第2話 名前はジン
まるで、別世界に飛ばされたようだった。
VRマシンを初めて使用した感覚がそれだ。
今、俺はどこまでも続く透明度の高い水のような床の上に立っている。
上を向けば雲一つない青い空が広がっており、目の前にはウインドウが
二つ浮かんでいる。
俺は自分の体を動かす、手を開いたり閉じたり、跳ねてみたり・・・
現実と全く変わらない感覚で、それが行える。
だが現実の俺はヘッドセットとアイマスクが組み合わさったものと
左腕にリストバンドのような物を装着して、ベッドに寝ているだけだ。
不思議な感覚だ、これだけ体を動かしても現実では動いていないらしい。
でも現実で声をかけられたり、触れられたり、何なら誰かが近くに居るような
気配でさえ、分かるというのだから、科学の進歩に驚かされる。
そしてもう一つ驚く事がある。
なんと、VR内の時間経過は遅くできるということだ。
もちろん現実世界の時間の流れが変わるわけではない。
VR内の体感時間のみ遅くなる、どういうことかというと
リアルの1分がVR内では2分、3分、それ以上になる。
このシステムのおかげで、色々な事が変化、進化していっている。
やりすぎるとリスクもあるそうだが、商品として売られている物は
安全なのだろう、詳しいことは分からないが・・・。
細かいことは気にしないようにして、俺はGMOのウィンドウにタッチする。
瞬間今まで居た青の世界がどこまでも白い世界へと変わる・・・
「グローリー・マイウェイ・オンラインへようこそ!初めにあなたの分身となる
キャラクターの作成を行います!まずは種族を選んでください!」
目の前にウィンドウが3つ浮かぶ、一つは人族と書かれ、人が書かれた絵
一つは人族エルフドワーフ・・・といったおそらく種族のリストと思われる
文字のみのウィンドウ、もう一つはヘルプとだけ書かれたウィンドウだ。
リストからエルフを選ぶと先ほど人族と書かれていた絵がエルフに代わり
絵も耳の長い少しスリムなものに変わった。
リストをポチポチと押して、色々な種族を見てみる。
筋肉質なドワーフに、犬の耳と尻尾が生えた犬人族、同じく
猫の耳と尻尾が生えた猫人族、☆小人族・・を選んだ時だ。
「注意!この種族は体格が変わるため、体が動かしにくい場合があります」
と、アナウンスされた。
ふーむ、他にも☆ゴブリン族☆小兎族☆魔族★竜人族★マスコット
と続くが、どれも体格が変わるものばかりだ、おそらく種族の前に
マークがついてるのが体格の変わるものかな?
★竜人族はパッと見角が生えててうろこがある以外は人と変わらなそうだけど・・・
★マスコットなんて丸っこい毛玉みたいなものか、デフォルメされた小さい動物みたいなものの絵が描かれている。
そうなると、俺は初心者なわけだし、体格が変わって体が動かなくなったら困る。
よし、決めた ここは無難に人族にしよっと。
「人族でよろしいですね?」
アナウンスされ、OK・NOと書かれたウィンドウが出たのでOKを押す。
「確認しました、それではあなたの分身を作成致します、リアルスタイルを反映いたしますか?」
リアルスタイルというのは現実の容姿だ、妹に初期設定してもらった俺だが、
個人登録とリアルスキャンは自分でやった。
個人登録は個人情報を色々と登録するのだが、これはVRを使用するにあたり
悪用されないように法律で決められていて、登録後は他人が使用できなくなる。
リアルスキャンも本人確認のため現実の体の情報を登録するが、こちらはプライバシー保護のため、本体内のみに保管される、起動時に参照されたり、こういったVRゲームのキャラ作成時に反映したりといった用途で使用される。
性別も登録するため、VRゲームでは同性のキャラクター使用が多いようだ。
違う性別にするとステータス画面に(♂)などと表示されるらしい。
これも賛否両論あるが、犯罪防止のためだとか。
勿論俺は女装趣味など断じて無い為、男キャラクター、リアルスタイルを選択。
そこから細かいところを多少変更し理想のキャラクターにする。
とはいえ不自然にならないようAIが調節してくれるのだが。
・・・・・・
よし、こんなもんかー!我ながらいい感じのキャラに仕上がった。
ある程度自分っぽさを残しつつ、理想的な男らしいキャラクターだ!
髪型もリアルでは邪魔なのでそこまで伸ばしていないが、ゲームキャラのような
肩ぐらいまである長髪にした、イメージは昔やった国民的RPGの4作目のような
・・・よし、思い切って髪色も寄せて緑・・・からもう少し濃い緑にした。
「確認しました、それでは反映致します、動作確認後、問題なければ次に進んでください。」
一瞬光が世界を覆い、白い世界からどこまでも続く草原と青い空の世界になる。
そして目の前の50m程先に白い光を放つ入口が出現した。
「おお!姿が変わってる!」
先ほどまで私服姿だったのが、白いシャツに黒いズボン、そして体格も調整した通りになっていた、漢らしい引き締まった肉体、盛り上がる筋肉!リアルでも鍛えてはいたが、全体的に少し盛った心なしか体からパワーが漲ってくる気がする!
