第15話 放たれた矢

世界がスローモーションになった気がした。

ゆっくりと、確実に[ゴブリンスナイパー]が放った矢が俺に向かって、飛んでくる。

倒れていて、立ち上がろうとしている状態だ。

避ける事も、木盾でガードする事もできない。

HPも足りない、当たったら死ぬ。


死んだらどうなる?町へ戻される?仲間はバンだけだ、蘇生できる仲間が居ないので、蘇生は無理だ。

俺が町へ戻されたら・・・バンはどうなる?

バンの残りHPは半分を切っている、俺が死んだあと、スナイパーと戦う事になれば・・・・勝機は薄い気がする。

このままではバンが死んでしまう。

[タンク]の俺が先に死んで、そのせいで仲間が死ぬのだ・・・!

ゲームだからやり直せばいい?そうだとしても俺は・・・・

・・・・・

死にたくない、いや、死なせたくない!

何か・・・何かないのか!?ポーションは!あと1個ある!

だがダメだ、間に合わない!この体勢では使う事さえ・・・

くそ!くそ!くそぉぉおおお!!

死なせたくない!俺は・・・まだ死ぬわけにはいかない!!!


ドッ!


スナイパーの放った矢がヒット、瞬間、俺の体に強い振動が・・・

・・・・・






「おらぁあああああ!!」


「ぐぎゃっ!?」


スナイパーの頭目掛けて、勢いよくメイスを振り下ろす!

悔しい!悔しい!悔しい!あああ!悔しい!

があと、もう少し強かったら!町で回復薬を買っていれば!


「てめぇぁ!くそが!つぶれろぉおお!」


「グギャギャッ」


振り下ろす、振り下ろす、振り下ろす!、反撃を食らおうが、振り下ろす!

もう後がない、あと一撃食らえば俺は死ぬだろう。

HPを確認する余裕は無い、攻撃のみに集中!!

スナイパーがまた反撃しようと弓を構え始める!


「うぉおおおらああああああ!!!!」


「グギ!?」


矢を放つ瞬間!俺の攻撃により、スナイパーの狙いが若干外れる!

だが、いかん、このままでは当たる!!

今攻撃したばかりで、次の攻撃は間に合わない!


一瞬の判断!


私は横に飛んで転がり、矢を回避できた!


が・・・・


無理な体勢で飛んだので、体勢を崩してしまった!


スナイパーはすぐに弓を構え直し、こちらに向かい矢を・・・


くそ・・・ここまでか。

ああ、悔しいな・・・あと少しだ、あと少しで倒せたはずなのに。


「ちくしょう・・・」


「グギャギャギャ!」


スナイパーがあざ笑うかのように鳴き声を上げる!


私は目を逸らさなかった、次は負けないという意地を持って!


そして見た。


「グギィッ!?」


ゴブリンが剣に貫かれ、消滅するのを・・・!!!








間に合った・・・!!!


スナイパーの消滅を確認したはその場で片膝を付く。


「ジン!あのHPで攻撃を食らって・・・生きていたのか!!」


「バン・・・間に合って,良かった・・・!」


立ち上がったバンが嬉しそうに駆け寄ってきて、手を差し出す。

俺はその手を取り、ゆっくりと立ち上がった。


俺があの状態で、どうやって生き延びたのか?

スナイパーの矢は確実に俺にヒットした。

その時俺のHPはその攻撃に耐えられるほど残っていなかった。

だが、生き残った、理由も分からないまま無我夢中で立ち上がり、駆け出して

そのままの勢いで鉄剣を突き出しスナイパーに突き刺したのだ。

ドロップアイテム、[ゴブリンスナイパーの耳][ゴブリンウォリアーの耳]をそれぞれ拾った俺たちは、そそくさと門まで撤退した。

門の近くには敵がいないので、そこで腰を下ろし、座り込んだ。

ステータスのスキル欄を確認すると、そこには新しく一つ、スキルを覚えていた。


[踏み止まり]現在のHP以上のダメージを受けた時、瀕死で耐える、超過ダメージが多い程発動確率低下、発動時にノックバック・ノックダウンを無効化する。


このスキルのおかげで生き延びる事が出来たのだ。

さらに俺はいつの間にかLV10になっていた。

おそらく、ウォリアーを倒した時にアップしたのだろう。

バンも先ほど、スナイパーが消滅した時にレベルアップしていて、lv8になったはずだ。

スキルを覚えたことをバンに話し、効果を説明する、バンもステータスを確認すると


「ふう・・・む?私もスキルを覚えているな」


そう言って、俺に詳細を説明した。

バンが覚えたスキルは


[復讐]戦闘中、自分や仲間が攻撃を受ける程、その戦闘中、攻撃をした相手へのダメージが上がる


との事だ。

死線をなんとか潜り抜けた俺たちは、HPが全快するのを待つ。

確認すると、すでに時間は22時を過ぎていた。

俺はログアウトするため、カッセイラの町へ戻る事を告げる。

バンはもう少し続けるらしく、一人になってしまうので、一緒に町へ戻る事になった。

一度町で準備してから、また狩りに行くそうだ。


帰り道、俺はlv10になってからメニューに表示されたものを確認する。

お知らせ、と書かれたメッセージだ。


レベルアップおめでとうございます、LV10から街の神殿で、ジョブを入手できます!是非利用してみてください!ヘルプを追加いたしましたので、詳しくはそちらをご覧ください!


