第9話 VSゴブリンファイター

カッセイラ城址草原の奥へ進んだ俺達は、目的の場所へ到達する。

深い堀に囲まれ、その先にはボロボロの壁が堀に沿って伸びており、目の前には橋がかかっていて、その奥に門があり、扉は無い。

ここまでくる道中は、ゴブリンがうろついていたが、橋の近くまで来ると姿が見えない。

ここからは見えないが、恐らく橋を渡った先にはゴブリンより強いモンスターが居るだろうと、予想できる。


「作りは和風だガ、建物は洋風だナ、よシ、行くカ」


「そうですね、行きましょうか」


俺が前を歩き、橋を渡っていく、ボロボロではあるものの、落ちる様子は無さそうだ、それにしても深いな、落ちたら上ってこれなそうだ。

橋を渡りきり、門をくぐると、小さい建物の残骸が所々に存在する場所だった。

残骸のせいでその後ろにモンスターが居たら分からなそうだ、注意して進もう。

橋から道はまっすぐ伸びているが、少し先はうっすらと霧が出ているような感じでよく見えない、ゲーム的な演出であろうか?

辺りを見渡しながら進むと、ゴブリンを発見した!

いや!先ほどまでのゴブリンと違って、あいつ、棍棒と木の盾を装備していて、帽子を被っているぞ!注視すれば、[ゴブリンファイター」とでた!

ミコブを顔を合わせ、頷きあうと、こちらから先手を打つ!


「くらいナ![闇縛]!」


黒い糸がゴブリンファイターを襲う!ファイターは立ったままもがいている!


「いくぞ!ゴブリンファイター!」


俺が声を上げながら向かって行くと、こちらに気づいたファイターが体を捩り、すると闇縛の糸が弾け、自由になる!くそ、簡単にはいかないか!

後ろから「チッ」と舌打ちが聞えた。

俺とファイターの距離が近づく、ファイターが棍棒で攻撃してくる!


「グギャゥ!」


「当たらないよ!そらァ!・・・な!?」


俺はファイターの攻撃を回避し、カウンターをしたが、ゴンッと鈍い音が鳴り、手応えが無い!盾で防がれた!

すかさずファイターが攻撃してくるが、俺も防がれたとはいえ、油断していなかったため、それも回避できた!

互いに相手の攻撃を受けないよう、牽制のような攻撃をし、回避、防御!均衡状態に陥る!

そこへ後ろからミコブが棍棒で攻撃を仕掛けた!ヒット!隙あり!俺もそれに合わせ棍棒を振り下ろす!ヒット!ファイターは吹き飛ぶがすぐに体勢を立て直し、向かってくる!いや!ミコブの方へ向かっている!

俺はとっさにファイターの前に飛び出る!


「させるかァ!」


「グギャァ!!」


「ぐあぁ!」


ファイターの棍棒攻撃が俺を襲う!ボコッ!と音が鳴り、強い衝撃を受けた!

俺は軽く吹き飛び、体勢を崩して膝をつく!HPバーを確認、くそ、結構食らった!

体勢を立て直し、向かって行くとファイターにミコブが攻撃を仕掛けており、防がれて、反撃をもらい吹き飛んでいた!


「ミコブ!このやろお!」


俺は声を上げ、力いっぱい棍棒を振り下ろす!ゴンッ!また防がれた!

・・・が、ファイターは盾を構えたまま少し後ろに吹き飛び、反撃してこなかった!

このまま攻める!俺は追撃に向かいもう一度力いっぱい攻撃しようとする!

ファイターはそれを狙っていたかのように横に飛び避けようとする!

しまった!避けられる!!


フォン!

俺の棍棒が空を切り、大きな隙を晒す!くそ、速く体勢を整えなければ!

だがそれを待ってくれるほど、ファイターは甘くなかった!

ファイターの棍棒が俺に向かって振り上げられる!

まずい!!


「グギャァ!」


ドゴッ!!!


ファイターが俺に攻撃を仕掛けようとした瞬間!

緑色の何かが、横から突っ込んで来てファイターとぶつかる!


ミコブだ!


「うぉぉおおおお!!!」


軽く吹き飛び、体勢を崩したファイターに渾身の一撃を叩き込む!!!


