第44話  騒がしい年越し

 等々、この年も終わりを迎えることになる12月31日。

 今日は朝から部屋の掃除をして、昼からは買い出しに優香ゆうかと行った。


 そして今は帰ってきてソファーで二人共ぐったり。

 あぁ、まだ年賀状も書かないとダメだし、やることが多いなぁ……。


 まだ午後になったばかりなのにお疲れモードに入ってしまったので、少しだけ寝ようかと思った瞬間。玄関が勢いよく開く音がした。


 流石に俺もそれに気づいて何事かと目を覚ます。


 ダッダッダッダッ!!!


綾間あやまさん!!こんにちはっ!!」


 白いビニール袋を持って突然リビングに入ってきたのは、俺の天敵であり妹の千花ちかだった。

 千花は入ってきて早々俺と目が合い、やつれた顔をした。


「え、なんでおにいまでいんの?」

「ここは俺の家なんだけど!!?」


 千花は大きくため息を付くと目線を優香の方に変えて、いつもは見せることのない笑顔で優香と話始めた。

 改めて女子の恐ろしさを自身で実感したような気がする。


「それでさぁー。あ、お兄ジュース注いできて」

「なんで俺がそんなことしなきゃダメなんだよ。はぁ……」


 兄使いの悪い妹はとても苦手だ。千花が来て早々、もう病みそうなんだけど?


「優香は何がいい?」


 そう優香に聞くと、千花が突然こっちに振り返って目を丸くする。


「……呼び捨て???」

「は?」

「お兄、綾間さんのことなんで名前で呼んでんの!?意味分かんない!!」

「名前で呼んじゃダメなのかよ!!」


 そう言うと千花の顔は当たり前でしょと言わんばかりの顔をする。


「だって綾間さんは私のお姉ちゃんなんだから!」

「いや、俺の許嫁だ!!」

「それにお兄みたいなゴキブリ顔のチンパンジーが呼び捨てしていいわけないじゃん!」

「言いすぎだろ!!あとゴキブリとチンパンジーが可哀想だ!!」


 なんでこんな理不尽で口の悪い人間が俺の妹なのだか全くわからない。

 俺は千花とは一生気が合うといったイベントはないだろう。


「まぁまぁ、二人共落ち着いて!」

「「落ち着いてますけども!!!」」

「あ、二人共そっくり」


 優香はニコニコ笑って俺と千花の喧嘩を止めさせてくれた。


 ほんと千花はいつも優香に迷惑かけて……。


「綾間さん。そのっ……、えっとね」


 千花が突然、小さな声で優香を見つめる。


「いいよ!千花ちゃんの呼びたいように呼んで!」

「かみさま〜!!」

「大げさだよぉー」


 でも二人を見ていると少しだけ癒やされる?ような気がするかも。


「お兄、ジュース」


 あ、やっぱり今のは撤回しますね。





           ◆





「お兄ーー!蕎麦あるよねー」

「うーん」


 時刻は6時半。あと30分もすれば紅白歌合戦が始まる。

 だけど真島家は毎年、もう始まっているであろう5時間お笑い番組を見るのが決まり。観ているだけで、おケツが痛くなりそうなやつである。

 だが今年の大晦日は忙しいのではじめから観られそうにない。


 御飯の準備が整うとリビングにあるテーブルの回りにそれぞれついた。

 みんな集まると食事が始まりやっと一段落。女子二人は楽しそうに会話しながら料理を食べる。俺はというと、話す相手も今は妹に取られてしまっているのでテレビを見ることにした。


「ねぇ幸太くん!年越し蕎麦いつ食べる?」

「うーん。年越してからじゃない?」


 優香の質問になんのためらいもなく返すと、千花が反応する。


「何言ってんの? 太るじゃん?」

「でも年越し蕎麦だしなぁー。それに蕎麦くらいなら太らないだろ」

「太るの! それだからお兄は……」


 女子は1キロ2キロ太っただけで騒ぐけど、別に見た目は変わっていないし俺は気にしない。それに数百グラムの蕎麦を食べただけで太るわけないし。


「うーん。それじゃあ私は年明けてから食べるね!こんなことも一年に一度しかないんだし!」

「え!!優香姉ゆうかねえが食べるなら私も同じようにするよ!」


 千花のやつめ。優香が食べると言い出したらあっさり自分の意見を捨てやがった。

 俺が提案した時はあんなに文句言ってたのに。


 ――そして時間はあっという間に過ぎていき、


「「「3、2、1!! あけましておめでとぉー!!」」」


 新しい年がやってきた。


「千花ちゃん!お年玉あげる!」

「えぇ!!いいの!?」


 優香は千花にカラフルで小さな封筒を渡した。

 すると千花がこっちを見てくる。


「お兄はお年玉ないの?」

「いや、俺たちは実の兄妹だし。お年玉なんていらないだろ」

「やっぱりお兄はケチだなぁ。バイトしてるんだし少しくらいくれてもいいじゃん」

「はぁ……」


 俺はこのまま妹の財布にまでもされてしまうのだろうか……。

 陽太は前、千花を妹としてほしいと言ったが。千花という生き物は地位と権力を使って兄を虐めるモンスターだぞ。


「それじゃあ。お兄、蕎麦茹でて」

「はいはい……」


 でも、頼ってくれるだけ俺は幸せなのかもしれない。








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