第36話 妹の有り難さ
「なぁ、お前の
「はぁ!?」
昼休みの教室。
突然喋りだした
「ついにロリにまで興味を持ち出したか、変態め……。まぁ、あげられるのなら、今すぐでもお前にやりたいんだけど」
「はぁ、お前は妹の有り難さがわかってねーなぁー」
わかるはずもないだろう。
昨日だって突然、家にやって来ては俺をこき使うし、綾間さんはガッツリ取られてたし。だから妹というのは肩書でしかないのだ。
俺の言うことなんて全く聞かないし口も悪いし、陽太がほしいなら本当にあげたい。
「仕方ねーよな。お前はツンデレを知らないから」
「ツンデレくらいはわかるけど、千花と何が関係してんだよ。あいつはツンはあるけどデレはないぞ」
アニメとかでみるツンデレヒロインは可愛いし、口が悪くてもまだ許せる。
だが、うちの妹はただ罵声を浴びせてくるだけの毒舌娘。
それに千花が俺にデレるなんて、俺が棺桶に入った後でもそんなことはないだろう。
「いやいや、実は影でデレてんだよ。お前が気づけてないだけだよ」
「は?」
「例えば、『あぁー、また靴下投げてるし。お兄キショっ……』ってのはデレ誤訳すると『あぁー、また靴下投げてるしぃー。でもお兄はカッコいいから許す……』って感じになるんだよ」
「いやいや、キショって言われてるのに、その変換は無理があるだろ……」
「最近のギャルは皆こんな感じなんだよっ!こんなんで萎えてたら、一生できねーぞ」
最後にちゃっかり下ネタ挟んでんじゃねーよ。
それに千花はギャルじゃないわ。
「まぁ俺、恋愛のスペシャリストだから〜。千花ちゃんに伝えとけよ〜、俺の妹にならないかって」
「そんな簡単にいうんじゃねぇー」
まぁ、仕方ないよな。
戸籍とか法律とか、こいつの頭の中では全て混沌なのだから。
「一応先に伝えとくけど多分、お前死ぬことになるぞ」
「どういうことだよ……」
「千花が軽蔑した時の眼差しは、向けられると死にたくなるくらいに萎える」
「幸太、よくそれで生きてこれたな……」
あっ、千花に有り難さを感じること、一つだけあったな。
俺のメンタルが強くなったこととか。
◆
「綾間さんって、前に妹が欲しいって言ってたよね」
「うん、ほしいぃー。まぁ、もうすぐ千花ちゃんが妹になるから今は大満足!」
あ、この人。俺と結婚して千花を妹にしようとしてる……。
まぁ、許嫁だから間違ってはないのだろうけど。
でも千花と綾間さんの関係が今よりも近くて仲良くなっちゃったら、俺の居場所がなくなってしまう気がする。
「そういえば千花には元アイドルだったってこと話したの?」
「ううん、まだなんだぁー。千花ちゃんは真面目で優しいし大丈夫だとは思うんだけどね」
真面目で優しいってところには少し引っかかけど、友達よりかは打ち明けやすい相手なのかもしれない。
綾間さんは、俺とは住む世界が違い才能がある人の中でもズバ抜けて有名な人気アイドルだった。
だから彼女は誰よりもプレッシャーは感じているだろうし、それを誰かに打ち明けるとなると不安の度合いも半端ではないと思う。
だからと言って、俺が綾間さんに大丈夫だよと言ってあげることも軽く簡単には言えないんだよなぁ……。
「じゃあ、私が元アイドルだって知ってるのはグループのメンバーと幸太くんだけなんだぁー」
「あと綾間さんと俺の父さんとね」
「うん。だけど私から教えたのって幸太くんだけなんだよぉ」
「ち、近いよ……」
綾間さんは俺の顔スレスレのところまで近づいてくる。
綾間さんのいい香りが鼻腔をくすぐり、心拍数は早くなってドキドキしているのを隠そうと、少し深呼吸。
「ねぇ、幸太くん。目、瞑ってよ」
「なんで!?」
「幸太くんのまつ毛に白綿がついてるから」
「うん」
――チュッ
「はにゃ!!!??」
右頬に柔らかく冷たい感触がして体ごと飛び上がる俺。
そしてすぐ隣を振り向くと綾間さんが少し顔を赤くしてソファーにぺたん座りしていた。
「い、今キスしたよね!!?」
「へっ?」
何も知らないようなフリをして、とぼける綾間さんは自分の唇に指を付ける。
「もしも私がキスしたとして、幸太くんは……嫌?」
え……。そんなの決まってる。
「い、嫌ではないよ」
「ふーん」
「で!! したよね!! キス!!」
「どーでしょぉー」
キスをしたのか、してないのかはハッキリと分からなかったけど、今日も安定に可愛い俺の許嫁でした。
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