイツでい・・・・ンンンン!?!?」
なぜかなげやりな態度になったミコブが、今入って来たプレイヤーを見ると目を見開いて凝視し始めた。
「あ、ちょっとミコブ、顔が見えそうだよ」
フードから少し緑色の肌が見えていたが、幸い他の人には気づかれなかったようだ。
しかし、ミコブは俺の言葉に反応せず、そのまま凝視し続けている。
そして、ぶつぶつと独り言を言い始めた。
「あれは・・・リアルスタイルベースか?・・・まぁまぁいじっては居るみたいだが・・・・ふむ、特徴的なたれ目は地っぽいな、スタイルは・・・・うーん、服で分かりづらいが、そこまでいじっては無さそうだ・・胸はいじってそうだがよくわからん・・・見た所年齢は・・・30前後か?悪くはねーが・・・ふむ、性格はどうだろうか・・・」
「おーい、ミコブ?ミコブさん?」
小さい体をゆすって呼びかけるとようやくミコブが反応した。
「ジン!行ケ!あのプレイヤーを誘うゾ!」
「え、あ、うん・・・ああ、そうか、ミコブだと何があるか分からないしね」
最初ミコブも一緒に来てくれないかと期待したが、ここで待っているようだ。
今まで街中でゴブリン族を見たことは無い、驚かせてしまうかもしれないし、ここは俺が一人で誘いに行くべき・・・と、いうことか。
俺は頷くと、今入って来た[黒髪ポニーテールの女性プレイヤー]に向けてゆっくりと歩き出した・・・。
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