先ほどの様に体を動かし、今度は走ってみたり、パンチやキックを繰り出す!
多少違和感があるものの、転んだりはしないし、大丈夫であろう。
うん!問題なし!あの光の入口に入れば次に進むのかな。
入口をくぐると、再び、草原の世界にでた。
先ほどと違うのは目の前に四方を岩の柱で囲まれた黒い魔法陣のようなものがあり、その手前には現在の俺のキャラクターの、分身が立っていた。
「最終確認です、キャラクターを確認後、名前を入力してください、変更したい場合は戻ることで再設定できます。」
フォン と音が鳴り、振り向くと光の入口があった、変更する場合はこれをくぐれば先ほどの場所に行くのであろう。
俺は自分のキャラクターを確認する、設定画面でも確認していたが、実際に見ると
こんな感じなのか・・・
濃い緑の肩まで長いロングヘアーで、質感はもふっとしている。
顔は男らしく眉毛を太くしようとしたのだが、上手くいかず違和感があったので
リアルより、少しだけ大人びた雰囲気にした、AIのおかげかこちらは違和感なく出来た。
体つきも問題ない少しばかり厚くなった胸板からほとばしるパワーを感じる
うん、問題ないだろう!
分身の前に浮かんでいた 名前を入力してください というウインドウに考えていた名前を入力する。
プレイヤー名 [ジン] でよろしいでしょうか?という問いにOKを押す。
[ジン]というのは俺の名前、[仁]から来ている。
良く間違われるのだが[仁]と書いて[しのぶ]と読む。
だがニックネームとして友人からは[ジン]と呼ばれているので、それを採用した。
もしかしたら妹の[
あちらも読み方が珍しいので、知らない人は間違えるだろう。
「キャラクター作成完了致しました、サービス開始までお待ちください」
魔法陣の上にカウントダウンの数字が表示された、サービス開始は明日なので今日はこれで終わりか。
妹に教えてもらったように、メニューを呼び出すと念じると目の前にウィンドウが出てきた。
そこからログアウトを選び、ゲーム・VRを終了する。
まるで微睡からすっきり覚醒するかのように、一瞬で現実世界に戻ってきた。
機械を外し、スッーと一呼吸する。
初体験のVRは不思議な感覚だった、時計を見れば30分程しか経っていなかった。
体感では1時間以上プレイしていた気がする。
妙に疲れた感覚があり、一息つくためキッチンへ行き、冷えた麦茶を1杯飲む。
するとトテトテと可愛らしい足音が聞え、妹が下りてきた。
「おにいちゃん、どうだったー?」
「不思議な感じだったよ、まるで異世界に行ったような」
「そっか~キャラクリ終わったんだよね?種族何にしたー?」
「ああ、色々あったけど、無難に人族にしたよ」
「え、えー!もっと良いの無かったの!?」
「えっ!?ど、どういうこと?・・・」
ゲームの内容については実際にやってからと、聞かないようにしていたが、
さらに種族名の前に☆が付くものは珍しい種族らしく、★マークはとても珍しいそうだ。
俺は体格が変わりそうだから・・・と選ばず無難にパパッと人族を選んでしまったが
人族 エルフ ドワーフ は基本種族といい、誰でも選択肢に上がるそうだ。
人族はオールラウンダーな種族で、悪く言えば器用貧乏だそうな・・・。
しかしだからと言って、珍しい種族のほうが絶対に良いというわけじゃないそうだ。
珍しい種族はやはり体格が変わったり、尖った性能だったりし、冒険のスタイル等が縛られる事があるそうで、ただそれでもGMOではその人に合った種族が選択肢に並ぶ事から、事前情報では★か☆を選ぶほうが良いとされていたらしい。
「もう、おにいちゃんヘルプにも書いてあるよそれ」
「ははは、まぁでも人族だって弱いわけじゃないだろ?」
「うん、まぁ初心者のおにいちゃんならそれもアリかもだけど・・・
ちなみに、★はなにが出たの?」
「えっと、竜人族?だったかな」
「えぇ!絶対強いやつじゃん!」
「あ、あともう一つ・・・マスコットってやつ」
「なにそれ可愛い、なんでマスコットにしなかったの!」
「や、やだよ・・毛玉とかデフォルメされた動物みたいなのだよ?」
「マスコット化したおにいちゃんみたかったなー」
「
「
「おお!可愛い!ぴったりだ!」
「えへへー、妖精はねぇ、小さいけど素早くて魔法も得意でーまぁ防御力とかHPは低いみたいなんだけど、常に浮遊してるから体の動かし方とか移動がちょっと難しくて、でも少しやったら慣れたし逆にアクロバティックな動きができるから攻撃当たらないと思うし、そしたら耐久力が低いデメリットも消せるから絶対強いんだよね、しかも小さいから他の種族が通れない隙間とかにも入れそうだし、それにね―・・・・・・」
・・・・
楽しそうに語る妹の話を聞きながら思う。
俺の妹は妖精のように可愛いと前から思っていたが本当に妖精になったんだね!
腰まで伸びたさらさらの髪とくりくりとしたお目目にぷにぷにのほっぺ。
まさに妖精!リアル妖精!
はぁー!はやくGMOの
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