「くらえェェ!!!」


バコンッ!と棍棒の一撃が、ファイターの頭に打ち込まれた!


クリティカルヒット!!!


力を失ったファイターが倒れ、消滅!!




ドロップのゴブリンファイターの耳を回収し、俺たちは逃げるように橋へ戻って来た、お互いダメージを受けていたが、この近くには敵が居なそうなので、HP回復ポーションは温存する事にし、橋の上に座り込んで休憩する。

先程の戦いでミコブがレベルアップし、LV9になっていた。

俺はレベルアップしなかったが、どうもゴブリンという種族はレベルアップが多少早いみたいで、少しづつ差が開いてきたようだ。


HPが全快するまで、作戦会議をする。


「さっきはありがとう、ミコブが助けてくれなかったら、死んでいたかも」


「間に合って良かったんだナ、だけどアレだナ、レベルがオデのが上なのニ、今一、役に立ててない気がするんだヨ」


「そんな事ないですよ!さっきの体当たりもそうだし、魔法も強い!それにVRゲーム初心者の俺にとって、ミコブはすごい頼りになるし!」


「そうカ?魔法だって折角買ってもらったのニ、1発しか撃てないシ、さっきのを見るに弱い敵にしか効果が薄い魔法みたいダ、好みで選らんじまったガ、攻撃や回復タイプの方を選んでいたラ、もう少し違ったかもしれなイ、ゴブリンのじゃなく、他の奴と組んでいたらもっと楽に進めたかもしれないぞ」


「そんな事ないさ!俺、今日初めてVRをやって、ミコブと出会って、パーティを組んで、フレンドになって!モンスターを一緒に倒して!連携が上手くいくと気持ちよかったし、褒められて嬉しかった![タンク]の役割だって教えてくれて!とにかく一緒に遊んでいて楽しかったんだ!ほとんどミコブのおかげだよ!だから良かったら、これからも一緒に遊んでほしい、俺が一緒に遊びたいから!」


「・・・いや、なんダ、すまんかっタ、そんな事言われると照れるワ、ああ、も今日は楽しかっタ、テカ、考えてみりャまだ今日始めたばかりノ、序盤も序盤だったワ、趣味で選んだゴブリンだったガ、弱いわ街に入れないわデ、失敗したかなっテ、思ってたんだワ、でも、まぁ、ジンと出会って色々打開できたんダ、ここで諦めるなんて勿体ないんだナ、ああ、もう少し頑張ってみるカ!」


「ミコブ・・・!これからもよろしく!」


「ああ、こちらこそ・・・ジン」


「ん、どうしたの?」


「その、なんだ、アレだ、ありがとう」


頭を掻きながら、照れたように顔を逸らしながらお礼を言うミコブ

先ほどまで落ち込んだ様子で、心配していたが、もう大丈夫そうだ!




話が逸れてしまったが、改めて、作戦会議だ!

ミコブがレベルアップし、何か覚えてないかとスキルを確認したが、今回のレベルアップでは何も覚えなかったようだ。

俺も何気なくステータスを確認したのだが、なんといつの間にかスキルを覚えていた!


[アピール] 相手を挑発し、自分に注意を向ける


俺がミコブにその事を伝えると、苦笑いしていた。

ゲームで[タンク]には、大体そういう敵意を自分に向けるようなスキルがあるそうで、それを聞いた俺は少し前から意識的に戦闘時に声を上げていた。

そうすることでレベルアップした時スキルを覚えられるのでは、とLV7になった時にも確認したが、覚えていなかった。


「うーン?とすると、レベルアップとは別に行動回数とかで覚えられるのカ?いや、それならオデも棍棒の技でも覚えてそうなモノだガ・・・意識的に使うとカ・・・それなラ、人語ハ?・・・欲求、感情も影響すル?そんなバカな、いや、このクオリティのゲームならありえるカ・・・」


ミコブが難しい顔でブツブツと独り言を呟いている、何か考えをまとめているのかな?


