第21話 VSウルフ
[闇縛]!
一体のウルフが黒い糸に絡み取られ、もがいている。
そこへ俺が攻撃を仕掛ければ、ダメージを与える事ができる。
だが、今はそれを実行しない、いや、できない。
もがいているウルフの横を、今、違う[ウルフ]が通り過ぎ、こちらへ向かってくる。
その後方を見ればさらにもう1匹、ウルフが向かってきている。
「くそ!MPが足りねェ!追いつかれるゾ!」
「ミコブはそのまま走って!俺が何とか時間を稼ぐ!」
「・・・・すまねェ!」
俺は走るのをやめ、その場で構える。
せめてミコブだけでも逃がさないと!俺は覚悟を決めた。
最初は勝てると思っていたウルフだが、そう簡単にはいかなかったのだ。
なぜこうなったのか、それは初めに現れたウルフへ、カウンター攻撃を入れた直後の事だった。
鉄盾でウルフの攻撃を再び受け止める、今だ!
俺の鉄剣の一閃がウルフへヒット!良い手応えだ!
だが、一撃で倒す事は出来ず、攻撃を受けたウルフはそのまま大きく飛び退いた。
俺は追撃をするためにウルフへ向かって行く!
後ろからミコブが声を出すのが聞えた。
「んあ?なんダ、新しい魔法をお披露目しようと思ったガ、必要ないカ」
「はい!このまま追撃して仕留めます!」
その判断が間違いだったんだと、後に後悔する。
ミコブと別れた後、バンとの出会い、一人でクエスト等を経て、俺は少しだけ自信がついていた、だから攻撃後、すぐに追撃に迎えたし、攻撃の感触も良く、あと一撃で倒せるんじゃないかと思ってしまった。
俺が攻撃に向かうまでの間、体勢を立て直したウルフ。
でも大丈夫だ、一発もらうかもしれないが、俺が外さなければ倒せるはずだ!
しかし、そこでウルフは予想外に行動にでる!
「グルル、ワォーーーン!!」
ウルフが突然大きな声で、[遠吠え]をした!
一瞬、戸惑った俺の攻撃を、ウルフが避けた!ミス!攻撃を空振りする!
その隙にウルフが攻撃・・・せずに、さらに距離を取った!どういう事だ・・・!?
「な・・・そういう事か!!」
目の前に一匹・・・その奥からもう一匹・・・ウルフが飛び出してきた。
「まずいゾ!ジン!一旦退こウ!」
「ッ・・・は、はい!」
3対2、いくらこちらがレベルが上がっているからといっても、相手の方が数が多いというのはやっかいだ!
それは今まで、俺たちが二人で一匹の強いモンスターを倒していたように、このゲームでは数が相手より勝っていれば、それだけ有利になるのだ。
ウルフは素早い、ゴブリンの速度なら3匹でも対応できるが、ウルフの速度では攻撃を躱すのも、攻撃を当てるのも一苦労だ、しかもそれが3匹となると・・・
ミコブの声掛けのお陰で、瞬時に危険を理解できた俺はウルフに背中を見せ、逃げ出す。
ウルフもすぐに俺を追いかけるが、ミコブが[闇縛]を使い足止めをする。
しかし、1匹を足止めしてる間に他のウルフが迫ってくる。
ウルフは素早く、[闇縛]の効果が切れたウルフがまた後ろから追ってくると、距離が開かず、逃げる事は不可能だった。
ミコブは現在、杖を装備しており、MPが無くなると接近戦は厳しい。
このまま二人で逃げても、二人で戦っても生き残るのは厳しいだろう。
だが、たとえそうだったとしても・・・せめてミコブだけでも逃がしたい。
・・・・・・
いや、ちがう
俺は、たとえ不利だとしても、諦めたくない!そうだ!
「来いよ!ウルフ達!3匹まとめて、俺が相手だ!!!」
恐れちゃいけない!数が不利だからって、絶対負けるわけじゃないんだ!!
「グワァォ!」
先頭のウルフが俺へ襲いかかる!
俺は鉄盾を構え・・・
「シールドバッシュ!!」
ウルフの攻撃に合わせ、ぶん殴る!ヒット!ウルフは大きく吹き飛ぶ!
