第57話  早朝の散歩

 日曜日の朝。

 学校もない朝、早くから外へと出ると丁度いい暖かな日差し照っていた。まだ優香もぐっすり眠っていて、テレビを付けると起こしてしまうかもしれない。たまには休みの日ぐらい身体を休めてほしいと思い俺は外に出て散歩をすることにした。

 この間まで積もっていた雪は一気に溶け、いつの間にか桜が咲く季節。そういえばもう優香と出会って一年近く経つなぁ。『私は幸太くんに気がなくても一緒に暮らしてみたい』と言われてお試しから始まったこの生活も泣いたり笑ったり、喧嘩したり色々あったけど楽しい同棲生活になっている。最近では生活にも落ち着きが増えて、お互いのライフスタイルや好みの食べ物、物を把握し理解しあえるようにまでなった。

 だけど僕はまだ知らない。優香がアイドルだった頃のこと。

 普段の会話で優香がアイドルだった時の話をすることはほぼない。でも随分前にトークアプリの友だち数は千人超えって言ってたっけ……。


『アイドルを辞めて一人暮らししたいってお父さんに言ったんだ』


 アイドルを辞めた理由……。俺みたいな芸能界の事情もルールやマナーも知らないような他人が口を挟むことはないのだろうけど、知りたい。綾間凪咲という国民的人気を誇るアイドルが突然引退し、なぜ俺との同居を選んだのか。なぜ親が決めた関係を受け入れたのか。

 考え事をすると時間が経つのは一瞬で、いつの間にか家の周りをサクッと一周していた。

 時刻は10時。流石に優香も起きただろうと思い、俺は家に入った。

 リビングの戸を開くとソファーでスヤスヤ眠る可愛い天使。朝は部屋のベットで寝ていたはずなのに。一度起きてまた寝てしまったのだろう。

 俺はご飯を炊き、簡単なおかずを作って器に生卵を割った。朝といえば炊きたての卵ご飯。俺のオススメの食べ方は、醤油,味の素,めんつゆを少々かけ、生卵とご飯をかき混ぜた後にちりめんじゃこと細かく切ったネギをトッピングして食べる。めんつゆの香りが醤油と良く合ってとても美味しい。


「う、うぅ……」

「おはよう。優香」

「幸太くんおはよう……。あれ? サメに食べられたんじゃなかったの??」

「夢の中で俺のことを死なせるのはやめようね。てかサメに食われるってどんなシチュエーションだよ……」


 優香は大きな欠伸あくびをしてまたぐったりとソファーにもたれかかった。可愛い。


「優香はほんと無防備だなぁ……って、胸!!胸!!はだけてる!!」

「あ、ほんとだ。幸太くんのエッチっ……」

「優香の方見ると視界には絶対入るからね!!??!」


 優香は俺をからかうことを楽しんでいる様子。でも、俺以外の男にこの姿を見られると思うと、優香のことがすごく心配になる。

 だってこんなに可愛くて肌の白い元アイドル美少女が半裸だったら興奮する人も少なくはない。


「ちゃんと服着てね!あと、俺以外にはこんな姿見せたらだめだよ!」

「わかった!幸太くん大好き!!」


 そう言うと優香は少し考えてこっちをジッと見た後ニヤリと表情を変える。


「どうしたの?」

「そのね……。幸太くんに少し私への独占欲が出てきたなぁーって」

「少しじゃないよ。いっぱいだよ」

「メンヘラチックだね!」

「べ、べつに違うけど!??」


 動揺する自分は弱メンヘラなのだと実感してしまった。





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