シスター・マイロード

妖精狂

第1話 俺と妹とVRゲーム

カランカラン!商店街に気持ちの良い鐘の音が鳴り響いた


「大当たり!一等の新作VRゲームセットだー!おめでとう!」


大きい声でハキハキと喋るおじさんが、笑顔で景品の箱を差し出した。


「ありがとうございます」


両手で受け取ると隣のスタッフの人がパチパチと拍手をすると

周囲に居た人々も続いて拍手する。

俺はなんだか恥ずかしくなり顔が少し熱を持ち始めるのを感じながら

軽くお辞儀し、その場から立ち去る。

まさか、1回の福引で1等が当たるとは・・・

これまでも何度か福引を引いたことはあったが、ポケットティッシュしか当たった事

がなく、今回もきっとそうだろうと引くまでは考えていた。

いや正直に言えば3等の和牛セット・・・とはいかなくても5等の商品券なら・・

ぐらいは期待していたが・・・。

商店街を抜け、帰り道、ふと立ち止まって抱えていた箱を見る。

VRMMO「グローリー・マイウェイ・オンライン」スターターセット

新発売のネットゲームとそれに対応した本体のセットで両手で抱えるほど大きい外箱だ、肘に下げた夕飯の材料の入ったマイバッグより重い。

俺はVRMMOをやったことがないが、このゲームは知っていた。

最近話題で・・という事ともう一つ、妹が買ってサービス開始を楽しみにしていたからだ。


俺、陽静 仁[ひしず しのぶ]には、愛[なる]という可愛い妹がいる。

ただなるは体が弱いのか、前は体調を崩しやすく、今は良くなったものの

あまり外に出ず、家で静かに遊ぶのが好きな子だ。

学校も少し前からこの国でも広まりつつある、ホームスクールで学んでいる。

今高校1年の俺の世代はまだ家から学校に登校し、授業を受ける

というのが普通であったが、最近はVR技術の向上もあって、小さいころから

ホームスクールで、家に居ながらVR授業を受けるというのが効率がいいとされる。

小学5年生のなるが入学する時はまだあまり聞かなかった気もするが・・・

外国では割と広まっているらしい。

さて、そんな状況だからか愛は俺や、仕事で海外を飛び回っていて、めったに帰ってこない両親と、その代わりに、俺たちの面倒をみてあげていると叔母である、[ねーさん]

つまり家族としかリアルでは交流がない。

先日、「同じ年頃の友達とか欲しくないか?」と聞いた所

「おにいちゃんがいるからだいじょぶ」と返すありさまだ。

嬉しい反面、このままじゃいけないよな・・・と心配になってしまった。

でも一体どうしたら・・・と、ここ最近モヤモヤしていた。

そこでこのゲームが役に立つかもしれない。

さて、これも先日の事だが


なるちゃん宛に荷物が届いたよ」


「GMOだー!キャラクリしなきゃ!」


嬉しそうに包みを開ける愛が取り出したのは、剣や杖を持った人たちが描かれた


パッケージ、[グローリー・マイウェイ・オンライン]通称GMOというらしい。


「あー最近話題のゲームかぁ」


「おにいちゃんも買って一緒にやろ!」


「ははは、本体無いし、VRは高いからなぁ~」


「むー、おにいちゃんと冒険したいのに・・・」


そんなやり取りがあった。

VRの本体は安くなってきたとはいえ数十万はする。

なるはホームスクールでも使うため持っているが

俺は持っていない為、可愛い妹の頼みとはいえ、断るしかなかった。

バイトして買うことも考えたが、俺が高校に入ってからねーさんも家を空けがち

になり、家事や、なるが寂しがる事もあり、難しかった。

まぁねーさんに関しては居てもいなくても同じ状況かもしれないが・・・

ともかくだ、そんな時に運よくVR本体とゲームを手に入れてしまったのだ。

世界中の人がまるで別世界のようなVR世界に集まり、冒険しているらしい。

なるは人見知りなので、VRMMOでも[ソロプレイヤー]らしく、一人のほうが

楽なんて言っていた。

そこで俺の出番だ、一緒に冒険することで仲間ができ、交流すれば

他人とかかわる楽しさを知れて、きっとリアルでもいい方向に行くんじゃないか。

それに、ふふふ、可愛い妹と冒険だなんてとても心が躍る。

そんなことを考えていると、気づけば自宅の前であった。



「ただいま~」


家に入るといつものように声をかける。

トテトテと二階からなるが下りてくる。


「おにいちゃんおか・・ぁ!」


俺の階段の途中で声を書けながら俺が抱える箱に気づく愛、驚いた顔が満面の笑顔になる。


「おにいちゃん!VR!買ったの!?しかもGMOのやつ!!」


「やー、それがさ、商店街の福引で当たってさ!やーびっくりだよね」


「すごー!!おにいちゃんさいこー!一緒にできるね!やったやった!」


ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ愛を見ていると心が温かくなる。

こんなに喜ぶなんて、はぁー!今日は良い日だなぁ!


「っと、これ開ける前にゴハンの支度しなきゃね」


リビングにゲームの箱を下すとマイバッグをもってキッチンへ、今日はねーさん帰ってこないし、夕飯の準備に取り掛かる、手洗いうがいヨシッ!