しかしその隙を突き、別のウルフが俺へ攻撃!
「グォォォ!」
「がっ!くそう!」
ガードも間に合わず、強い振動を受ける!
が・・・まだ数発耐えられるぞ!
攻撃してきたウルフへ鉄剣で反撃!が、避けられた!
すぐさま後ろへ飛び退き、構え直す!
3匹のウルフは俺の隙を探すようにゆっくりと側面へ回り込んでいく!
囲まれたらまずい!じりじり後退する事で、それを防ぐ!
だが、右手側のウルフに視線を送った瞬間!左手側のウルフがスッと視界から消えた!
すぐに反応して左のウルフを警戒する!ウルフは距離を保ったままだ!・・しまった!!
右からウルフが襲ってきたのに気づいた時にはもう、避ける事もガードする事もできなかった!
鉄剣を振り回して追い払うと、今度は左から攻撃を受ける!
「ぐあ!う、くそ!」
今の攻撃自体は最初に直撃した攻撃より振動が軽く、ダメージは少なかった、だが、こちらが反撃する隙が無い!
無理に反撃しようとすれば、死角から別のウルフが渾身の一撃を放ってくるだろう!
ヒット アンド アウェイに徹し、連携もしてくるウルフは一体一体はそれほどではなくとも、今まで戦った敵より間違いなく強く、厄介だった。
戦況は1対3、そのうちウルフ二体は手負いであり、鉄剣さえ当たれば1・2発で倒せそうではある、しかし簡単に当たってくれるほどウルフも馬鹿では無い。
どうする・・!このままじゃ負ける!
ジリジリと削られながら、活路を探す・・・!
そうだ、先程から攻撃してくるのは左と右のウルフだけじゃないか?
真ん中のウルフは俺の注意を引くのに徹して、フェイントは掛けて来るものの、先程から攻撃してこない!なぜだ?あいつが一番最初に現れたウルフだからだ!
ウルフは馬鹿じゃない、仲間が居るのに自分を危険に晒す事はしないんだ!
そこで閃く・・・・失敗したら致命的だが、やるしかない!
再び左のウルフが視界から消え、俺は左へ注意を向ける・・・・
フリをして!すぐに前へ突っ込む!
右から俺を狙っていたウルフの攻撃を紙一重で躱した俺はさらに加速!
狙うは・・・もちろん真ん中のウルフだ!
命が惜しいウルフは当然俺から距離を取ろうとする!
くそ・・・間に合わないか!何か少しでもウルフの動きを止められれば・・!!
[闇縛]!
黒い糸が絡みつき、避けようとするウルフの動きを止めた!
「間に合ったカ!ジン!よく粘っタ!」
「ミコブ!うおおおお!」
鉄剣で糸に絡みつかれたウルフを一閃!
「グキャン!」
甲高い鳴き声を発して、ウルフは消滅!!
すぐに振り向き、追ってきた2匹のウルフの攻撃をガード!
鉄盾にガンガンッ!と連続で強い衝撃を受ける!
二体のウルフを挟み、向こう側には[棍棒]を装備したミコブ。
俺はミコブを逃がすため、3対1で戦ってると思い込んでいた。
でも実際は違ったんだ。
ミコブは最初なんて言ってた?そうだ、ミコブは[一旦退こう]と言ったんだ。
それを俺は勝手に、勝てないから逃げよう、と、勘違いした。
そして、逃げきれないから足止めしよう、なんて・・・俺はウルフより馬鹿だな。
その間もミコブは勝つために考え、杖から棍棒に変更し、回復したMPで[闇縛]を発動、援護してくれたのだ。
これで2対2、数の上では対等だ、自分を恥じながらもミコブの作ってくれた状況にこたえる為、俺は再び声を上げる!
「次はどっちだ!かかってこい!」
2匹がほぼ同時に向かってきて、左右に別れる!
俺は右手側のウルフへ、駆け出し、向かって行く!
背後からウルフが追ってきているが、気にしない!目の前のウルフも俺に敵意むき出しで、飛び掛かってきた!
俺はその攻撃を受けながらも、無理やり鉄剣を振り、一閃!ヒット!
ウルフの攻撃が直撃したため、かなりダメージを受けたが、ウルフにもダメージを与える事に成功した!
お互い軽く後ろへ弾かれる、その時、追ってきたウルフが背後から俺に攻撃してきた!
「グルァァ!」
「やらせねーヨ!」
そこへミコブが棍棒を振り下ろしながら飛び込み、ウルフと衝突!ミコブは着地に失敗し、体勢を崩すが、ウルフも思わぬ攻撃に怯んだ様子だった!
そのウルフがミコブへ視線を向けた瞬間
「もらったぁああ!」
ウルフの頭上から鉄剣を振り下ろす!
一閃!
鳴き声を上げる間も無く、消滅!
残り一体!振り返れば最後のウルフが突撃してくる!
間に合う!鉄盾を構える!
ガンッ!と強い振動を受けるが、ガードに成功!
「うおおおお!」
力を込めた鉄剣での反撃!
が!
ミス!回避された!
「グギャ!」
体勢を立て直したミコブが追撃!ヒット!ウルフが僅かに怯む!そこへ!!
「終わりだ!!シールドバッシュ!!!」
右手で鉄剣を思い切り振り下ろした事により、振り子のように振り上げていた左手の鉄盾で力いっぱいぶん殴る!
クリティカルヒット!
ゴンッ!と鈍い音が鳴り、殴られたウルフがその場に崩れ落ち、消滅!
「はぁ・・・はぁ・・・ミ、ミコブ、その・・・」
「フー・・・ン?どーしタ?」
息を整え、ミコブに頭を下げる
「ごめん、俺・・・」
「ア?ジン、なんで謝ってんダ?」
俺は先程の件、自分勝手に行動してしまった事を謝罪する。
するとミコブは
「はぁ?初見の相手に最初から適切な動きができる奴の方が少ないんだナ、それに結果的に勝ったんだから良いじゃねーカ!グギャギャ!」
そう言って笑い飛ばした後、急に真面目な顔をし
「あァ、それよりヨ、ジン・・・・」
「ど、どうしたの?」
「さっき言ってたジンの妹について
「・・・・えぇぇー」
突然、真面目な顔で言い出すから何かと思えば・・・
そういえば戦闘前にそんな事言ってたな・・・と思い出し、なぜか妹について興味深々なミコブに、俺は可愛い妹の素晴らしさを語った・・・。
「まさカ、ジンがシスコンだったとハ・・・」
「友達からも良く言われるんですが、シスコンってどういう意味か分からないんですよね、聞いても教えてくれないし、俺は可愛くて優しくて超絶良い子な妹の話をしただけなんですけど、今度検索してみようかな」
「ジン・・・いヤ、検索しなくて良いんじゃないカ・・・ウ!?なんダ!?昔似たような事が合った気ガ・・・イヤ、関係なイ、忘れよウ・・・灰色の青春メ・・・!」
「ミコブ?ああ、それでさ、この前も妹が―」
「いヤ、分かっタ、もういいゾ!」
おっと、悪い癖が出てしまった。
可愛い妹の話をするとつい、熱く語ってしまう。
この思いをみんなと共有したくなってしまうのだ。
まぁ今度実際に妹を紹介して一緒に遊べば分かってくれるはずだ。
妹は人見知りで、知らない人とはあまり話せないが、その内から溢れる優しさ、一目見れば誰もが振り向く可愛さは例え会話をしなくとも感じられるはずだ!!
「ま、まァジンがそこまで言うんダ、楽しみにしとくヨ、グフフ」
まだまだ妹の話をしたい所ではあるが、一度保留にするとして、今の状態だとウルフはきつく、リーダー討伐は難しいと俺たちは判断した。
「夜になればフレンドがログインするので、来てくれると思うんですが・・・」
「オデはジン以外フレンド登録してねぇからナ、うーン、一度カッセイラに戻るカ」
ウルフを狩るなら、せめてもう一人欲しい所だが、フレンドのバンは夜まで来ないので、新しくPTメンバーを探すか、あるいは別の場所でレベル上げするか・・・という事になり、一度カッセイラの町へ戻ることになった。
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