第11話 初心
森を進む、すぐに1匹のモスピーを発見する。
気づかれぬよう、無言で指を指し、ジンに伝える。
ジンは頷くと、モスピーに向かって行った。
チッ、会話さえできれば事前に作戦会議をし、奇襲もできただろうに。
先程、プヨンを倒させたのが仇になったか?まぁ初心者だし仕方ねぇか。
まぁ、それならそれでやりようはあるか、囮になってもらうぜ、ジン。
こちらも行動を開始し、モスピーの背後に回り込む。
着地の瞬間を狙い、攻撃する!が、やはりまだ倒せないか!
攻撃を受けたモスピーのヘイトが移り、こちらに向かってきやがった。
くそ、一発食らうか!?と思った直後、ジンが体勢を立て直し、背後から強襲する。
すると、ヘイトがジンへ移る!これはパターン入ったんじゃないか?
二人交互に攻撃すると、あっさりと沈んだ。
なんだよ二人なら、ただの雑魚じゃねーか!
ジンへ向かい良くやった!とサムズアップすれば、あちらもサムズアップを返す。
同じパターンでもう一匹倒したところで、二人ともレベルアップ。
次も同じパターンを繰り返そうとしたが、ジンはモスピーの攻撃に慣れたのか、初撃を躱す、そういえば先ほども攻撃を避ける事は出来なかったものの、踏ん張って体勢を崩さなかった気がすんな、向上心があるのはいい事だ。
とはいえ、今回は裏目に出たか?モスピーが予測位置に来ねーから、移動しなきゃならねぇ、お、もう一発攻撃当てたな、こっちも攻撃したらレベルアップの影響か、倒せた、もう敵じゃねーな。
ノーダメージで倒すパターンを確立できたので、モスピー狩りをする。
攻撃をすべて躱すジン、いい動きすんじゃねぇーか。
二人が共にLV4になった所で、ゴブリンの奇襲を受けた。
「うわ!・・・ってえ!?」
「
ゴブリン死すべし、慈悲は無い!姿を確認した瞬間復讐に燃え、棍棒で攻撃する!
って、何!?こいつぁ・・・・くそ、しまった!
反撃をもらい、後ろへ吹き飛ぶ、何とか耐えて、踏ん張ったが、やっぱりか、もう一匹来やがった!
「うおおおお!」
「
ジンが戦っている間に、後ろの茂みから現れたもう一匹に声を掛ける。
「
「
この2匹は初期地点に居た、プレイヤーの、ゴブリンだった!
攻撃を仕掛けた後に、顔を見て気づいた、他のゴブリンより、ちょっとばかし見栄えよく、個性的な顔をしていたからな!覚えていたぜ!
その時自己紹介もしていて、つい聞いてしまった、確かこっちは・・・
[青カビ団子郎]だったか?てことはあっちはコミュ強の[みどベエ」か。
だがな、団子郎!ゴブリンはどんだけ顔いじってもゴブリンなんだよブサイクが!!
その反応だと、狙われていた訳じゃあなさそうだな!単純にこちらに気づいてなかった可能性もあるけどよ!とりあえずよぉー?
「
「
先に攻撃してきたのはそっち側だぜ?
遠慮なく先制攻撃したものの、反撃をくらう、くそ、そんなに甘くねぇーか。
レベルは分からんねーが、お互い体格は同じようなもんだ、タイマンなら先手を打った方が有利だ!と、思っていたんだが・・・こいつ、能力は変わらんのに、上手い!
動きが対人慣れしてやがる!確実にVRゲーム経験者だ!
こっちだって割とやってはいるが、くそ、近距離系はそんな得意じゃねーんだよ!
軽い攻撃ではあるが、素早く的確に狙って攻撃してきやがる!こっちの攻撃は全然当たんねぇ!じわじわ削られていく!
このままじゃやべぇー!と焦っているとそこへ声が掛かる!
「ミコブさん!今行きます!」
「
「
みどベエに勝ったか!
団子郎が突っ込んでくる、だが、もう勝敗は決してるんだよ!!
いくら自分より上手い相手でも、避けに徹すればそうそう負ける事はねぇ!
そして、ジンが到着すれば、2対1だ、ゴブリンの体で覆せるか!?
・・・答えはNOだった。
団子郎にトドメを指す、消滅を確認し、息を整えながら座り込む。
チラッと確認したが、金や武器は落とさねーみたいだ、代わりにゴブリンの耳が落ちてやがる、人族も同じように体の一部を落とすとは思えねーし、ゴブリン特有の仕様か?やっぱゴブリンと人族は争う宿命なのか?
