FIFTH Love

第45話  新年あけまして大掃除

 目が覚めると、リビング至るところで毛布を掛けないまま眠る女子二人の姿。

 夜遅くまで起きていた所為せいか、二人の目の下にはクマができていた。


 俺は立ち上がってハッとため息をつく。

 目線の先には昨夜、三人で散らかしたゴミやペットボトルが散乱しており、片付ける気にもなれない。


 これはもうゴミ屋敷の住人予備群の家。


 まず最初に俺は、起こしても怒らなさそうな優香ゆうかの方へ行き肩を擦った。だが優香は爆睡状態で起きる気配なし。口からヨダレを流し幸せそうに眠っている。


 次に妹の千花ちか……。いや、奴は起こしても言うことを聞かないのでやめておこう。


 こうなっては今お掃除ができる状態なのは俺だけになってしまう。

 だけど一人で片付けをするのもなんだかノリ気にならない。


 そして何もしないまま一旦ソファーに座り、顔をしかめてボーと黙っていると。  

 ピーンポーンと二度インターホンの音色が流れた。

 それはまるで天使が小さな鐘を振りなが近づいてくるようなぁ〜……。


 ガチャ!!


「あけましておめでとうございます!後輩くん!」

「え、なんだ。先輩でしたか」

「なんだとはなんだぁ!」


 俺は可愛い女の子か陽太ようたが来ると思っていたのに。

 ポーチに立っていたのは謎多き一つ年上の美人先輩、天海穂花あまみほのか先輩だった。


「ていうか、なんで先輩が俺の家知ってるんですか」

「あぁ、それは。最近この辺り散歩してて、真島って表札見つけてぇー。ポチってきな感じです」

「そんなはっきりしない感じでひとのインターホン押すんですね……」


 やっぱりこの人はおかしな人だ。第一印象とは全くの別人で、今は鉄人。


「ん? 幸太くん、今女の子がいるの?」

「え、いや。……はい。でもなぜそれを」

「だって女の子の靴がいっぱいあるから」


 感の鋭い鉄人は俺に背を向けて何やらかがみ込む。靴の紐でも結んでいるのだろうと思いながら、それを俺はただ不思議そうに見ているだけ。


「じゃあ、お邪魔するね!」

「え!? い、いや先輩。流石にそれはちょっと!!」


 先輩は俺の止めを聞こうともせず、勝手に人ん家に上がり込んで行く。

 先輩の印象はこの数ヶ月でものすごく変わった。


 前もウザいと思ったこともあったけど、今よりはだいぶ大人しかったよーな……。

 朝から急に押し寄せて来て強引に人の家に入るなんて、今まではなかったよな。


 それでも数少ない話せる先輩の一人なので、これからも大切にしないととは思う。


「えっ!!??」

「どうしたんですか!!先輩!」


 先輩の大きな声で何事かと思ってリビングまで行くと、優香が寝ぼけて服を脱ぎだしているではないか。

 そして先輩はゆっくりと俺の方へ向くとギロっとした目つきで睨んでくる。


「ねぇ、幸太くん。これはどういうことなのかな? 彼女さんは半裸状態で寝ぼけてるし、もう一人女の子がいるし」

「いや、これは……」

「幸太くんがこんなに破廉恥だなんて。お姉さんはびっくりです。それにこの散らかりよう……」


 先輩はため息をつき突然テーブルの食器やゴミを片付け始める。


 別に一言も手伝えとは言っていないのに。先輩は優しいところも結構ある。

 まぁ、見た目は清潔感があって清楚な美人って感じだからなぁ。


「こらぁー、ボーっとしてないで片付けるー!」

「あ、すみません」





           ◆





「幸太くん!この家カビカビハイターある?」

「はい!多分二段目の戸棚にあると思いますけどー」


 先輩が家に来てから二時間ほどが経ち尚。女子二人は眠らせたまま、俺と穂花先輩は家の大掃除をしていた。


 リビングは綺麗に片付いたのに、先輩はお風呂やトイレ、そしてエアコンまで掃除をし始め、俺はすっかりその手伝いをさせられていた。


「先輩、もう結構綺麗になったので大丈夫ですよ!」

「いや、まだ玄関掃除とエアコンのフィルター掃除があるから」

「マジですか……」


 はぁ、せっかくの冬休みなのに、一分一秒でもゆっくり寛ぎたいのに。

 それにまだ大掃除をして一週間くらいしか経っていないのに、始めから全てやり直しはすごく面倒くさい。


「もぉ、仕方ないなぁー。ちょっとだけ休んでもいいよー」

「え!!いいんですか!」

「うん。いいよ」


 廊下掃除を一旦中断すると身体の力が少しずつ抜けていって楽になった。

 だが先輩一人に自分の家の掃除をさせていると思うと少し申し訳ない。

 なので一言声をかけた。


「先輩も休憩したらどうですか? もう長いですし」

「うん。これが洗い終わったらねー」


 綺麗好きというのはとても印象が良いし良いことなのだけれど、俺的には少々の汚れやホコリなら気にならないという女子の方が俺は気持ちが楽なのでいい。

 まさに優香はそれである。


「うぅーん。(ムニャムニャ」……ん? え!?」

「あ、おはよう優香」

「お、おはようじゃないよ!!なんで先輩が家でお掃除してるの!? まさか彼女!?」

「え!? な、何言ってんの。俺の彼女は優香だろぉ〜」

「ち、違うよ!!許嫁だし!!」

「ちょっ、優香!!」


 優香の最後の一言で先輩の手がピタリと止まった。


「ねぇ、幸太くん」

「せ、先輩。これは……ですね」

「彼女じゃなかったんだ……」


 先輩がホコリだらけのほこり払いを持ってゆっくりと近づいてくる。

 そして先輩の表情は氷のように冷たく、でもって強いオーラを放っている。


「許嫁なんだね……」

「いや、ちが……」(殺されるーーー!!!)


 先輩が半径1メートルまで迫って来たところで俺は目を閉じ、お祈りを始める。


 はぁ、遺書くらいは書いて死にたかったよ。


「よかったぁー!!!!!」

「え???」


 先輩の明るい声が暗い背景から聞こえる。


「なんで目なんか閉じてるの?」

「ひゃっ!! ここは天国ですか地獄ですか!!」

「……現実だけど?」


 そう言われて目を開けると目の前には先輩が立っていて。先程とは全く変わらない風景がそこにはあった。


「し、死んでないですね……」

「幸太くんってなんか変だね」


 ニコニコ笑いながら、いつもよりも柔らかい表情の先輩。

 この短い間にどんな素晴らしい奇跡が起こったのだろう。


「彼女じゃないんだよね!」

「あ、はい」

「ふーん〜」


 結局なぜ先輩がこんなにも嬉しそうにしているのかはわからないけど。

 今ここで自分が生きているということに幸福を感じる幸太だった。


「それじゃあ掃除終わらせるよ!ほら二人共立って!」

「「えぇー!!!」」









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