第10話 遭遇
初期地点は、薄暗い洞窟だった。
見渡せば、雑に作られた木の建物があり、そこら中で自分と同じ緑肌の小鬼が闊歩している。
[ゴブリン]だ。
VRMMO
基本三種族、[人族][エルフ][ドワーフ]の他に、自分に合う種族がレア種族として、表示されるらしい。
運が良ければ複数表示されるそうだが、さて、自分はどんな種族が出るのかと、期待してみれば[☆ゴブリン族][☆牛人族][☆豚人族]というラインナップ。
誰が牛じゃ!誰が豚じゃ!とキレつつ、その二つは除外。
残ったのは殆どのゲームで採用されるような基本種族と、ゴブリン族。
緑肌の小鬼である、ゴブリン族の絵を見て思う。
雑魚モンスター筆頭のゴブリン、皆の嫌われ者のゴブリン。
なぜ嫌われているのか?多くのゲーム、漫画でゴブリンは必ず敵であり・・・
最近では女性を襲ってアレやコレやする、女性の敵のように描かれる。
ふーーーん
いいじゃない。
実に自分の嗜好に合致する。
こうしてオデはゴブリンになったのだ!
さて、そんな種族だからか、選ぶ人はほかに居ないと思われたのだが、世界は広く、現時点で、二人ほどプレイヤーと思われるゴブリンが目に入った。
開始早々、コミュ強のゴブリンが「PT組もうぜ!」と声を掛けている様子だった。
掛けられた方も乗り気だ、そして話が終わればどうなるか・・・
こっちも誘われるんじゃないか?
・・・・自分がゴブリンになるのは良いが、ゴブリンと組む趣味は無いな・・。
どうせ組むなら可愛い女の子が良いぜ・・・グフフ。
あ、ダメじゃん、自分ゴブリンじゃん、組めねーわ。
ならやることはもちろん・・・グフフ、お楽しみだな!
ま、それに自慢じゃないが自分はコミュ弱だ、あんなコミュ強と組んだら心が死んでしまう、間違いない。
とすればすぐに行動に移す、気づかれないようにその場から移動する。
建物の影でNPCのゴブリンに出口を聞けば、小さな穴を教えられる。
ゴブリンならギリギリ通れるサイズのその穴を通る。
幸い気づかれずに、集落の外へでた。
外はいかにもモンスターがでそうな、少し薄暗い森だった。
荷物を確認すると、100Gの他に[棍棒][石]を持っていた。
これだけか、とりあえず[棍棒]装備しとくか。
棍棒を手に持ち、森の中を行く。
まずはレベル上げだな、お楽しみはそれからだ!
敵を探していると、緑の小鬼が1匹居た、プレイヤーではなさそうだ。
なんだ、同族か、と近寄り声を掛ける。
「おウ!ちょーシはどうだイ、ブラザー!」
「
なんだと!?この野郎!棍棒で殴りやがった!
不意を突かれて体勢を崩す、さらに相手のゴブリンが棍棒を振り下ろす!
軽く吹き飛ばされ、地面に転がる、痛みは無いが強い振動を受けた!
「ってェ!てめ、ぶち殺し・・・」
「
見上げるとすでにゴブリンが棍棒を振り上げていて、瞬間、ゴスッと強い振動を受ける、HPが無くなり、光に包まれる・・・・。
光が消えると、薄暗い洞窟の中、葉っぱの上に仰向けで寝ていた。
ガバッと起き上がり、辺りを見回す、初期地点の洞窟だ。
くそ、死んで戻されたか!外のゴブリンは敵って事かよ!
