第47話 積極的
「幸太くん。大好きだよぉ〜」
「んっ〜、ゆうかぁ?」
「ふふふっ」
目が覚めるとそこは薄暗い図書室のカウンター。
そして目の前には、
「穂花先輩!!?? なんでいるんですか!」
「いや、寝てる後輩くんをおいて帰るのは悪いかなぁーって思ったからずっと一緒にいただけだよー」
「じゃあ、もっと早く起こしてくれても良かったんですよ?」
「それはちょっと、嫌かなぁー」
なんだろう、さっき誰かに大好きって言われたような。穂花先輩が言うわけもないし、気のせいだろうな。
それにしてもこのシュチュエーション。前にもあったような……。
あぁ、先輩と初めて話した日だったっけ。
「じゃあ、帰りましょうか。暗くなるので早めに行きましょう」
「私は遅くてもいいんだけどなぁー」
「いや、俺は早い方がいいんで」
いつもの大人しくお淑やかな先輩じゃない。いや、お淑やかなんだけどなんだかガツガツ攻めているような。
俺はニコッと先輩の方を向いて含んだ笑いを見せた。
これは精一杯の、『僕はもう帰りたいので』の合図である。
「今日私、家帰ったら一人なんだぁ」
先輩っ……。それは禁じ手ですよ。
「……そうですか。それは寂しいですね」
「うーん。今日の幸太くんはいつもより少し冷たいですねー」
「いつもこんな感じですよ」
そう言うと、先輩は足を止め服の袖を引っ張ってきた。
多分、『もっと一緒にいたい』とかそんな感じのことを言ってくるのだと予測し、動じないよう心の準備をした。
「あの、寂しいので幸太くんのお
だがしかし、それは予想もしなかった一言。
俺の家に穂花先輩がくる?? 家には優香がいるのに??
「それはちょっと、無理ですかね」
「ふーん。じゃあズボンのチャック開けて走りながら朝登校してたこと放送室から全校に流しますよ?」
「それ、俺もかなりのダメージ喰らいますけど、先輩も黒歴史になりますよ??」
「私はいいけど?」
「すみません。恥ずかしいので勘弁してください」
するとニコッと笑って『いいよね!』と訴えかけてくる先輩。
こうなってしまっては俺も断ることはできず。優香に電話を掛け、理由を説明しOKをもらった。(結構あっさりOK)
「先輩もしかして。図書室で俺が起きるの待ってたのって、俺の家に泊まるためだったんじゃぁ……」
「大正解!!幸太くんすごいー!」
「すごーい!じゃないんですよ……」
やけに素直な先輩だなぁ。何だこの人、宇宙人かなにかなのだろうか。
少し考えてそのまま会話が止まってしまった帰り道。
街灯の光に照らされる制服姿の先輩は、周りが暗い中でも抜群に綺麗で、俺の隣に並ぶと明らかに不釣り合いに見えてしまう。
でも身長が凄く高いとかクールだとかいうわけでもなく、ちゃんと可愛らしさもある女性。
俺は優香を毎日見ているので目が肥えているけど、他の人なら皆、声を揃えて美少女と言うだろう。
そんな人が今日は俺の家に泊まる。
冬休みには年明けに挨拶しに来てくれて、家の掃除までしてくれたけど。
そう思うとたまには、わがままを聞くことも必要なのかなと思う。
「それで先輩の家族はなんで家にいないんですか?」
「二人共仕事の残業かなぁー。うちは共働きだから。しょっちゅうこんなことはあるんだぁー」
「それは少し寂しいですね」
俺も父さんがロサンゼルスに行くことになった時は寂しかったなぁ。
あんなオヤジギャグばっか言ってまともな事は一切言わない父親でも、欠けてしまうと寂しく思う。
「いいや? 私は口実ができたから少し良かったなぁーって思ってるんだけど」
口実? なんの口実だろうか……。うちに泊まることなのだろうか。
別に俺の家に来てもすることもないだろうに。先輩はほんと不思議な人だ。
こうして話しているうちに、あっという間に家に着いた。鍵を開け中へと入るといつもよりも綺麗な玄関。多分優香が掃除してくれたのだろう。
「ただいまぁー」
「幸太くんおかえりなさい!!穂花先輩もこんばんは」
いつも俺はこの笑顔に癒やされていると改めて実感する瞬間。あぁ、元アイドルの笑顔を独り占めかぁ。ファンに殺されそう。
無駄に立派な玄関で、可愛いエプロンを付けたままお出迎えしてくれる綺麗な女性。
世の男達が憧れるバカンスに俺は今立っている。
「あらあら、イチャイチャしちゃってぇー」
リビングへ入るといつもよりも少し豪華な晩御飯がテーブルに並び、器が3つずつ置かれていた。
ソファーに座りいつもの位置に座ると、優香が丁度箸を持ってきてくれて楽しい晩餐が始まる。
「優香ちゃんありがとう!!晩ご飯のお金は今度払うね!!」
「いや大丈夫です!いつも幸太くんがお世話になってますから!」
なんていい子なんだ。二次元にもこんな良い子はどこにもいないぞ!!
「幸太くんは幸せ者だね」
「やっとわかってくれましたか」
「うん。痛いほどわかった……。いや、なんでもない」
冗談まじりで言った事だったのに。その返事だけ先輩の表情は笑っていなかった。
「ごめんごめん!!ほんとになんでもないんだぁー。ほら!冷めちゃうから食べよ!」
「そうですね!」
「あ、幸太くん。ご飯食べ終わった後、少しだけだけど散歩しない?」
「あっ……。いいですよ」
やはり、今日の先輩はなにかがおかしい。
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