第48話 決断の夜
「涼しいねぇー」
「そうですね」
近所の静かで真っ暗な道を穂花先輩に合わせてゆっくりと歩く。
普段、夜に散歩することがない俺にとっては、この透き通るような心地よさも凄く珍しいものだった。
家から少し離れたところまで来ると先輩が左の方をを指さす。
「こっちの道をぐるっと回って帰るけど大丈夫?」
「あ、はい」
先輩が指差しした方は、普段俺は通らない道。
だけど先輩に着いていけば帰れると思うのでここは任せることにする。
「そうだ! 途中で公園にも寄りたいなぁー。夜の公園ってドキドキするくない?」
「い、いいですけど、あんまり長居はしませんよ!」
「あれ? 幸太くんビビってる??」
「ビビってません!!」
先輩は少し意地悪く俺をからかってくる。だけどそれに悪い気はしないし、先輩が先輩らしいのは俺はいいと思う。
「……幸太くん」
「なんですか?」
「いや、やっぱりなんでもなかった」
公園に近づくにつれ、先輩が少し緊張しているように見えた。
何か言おうとしながらも不安になったのか。震える手を腹部に当てて抑えるようにしている。
「先輩体調悪いんですか? 震えてますけど」
「え……。いや、大丈夫」
公園に着き、白い車侵入禁止ポールを
そして俺がベンチに腰掛けると隣に穂花先輩も座った。
さて、何を話そう……。明らかにさっきよりも会話が減ってんだよなぁ。
「幸太くん」
「はっ!はい!!」
いや、突然話しかけられたら心臓溶けるわ!!とは言わず。先輩の方に体を向けた。
「少し長いかもしれないけど。私の話、聞いてくれるかな?」
「わかりました」
先輩の目を見てさすがの俺でも真剣なのはわかる。
「私ってね、昔から友達少なくて。学校行くのも大嫌いだったんだぁ。自分で言うのも変かもしれないけど、私って結構モテたの。そのせいで周りの女子は私のことを嫌って仲間外れにしたり、ネットの匿名ボックスで沢山悪口とかも書かれてた。自殺しようとかも考えるくらい辛かった。逃げたかった」
「……」
「そんなある日……。学校行くのも最後にしようって決めてた最後の日の放課後にね。家の鍵を用水路に落としちゃったの。その用水路は結構深かったし、流れも速いし、諦めたの。でもその帰り道、後ろから鍵を持って走って来てくれたのが幸太くん。あなただよ。その時の幸太くんは制服のズボンがビショビショで腕まくりしてて。迷惑かけたのに嫌な顔ひとつせず笑顔で鍵を渡して言ってくれた。「鍵見つけられて良かったです」って」
「えっ……。もしかして穂花先輩ってあのときの女の人!?」
まだ高校に入ってすぐの頃。帰り道に前を歩いていた同じ学校の制服を着た女子生徒が、用水路に鍵を落としているのが見えてとっさに用水路に入ったんだ。
陰キャで雑魚で誰とも関わりたくなかった俺には珍しい行動だった。なんでそこまでしようと思ったのかも今になってはわからない。
「うん!!それから私はあなたにずっとお礼が言いたかった。だから学校ももう少し頑張らうかなって。それに幸太くんのこと見ると胸がドキドキして」
「……」
「私、幸太くんのことが好き。大好き。優香ちゃんがいるのはわかってる!でもこの気持ちをちゃんと伝えておかないとなって」
「先輩……。あの……」
「返事はいらない。わかってるもん」
先輩は静かに涙を流し、次第に声を大きくして大泣きした。そんな先輩を見ていると、胸がキューッと苦しくなる。
今俺にできること……。それは。
「……」
静かに背中を撫でるくらいしかできなかった。
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