立ち上がり、ふと気づいてもう一度辺りを見回す。
先程のプレイヤーは居ないようだ。
速攻死んだ所を見られずに済んだ、ホッとすると怒りが湧いてくる。
ゴブリン死すべし!慈悲は無い!復讐のため、まずは集落を散策する。
とはいえ、小さな集落だ、あったのは武器屋とアイテム屋、防具屋はない。
品数もカス同然で、棍棒と石がそれぞれ100Gで、アイテム屋には薬草25Gのみだ。
しかも最悪な事に、死んだことで所持金が50Gになっていた、クソ!と思いつつ薬草を二つ買う、先ほどのプレイヤーが戻ってこないとも限らないので、そそくさと外へ出る。
外に出ると、森ではあったのだが、場所が違った。
入口が一つなのに、出口が複数、一体どういう事なのか、まぁ気にしても仕方ない。
いくら話題の超技術超AI搭載とはいえ、ゲームはゲームだ。
何かしらの都合があんだろう。
棍棒を持ち、慎重に進んでいく、と、今度はでかい芋虫を発見した、[モスピー]というらしい。
ゴブリンよりも弱そうだな、よしやるか。
奇襲攻撃を仕掛ける!こちらに気づいたモスピーが体当たりしてくる。
踏ん張って体勢は崩さなかったが、くそ!結構削られた!
一度距離を取り薬草を使用、多少ダメージが残っている物の、ほぼ全快する。
その間にモスピーが向かってくる、避けようとしたが無理か!
ならばと、被弾覚悟で攻撃!てめぇの攻撃は避けられないが、こちらの攻撃も避けられまい!もはや泥仕合だ。
攻撃し、攻撃を受け、距離を取り回復、攻撃を受け攻撃し・・・・
そして現在、モスピーから必死で逃げている。
くそ、ゴブリンを選んだのは失敗だったか!?あんな雑魚そうな敵にさえ勝てないのかよ!
HPが減っていて、動きが鈍い、結構攻撃したはずだがモスピーの動きに変わりはなく、引き離せない、このままでは他の敵に見つかり、死んで、今度は薬草も買えなくなる!くそ!いや、まてよ?
荷物を確認し、装備を変え、石にする。
これで殴り掛かっても倒せるかは分からない、だがモスピーだってダメージは蓄積しているはずだ!
振り向き、向かってくるモスピー目掛けて・・・
思い切り石を投げる!
コントロールに自信があったわけじゃあないが、運よく命中!ぶつかった衝撃のせいか、石は砕け、消滅!
モスピーが怯んだ!
が、ダメだ!倒せてねえ!
だが、もう後は無いようなものだ。
棍棒を装備して、鈍いからだで突撃する!
死ねこらぁ!!!
モスピーもこちらに向かい、突撃してくる!
そして・・・・!
ギリギリだったが、こちらの棍棒が先に当たり、モスピーが消え失せる。
瞬間、体が光り、レベルアップしたようだった、ドロップアイテムを拾いその場に座り込む。
LV2になったものの、金もなく、石も失い、残ったのはモスピーの皮と棍棒だけ。
休む事で、HPは回復できたが、LV2になった所で、もう一匹モスピーを倒せる気がしない、ゴブリン弱すぎねぇかこれ・・・
まぁハズレと分かっている籤を、好んで引いたわけだから、文句を言えた事じゃねーが、それにしても弱すぎる、序盤の敵ぐらい楽に倒させろ。
ああ、そういえば、アレがあったな、使ってみるか。
「エア、モスピーより弱い敵は何だ?」
冒険をサポートしてくれるって話のエアに問いかける。
森を出ると見つかるかもしれません!
ああ、そういう感じで教えてくれんのね。
森を出るには、どっちに向かえばいい?と、尋ねると、東に行くといいかもしれません!と答える。
今度はぼかさずに教えてくれたな、とマップを見て、東に進む。
噂の高性能AIってやつが、プレイヤーにどこまで教えるかを判断してんのかねぇ。
道なき道を進んでいくと、目の前の木々の間から、開けた場所が見えた。
しかもちょうどそこに一体のゼリー状の生物が1匹、佇んでいる。
見るからに弱そうな[プヨン]と言う生物。
にやりと笑いながら、棍棒を振り上げながら、向かって行く!