「色々試してみるのも無駄じゃないのカ?そもそもほとんど何も無い状態でスタートしテ・・・門番の兄ちゃんの情報モ・・・・」


考え込むミコブがこちらの視線に気づいてハッとした表情をする。


「悪い悪イ、ちょっと気になることが多すぎてナ、とりあえずこれからどうするカ・・・ジンは何かあるカ?」


「そうだね、[アピール]を試したいかな?ファイターは強いし、戻ってゴブリンを狩って、お金を稼ぐ?」


「いヤ、手ごわいが倒せないわけじゃなイ、ファイターを倒そウ、ゴブリンは美味しくなイ、それニ、ちょいと試してみたい事もあるしナ」


俺は頷き了承する、ファイターは強いが、ミコブがそういうならその方が良いのだろう、一度戦ってファイターの実力は分かったし、先ほどの様にはいかないはずだ。

HPが全快した所で、再び門をくぐる。

一戦して、すぐ退避できるように、門から離れすぎない事だけ気を付け、索敵する。

・・・・む!遠くに敵を発見!

杖を持ち、帽子を被ったゴブリンと一緒にゴブリンファイターが居る!


「アレはやめておこウ、さすがにまだ二体は厳しイ」


「・・・・だね、一体でも危なかったし・・・」


幸い結構距離が離れていて、こちらに気づく様子も無かったので、反対側へ向かう。

建物の残骸に気を付け、慎重に索敵していると、今度は弓を持ち、被った帽子に羽飾りがついたゴブリンを一体発見した、こちらには気づいていないようだ!

俺の足をトントンとたたき、ミコブが小さな声で「後ろから不意打ちしよウ」と言うので、頷き、忍び足で近づく・・・・・

・・・・・今だ!駆け出して一気に距離を詰める!!


「くらえぇ!」


「グギャ!?」


こちらに気づいた弓を持ったゴブリン、[ゴブリンアーチャー]が驚いた様子で弓を構えようとするが、遅い!すでに俺は棍棒を振り下ろしている!

クリティカルヒット!アーチャーが少し吹き飛び、すぐに体勢を整え、弓を構えようとしている!俺はそうはさせないと追撃に入る!間に合うか・・・!?

ダメだ!間に合わない!だが・・・一発受ける覚悟で突っ込む!!


「ここダ![闇縛]!」


黒い糸がアーチャーに絡みつき、攻撃が・・・キャンセルされた!!!

アーチャーが身を捩り、黒い糸を外した!が、その時にはすでに俺の棍棒がアーチャーの頭に直撃する寸前だった!


二連続クリティカルヒット!!


アーチャーが仰向けに倒れ、消滅!

ドロップのゴブリンアーチャーの耳を回収する。

今はドロップはすべて俺に出るようになっている、ミコブは町に入れないため、俺が換金し儲けを折半する事になっている、「オデは町に入れないから今は金いらんのだナ」と言われたが、がログアウトした後で必要になるかもしれないので、押し切った。稼ぎがどうなるかわからないので、1000G分はとりあえず棚上げするが「一つ借りって事にしとくゼ」とミコブは言っていた。


今回はノーダメージだったので、引き続き索敵を開始する。

[闇縛]はゴブリンなら動きを封じ、転ばせる事が出来たが、ゴブリンファイターは数秒で抜け出し、体勢を崩さなかった。

そして、アーチャーはすぐに抜け出したものの、こちらに攻撃しようとした瞬間に発動したため、攻撃行動をキャンセル、つまり一旦阻害されて、再び構え直そうとしていた!

それが無ければ確実に攻撃されていた事を考えれば、行動キャンセルできる[闇縛]は実に有用で強いと感じる!

ミコブも「工夫次第で全然評価が変わるじゃないカ!」と喜んでいた。


盾と棍棒を持ったゴブリンが一匹で歩いている!

ファイターだ!周囲には何もなく、近寄れば気づかれるだろう。

先程のアーチャーとは違い、不意打ちできそうにないので、正面から仕掛ける!

ファイターがこちらに気づき、向かってくる!


「来いよファイター![アピール]!」


「グギャギャ!!」


今までも声を上げれば多少効果があったが、[アピール]を使うとファイターの意識が完全に俺だけに向いている、というのが分かった!

俺は構え、ファイターの攻撃を良く見て・・・避ける!

そして力強くカウンター攻撃!!

ヒット!軽く吹き飛んだファイターにさらに追撃を仕掛ける!

