第19話 ねーさん警報発令


[注意]  ねーさんが出ます。

    あ、ダメだ、きっつ と思った方。

    精神に異常をきたしそうな方。

    いいからさっさとゲーム進めろ!という方は

    このページを飛ばしてください。

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部屋の窓から外を見る、空は清々しい晴天で、雲一つ無い。

気温もちょうどいい、春のあたたかな陽気だ。

はぁ、こんな良い天気の日にお出かけしたらきっと楽しいだろうに。

GMOがつまらないわけじゃない、夢中になってプレイするぐらい楽しい。

VRの中も、どういうわけか温かさや寒さ、食べ物の味や食感を感じるので、家に居ながら色々な体験ができるのは素晴らしいと思う。

それはそれとして、たまには普通に外に出て買い物を楽しんだり、外食したりするのも重要な事に思える。

いや、単に俺が妹とお出かけして楽しみを共有したいだけかもしれないが・・・。


ふと、スマホを確認すると、不在着信が3件、そのうちねーさんからが3件。

なんだ?3件?今日はやけに・・・・

うん?なんだ、メールも入ってない・・・なんだか悪い予感がするぞ・・・!!

・・・・まぁ、あのねーさんに何かあるって事はそうそうないと思うが、なんだろうかこの悪寒は・・・・と、とりあえず昼食の準備をしなければ・・・。

言いえぬ謎の感覚を感じた俺だが、とはいえ何かできる事も思いつかず、昼食の準備のため、キッチンに下りて冷蔵庫の中を確認する。

今日は何にしようか・・・

その時である・・・・!




「つったーか!つったか!らららーら、ららら♪」




家の入口の方から何かが聞えてきた!

うわっ!この近所迷惑を気にもしないような音量の歌声は!!!


ガチャガチャガチャン!


「ただいまんもすらっぴっピィー!!!ピッピッピヨコのめだまやきぃー!

そこのけそこのけ!義[よし]ねーさんのお帰りだぁあああ!!」


うわぁ、出た・・・!


「あれー?あれー?だれかいませんかー!しっのぶーん!なっるるーん!

あーそーびーまーしょーーーー!」


俺ははぁ・・・と溜息をつき、返事をする。


「ねーさん、いつも言ってるように、もう少ししず」


「おっほぉおお!しっのぶーーーん!いっるじゃああああん!ただいまただいま!

愛しのねーさんが帰ってきたああああ!!寂しかったぁ?寂しかったよね!うんうん」


「ねーさんおちつ」


「やあああ!ゴールデンウィーク終わるまで帰れなかったんだーっけど!けど!

ねーさん寂しくなってかえってきちゃいましたああああ!きゃーーー!」


はぁ、まったくこの人は・・・・

人の話を聞かない、無駄にテンションが高い、変な動きをする、まるで変わってない、まぁ、いつも通り元気そうだ。

今も手をわちゃわちゃしたり、体をくねくねしながら話し続けている。


「なにかあっ」


「そうそう!そーなの!そーなのよおお!ねーさんねぇええ!海の上をどんぶらこっこどんぶらこっことしてたらねぇ!へへへ!なんとなんとなんとぉ!!!」


えーと、確か?俺が高校入学後すぐに、突然「けぇーぞくおーにあたしゃぁなる!」とか言って、出かけて行ったんだっけ?後から聞いたら恐らく船に乗って何かの仕事をしてるっていう感じだったはず・・・いや、ねーさんが喋ると、8割以上意味の無い事ばかり言うから正確な事はわからないんだけど・・・本人も分かってるのかさえ分からない、その日から家に帰ってきたり、来なかったりで、特にここ数日は帰ってきていなかった。


「海の上で何かあったの?」


ねーさんは満面の笑みを浮かべ、ドヤ顔、そののち、大げさに貯めに貯めて


「それは~!まだ、ひ・み・つ!きゃー!気になる?ねぇ気になるでしょ?あははははははは!ひ・み・つ!ひ!み!つぅー!」


この人はまったく・・・ああ、そんなに顔を近づけてしゃべるな、笑うな、唾が飛んでくる、やめてくれ・・・

そして、またくねくねしながら


「でもぉ~どぉ~しても!っていぅならぁ~しのぶんにだけ、と・く・べ・つ・に!教えてあげてもいーょぉ?きゃーーー!ねぇねぇ、しのぶん!どうだった!ねぇ!今のちょーせくしぃーだった!?わー、ねーさんの大人の色気でちゃったかぁ!まいったなぁこりゃ!ねぇねぇ!しのぶん惚れた!ねーさんに惚れちゃった?うひゃー!どーしよどーしよ、しのぶんが悩殺されちゃったぁ!にーさんとねーさんになんていえばいいの~!!」


さて、ねーさんに構い続けると日が暮れてしまう、昼飯作るか、今日はオムライスでいいか。


「あっ!ちょっとしのぶん!人のお話はちゃんと最後までききましょ!ってがっこーでならわなかったの!ねーさんもみんなに言われるからちゃーんと覚えたよ!えっへん!えらいでしょー!ねぇねぇ、なんかいってよー!無視しないでぇ~!ねーさんないちゃうゾ!ぐすん、およよよよ」


バターもケチャップもあるな、よし作るかー


「ああんもぉ!わかったわかったよぉ!白状します!自首しますからぁ!こっちを見てよ~!しのぶーん!おーい!聞こえてるぅ?あぁ!おひるごはん作るの!?ねーさんのも!ねーさんのも作ってぇ!朝からホテルのぶっふぇ?しかおなかいっぱいたべてないのーーー!!もうねーさんはらぺこ!ぎぶみーちょこれーと!あれ?ぎぶみー・・・おひるごはん!!今日のお昼ご飯はなんですかー!はーい!ねーさんカレーがいいでーす!あっダメだ、昨日カレー食べたんだった!がっかり・・・あれ?でも二日目のカレーもおいしいっていうよね!?じゃあやっぱりカレー!カレーにきめた!辛いのだめよー!甘口にしてね!」


これは、反応しないとずっと喋ったままの上、ちょっかいかけてくるパターンだなぁ・・・仕方がない。

俺は準備を一度止め、ねーさんの顔を真顔でジッと見る。


「しの」


「ねーさん、ゴハン抜きにされたくなかったら、少し静かにしてください」


「ぶふぁ!?・・・・は、はーぃ・・・」


ねーさんは口にチャックをするジェスチャーをした後、体をぷるぷるさせながら、構ってほしそうにこちらを見続けている。

・・・・すごい気が散る、はぁ、少しだけ構ってあげるか・・・。


「それで、ねーさん、ゴールデンウィーク明けまで帰らないって話だったけど、何かあったの?」


「よおおおおくぞきいてくれましたぁああああ!そうそうそうそうそーーーなのよ!!ねーさんひろーい海の上でお船にのって海賊のオタカラを探してたのよ!!友達のまーちゃんと!まーちゃんのパパのひげせんちょーと!すいへんせんの向こう側を目指して!かぁー夕日が目にしみたねぇ!海が荒れたらそりゃ大変よ!ねーさんちょーがんばった!まーちゃんもよしちゃんがんばったね!えらいねって褒めてくれてうれしかったです!はなまる!それでそれでね!ねーさん、ほぁー海はひろいなぁ、大きいなぁ!青くてピカピカしてきれいだなぁ~って見てたら、カモメさんがいたの!そしたらね、まーちゃんがあれはカモメじゃなくてアホウドリだよ!って言ってねぇ!カモメさんをアホのトリだなんて言ったらかわいそうだよ~!ってねーさん注意してあげたの!そしたら変なにおいがしてね!くさーいなにこれーって海を見たら、見つけたの!見つけちゃったのよぉ!」


積を切ったように早口で話し出すねーさん、相変わらず本題に入るまでが長い。

だが昔からこうなので今更言ってもしょうがない、何度も言ってこうなのだから。


「そう!それはねーーー!ででん!ここで問題です!それはなんでしょーか!なんだとおもう?ヒントはおっきいおさかな!お水がしゅーーーってなって!たべられちゃったらこわいよねぇ、あれ?でもねーさん昔食べられた人みたよーな?たいりょうじゃぁ!たいりょうじゃぁ!って!あ、まってまって!今言う!言うから!なんとね!それは――――」