人族であり、今はPTメンバーでもあるジンを見れば、目が合う。
とにかく、あれだ、助かったぜ、やるじゃねーかジンとサムズアップする。
こっちの言葉は通じねぇから、無言だけどな。
「ふぅ・・・ナイスファイト!」
ナイスファイトはそっちだよ、と思いつつ、ま、どーせ伝わらねぇか、とそれにこたえる事にした、あれだ、さっきはちょっと
「
ああ、照れっちまって、最初の方小さい声になっちまった!
ま、どーせ伝わらんしいいか!
その後ジンは昼食でいったん落ちるというので、草原まで一緒に行ってやる事にする。
ジンは動きも良いし、性格も素直で良い奴だ、死線を共にくぐった事もあって、男ではあるものの、気に入った!利用して捨てるのはやめる事にする。
とはいえ、まだまだゴブリンのソロでは厳しいだろう。
午後の予定を聞き、16時までなら良いと言われ、とすれば連絡手段が必要だな、と思い、フレンド登録を提案する、PTもそうだが、自分からフレンド希望するのも久しぶりだな。
了承されたが、フレンドもこちらから誘えなかったため、誘ってもらう。
草原に到着し、ジンと別れる。
プヨンでも狩ろうか、と思ったがこの近くは人族のプレイヤーがチラホラ見えたため、ジンが向かった方角から離れるように森の浅いところを移動し、プレイヤーが居ないのを確認して、草原でプヨンを狩る。
何匹か狩ると、LV5に上がった。
「地味にやるしかねーか・・・ん?」
あれ、今グギャグギャ言って無かったような?
あーあーてすてす、と言えばやはり問題なく発声される。
ステータスを確認すると、人語というパッシブスキルが増えていた。
レベル上がったからか!もっと早く欲しかったぜ、ジンを驚かしてやるか!
遠くに人影が見えたので、とっさに森に隠れる。
どうやら気づかれなかったようだ。
いや、人語を話せるのだからなんとかなるか?とりあえずどんな奴らか探るため、隠れて近づく。
「西はモンスターの取り合いでヤバイらしくて、今二人来れるって連絡きました!
で、この森そんなに美味いんすか?」
「ああ、人数確保できたし、もういいか、リア友からの情報なんだがよ、この森にダンジョンがあるってよ!」
「え、まじすか!あーだから頭数揃えてたんすね」
「そいつらはもう潜ってるらしくてよ、1PT4人までのインスタンスダンジョンらしい、つまり他の奴らに邪魔されずに狩れるってこった」
「おお、まじすか!今どこも混雑してるし、索敵もだるいっすからね、あいつら早くこねーかなー」
ほう?良い事聞いたぜ、だが、こいつらはもう4人で組んでるのか、じゃ、こいつらに用はねぇーな。
ピコッと機械音がなり、確認すればジンがログインしたようだ。
プヨンは弱いがその分効率悪いからな、さっそくメールを送ってみるか。
・・・・ってメールなら普通に打てるじゃねぇか!!
こうなるなら最初からフレンド登録してメールでやり取りすりゃよかったぜ。
回復アイテムを買ってからくるというジンを、最初に出会った所で待つ事にする。
夜が近いのか、辺りが暗くなってきた、待っている間に、だだっ広い草原に夜の帳が下りた。
ジンと合流した頃には森は暗く、視界が悪くなっていて、またダンジョンの情報が少しづつ広まっているのか、森に入っていくプレイヤーも増えてきたので、新天地を求め、森を迂回する。
普通に考えれば草原から森、森を抜けると次のフィールドにステージアップして行くと思うが、VRゲームは[世界の端]にでも行かない限り、見えない壁でフィールドが囲まれているという事は少なく、このゲームは特にAIが今も世界を作り続けているとされていて、事前情報では現時点でもすべての場所に到達するのは不可能と言われているぐらいの広大さだ。
無限の冒険、無限の選択肢、無限の可能性・・・・そんなゲームがVR本体さえあれば、他のゲームと変わらない値段で遊べる、追加パッケージ購入等も必要無い。
そりゃ、こんだけ話題にもなるわな。
ともあれ、そんなゲームだからこそ、初期街の周りを囲う草原、その先が森だけって事は無いだろう。
ま、東は全部森に囲われていて、進行方向的に北の草原まで来ちまうって事はあるかもしれねーが、その心配は杞憂だったようだ。
しばらく森を迂回して進むと、明らかに様子の違う草原地帯が見えてきた・・・。
それからジンと会話を楽しみながら進み、スケルトンを狩った。
スケルトンのヤローは、棍棒の攻撃の感触が他より良く、恐らく打撃が弱点なんじゃねーかと、思う。