ヘルプを見ると、詳細が書かれている。

ジョブはlv10から就くことができる、職業の事であり、戦士や魔法使いのような戦闘職から、鍛冶屋や薬師といった生産職、商人や漁師等もあるそうだ。

街の神殿に行くと、現在の自分が取得できるジョブが表示され、取得後もジョブを変える、所謂転職も自由にできるみたいだ。

ジョブにはレベルが存在しないが、経験を積むことでスキルを覚えたり、ジョブに対応した能力が上がると書かれている。


明日はジョブを取得するところから始めようかな。

今から楽しみだ、とその情報をバンにも教える。


「lv10でジョブシステム解放か、良い事を聞いた!だが、明日も仕事だから今日は無理か、だが目標ができた!明日も夜にログインする予定だが、時間が合えばまた組もうぜ!」


「はい!是非!楽しみにしてますね!あ、そうそう、時間が合うかは分かりませんが、もう一人フレンドが居るんです!なので3人になるかもしれません!」


「おう、何人でも大歓迎だ!いや、PTは4人までだから溢れると困るがな!がはは」


GMOのPTは4人までだ、それ以上の人数で組むコンテンツもあるようだが、詳しくは調べていないし、今はいいだろう。


帰り道、どんなジョブがあるか?とか、種族のようにレアなジョブもあるんじゃないか、取得条件付きのや、行動次第で増えたりするのか?等、ジョブに関しての談義に花を咲かせる。

ただ、ヘルプを見ただけでは分からない事も多いので、明日のお楽しみだろう。


俺は[タンク]の役割を目指しているから、それに適したジョブが取得できればいいなぁ、剣と盾を持って鎧に身を包み、最前線で敵の攻撃を凌ぎながら仲間を守る。

そういうジョブ、イメージでいえば、戦士とか騎士かな?

ああ、騎士といえば、昔妹が・・・・ふむ、あれば騎士になろうかな。

昔の記憶を思い出しながら、ジョブに思いを馳せ、バンと雑談していると

カッセイラの町に到着していた。

楽しい時間はあっという間だなぁ。


ログアウトする前に、今回の戦利品を換金することにした。

バンと共にギルドに到着すると、前に来た時より混雑していて、プレイヤー以外にもテーブルで酒を飲み、食事をし、笑いあっている人達も多かった。

ん!?中にはそれに交じって、プレイヤーも一緒に飲み食いしている!?


「ジンはVRMMOはGMOが初めてだったか?最近じゃ、ゲーム内で食事ができるなんて普通なんだぜ、私も最初は驚いたよ、ちゃんと味がして、満足感があるんだからな、とはいえ、現実で腹が膨れる訳じゃないが」


「おおお!VRMMOってすごいんですね・・・あ、あの料理とか美味しそう、リアルでも作れないかな・・・レシピ教えてもらえないかなー」


「ジンは料理とか作るんだな?私も一人暮らしだから焼いただけの物をたまに作るが・・・たまに母の手料理が恋しくなるよ、料理って作ろうとすると面倒だからな、そうだ、ジン、ジョブを料理人にでもすれば、料理が作れるようになるんじゃないか?ガハハ」


「ははは、それも良いかもしれませんね、そしたら妹にもっとおいしい料理を食べさせてあげられるし」


「妹か、私には弟がいるが、生意気な奴で、喧嘩ばかりしていた、料理を作ってやろうだなんて思った事もないな!ジンみたいな優しい兄が居て、妹も幸せだな!」


バンに褒められて、少し照れる。

よく、友達なんかと兄妹の話をすると思うのだが、俺と妹は喧嘩をした事が無い。

それこそ、妹が生まれたばかりの時から面倒を見ていて、両親は仕事の関係上不在にすることも多く、ねーさんはアレなので、俺がの面倒を見ていた。

小さい時からそうだったから、俺にとってそれが当たり前だし、妹は昔から甘えんぼさんだったから、苦労に思った事も無いし、喧嘩にもならない。

だから、変かもしれないけど、兄妹喧嘩ってどんなんだろう?とちょっと気になる。

あれ、兄妹だけじゃなく誰かと喧嘩した事あったっけ?むむむ・・・・


そんな事を考えつつ、換金が終わったので、俺たちは冒険者ギルドの外へ出た。


「今度、ギルドの酒場で食事しましょう!なんだか見ていたらとても楽しそうだ!」


「おう!その時はおごらせてくれ!私の方が年上みたいだしな!」


リアルの年齢を話したわけじゃないが、なんとなく分かるんだ、とバンは言っていた。

話の節々で、バンが社会に出て、仕事をしている事は分かっていたので、俺も改めて自分が高校生であることや、家の事情でバイトはしておらず、帰宅後は家に居る事が多いと話した。

俺が高校生であることを伝えると、バンは驚いていた。


「思ったより若いな!いや、自分より若いとは思っていたが、大学生くらいかと思っていたよ」


バンは20代後半だそうで、やはり日中は仕事をしていて一人暮らしだと話す。

大型連休が明ければ、俺も高校があるので、プレイする時間帯は殆ど同じだ。

シフト制の仕事らしく、休日は被るとは限らないが、今後も一緒にプレイできそうだ!


「今日はありがとうございました!明日もよろしくお願いします!


「おう!じゃあまた明日な!これからもよろしく頼む!」


ログアウトする前に、ふと気が付いて、フレンドリストを見る。

よしよし、ちゃんとしてみたいだな。

している事を確認し、俺もログアウト。

心地良い疲労感を感じつつ、俺は眠りについた。



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