第46話  『久しぶり!あ、あか抜けた?!』

 冬休みも一瞬にして終わり、今日からは三学期。

 長期の休みを挟むとどうしても、学校に行きたくない症候群を発症してしまう。


「はぁ……」


 まだ優香ゆうか(綾間優香)は起きてきていないよう。今日は雪も結構積もっているので早めに家を出たいのだけど。


 そろそろ優香を起こさないとまずい時間なので階段まで行って呼んでみることにする。


「優香ーー!!起きろぉー!」

「……」

「優香ぁー!!!」


 すると二階から眠たそうな様子でゆっくりと二階から下りてくる優香の姿。

 髪の毛はパサパサで寝癖がすごいのに美少女はいつでも美少女だった。


 そして優香が階段の小さな踊り場まできたところで体がふらつく。


「んんんっー……。おはよぉ、あっ!!?!!」


 優香が大きな声を出した途端、勢いよく二階から下りてくる。

 そしてそれを回避するすべもないまま優香と打つかって体制が崩れ、その場に倒れた。


 頭を打ったせいでギシギシとつたわる嫌な痛み。

 ゆっくりと目を開けると目の前には、顔と顔が0センチメートルで優香が俺の体に跨っているではないか。

 パジャマのボタンが外れかけ少しはだけた状態の優香に、俺は理性を保つことだけを考える。


「あ、ごめん。怪我なかった?」

「俺は大丈夫だけど……。パジャマがぁ」

「はっ!?! み、みた?」

「な、何が?」


 優香は顔を赤らめ恥ずかしそうにしてボタンを止める。

 ボタンを止める間は結構気まずいので相手の顔を見ることができない。

 それと……


 消えろ!邪念め!俺を殺せぇー!!


「幸太くん、なんか顔怖いよ?」

「ごめん。気にしないで」

「そう言われると少し気になる」

「いや、その……。若気の至りであります」

「それ言葉の使い方あってる??!」


 体が正常に反応するのを必死に、悟られぬよう隠す俺。

 別にここまで恥じることでもないのだろうに。今にもここから逃げ出したいと思ってしまう。


 思春期真っ只中の男子なら当たり前であろう反応だとわかっていても、女子に知られるというのは俺にとって恥であり、男を辞めたいと思ってしまう最大の要因だ。


 ――そんな朝を乗り越え、学校へ行き朝のホームルームが終わると親友の陽太ようたが俺の方へと近づいてくる。

 何故か顔をクシャクシャにさせ、ニヤニヤしながらやってくるので少し気持ちが悪い。


「なんだよ陽太、お前彼女でもできて頭おかしくなったか? いや、頭おかしいのはいつものことだったな」

「ちげーよ。お前気づいてないのかよ?」

「ん? なにが?」


 陽太にそう言われ周りを見渡すとクラスの女子が数人こちらを見ている。

 勘違いかと思い自分意外の視線の先を探してみるものの何も見当たらない。


 もしかして俺は女子たちの反感を買うようなことをしてしまったのだろうか。それとも顔がいつもよりもブサイク?


 急に体に緊張が走る。


「陽太、俺の顔なんか付いてるか?」

「付いてないけど。……はぁ、俺から言うのもなんか腹立つんだけどよ。お前ちょっとカッコよくなったよな」

「は? ま、じ、でッ!!」

「おう。前よりなんか顔の肉が減ったっていうか、あか抜けたっていうか……」

「あ、あか抜けた!? ……ってなんだ???」


 え、まさか、あか抜けたって、あの『あか抜けた』なのかっ!!

 やはり俺は今まで本来の姿を出し切れてなかったのか!


「おい!陽太!俺は本当にあか抜けたんだな??」

「あ、あぁ。そーじゃねーの? てか、お前元々そこまでブスじゃ……」

「陽太ぁー!!!お前は俺の一生の友だちだ!!」

「お前頭でも打ったか」


 やっとだ。俺が望んでも望んでも手に入れることができなかった、あか抜けフェイスぅ!!!


 そうかそうか。女子もこのあか抜けた顔驚いてコソコソ騒いでいるのだろう。あぁ、千花に自慢したい。


 そして俺はこの気持を抑えることができず、今一番あか抜けたことを伝えたい人の元へと軽やかなステップを踏んで向かった。


「綾間さん!!!」(学校では綾間さんと呼ぶ)

「ん? ど、どうしたの真島くん……」


 優香は不思議そうな顔で俺の顔をまじまじと見る。

 そして頭を下に下げたと思うとすぐに俺を視野から外した。


 そうかそうか。俺の顔があか抜けたからカッコよ過ぎて見惚れているんだろう。

 恥ずかしくて顔も見れないんだなぁ。仕方ないなぁー。


「俺、あか抜けた?」

「え……。いや、そのぉー」

「ん? 遠慮なく言いたまえ!」

「……。ズボンのチャック開いてるから締めた方がいいよ?」

「・・・へ?」


 スタスタスタスタ!!!……バシッ!!


「い、痛ってぇーなっ!!!どうした幸太」

「ん? あか抜けたなんて嘘ついたから一発殴っただけだよ!」


 俺は涙目でズボンのチャックを締める。

 これじゃあ、『あか抜けた』じゃなくて『又開けた』じゃないか……。






           ◆






 ――今日の学校でのあか抜けた事件から恥ずかしくて優香の顔が見れない夜。


 優香は全く気にしていないようだけど、俺は結構心にダメージを負っている。

 果たして俺はこの羞恥地獄から開放される日は来るのだろうか。


「幸太くん? まだ朝のこと気にしてるの?」

「あ、いや。まぁね……」


 そりゃあんな格好つけて『俺、あか抜けた?』って聞いたらズボンのチャック開いてること指摘されて。恥ずかしくないわけがない。

 はぁ、また俺の人生のに黒歴史が生まれてしまった。


「でも、幸太くんはあか抜けなくてもずっとカッコいいよ?」

「へ?」

「ちょっとだけおっちょこちょいだけどねー」


 優香はニヤッと笑って言った。

 最高の褒め言葉の後、からかってくる彼女は――


「それは優香に言われたくなかったなぁ」

「「クスッ。あはは、あははははー!!!」」




 ――いつも優香は俺の人生を素敵な話に塗り替えてくれる。





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