棍棒以外で攻撃した事ねーからわかんねーけどな、だがアンデットモンスターだからか、攻撃に対する反応が薄く、モスピーのようにはいかなかった。
攻撃力も高そうで、ジンが死にかけ、取り乱していた。
しかし、スケルトンは動きが遅い、分かってしまえば対応できる。
とはいえジンは二体目から完璧に対応し、ノーダメージで倒した。
VR初心者で知識が無い分、初見の対応は良くないが、動きが良いしセンスがある。
経験や、知識さえ増えてくれば、その対応力と動きで、PTの守りの要である[タンク]に適性があるように思えた、攻撃の要である[アタッカー]をやらせても良いかもしれないが、[タンク]に適性がある奴は少ないので、これからもPTを組むとしたら、できればそちら方面に育ってほしい。
反面、こっちは知識はあるが、前出て戦うのは得意じゃない、そもそもゴブリンの身体能力が低すぎる、耐久力もそうだが、攻撃力が人族のジンと比べてかなり低い気がする。
どんどん足手まといになってきている気がする、ジンのためを思うと、今後、PTを組むのはやめた方が良いんじゃないかとも考えちまう。
最初は利用するだけ利用して、都合が悪くなったら捨てるつもりだったのに、そんな事を考え出すなんて、おかしな話だ。
だが、今日だけでも一緒に冒険したい、そう思わせる不思議な魅力がジンには有った。
人語を習得したが、ゴブリンは街さえ利用できなかった。
何かを察したのか、ただ単にお人よしなのか知らないが、ジンが自分の装備を買わずに所持金ほぼ使って、オレのために魔法を買って来た。
状態異常かデバフ系かは分からないが、相手の動きを妨害する魔法だ。
それを選んだのは他のゲームで、主にデバッファーを使っていたのもあるが、単純に名前が好みだったからだ、[闇縛]、可愛い女の子に掛けてやったらと思うと、ゴブリンの血が騒ぐぜ!
だが、今、趣味に走ってそれを選んだのは失敗だった。
そもそもゴブリンの性能の低さを知っていたのに、魔法を覚えるなんてのが間違いだった。
1発しか撃てない、行動阻害魔法、しかも格下にしか効果が薄い。
これならジンが剣でも買って攻撃するか、魔法を使うにしてもダメージを与える魔法の方が絶対に良かった、多少はダメージが入るし、それで怯ませる事だってできたかもしれない、回復を覚えていればそれだけ粘れていたはずだ。
[ゴブリンファイター]との戦闘で実感したそれを、ジンにこぼすように伝える。
・・・ジンは、そんな事はみじんも気にしていなかった、いや考えてさえいなかった。
感謝と共に、真面目な顔をして、ゴブリンのオレとこれからも一緒に遊びたいなんて言い出す。
ああ、自分がバカだった、好きで選んだくせに、弱いから、上手くいかないからってウジウジ悩んで、らしくねえ、バカみてーだ、いやバカだ。
だが、それももう終わりだ、ゴブリンだろーが、頑張ってやるさ、覚悟を決めた。
照れながらもなんとか感謝を伝えると、ジンは屈託の無い笑顔で頷いた。
あー、ダメだ、まともに顔を見てらんねぇ・・・。
一つ分かった事がある。
色んなゲームをやる中で、強さというのは大事だし、失敗を少なくして、効率良く冒険を進めるというのも大事だ、が
失敗を恐れず、素直に純粋にゲームを楽しむ。
ジンは、そんな初心を思い出させてくれる。
だからか?久しぶりに気持ちが昂る。
これからもジンと遊びたい、オレも!
わりーけど、付き合ってもらうぜ!ジン!
それからは、面白いようにすべてが上手く行き始める。
難しく考えずに楽しむ、試す、失敗しても良いんだ。
勿論、何ができるのかを考え、工夫するのも間違いじゃない。
やりたい事をやる、できないと思っても挑戦する。
自由度が高すぎて、ほとんど未知のこのゲームの攻略法。
その欠片を掴んだ気がした。
ログアウトし、VRを外す。
今日は楽しかった。
こんなにゲームを純粋に楽しめたのはいつ以来だ?
変わり者のオレが趣味や効率、何か目的があってじゃなく
コイツと一緒に遊びたいと思った事なんてあったか?
高揚する心と、冒険後の充実感に浸っていると、腹の虫が鳴った。
そういえば、今日何も食ってねーわ、少し疲れたし、何もねぇ、外食で良いか。
着替えるのだりいなぁ、と自分の体を見て、ふと思い出す。
「誰が牛じゃ!誰が豚じゃ!くそ、GMOめ・・・
よし、今夜は焼肉食い行くか!」
少しばかり肉付きの良い体を見て、独り言を零しつつ
好物の焼肉を食べに、着替えて部屋を出るのであった。
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