第二章

2 FIRST Love

第55話  新たなる日常と距離感



 これは陰キャ社長息子の俺と元国民的アイドルが本当の夫婦になるまでの物語――



 昨日の出来事で俺、真島幸太まじまこうた綾間優香あやまゆうかの関係は急激に近づいた。

 アイドルグループ、MIXトラップの元メンバーであり。国民的美少女アイドルであった綾間優香という人は元々、僕みたいな陰キャ高校生男子には高嶺の花で手の届かない存在。でも今は友達以上ともだちいじょう恋人未満こいびとみまんであり許嫁という関係だ。

 情報が多すぎて頭が混乱しそう……。

 『まるでラノベ主人公だな』ってよく親友の陽太ようたにも言われる。

 これから俺は優香……優香さん?? にどう接していったらいいのだろうか。


「幸太くーん!! 朝ごはん食べよーよっ!」

「あ、うん! 今行く!」


 優香の方は俺に対して幸太くん呼びなので優香と呼ぶのは良さそう。流石にこの歳で『優香ちゃん』とかちゃん呼びで相手を呼ぶのも恥ずかしいだろうし。

 そして優香の呼び方が改めて定まると俺はクシャクシャな寝癖を手で抑えながら部屋を出た。

 リビングに着くと朝ごはんがテーブルの上に出来上がって待っていた。今日のメニューは大好物の甘めの卵焼きとベーコンとアスパラの塩コショウ炒め。優香はいつも俺のことを考えて朝食を作ってくれる。


「優香いつもありがと……」


 この数日、顔を合わせない日が少し続いたけど今日も優香の美味しい朝ごはんが食べられることはいつもと変わらない幸せな日常だった。

 ホッとして気持ちがほぐれると目から涙が出そうになる。


「どういたしまして、幸太くん! ん? 泣いてる!? どうしたの?」

「べ、べつに泣いてない!! 今日の晩は僕の奢りで外に食べにいこ!」

「うんっ!! 幸太くん好きぃ!!」


 いつも思う。この笑顔だけは誰にも奪われたくないって。


「それでは手を合わせて!」

「「いただきます!」」


 今日も元気いっぱいで可愛い。昔の俺だったら同い年の女子と毎日朝ごはんを一緒に食べるなんて考えられないだろうな。

 ほんとに、優香が許嫁で良かったと思える瞬間だ。


「これ美味しいね! 優香天才! 俺むちゃくちゃ好きだよ!」

「え、ぇぇえ!!?!」

「渦巻きの真ん中の白身が好き!」

「あぁ! 卵焼きのことね……。 びっくりしたぁ」


 優香はたまにオーバーリアクションで可愛いなぁと思う。でも何に対してびっくりしたんだろう??  


「そういえばさ! 幸太くんって自分のこと『俺』!って言ったり、『僕』!って言ったりするけど使い分けてるの?」

「え!? そうなの!? あんまり意識したことなかったなぁ。あれってさぁ、どっちかに決めて話した方がいいのかなぁ。『俺』だとなんか、調子乗ってるみたいに聞こえることもあるかなぁーって」

「幸太くんは可愛いから意識しなくてもいいと思うけどなぁー」

「可愛いって言うな!」


 赤面する俺をクスクス笑う優香。からかわれているのに今日の朝も楽しい。

 俺はいつからこんなにもMになってしまったのだろうか。体が求めているのか!?綾間優香にいじめられたいと叫んでいるのか??


「美味しかったぁー」

「うん! やっぱ優香の料理は美味しい」

「何回言うのそれ!」

「何回だって言うよ!!」


 二人分の食器をキッチンへ持って行って洗い物を始める。いつも優香には早起きして朝食を作ってもらってるから皿洗いくらいはしないと許嫁であるプライドが許さない。

 食器を洗い終わると優香がハンカチを渡してくれて言った。


「食器洗いありがと。幸太くんのお願いしなくても手伝ってくれるところ大好きだよ」

「照れさせようとしたって無駄だよー」

「むむぅ……。あ! そろそろ出ないとね!せっかく早起きしたのに学校遅れちゃう!!」


 そしてまた別々の一日が始まって。夜になるとまた同じ一日を過ごす。もしも夫婦になったとして、ずっとこんな幸せが続くのだろうかってたまに考える。


「幸太くん! 今日は同じタイミングだし一緒に学校行かない?」

「だね! じゃぁ出よっか」


 そう言うと優香は首を横に振って、


「行ってきますのチューは……?」

「……そ、そんなものはありません。今はまだ」

「あ! やっと照れた。じゃあ、行こっか」


 いつも僕をドキドキさせてくる。






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