第42話 冬のオトズレと雪だるま
我が家の大掃除も無事終わり、隅々まで部屋が綺麗になった。
普段はよく目立っていた部屋の汚れがなくなると気持ちもスッキリする気がする。
でも身体は結構疲れていて、まだ睡眠と休息が足りないよう。
なので、まだ
静かな朝に一人寂しい俺は、せっかくの冬休みを二度寝に使うのも気が引けたので外に出て散歩することにした。
暖かく厚い防寒着のチャックを首まで締め、水が染みない靴を履き玄関を出た。
すると庭には沢山の真っ白な雪が積もっていて、手や足の先が一瞬にして冷えた。
昨日までは雪一つない庭だったのに、今見ている景色はまるで別世界。
優香が起きていたら二人で雪だるまとか作ったりして……。楽しかっただろうなぁ。
そんな理想を妄想にし、ため息を吐いてから、俺は家の前の道まで出た。
出てみたのだけど、人通りが全くなくて静か。早朝は車通りも少なく静かで落ち着くような気がする。
空から降ってくる雪を眺めながら、歩いていると自動販売機を見つけた。
この自販機は当たり付きで四桁の数字がゾロ目になると商品がもう一つもらえるような仕組みになっている。
だが、俺はまだこの自販機で当たりを引いたことがない。
小銭を入れて温かいミルクティーを買うと四桁の数字が回りだした。
7…7…7……7!!??
「あ、当たった……」
パネルを見ると7のゾロ目。
今まで一度も当てたことがなかったのに。今日は運がいい日なのかもしれない。
俺はもう一つ同じ商品を選んで、もう一本をポケットに入れた瞬間。
バッ!!!
「冷たっ!!」
「あ、ごめん……。久しぶり、後輩くん」
後ろを即座に振り向くと、そこには左手に雪玉を持った
やはりいつ見ても先輩は綺麗な人だ。
穂花先輩はニコッと笑うと左手の雪玉もステップを踏んで勢いよく投げてきた。
間一髪で玉を避けると、先輩は悔しそうな顔でこっちを見てくる。
「そこはちゃんと当たってくれないとぉー」
「なんで先輩の
「的だから」
????
穂花先輩って可愛いけど、やっぱり何考えてるかわからないんだよなぁ。
いつも自分のペースで動いてて、突然話しかけてきたり、現れたりするけど理由が全然わからない。
俺に恋愛感情があるわけでもあるまいし。
「
「あっ……。すみません」
「悩みがあるならおねえさんが聞いてあげますよ?」
「いや、大したことじゃないので」
俺のこと好きですか?なんてとてもじゃないけど聞けないし、聞いたところで多分違うのだろうから恥をかくだけだ。
優香から好かれてるだけなのに、先輩が自分のことを好きなんじゃないかと思うなんて……。俺はほんとにおめでたい奴だ。
「幸太くん、今から暇?」
「え、あ。はい……」
突然のお誘い……。案外、ほんとに俺のこと好きだったりして。
◆
一つ年上で、同じ学校に通う穂香先輩に着いて行くとそこは、俺の家からすぐの場所にあり馴染みのある公園だった。
だけどベンチには雪が積もっていて服が濡れそうなので座れそうにない。
するとそれを見て先輩は公園の奥を指さした。
「あっちに屋根があるベンチがあるから大丈夫」
「あぁ、そういえば」
屋根付きベンチまで歩いて行くと、予想したとおり。ベンチの座る部分は濡れていない。
そこに二人腰掛けると先輩は、俺の顔をじっと見て喋り出した。
「幸太くんって、まだあの彼女さんと付き合ってるの?」
「えっ……。はい、まぁ」
穂香先輩と優香は、少し前に学校で会っている。その時先輩は、許嫁の優香を俺の彼女と勘違いしたみたいで。
それからというもの、俺が学校で入っている図書委員会で度々担当が重なるので近況をよく聞かれる。
でも優香が
このことが広まってしまうと、マスコミやネット、週刊誌などで綾間凪咲に許嫁がいるということがバレてスキャンダルに発展する可能性だってある。
だから親友の
『火のないところに煙は立たない』の火を自分でバラまくわけにはいかないから。
「そっかぁー、良かったぁ。やっと私も……」
「ん?」
先輩は何かを言い掛け、途中でやめた。
その姿からは何か後悔のような寂しさのようなものを感じてしまう。
「先輩、大丈夫ですか? 悩み事なら俺が相談のりますよ」
「いいや、大丈夫。というか、幸太くんには一番知られたくないかも」
そう言うと先輩はニコッと笑顔をみせてベンチを先に立った。
さっきまではあんなに落ち込んでいたのに。
やっぱり穂花先輩のことはよくわからない。
俺は先輩が言い掛けたあの続きの言葉が気になりながらも続けてベンチを立った。
だけどそんな出来事も数分経てば、頭から離れてしまい。穂花先輩と自販機の前で会ってから一時間以上が経過していた。
そして公園で穂花先輩とは別れ、一人で優香のいる家へと帰って行く。
まだ外は寒くて最初よりは
ゆっくりと歩いて家の近くまで帰ってくると、玄関の前に人影があるのに気づいた。
その姿は少しずつ大きくはっきりと見えていき。こっちに気がついて振り向くと、いつも可愛い彼女は笑顔で微笑んだ。
「おかえりなさい!幸太くん!一緒に雪だるま作ろぉー」
「うん!!」
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