第20話 嵐が去って

昼食を終えてすぐ、ねーさんのスマホに電話がかかってきて、「まーちゃんに怒られたあああ、ので、ねーさん戻ります!あい、びーばっく!とぅざじーちゃん!」等と意味不明な事を叫びながら、ねーさんは家を飛び出していった。

嵐が去った穏やかな時間を過ごしていた俺と妹、だがそれも束の間の事だ。

甘えるようにくっついていた妹が、「もうこんな時間・・・、行ってきまーす」と言うと、部屋に引きこもってしまった。

時間を見れば13時、GMOからログアウトしたのが、11時前だから、もう2時間程経っている、GMO内の時間の流れは現在、2倍程遅いため、そのせいでリアルの時間の流れが速く感じてしまう。


食事も終わったし、家事も済ませた、嵐も去った。

せっかくの連休なのに友達も妹もGMOに夢中で、出かける予定も無い。

・・・・俺も、ログインするかぁ・・・・

少し寂しさを感じつつ、それを紛らわせるため、再びVRMMOの世界にログインした。



カッセイラの町から再開、装備も整えたし、先程武器屋の店主から受けたクエストを確認していると、メッセージが届いた、ミコブからだ!


おっス!今、通話大丈夫カ?


「こんにちは!大丈夫です!」と、ミコブに返事をするとすぐに通話が来た。


「おっス!昨日ぶりだナ!調子はどーダ?」


昨日の夕方に別れたばかりだというのに、ゲーム内の時間が遅いせいか、もしくはその間も色々と濃密だったためか、ミコブの独特のイントネーションと、ゴブリンボイスが妙に懐かしく感じた。


「昨日はどうも!あれからクエストをこなして、レベルも11に上がりましたよ!」


「結構上がったナ!こっちも深夜にレベリングしテ、今は15ダ!」


なんと!別れた時ミコブはlv10だったと思うが、5レベルも上がっている!

聞けば深夜にログインして、朝方までやっていたとか・・・、それから寝て、少し前に起きてログインしたらしい。

今日も一緒にPTを組んで遊ぼう、という事になりカッセイラの門前で合流する事になった。

今、ミコブは別の場所からカッセイラまで戻って来ている最中だったらしく、それまで多少時間がかかるという事で、話しながら待つ事にする。


「んデ、南はずっと森が続いててナ、ゴブリン的にはどうモ、その森を奥へ奥へト、進んでいくのガ正解だったらしイ」


ナナバ東の森を、俺たちは森に沿って北側から迂回して、丁度森を挟んでさらに東側のカッセイラに着いたが、ナナバ東の森は南へ伸びていて、ナナバの街を囲む草原の南東を占拠しているらしく、かなり広いそうだ。

ゴブリンの初期地点である村で情報収集をした所、どうも森の奥にはもっと大きいゴブリンの集落があり、ゴブリンの進め方としては人族の町の方には行かずにそちらを目指すのがゴブリン族開始プレイヤーのなんじゃないかと、ミコブは話していた。


ナナバ東の森は現在、ダンジョンが見つかって混雑しているが、深夜の時間帯なら避けて通れるぐらいの人数で、またミコブもlv10になって、強くなっていたため、ゲーム内の夜に移動し、プレイヤーを避けレベル上げをしていたらしい。

その際、同じゴブリン族で始めたプレイヤーとPTを組んだらしいが


「あいつラ、プレイヤースキルはある癖ニ、連携が下手でナ、ゴブリンだかラ、身体能力も低いシ、まぁ肉壁にはなったガ、あれダ、初心者のジンと組んだ方ガ、スムーズに進めたワ、それニ、なんダ、たの・・いや、なんでも無い、もうすぐ着くゾ」


と、ミコブは話していた。

もし、「初心者のジンより、同じゴブリン族の上手いプレイヤーの方が良かったワ!」となっていたら、悲しい気持ちになったかもしれないが、幸いそうはならずに、これからもミコブと遊べそうだ。

とはいえ、いつまでも初心者だからとミコブに甘えていたら愛想をつかされてしまうだろうし、俺も一人の時はちゃんとレベル上げや、情報収集に励もう・・・!

