第37話 二人っきりのクリスマス・イブ
今日も屋上で告白!といった青春ドラマチックなイベントは俺のもとにやってこず。放課後になったらすぐに学校を出て全速力で歩き、俺が毎週二日バイトをしている図書館へと向かった。
それまでにもやはり角から美少女が飛び出してきてぶつかってあれやこれや、という感じのラブコメ突入イベントは舞い降りてこず。全く面白くない、決まりきった生活に支配されている。
そしてバイトが終わって身体も心もヘトヘトになり家へと帰ってくる。
ここまでは至って普通の冴えない高校生って感じなのだけど……。
ガチャッ!
……ドッタタタタタッ!!
「
「ただいま」
玄関のドアを開け、我が家へと帰還すると。俺の可愛い許嫁がいつものようにリビングから全力疾走で走ってきて出迎えてくれる。
いや、全力で走って出迎えてくれたのは今日が初めてかもしれない……。
いつもここから俺の放課後ラブコメは始まるのだ。
「
「え?」
え?って、走って出迎えてくれたものだから何か俺に用があるのかと思ったのだけど。
別にそういうことではないと言うのか。首を傾げる綾間さん。
まぁ、おかげで上機嫌だってことは伝わった。
「あ、そうだ。あれ? なんだったっけっ……」
「思い出せないの?」
「いや、もうすぐなんだけど……」
――四十秒経過
俺はいつまで玄関に突っ立っていればよいのだろうか。
綾間さんが何か話してくれればこの暇な時間も有意義だと感じることができるのだろうが。あいにく頭を抱えて考え中の綾間さんは何も喋らないまま眉間にシワを寄せている。
「思い出した!!」
そう言うと綾間さんはニヘラ笑い、飛び跳ねながら言った。
「今日はクリスマス・イブだって言いたかったの!」
「あ、あぁ!! そういえばそうだね」
え、それだけだったの。
ここで一旦会話は途切れ俺はやっとリビングまでたどり着くことができた。
そしてソファーの前にあるガラステーブルには、二人で食べるには少し大きめなチキンとサラダ。他にはグラタンのようなものまで並べられていてバラエティー豊かな夜食になっていた。
ていうか、これだけクリスマス要素のある晩御飯なら、ここに来ればすぐに気づけたのでは……。 カーテンに飾りまで付けてるし(苦笑)。
まぁ、綾間さんの可愛いところも見えたしいいかな。
そんなことを考えながら俺は、気づかれないくらいに小さな笑みを浮かべる。
そして綾間さんは、二人分の御飯を注いでくれ、俺は服を脱いで部屋着に着替えてキッチンから箸やホークを取ってくる。
なんだか、今している二人の行動も日常茶飯事なことだとはわかっているのに。少しだけ夫婦みたいだなぁーと感じてしまう。
綾間さんも、同じようなこと思ってたりするのかな……。
最初は、二人の婚約関係に何も期待せず、今まで通り非リアを突き通そうと思っていたのに。今ではしっかりリアル充実な生活をしている。
果たして俺は、
「もぉー。また考え事してる」
綾間さんが少し不安そうに言ってくる。
「ごめん、ちょっと陽太のこと考えてた」
「え、幸太くん……ゲイに目覚めたの!?」
「なんでそうなるんだよ??!!」
いつもこんな風に綾間さんは雰囲気を和ませてくれる。
別に二人の時まで気を使ってくれなくてもいいんだけど。
いや、俺が使わせてるんだっけ。
「それでは皆さん!真島家のクリスマス・イブを盛大に楽しみましょう! 乾杯!!」
「ははッ……。綾間さん、この部屋俺と綾間さんしか居ないんだけど」
「え? 私には見えるよ。お爺さんとお婆さんと……」
「いや、怖い怖い。クリパどころじゃないよ」
真面目な顔で言っているものだから本当か嘘なのかわからない。
「冗談だよ。ちょっと顔青くなってる。うふふっ」
「綾間さんが怖いこと言うから」
「おばけ苦手なんだぁー。ムフフっ」
いや、なにか企んでるよね……。最後の笑いが意味深すぎでしょ。
多分、近いうちに何か仕掛けられるな。
俺は霊感はないけど昔から怖いのには馴れていないし、お化け屋敷とかバイオハザードとかは本当に苦手。
小さい頃はよく幽霊イベントで泣いていたっけ。
「そういえば私たちハロウィンに日は何もできなかったねー」
「うん。あの時は結構、忙しい時期だったんだっけ」
ハロウィンの日はテストが近くて課題が盛り沢山だった。
俺は部活もしていないので、なんとか点数だけは取っておきたかったから猛勉強。
そして頭のいい綾間さんが事細かく教えてくれたおかげで、なんとか平均は取れたのだけど、ハロウィンという十月末の一大イベントを逃してしまった。
前の俺には全く関係ないことだったけど、綾間さんは前に楽しみにしてたから少し申し訳ない。
それに、綾間さんのコスプレ見たかったぁ……。
「それじゃあ、来年はしようね。ハロウィンパーティー」
「うん。楽しみだね」
「綾間くんは私のコスプレが見たいだけでしょっ?」
「ち、違うよ!!」
あれ? 俺、心読まれてない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます