第18話 鉄の盾
ナナバの街の東門に戻って来た俺は、門番さんにゴブリンの討伐を完了したことを報告した。
「助かった、しかし、そこまで緊急の依頼では無かったのだが・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・いえ、これはちょっと走りたい気分だっただけで、ふぅ」
ゲームの中でも全力で走ったら息が切れるんだな、しかし、走る速度や持久力は段違いだ、リアルでも運動は好きな方だが、この距離をこの速度では走りきれない。
もしレベルアップで、そういった能力も上がっていくなら・・・カッセイラ・ナナバ間ぐらいなら走って節約するのもいいかもしれない・・・。
それはともかく、討伐達成を報告し、クエストを完了した。
「あまり良い物ではないが、報酬代わりに受け取ってくれ」
そう言って門番さんは俺にベルトの用な物を渡す。
[ポーションホルダー]ポーションを一つストックできる皮のホルダー
「ありがとうございます!」
「また何かあれば頼む」
「はい!」
門番さんと別れ、街の中を歩く。
先ほどの報酬でもらったホルダーを装備してみるか。
ベルトの用に腰に装備されたホルダーには、何も入っていなかったので、荷物からHP回復ポーションを取り出し、入れる。
なるほど、戦闘中に即座にポーションを使える様になるのか。
別に今までも戦闘中にポーションが使えなかった訳ではないが、戦闘中に[意識]してウィンドウを出し、[操作]して[選択]し、取り出したポーションを[使う]、という手間がかかる、このホルダーがあれば[取り出して][使う]だけでいい。
門番さんは良い物ではないと言っていたが、とても実用性がある良い品じゃないか。
カッセイラの防具屋にはベルトは売っていたが、これは売ってなかったな・・・。
今後、門番さんや、町の人から頼み事をされたら、積極的にこなそうと思った。
戦士のジョブに就いた俺だが、どうも、ジョブというのは取得した段階では特に変わらず、先ほどの戦闘で色々と試してみたものの、スキルを新しく覚えたりはしなかった。
ヘルプには経験を積む事で、スキルを覚えたり、能力があがると書かれている。
レベルアップしていく過程で、徐々に変わってくるのだろう。
となれば、モンスターを狩って、レベル上げする必要がある。
先程の戦闘でファイターとメイジを同時に相手にしても問題ないと分かったので、カッセイラ城址草原奥の、最初の門をくぐった所が丁度いいだろう。
あそこにはファイター、メイジ、アーチャーが居て、1~3匹出現するからな。
他の場所に行ってもいいが、情報が無い。
夜にはバンが来るし、今は居ないがミコブもログインするかもしれない。
ならば、冒険は後にして、今は丁度知っている場所で良い場所があるのだからそこでレベル上げしておこうという考えだ。
ポータルを利用するべく、噴水の広場に来ると、先程きた時のようにPTメンバーを募集するプレイヤーが多くいた。
なるほど、ここは広いし、噴水も綺麗だし、おまけにポータルがあるから、移動もしやすい。
街に用事がある人も通るだろうし、人が集まりやすく募集する場所としては適して居る、叫んで募集する人以外にも、良いPTの募集が無いか待ってるような人もチラホラいた。
「PTメンバー募集中!回復できる方ー!おいしい狩場教えます!」
「ヒーラー募集中!ダンジョン行きます!」
「ダンジョン攻略PTあと一人募集中です!回復魔法使える方居ませんか!」
「レベル10前後のレベル上げPTです!回復役募集中!」
「ダンジョンPT回復職募集!可愛い女の子なら回復以外でも可!」
「メンバー募集!一緒に冒険しませんか!こちらLV10のアタッカーです!」
「ダンジョン攻略PTレベル10以上タンクの方募集中です!」
「ダンジョン攻略しませんか?当方アタッカー3名、ヒーラー募集です!」
なるほど、今はダンジョン攻略パーティーが多いみたいだ。
それと回復が使える、ヒーラーを求めるPTが多い。
確かに回復できる人いればモンスターを倒すのも楽になるし、死ぬリスクも減るしなぁ、人を助ける[ヒーラー]を目指すのも良かったかもしれない。
でも[ヒーラー]は、他のゲームだと、攻撃力が低くて、仲間がいないとモンスターを倒しづらいイメージがある、俺は一人でもモンスターを倒したいと考えてしまうから、[ヒーラー]になるのは難しいかもしれない。
そういえば以前、うっかり、紙で指を切った時、妹がばんそうこうを貼ってくれたっけ・・・、ああ、心優しい妹ならば、[ヒーラー]に向いているかもしれない。
俺が入れそうな募集もあったが、ダンジョンに行くPTのようだったので今はやめておいた。
レベル10とはいえ、俺はまだVR初心者で、戦士になったばかりだ。
初ダンジョンで、知らない人たちとPTを組むのに多少抵抗があった。
ポータルを利用し、カッセイラの町へ行く。
城址草原へ行こうと歩いていると、冒険者ギルドが見えてきた。
・・・そういえば、ギルドではクエストを受注できたな。
ギルドに入り、昨日教えられた掲示板の前に行くと、何枚もの依頼書が貼ってある。
ゴブリンの討伐や、スケルトンの討伐の他に、知らないモンスターや、アイテムの納品依頼まで、色々な依頼書が貼ってある。
俺はその中から、ゴブリンファイター10体の討伐依頼書を取り、受付持っていく。
「すみません、このクエストを受けたいんですが」
「かしこまりました、こちらは期限の指定はございません、完了後、ギルドへご報告ください」
クエストを受託しました、とメッセージが出た、また、受付の人に聞いた所、期限の指定が無いギルドからのクエストは10件まで、期限指定があるものは3件まで同時に受ける事ができるらしい、また指定が無いものは冒険者ギルドならどこでも報告が可能だとか。
ならばと、俺はアーチャーとメイジの討伐依頼も受ける、これもファイターと同じく10体だ。
素材を換金後、ギルドを出て、防具屋に行き、新たに皮鎧下と皮のブーツ、皮の手袋、皮の帽子を買い、昨日買った皮鎧上も含めて皮シリーズが揃うと、冒険者風の見た目になった、また頭装備と装飾品等は非表示にもできるようで、皮の帽子だけ非表示にしておく、理由は、皮の帽子がちょっとカッコ悪かったからだ。
お金はまだあるが、鉄シリーズのために取っておこう。
装備を整えた俺は、町を出て、城址草原奥の門を抜け、ゴブリン達を狩り始めた。
LV10になってからの俺は、鉄剣での一閃で、ファイター達を一撃で倒せるようになったため、見つけ次第、襲いかかった。
ファイターは最初に顔へ向かって盾で殴り掛かり、隙を見せた所で、剣で一撃。
アーチャーは、放つ矢を盾で受けながら距離を詰め、剣で一撃。
メイジは盾で受けると多少ダメージを受けるので、一体相手なら避けるのを重視し、一気に距離を詰め一撃、他に一緒にゴブリンが居る時はアーチャーの時のように火の玉をガードしつつ、一撃、その後少し休憩を挟みHPを常に全快近くまで保ちつつ狩りをした。
最初の戦った頃は苦戦したが、今では複数相手でも余裕だ。
少し物足りない気がするが、ウォリアーやスナイパーは一人だと厳しい気がするし、ここの奥地にある池のカエルは毒や麻痺を使ってくるので無理だろう。
新しく仲間を探そうとも考えたが、ここに来るまで声を掛け安い様子の人が居らず、結局3つのクエスト、合計30匹を倒し終わるまで、一人で狩りをした。
討伐完了する頃にはレベルが11に上がり、その時ステータスを確認したところ、スキルを覚えていた。
[シールドバッシュ] 盾で殴りつけ攻撃する
簡素な説明であるが、レベルアップ前にファイターを殴りつけた時、ファイターを盾ごと体勢を崩させる事ができたので、恐らくその時にはスキルを覚えていたのであろう。