少しして、城址草原で、ミコブと合流した。


「おお、ジン!ちゃんと装備が揃ってるじゃねェカ!似合ってんゼ!」


「ミコブ!昨日ぶり![タンク]の役割をちゃんとこなせるように頑張って揃えたよ!ミコブこそ、5レベルも上がってて、すごいなぁ」


「ゴブリン族はレベル上がるの早いみたいだからナ、でもヨ、集落にはロクなモン売ってねーからナ、早速だが換金頼めるカ?」


「勿論!」と了承し、二人でカッセイラの町に行こうとしたが、ミコブと別れた時とは違い、この辺りもプレイヤーが増えてきたため、人目に付きたくないという事で、なるべくプレイヤーに近づかないように、移動する事にした。

昨日深夜にログインした時は結構危なかったそうで、プレイヤーに見つかったのだが、幸い無視されたそうだ。


俺達もそうだが、レベルが上がってくるとわざわざ距離のあるを倒しに行こうとは思わない。

[闇縛]という魔法を使えるミコブだが、見た目は棍棒に布切れ装備の他のゴブリンとまったく変わらない姿だ、いや、ゴブリンにも個性があって多少顔が違ったりするのだが・・・、顔を確認するぐらい近くに来たらすぐ倒すので、今はもう気にしていない、だがゴブリンの中にミコブが居たら俺は顔で分かると思う。


カッセイラの門の近くはプレイヤーが出入りするため、少し離れた場所で待っていてもらう事にした、何かあっても「しゃべりかけるカ、それでダメなラ、あの門番の兄ちゃんニ助けてもらうワ」と言っていた。

とはいえ、心配なので、町に入っても通話したままギルドで換金した。

ミコブに素材の換金額を伝えると、装備を頼まれたので、防具屋に行き、姿隠せそうなローブとフードにグローブと皮のブーツを買った。

ローブは体上下セットの装備らしく、これだけ1000Gした、計2200G

とはいえ、ミコブに渡された素材は多かったので、問題なく買えた。


「わかっタ、武器はまだいいカ、杖にでもしようかと思ったガ、武器より魔法のスキル書を買った方ガ、良さそうだシ」


スキル書は1000Gするので、それもまた今度で良いらしい、なんでも新しい魔法を覚えたそうで後で見せてくれるそうだ!楽しみだな!

その後、問題なくミコブと合流し、装備とお金を渡した。

そういえば・・・と、売らずに取っておいた初期装備の杖があると伝えて、売っても10Gにしかならないから、と渡す。

さっそく装備したミコブの姿はフードで頭をすっぽりと覆い、ローブを纏って体を隠し、腕と足はグローブとブーツを装着し、杖を持つ。

・・・・うん。

すごく怪しい!!

しかも顔を隠せるような装備が無かったので、緑の肌の顔が見えてしまっている。

フードで隠す事は出来るものの、近くで顔を見せないようにしたら間違いなく怪しまれるだろう。

逆に考えれば、遠目からなら隠せるし、体格は小さいがゴブリンとはバレないだろう・・・怪しすぎてモンスターだと思われる事は避けられないかもしれないが。


「まァ、あれダ・・・そういう小さい種族も居るだろうしナ、大丈夫だろウ、多分」


この姿になっても、町に入れそうになかったため、俺たちは町の外壁に沿って周り、[カッセイラ東の街道]へ向かう、ウルフのクエストを攻略するためだ。

森の南へ一緒に向かう案もあったが、そうなると今度は俺がゴブリンの集落に入れない可能性が高いという事で、クエスト攻略に挑む事になった。

カッセイラの町はナナバの街程ではないが広く、東西南北に門があるのはナナバと同じだ、南の門を通り過ぎ、東の門へ着く。

そこで情報収集のため、門番さんに話しかける、東門には丁度プレイヤーの姿が無かったため、俺と一緒なら大丈夫だろうと、ミコブも横に居る、俯いて顔を隠しているが。


「ウルフか、道沿いにまっすぐ行けば嫌でも現れるだろうよ、最近どんどん増えていてな、ギルドでも討伐依頼を出しているらしいが・・・うん?リーダーの居場所?

