第41話  大掃除

 二学期もとうとう終わってしまい、ついに楽しみにしていた冬休み。


 俺は部活には所属していないので学校に行かなくても良いが、いつも遊び相手である親友の陽太ようたは美術部と弓道部に所属しているのでなかなか遊べない。


 なので今日は一年の締めくくりに大掃除をしようと思う。のだが……


優香ゆうか、大掃除するよ」

「えぇー、まだ大丈夫だよぉー。すぐ終わるでしょー?」

「いやいや、大掃除だからお風呂やベランダとか、いつもはやらないような場所も綺麗にするんだから時間かかるよ」


 ソファーに寝転び、SNSと日々生きている女子高生は全く動こうとせず、大掃除を拒否する。

 いつもは掃除も家事もこなし料理までする彼女が大掃除となれば動こうとしてくれないのだ。


「このままじゃ、家が汚いまま新年迎えちゃうよ?」

「ふーむ。それはちょっと……。でも起きたばっかりだしなぁー」

「終わったら買ってきたアイスでも一緒に食べようかなーって思ってたんだけどなぁー。優香はそんなのには興味なかったかぁー」


 ババッ!!!


 アイスというご褒美は効果抜群だったようで、優香はすぐにソファーから起き上がって棚からほうきを出してきた。


 そこからは分担で、トイレや風呂などの水回りとベランダ玄関は俺が掃除することになり、他は優香がすることになった。


 風呂場のドアを開け中に入って少しかがむと、水アカが多く目にとまる。


 去年は父さんの海外出張や高校受験の勉強が重なって掃除があまりできていない。

 なのでこの風呂も二年ぶりに掃除をする。


 気合を入れ、タワシと布巾に洗剤を付けてゴシゴシ磨いていると。

 突然リビングの方からガチャンという大きな音が聞こえる。


 何事かと思い風呂場から飛び出して見に行くとそこには、バケツの水を床に溢した優香が、びしょ濡れになって座っていた。


 濡れているせいか、服の色々な部分が透けて目のやり場に困る。


「大丈夫!?優香」

「うーん。ちょっと寒いぃー」

「風邪引くから服着替えてきなよ」


 そういうと優香はハッとした顔をし、申し訳なさそうに言った。


「あの……。さっきね、自分の服だけ洗濯機で全部洗ったんだぁ……」

「えっ?」

「だからそのぉ、服がないので貸してはいただけないでしょうか」


 ――そんなこともあって俺は仕方なく服を貸してあげることにしたのだけど。


「幸太くんって意外に派手なパンツ持ってたんだね。赤色で大きな唇のイラストが入ったの履いてきた」

「えぇぇええ!!!? なんでそれ選んだの? 履き替えてよ!」


 その赤くて大きな唇のイラストが入ったパンツはたしか、俺の寝室のクローゼットのタンスに封印していたはずなんだが。


 あの引き出しのものは、父さんが旅行に行った時に買ってきたふざけた下着ばかりなので一度も履いたことがない。

 そして何故いつも、お土産にパンツばかり買ってくるのか、そこもよくわからない。


「このパンツ大きいけど意外に履けるんだよなぁー」

「じゃあそれあげるよ。これから先絶対に履くことないし、履かないし」

「え!!いいの!」


 大喜びしながら狭いリビングで飛び跳ねる優香。

 そんなにも喜んでもらえるなら、タンスのお土産パンツを全部あげたい。


 優香が着替えたり、思春期真っ只中の高校生男子のパンツを漁っている間。俺は風呂掃除とトイレ掃除を終え一休みしていた。


 普段、あまり運動をしていないせいかあばらや腰が痛くなって膝はギシギシ鳴る。


 まさに今俺は、身体年齢90歳を迎えている。


「あぁー、スーパージェルクッション欲しいわぁー」

「なんの独り言?」

「いや、沢山売れてる四角で青いやつの話」


『ふーん』といった顔で頷きながら優香はソファーにもたれると、手を思いっきり伸ばして欠伸をした。


 普通の人が欠伸をしたら大体顔が崩壊してしまうけど、彼女は国宝級の美人なのでそれをしても全然可愛い。

 それと……。さっき身体を伸ばしたせいで、赤色の派手なボクサーパンツがチラチラ見える。


 男のパンツなのに美少女が履くだけでものすごくエロく感じてしまうんだが。


「ゆ、優香さんっ!? あのですね、その……。パンツ見えてますよ!!」

「それがどうしたの?」

「え? どうしたのってダメでしょ、パンツなんか見せたら!!」


 男子下着で未使用ということはともあれ、それでも女子なので隠してもらいたい。

 特に童貞陰キャ男子の俺のような奴の前では。


「うーん。でもこの赤パンの下にも幸太くんのパンツ履いてるから大丈夫だよ!」

「え!!なんで!?」

「だってとっても寒かったから。布団の上にあったパンツ履いたよ」

「そう。ん?」


 そして俺は普段使わない脳と推理能力を活性化させ、答えを導きだした。

 それは俺からするととても残酷で、罪悪感マックスの破廉恥なアンサー。



 ……彼女は朝、俺が履いていた使用済みのパンツを一枚目に履いている。


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