説明には書いてないが、このスキルは盾で殴りつければ自動で発動するらしい、また威力もスキルを覚えた事により上がっている。
試しにメイジにシールドバッシュを使ってみた所、盾が顔面に直撃したメイジは大きく吹っ飛び、倒れなかったものの、フラフラして詠唱を開始しなかった。
門番さんの依頼の時にゴブリンを木盾で殴った時は、気絶させる事ができたので、そういう効果もありそうだ。
威力は鉄剣で一閃するよりダメージは弱いものの、本来敵の攻撃から身を守るための盾で攻撃し、それなりに威力を出せるのだから、これがあれば戦術が広がる。
ギルドに報告するため、一度帰ろうと時間を見れば11時前だった。
いくら一撃で倒せるとはいえ、一人だと敵を探すのも時間がかかるし、ジョブの神殿へ行ったり、門番さんの依頼をこなしたりしたから、リアル時間ならとっくにお昼過ぎててもおかしくは無いぐらいだ。
昼食の準備があるため、町に戻ったらログアウトするか・・・。
今日は何にしようかな、と冷蔵庫の中身を思い出しながら歩いて行く。
カッセイラの町へ到着し、門番さんに軽く会釈して、ギルドでクエストの報告と素材の換金を終えた。
クエストの報酬は一つ300Gで合計900G、そこに素材の換金額が加わり、ほくほくでギルドを出る、所持金を見れば鉄装備を揃える事もできそうだ・・・!!
となればまず、盾を新調したい、ミコブと狩りで手に入れた[木盾]には思い入れが無いわけじゃないが、いつまでも[木盾]を使い続けるわけにもいかないだろうし、スキルも覚えこれから盾で殴る事が多くなるので、鉄の盾にすれば威力があがるんじゃないかと思ったからだ。
盾は確か、武器屋に売ってたはずだ、敵の攻撃を防ぐ為の物なのに防具屋に売っていない。
ギルドの向かいにある武器屋に入ると、話好きの店主が声を掛けてきた。
「お、兄さん!らっしゃい、丁度良かった、兄さんにちょいと頼みがあるんだ!」
「こんにちは!俺に手伝えることなら受けますよ!」
「おお、ありがとうよ、最近[カッセイラ東の街道]で[ウルフ]の群れが多く出没していてな、その頭の[ウルフリーダー]を討伐してほしいんだ、奴らが増えすぎると商人が襲われる可能性が上がるからな、倒してもしばらくするとまた増えちまうが、リーダーを倒せばしばらく時間を稼ぐことができるんだ、どうだ?受けてくれるか?」
ウルフか、戦った事が無い相手だ、それに複数の上リーダーという恐らく上位のウルフも倒さなければいけない。
ゴブリンよりは強いだろう、俺に倒せるだろうか?
とはいえ、せっかく俺に依頼してくれたんだ、断ることはできないだろう。
店主にウルフについて聞いてみた。
「奴らは群れで襲ってくるからな、兄さん腕は良さそうだが、一人だときついかもしれないね、仲間を集った方が良いと思うぞ、ああ、あと期限は7日だ、報酬は新しく入荷する装備から一つと、珍しい装備の購入権でどうだ?あまりウチには入ってこない品だから、誰にでも売れるモンじゃないんだ、装備は一つしか渡せんが、仲間と受けるなら珍しい装備はそいつらにも売ってやれるぜ」
なるほど!報酬は良さそうだし、期間も7日と長い。
俺は了承し、依頼を受託した。
そして少し迷ったが、500Gで売っていた鉄盾も購入する。
新しく売ってもらえる装備のために貯金しても良かったが、ウルフの強さが分からない以上、ケチって苦戦するよりは良いだろう。
とはいえ、鉄の防具を揃えると新しく売ってもらえる装備を買えなくなるかもしれないので、盾以外はそのままでいいか。
「まいどあり!じゃ依頼よろしくな!」
「はい!頑張ります!」
店を出た俺は、鉄盾を装備し、昼食にするため、町の中でログアウトした。
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