目の前に男が立っている。
身長180cmぐらい、引き締まった体に、緑の長く、もっさりした髪
顔は優し気な目をしたイケメンだ、ま、ゲームなんだから態々ブサイクなキャラを使う奴は少数派だろうが、恐らく、こいつはリアルスタイルベースだな、大人っぽい雰囲気だが、よく見ると少し、あどけない印象も受ける、見た目は20歳前後だが、もう少し若そうだ、中~高生ぐらいだと予想する。
VRMMOのキャラクリ審美眼には自信がある、いつもなら何十時間もかけてキャラクリするタイプだ、ま、今回は種族が種族だしリアルスタイルはまだしも、髪型さえいじれなかったため、数分で終わらせたが、ああ、ちなみにゴブリンはハゲだ。
まぁ、それはともかくだ。
状況としてはこうだ、見つけたプヨンに襲いかかり、一発当てた所で近くで声がした、見れば男が立っていた、種族は[人族]だろう、何が問題かって、こっちは
[ゴブリン]だ、つまりモンスター、敵であり、討伐対象だ。
男の目から目を逸らさず、警戒する。
タイミングを見て逃げるべきだな。
その時軽く振動を受ける!男の存在に驚き、プヨンを忘れていた!
男は動く様子を見せなかったので、とりあえずプヨンを対処する。
モスピーに比べ動きが遅く、先ほどのダメージもそれほどではなかったため、何発か攻撃を当てた所で、倒すことができた。
そうだよ、序盤はこのくらい簡単に倒させてくれ、なんでゴブリンは森スタートなんだよ、事前情報では人族やエルフは初期地点である街が紹介されていて、周りは草原だった、見るに、この草原に初期地点の街があるんだろ!
街も洞窟の集落とは大違いの、大きく繁栄した街だった!
と、いけねぇ、プヨンは倒せたが、男がまだ残ってる!
「こ、こんにちは!・・・」
「
男が怪訝な顔をする、思わず返してしまったが、やっぱダメか、伝わってねぇ!
ゴブリンやエアとは普通に話せたが、やっぱ「グギャグギャ」言ってるよな、これ。
だが、このまま逃げても追ってくるかもしれん、どうするべきか・・・閃いた!
棍棒を逆さに持って、地面に付け、引きずる、おお、いけるぞ!
コ ン ニ チ ハ・・・と、んーだが、待てよ。
プヨンは倒せるとはいえ、ゴブリンのソロは厳しい気がする。
同じゴブリンと組もうにも、さっきの奴らと会えるかわからんし、そもそもゴブリンとは組みたくねーな・・・。
可愛い女の子と運よく遭遇なんて事もねーだろうし、あった所で普通に戦闘になるだろ、何せこの醜悪な姿だ、話せもしねーし、プレイヤーだとも分からないんじゃないか?
その点こいつはどうだ?直感だが、ゴブリンに挨拶する辺り、ゲーム初心者か、余程の変人か・・・前者に思える、そして悪い奴じゃなさそうだ。
これはチャンスなんじゃないか?こいつを利用すれば現状打破できるんじゃないか?
可愛い女の子じゃねぇとはいえ・・・・背に腹は代えられねーか。
P T ク ミ マ セ ン カ ・・・と。
「はい!是非!俺、ジンって言います!よろしくお願います!」
「
よし、上手くいったぞ、PT勧誘っと・・・て、周囲に誘えるプレイヤーは居ません!?誘えねーのかよ!
ジンと名乗った男を見つめたまま、考える、あー、可能性は低いが、あっちから誘えねーかな?
言い出した手前、無理でした、じゃカッコつかねーし、伝えてみるか。
サ ソ ッ テ・・・と
「あっ!えと、ちょっと待ってください、俺初心者で・・・えーと・・・」
やはり初心者だったか、どうやらエアに誘い方を聞いているようだ。
「ミコブさん?ですよね?今お誘い送りました!」
「
機械音が鳴り、メニューにメッセージが出る[ジンさんからPTに勧誘されました]
勿論、承諾を押す、上手くいったか!焦ったぜ。
男、いや、ジンに向かって親指を立てて頷く、PTに参加すると頭上にHPゲージが出るのか。
PTを組めたとはいえ、会話による意思疎通ができないのはツラいな。
ジンは気を使って返事をしやすいように言葉を選んで話しかけてくる。
身振り手振りと、棍棒で筆談することによってそれに返答する。
同じLV2みたいだが、どれくらいの差があるのかと、ジンに力を見せてくれと頼む。
ジンは3発の攻撃で軽々とプヨンを倒した。
あ、ゴブリン弱いわっと、心で苦笑いしつつ、ゴブリンだから当然か、と頷く。
初心者とはいえ、中々良い動きをするジンを見て、これならいけるな、と考え、
[モスピー]を狩るため、森に行くことを提案した。
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