第53話  修復したい

「ただいまぁ」

「……」


 昨日から優香ゆうかの様子は全く変わらず。家にはいるけど、帰ってきたらいつもの『おかえり』の言葉はないし。晩御飯を食べたらすぐに自分の部屋へと行ってしまう。最近は、優香の笑った顔も見ていない。

 このままではずっと緊迫感きんぱくかんのある窮屈な生活が続いてしまう。

 それは嫌なのでなんとか解決させたいのだが……。


 プルルル。プルルルルル。


「はい、真島幸太まじまこうたです」

『元気にしているかい? 我が息子よ』

「父さん……。いい加減その喋り方直してよ。違和感すごいから」


 こんな最悪な状況下で電話をかけてくるのは、ロサンゼルスで会社を経営する普段から空気の読めない父親だった。

 今日もまたしょうもない話を聞かされるのだろうと予想する。


『なんでだよ!こっちの喋り方の方が貫禄かんろくありそうに聞こえるだろ』

「早く直してよ。それで今日はなに?」

『いや、最近幸太達は元気でやってるかなぁーって。おい!そこに綾間ちゃんはいるのか?? いるなら可愛い声を聞かせてくれよぉー。父さん、この間からMIXトラップのファンになって〜。是非ともサイン……』


 ブチッ!!ピーピー


 また今日も話が30分、1時間と長引きそうだったので俺は電話を切った。


 日本にいてもロサンゼルスにいても、頭の中がフワフワしたのは衰えることなく健在だった。それと優香にサインを書いてもらう依然に今は喧嘩中なので、優香と話すことさえ困難。なるべく早く関係を修復させたいとは思ってるのだけど……。


 あぁ、女子ってほんとにわからん。


 こういう時ってみんなはどうしてるのだろうか。やっぱ彼氏(男)から謝って許してもらう? だとしても許してもらえるのかどうかも微妙だし。ていうか、俺自信悪いことをしてしまったという自覚が全く無いから何を謝ったらいいのかもわからない。


「はぁ……」


 こんなことほんとに初めてだ。優香と出会う前まではリア充という格の違う地位に恐れ、奴らはみな毎日が幸せなのだと思っていた。

 だけど、リア充はリア充で喧嘩、お互いのケア、貢物みつぎもの(プレゼント)など結構色々と面倒なことがあることに今になって気づいた。


 そして穴だらけな心と、穴だらけな脳みそを使っているとだんだん眠くなってきて、視界がせばまる。


 もう、時間も遅くて寝たいし。この問題は明日の俺に任せよう。







            ◆






「それじゃあ幸太じゃぁな!!」

「うん」


 俺の名前は山崎陽太やまさきようた。現役ピチピチ二次元大好き高校生だ。

 そして今さっきまで一緒に喋っていたのは最近彼女ができた? ような様子の親友、幸太だ。あいつとは小学校からいつも一緒で、俺が一番信用している友だ。

 だけど自称リア充の幸太は彼女ができたのにも関わらずいつも以上に元気がない。昨日、恋愛マスター(自称)の俺が、幸太の友達の相談にのってやったのだけどいまいち効果がないようで。昨日よりも幸太の背中は泣いていた。


 そして今、目の前にはクラスの美人。綾間優香が目の前に!!???


「え、その……。険しい顔してどうしたの?」


 座席の前で険しい顔をしたまま黙った綾間優香。俺は彼女の反感をいつの間に買っていたのだろうか。心当たりがあるとすれば……。


「ごめん!!二次元しか好きじゃないとか言いながら、階段登る時に女の子のスカート覗こうと頑張ってました!!!」


 これでどうだ……。謝ればもう何も言えまい。


「いや、そのことじゃないよ。でもキモいからやめようね」


 グサッ!!!!!あぁ、消えたい。普段からキモがられてるのは知ってんだけど、いざ直で言われたら結構傷つくな。


「じゃぁ、どうしたの?」

「誰にも言わないって約束してくれる?」


 な、なんだこの展開。まさか……。ごめんよ綾間さん。俺はもう二次元しか愛せないんだ。だけど聞いといてあげよう恋心!愛の告白!。


「うん。約束する」

「私……。幸太くんの許嫁なんだ」

「へぇーそうなんだぁー……ぁぁぁあああ!!!!???」


 許嫁? 綾間さんが幸太の!?


「え、マジ?」

「うん。マジ」

「あぁ、それじゃぁ幸太が元気ない理由も知ってるわけだ」

「うん。それで幸太くんの浮気相手ってどんな人?」

「浮気相手!?」


 おい幸太!? こんな可愛い美少女が許嫁でありながら……。



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