ちなみにねーさんが帰ってくる日でもお土産とか出前を頼む可能性があるだけで

夕飯を作ってくれるわけでもなければ手伝ってもくれない。

なるは料理はできないものの、食器の準備を手伝ってくれる。

料理も手伝うとは言ってくれるが、可愛いおててを包丁で切ったりする危険があるので、断っている。

今日はホワイトシチューだ、パパっと仕込んで、煮込み過程へ。

リビングに戻ると愛が箱を開け、中身を広げていた。


「おにいちゃん!準備しといたよ!」


どうやら初期設定などを済ませてくれたようだ。


「ふふ、ゴハンのあとでね、もうすぐできるから・・・」


一緒に冒険するのが余程楽しみなのか、それともVRゲーム初プレイの俺を気遣って

くれたのか、なるは、ゲームについて色々と説明してくれた。

楽しそうに話すなるを見ていると、心の中で、ゲームを授けてくれた居るのかもわからない福引の神に感謝を捧げる程、幸せな感情が胸から溢れる。

なるの好物であるホワイトシチューが食卓に上がっても、ゲームの話が止まらない。

食べ終わって洗い物をしている最中もずっと話している。

こんなに喜ぶなんて・・・もっと早くVRを手に入れておくんだった・・・


「それでね!最初が肝心なんだよ!スタートダッシュで差を付けれるかどうか!

大人の人だってサービス開始の日は仕事を休んでプレイする人も多いんだよ!

とくにGMOは前から話題になってて、会社がGMO休みなんて作っちゃうくらい

なんだよ!なるもね、キャラメイクも済ませて、事前情報からどういう行動をするかを

・・・・って・・・ぁぁ!」


突然何かを思い出したかと思うと、「うー」と悩んだ様子になるなる


「ん・・?どうしたの?」

「ソロで考えてたから・・・おにいちゃんと一緒にやるとなると・・・うー、でも・・うーうー!」


先ほどからなるが話してくれた内容をまとめるとこうだ

まずゲームは発売されているが、まだキャラメイクまでしかできず、正式なサービスは明日だという。

正式サービス開始後は全国のプレイヤーが一斉に世界に降り立ち、冒険を開始するのだが、その世界で優位に立ちたいならば開始から数日の間が鍵らしい。

VRMMO初心者の俺には良くわからないのだが、なるが言うのだからそうなのだろう

そのスタートダッシュを円滑に進めるため、なるは何日も前から準備してきたというが

ここにきて、俺がプレイできることになり、計画が狂ってしまったという事か

ふむ、初心者の俺が一緒にいると愛の足を引っ張ってしまうだろう。

たまにVRじゃないゲームを一緒にやるが、なるは何をやっても上手で、対戦ゲーム

ではハンデを付けてもらっても勝った事がない。

レベルを上げて冒険するゲームだって、同じ時間やっていても何倍も差がつく。

そうなると・・・そうだな・・・うん。


「あー俺、VRゲーム初めてやるし、まずは一人で頑張ってみるよ

なるちゃんも最初は別々でやってさ、落ち着いたら合流して一緒に冒険しようよ」


「うー!でもいつになるかわかんないし、おにいちゃんと冒険したいし・・・

開始地点一緒に・・・うー難しいか・・・うー・・・うう」


うーうーと悩んだ末渋々と承諾したなるは少し涙目になっていた。

俺はなるを抱き寄せて頭を撫でる。


「俺、ちょっとの間頑張るからさ、分からないことあったら教えてね」

「うん、教える、なるスタダ決めてさいきょーになっておにいちゃんむかえにいくから」

「ははは・・・頼もしいなぁ、俺だって負けてられないな、あ、でも頑張るのは良いけど、ゴハンの時はちゃんとおりてきてね」

「う・・・はーい・・・」


前に一度だけ、ゲームに夢中になって、ゴハンの時間を忘れたことがあったので釘を刺しておく、好きなことを頑張るのは良いけど食事やその他諸々を疎かにしてはいけない。

なるが顔を上げてふにゃりと笑うと


「おにいちゃんと冒険する時のために情報調べてくるー!」


「ははは、っとその前にお風呂入っちゃいな」


「はーい、おにいちゃんも一緒にはいろー」


「そーいう事はねーさんに言えば喜ぶんじゃないか?」


「え、アレとは入りたくない」


アレねーさんはともかく、可愛い妹とはいえ、一緒にお風呂に入る年齢じゃあないだろう。

昔はともかく、なるはまだまだ甘えんぼさんだなぁ。

もう少ししたらお兄ちゃんの服と一緒に洗濯しないで!とか言い出すのだろうか。

想像したら寂しい気持ちになるが、そういうものなのだろう。

洗濯物は別々にするとしても、結局洗濯するのは俺な気がするが、なるが自分でやるのだろうか、そしたら成長したなぁと褒めてあげよう。


「おにいちゃーん着替えわすれたー」


「はいはい、持っていくからそのまま入っちゃいな」


脱衣所から聞こえた声に返事をすると、先ほどの想像もまだまだ先かな、と考えてしまう、しかしそういえばねーさんもこの前同じこと言ってたな、と思い出すと

なるの将来に不安を感じ、どうにかするべきか・・・と考えてしまうのであった。

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