第40話  聞きたい過去

「アイス食べたい!!」

「えぇー、また?」


俺の名前は真島幸太まじまこうた

県立の偏差値も知名度も普通な高校に通う、至って普通の一年生だ。


だが、俺に他の男子高校生と違うところがあるとするならば、それは許嫁がいて好き同士であり、その許嫁が元国民的アイドルの綾間凪咲だということだ。


そして今、俺の目の前でアイスが欲しいと駄々をこねているのが、許嫁で元アイドルの綾間凪咲あやまなぎさこと綾間優香あやまゆうかだ。


綾間凪咲はMIXトラップという大人気アイドルグループに所属していた人気ナンバーワンの国宝級美少女。


以前まではバラエティー番組に映画やドラマにも多数出演し、CMで毎日見ると言っても過言ではなかった。


でも彼女は、一年という短い期間で芸能活動をやめ、グループからも脱退した。

当時、その出来事は社会現象になってしまう程話題になり、SNSでも5日連続でトレンド一位をマーク。

突然の引退発表に、ファンや業界関係者もみんな悲しみ綾間ロスが起こったほどだ。


そして、それから半年という月日が流れ、俺たちは運命のように出会った。


正直最初は、驚いたし動揺しっぱなしだった。

自分がこんな誰もが知っている有名人と一緒に暮らして良いものかと不安になったりもした。


でも案外彼女が庶民的で普通の女子高生だと認知していくとともに、当たり前に話せるようになっていき、今では一番信頼できる関係までに発展した。


そして気づいた時には馴れていて、もう彼女は手放すことのできない大きな存在となっていた。


だけど俺は何故、綾間凪咲が芸能界をやめてしまったのか、はっきりとした理由はまだ知らない。


一度本人に聞いたことがあったけどその時は、『アイドルを辞めて一人暮らししたいってお父さんに言ったんだ』と言っていた。


でもそんな理由でアイドルをデビューして一年でやめてしまうだろうか。

もっとちゃんとした理由があって引退をしたのではないかと思ってしまう。


「また考え事してる!!」

「ごめん。なんでもない」

「そう……」

「あぁー、アイスなら冷凍庫の左奥探してみなよ」


そう言うと優香は俺の顔をじっと見つめてきた後、ソファーから立ってそそくさと冷蔵庫の方へ向かい、冷凍庫を開けた。


「あ、あった!でもカリカリ君しかないよぉー」

「ごめん、それで我慢して。また買ってくるから」

「それじゃぁ仕方ないなぁー」


そう言い、カリカリ君一本をもってこっちに戻ってくると袋を剥がし、ソーダ味のアイスにパクっと食いつく。


なんだか見ていると愛らしくて癒やされる。

何万人もの人々が綾間凪咲を応援していたのは、この可愛らしい姿と美しい顔、性格に惹かれたためであると改めて納得する。


そして俺は、選ばれし彼女の婚約者。


誰にも期待はされていないはずなのに、プレッシャーをドッシリと感じてしまう。


優香がアイスを半分ほど食べ終えたところで止まった。

すると食べかけのアイス棒を俺に差し出した。


「はい! 半分あげる!」

「え?! だ、大丈夫!!」

「だめ!!また今度買ってきてもらうし、最後の一本だったし食べて!」


そ、そんなの間接キスになるではないか!!!

いくら許嫁という立場であっても、美少女が半分食べたアイスをもらうというのは俺にはまだ早すぎる!!


「いやいや!優香が食べるべきだよ!それに俺がそんなことしたら刑務所行きだよ!!?!」

「なんでアイス食べるだけで捕まっちゃうのさぁー。ほらっ!溶けちゃうよー」


そう言われ恐る恐るアイスを受け取る。

するとアイスの雫が一滴落ち、また二滴目が落ちそうだったので慌ててアイスにかぶりついた。


「よくできましたぁー」


優香がアイスをくわえたままの俺の頭をよしよしと撫でてくる。


あぁ、優香のペットは幸せだろうなぁー。餌もらっただけで頭撫でてもらえるんだから。


「それで何悩んでたのー」

「え?」

「さっきなにか考え事してたじゃん。言ってみたらスッキリするかもよ?」

「いや……。このことはまたちゃんと話すよ」


なんだか今は言うべき時ではないような気がした。

まだ沢山時間はあるのだから、今度ゆっくり話そう。

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