第49話  キス

「おかえりなさい!あれ……? 穂花先輩は?」

「なんか用事思い出したみたいで。帰っちゃった」

「こんな遅い時間に用事ってなんだろぉ……。ていうか!女の子一人で帰らしたの!!?」

「うん。大丈夫って言われて……」

「ふーん」


 先輩が帰った理由は、俺が告白をフッてしまったせいだ。

 真剣に告白してくれた人の気持ちを断るというのはとても心が痛い。だけど好きでもないのに付き合うという行為はもっと残酷だと自分は思った。自分なら逆にそれをされたら腹が立つし、そんなテキトウな関係は望まないだろう。

 付き合うというのは、お互いがお互いを好いていて大切に思う気持ちがないと成立しないものだ。


 俺がもし優香に告白してフラレたらどんな気持ちになるだろう……。


「どーしたの……。顔に元気ないぞぉー」

「……」

「言わなくてもいいけどさ、辛いときは相談してね。私、幸太くんの奥さんなんだから」


 そう言われた瞬間、目から大量の涙がこぼれ落ちた。

 俺より辛いのは絶対、穂花先輩なはずなのに。俺はいつも自分のことばっかりだ。


「……」


 涙を拭うと同時に、隣に座り背中を優しく撫でてくれる優香。

 そしてゆっくりと頭から抱きしめ、俺が静かに落ち着くまで側にいてくれた。


 ――翌朝


 目が覚めると俺はソファーで横たわって寝ていて、腰のあたりには優香が頭を乗せて眠っていた。ずっと一緒にいてくれたのだと思う。


 俺は自分に掛かっていた毛布を優香に掛け、またソファーに横たわった。目を開けてぼーとしていると、時計の秒針の針が動く音や、小鳥の声が聞こえてくる。


 俺は穂花先輩が告白してくれて断ったとき何も言えなかった。理由も謝罪も何もかも。もしかしたら、このまま。話さないまま先輩は卒業し、今までの思い出がすべて悪い記憶として消えていってしまうかもしれないと思うと怖くなった。


 話さないと。





            ◆





「どうしたの? あぁ、この間は突然でごめんね……。忘れて大丈夫だから!」


 放課後、俺はすぐにいつも先輩がいる図書室の整理部屋に行った。

 そして目の前にはいつもより元気のない先輩がいて、本の整理をしている。


「先輩。この間はすみませんでした」

「なんで幸太くんが謝るの? 私が悪かったのに。迷惑だったよね」


 先輩の元気のない顔を見て覚悟が固まった。言わないと。


「強がりで優しくて。綺麗でかまってちゃんで可愛い先輩。俺はそんな穂花先輩が先輩として大好きです」

「……うん」

「もしよかったら、俺の親友になってくれませんか!!」


 そう言って深く頭を下げると、先輩はこっちに近づいてきた。


「幸太くん。顔上げて」


 そして頭を上げた瞬間。


「あっ……」


 先輩は俺の口にキスをして「最後にこれだけ」と言った。

 そしてこれが僕の、初めてのファーストキスとなった。






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