うーん、知らんなぁ、ウルフを狩り続けていればでてくるんじゃないか?所で、そこの怪しいチビはなんだ?ん、PTメンバー?見かけで判断するのもどうかとは思うのだが、大丈夫なのか?」


門番さんに「大丈夫です!」と伝え、礼を言い、道を進む。

ちなみに先ほど換金の際、ミコブに言われてウルフの討伐依頼は受けてある。

店主からの依頼は[ウルフリーダー]の討伐であり、普通のウルフとも戦う事になるだろう。

ミコブが「クエストあるんじゃないカ?」と言うので、確認した所、リーダー討伐は無かったが、ウルフの討伐はあった、という次第だ。

この討伐依頼は、狩った数分の報酬が出るそうで、期限も無いため、良さそうに思える。

それだけウルフが増えており、少しでも多く討伐して欲しいという事なのだろう。

他のプレイヤーも受けていそうだったが、街道には人影が無い。


「城址草原が狩場に良さそうだからナ、絶対ダンジョンか何かあるだろうシ、皆ソッチ行ってんじゃねーカ?東の森のダンジョンもあるシ、そもそもこっちに来ているヤツ自体、全体の数割だろうしナ」


ナナバの街の西には、大きな街があるらしく、事前情報が有った事から、そちらに行くプレイヤーが多い、そういえば、妹が話していたが、なんでもその大きな街がエルフ、ドワーフ、人族の合流地点になっているそうだ。

事前情報で、基本3種族の合流地点として紹介され、3種族の初期地点からの方角の情報もその時に出たらしい。

大きな街を目指す人が多いのはそのためだ、というか、人族しかいないナナバの街でさえ、数えきれない人が居たのに、エルフ、ドワーフ、他のレア種族も居るのだから、GMO全体のプレイヤー数はとんでもないんじゃ・・・・

ちなみにレア種族の情報は殆ど出ておらず、初期地点の位置さえ情報が無かったそうだ。


俺はミコブからナナバ東の森がゴブリンの開始地点だと教えてもらったが、妹であるナルの種族[妖精族]の初期地点の場所はナルでさえそうだ。

スタートダッシュする以外にもそういう理由があって、まだナルと合流できない。

先程昼食後に話していたが、ナルは今、レベルを上げながら進み、街を探しているそうなのだが、まだ他のプレイヤーにさえ会っていないらしい。

寂しくないかなぁ、心配だなぁ、と考えているとミコブが声を掛けてくれる。


「ん?おイ、ジン?どうかしたのカ?」


「あ、いえ、なんでも・・・いや、ちょっと一緒にGMOを始めた妹が心配で」


「ふァ!?妹!?ジンに妹が居たのカ!それkwskクワシク!」


ミコブに俺の妹がどれだけ、可愛くて優しく、頭が良くて良い子なのかを話そうとした丁度その時であった。


「グルルルル!ガウァ!」


踏み固められた街道へ、その脇の森から、灰色の毛並みの狼、[ウルフ]が1体飛び出してきた!


「出たな!来い!ウルフ!」


俺が[アピール]で敵意を受ける、俺に向かって走ってくるウルフ!速い!

構えた俺に、ウルフが飛び掛かり、それを鉄盾でガード!

カンッ!と音が響いた!ウルフの爪攻撃が鉄盾にヒットした!軽い振動を受けるが、それだけだ!HPも減っていない!

木盾では分からなかったが、鉄盾ならウルフの攻撃はガードすれば防げる!

俺が鉄剣で反撃すると、ウルフは素早く飛び退いて、それを避けた!

ウルフとの初戦闘だったので、ガードに意識を取られて反撃が少し遅れたのだ!

だが、次はこうはいかない!ウルフは素早いが対応できそうだ!

その時はまだ、そう思っていた、これならいける!と・・・・。



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