第60話  ゼロセンチメートルな夜

 なぜか隣には元アイドルで俺の許嫁のS級美少女が腕にしがみついている。まるでそれはセミが木にギュッと掴まるように。


 なぜこんな事になったか。1つ目は寂しくなったから。2つ目は布団を乾かしていなかったから。


 添い寝がしたいと言われたものの、流石に女子と一緒の布の下で寝るとなると落ち着かない。


『俺はソファーで寝るから、優香は俺の布団で!』と言ったのだが1階に降りソファーの上を見ると使用禁止と書かれた紙が貼り付けられ上には沢山の優香の洗濯物が置かれていた。洗濯物のほとんどは下着でよけるにも手が出せない。


 というかんじで、なぜか隣には元アイドルで俺の許嫁のS級美少女が腕にしがみついている。


「優香? 起きてる?」

「……」


 反応がない。

 今のうちにと布団から出ようと試みる。

 この空間だと落ち着けなくて寝れないけど、地べたなら寝れるだろうという作戦。

 だがしかし、優香はガッチリ俺の腕を固定している。


「離さないもん」

「やっぱり起きてたんだ……」

「寝れるわけないじゃん」


 そういえば前にもこんなことあったっけ。


 ずいぶんと前の事なはずなのに、今でもドキドキするんだ……。だって、こんなに華奢で可愛いんだもんな。


 起きているはずなのに目は瞑ったままの優香。すると優香は突然、俺の腕を解放し頭の高さまで持ち上げた。


「腕枕……。してぇ」

「あ、うん」


 腕を伸ばすと優香が頭をのせる。より顔と顔の距離が近くなったせいか心拍数が速くなる。髪はとても柔らかくて、フルーティないい香りを鼻が刺激。

 いつも一緒にいてカラダがくっつくのは日常茶飯事とは言えど、理性を保つのに必死だった。


「幸太くんの体が温かい」

「ごめん!気持ち悪かった??」

「うんう、違う。私って冷え性で寒がりだから幸太の体温が気持ちいいなぁーって」


 このペースで明日の朝までもつのか!?

 2人の関係が一線を超えそうで、少し不安だった。


「幸太くん。ゴムが取れたよ」

「ヒィ!!!?!ゴム!? 俺いつの間にっ!!!!!」

「ん?? ヘアゴム!取れたからちょっとだけ起き上がるね」

「そ、そぉー」


 びっくりしたぁ……。気づかない間に夜のエクササイズまで進んでいたのかと……。


「幸太くん。なんだと思った?」


 そう言うと優香はクスクスと笑った。

 明るい場所だったら今のマヌケな顔を優香に見られてもっとバカにされるところだった。


 でも、なんだか。さっきより緊張が解れたような気がする。

 優香なりの心づかいなのかも。


「幸太くん、また一緒に寝ようね」

「あ、うん」


 そう言うと優香はギュッと僕のカラダを抱きしめた。驚いたけど、気づいたら俺も優香を抱きしめていた。


 ――次の日の朝


「幸太くん昨日のこと覚えてる?」

「昨日のこと?」

「うん!あんな事やこんなこと沢山してくれたもんねっ!」

「えぇ!!!!」


 リビングの窓際に干した布団は朝には乾いていて、今日もまた風の涼しく甘酸っぱい春の朝がやってきた。





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