ファイターもすぐに体勢を整え、こちらの攻撃に合わせ、盾でガード!


「おラ!守ってんじゃねーヨ!」


黒い糸がファイターに絡みつき一瞬行動を阻害!守りが解かれる!

そこへ俺の追撃が炸裂!

クリティカルヒット!!!


ファイターはさらに吹き飛び、今度は体勢を崩した!

俺も追撃しようとするが、位置的に近くに居たミコブが先に追撃!!

体勢を崩していたファイターはこちらに注目していてそれに気づいていない!

ミコブの棍棒がファイターの頭に直撃!そこでファイターは力を失い消滅!!

俺の体が光を放ち、レベルアップ!LV8になった!

ファイターをノーダメージで倒せた俺たちは手をパチンと鳴らす!

ミコブからすればハイタッチだが、背の関係で俺からしたらロータッチだ。

上手くいった戦闘のあとで、自然にやってしまう行動だ!この瞬間がたまらない!


その後も一体で居る敵を見つけ次第襲い続けた。

弓を持ったゴブリンアーチャー、杖を持ったゴブリンメイジは、遠距離から攻撃してくる上、攻撃も躱しにくいが、俺が突っ込んで一発受けつつもゴリ押しするように攻撃し、ミコブの闇縛から俺が追撃すれば沈む、ダメージは受けるが一発なら索敵中に回復するし、次の敵がすぐに見つかった場合は少し休憩すれば良いだけで、

HP回復アイテムも持っているので、何かあっても問題なかった。

また、俺の[アピール]ミコブの[闇縛]は発動を意識すれば、技名無しで発動できる事が分かった、2回目のファイター戦でミコブが試していたらしく、それを教えてもらった俺もアピールで試すとできた。

ミコブのlvが10に上がると、[闇縛]がMP全快状態なら2回打てるようになり、それによりアーチャーとメイジに初手、追撃時に発動する事で完封できるようになった。


楽しい時間というのはあっという間で、そろそろ町へ帰るかと話し合い、最後のファイターを倒すと、いつもと違うアイテムがドロップした。


[木盾] 片手に装備する木製の丸い盾


おお!ファイターの盾か!戦いながら盾を買おうと考えていた所だったんだよ!

ミコブにドロップを告げると、「丁度良いナ!勿論オデには必要ないかラ、ジンがもらってくレ!あァ、妙な気を遣うなヨ?オデも欲しいものが落ちたら言うからサ」

と、言ってくれたので、ありがたく頂戴し、装備する!

良い感じだ!少し戦士っぽくなったぞ!ゴブリン的に言えば、[ジンファイター]にランクアップだ!

試したい気持ちもあるが、切り上げないとズルズルプレイしてしまいそうだ・・・。

惜しみつつも、帰路につく。

カッセイラの町に到着し、素材を換金後門の外で待っていたミコブに折半して渡す。

今回の稼ぎは720G半分の360Gが俺の取り分で、先ほどの売り上げの残りをミコブが受け取ってくれなかったので、所持金は430Gになる。


「さっきのと合わせて今430Gカ?最初の100Gはポーションで使っちまったんだロ?じゃア、やっパ、ジンが使ってくレ、500Gあれば鉄剣が帰るんだロ?」


「そんな、木盾も貰ったし悪いですよ、受け取ってください!」


「ドーセ使えねーんダ!貸し借りをしっかりするのも大切だガ、今後も一緒に組むんだロ?細かい事気にするんじゃネェ!」


「う・・・それなら、木盾も貰ったし、今回で[闇縛]の件も終わりって事で!」


「ジンがそれで良いなラ、わかったヨ、今後はお互い細かい事抜きで行こうゼ!」


「わかりました!」


お互いに納得した上で、今回の売り上げは結局俺がすべてもらう事になった。

俺の手元には790Gと[木盾]が残る。



「キリが良いシ、オデも一度休憩すっかナ、やる事もあるしナ、深夜にはログインできるガ、ジンはどうダ?」


「やりたいけど、深夜はちょっと・・・また明日、ですかね?」


「ン、そーカ、残念だナ、じゃあ明日時間が合えばよろしくナ!」


「はい、今日は有難うございました!」


充実した時間を過ごした俺は、町の中に戻り、ログアウトした。



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