俺が再び昼食の準備に取り掛かろうとすると、ねーさんが焦って答えを言おうとする。

その時、トテトテと音がして、妹のなるが下りてきた。

ねーさんがその場でくるくると回転して、「じゃじゃん!」と言った丁度その時になるがこちらへ顔を出した。


「うわ、やっぱり居た、よしねーおかえ」


「 お さ か な の う ん 〇!!!!」


少しだけ、答えが気になっていた俺はねーさんの方へ振り向いていた、両手をYの字に上げそう叫ぶねーさんの後ろになるが居て、その発言を聞いたなるが、物凄く嫌な顔をする、恐らく、今の俺の顔同じようなものだろう、満面の笑みなのはねーさんだけだ。


「ねぇねぇ!驚いた!?驚いたでしょー!うん〇だよ!う〇ち!あ、なるるん!ただいまぁってどこ行くの!ちょっとまって、まってー!愛しのねーさんが帰ってきたんだよ!なるるーん!お話しましょ!まってまってよー!無視しないでよぉー!」


回り込まれ、階段への道を塞がれた妹が、逃げるようにトイレに駆け込み鍵を閉めた音がした、はぁ、さて昼食作らなきゃなーっと。

まったく、いくらねーさんとはいえ、女性で、しかも今年24歳だろ?そういう言葉を連呼するのはどうかと思う、はぁ。


「なーるるーん!出てきてよー!可愛いなるるんのお顔をねーさんにみせてー!おーいってばー!ここを開けてー!開けて!・・・こらー!開けろー!出てこーい!金返せー!居るのはわかってんだぞぉ!ドンドンドンドン!こらー!こいつがどおなってもいいのかぁー!?キャーなるるんタスケテ―!ほらほら!なるるんの大好きなおねーちゃんがつかまっちゃったぞ!でてこないとひどいめにあっちゃうぞ!キャー!なるるんタスケテー!デテキテー!オネガーイ!」


料理しながら、ああ、なんか一人芝居始まっちゃってるなぁ、ああなったらなるが出てくるまで止まらないよなー、はぁ、と溜息をつく。

まったく、仕方がない、可愛い妹のためだ・・・。


「ねーさん、リビングで座っててください、ゴハン食べるんでしょ」


「ふぁぅ!そーーだった!ねーさんもうおなかとせなかがくっついてぺったんこになっちゃうところだったんだ!って、もー!しのぶんったら!ねーさんのおむねはぺったんこじゃないやい!ちょっとはあるんだから!みたい?みたい?キャー!もぅ!しのぶんのえっちーぃ!んあ!おなか!おなかぐーって鳴った!ねぇねぇ!ごはんまだー!今日のおひるはカレー?」


「ねーさん、もう少し静かにして、テレビでも見てて、昼食はオムライスだよ」


「キャー!ねーさんオムライスだいすきー!たまごふわっふわにしてね!わーい!ケチャップでお絵描きしよーっと!はーとにしようかなぁ!星にしようかなぁ!たーのしみーだー!あ!またぐーって鳴った!しのぶんまだー?ねぇまだぁ!?」


はぁ、なんだか疲れた・・・とにかく、何か食べさせておけば少し静かになるだろ。


「すぐ出来るから、あ!なるちゃーん、ちょっと手伝って!」


俺が声を掛けると、妹がしぶしぶと出てきて、手伝ってくれる、こんな様子ではあるが、なるは、ねーさんの事が嫌いな訳じゃない、その証拠にねーさんが帰ってきてすぐに、下りてきたしな!


「きゃはは!このテレビ面白ーい!あっ!なるるん!会いたかった!いぇーーー!

あれ?さっきも会ったんだった!会いたかったのに会っていた!?あれ?あれれ、どういう事だろー?ま、いっか!今日のゴハンはねーさんの大好物のおいしいおいしいオムライスだよお!なるるんのオムライスにもねーさんがケチャップでお絵描きしてあげるね!何がいーぃ?ねぇねぇ!返事してよーぉ!なるるんの可愛い声を聞かせておくれぇー!」


妹が食器を出しながら、ぼそっと呟く


「帰ってこなくていいのに・・・」


・・・真顔で小さく零したその言葉を聞いた俺は

あれ、嫌いな訳じゃない・・・よな?と、少し不安な気持ちになった。




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