第34話 最高のご褒美
初日のバイトが終わり、足を引こずりながらぐったりと我が家へと帰った俺は、冷蔵庫で冷やしてあるコーラをお気に入りのコップに注いで一気に飲み干した。
そしてソファーからそれを不思議そうに見てくる俺の可愛い許嫁。
使ったコップをキッチン用洗剤で洗い水切りカゴに置いたら、俺もリビングの同じソファーに座った。
「お疲れ様。だいぶん疲れてるね……。大丈夫?」
「うん、大丈夫。でもちょっと疲れたかな。バイトがこんなに過酷だとは思ってなかった。ゲイの館長に金髪後輩ヤンキー、それと最後にやって来た面倒くさいクレーマー爺さんと……」
「なんだか大変そうだね……」
「うん、大変。……はぁ」
多分、今日は俺の人生で一番精神を削った一日だった。
この調子で週二回もバイトに行っていたら十キロ、いや十五キロは痩せそう。
俺は
「今日もお隣のおばさんが沢山お米くれたんだぁー。今度お返ししないとね」
「そうだね。コシヒカリって結構高いからありがたい」
お隣のおばさんも俺が一人暮らしをしていた時には、たまにゴミステーションで会うだけの関係だったのに。
綾間さんと暮らし始めてから何かとお世話になるようにもなり、たまに話すようにもなった。
これも綾間さんが社交的で人当たりの良いおかげだ。
「いつも十五キロもお米くれるって、もしかしておばさん石油王なんじゃ……」
「なんで隣に老婆の石油王住んでんの……。それ大スクープだよ」
多分、日本人で石油王いたらもうニュースで緊急生放送やってるレベルだ。
「石油王ってどこにいるんだっけ?」
「サウジアラビアとかじゃないのかな。地理とか詳しくないからわかんないけど」
「ふーん。じゃぁ、もしも幸太くんが石油王になっても、お嫁さん沢山作ったらダメだからね」
「え、はい」
綾間さんが言っているのは、アフリカ系の人がしている
◆
風呂から上がって服に着替えると、二階に上がり部屋でストレッチ。
今日はいつもより疲労が溜まっていたので、長く湯船に浸かっていた。
おかげで指にもシワがついて、まだ治っていない。
体が少し冷めてくると次は喉が乾いた気がしたので一階に下りる。
風呂上がりに冷えた水を飲むのが最近の俺のルーティーンになり、綾間さんも真似をするようになった。
頭がキーンとしないくらいの冷たさがちょうどよく喉もスッキリする気がする。
ソファーに座って綾間さんの方を見ると白いパジャマワンピース姿で肩にタオルが乗せられていて、髪が少し濡れている。
多分、俺が部屋でストレッチをしている間に風呂に入ったのだろう。
「綾間さん、髪乾かさないの? 風邪引くよ?」
「それじゃあ、
「え、なんで。それセクハラで訴えたりしないよね」
「しないよぉー」
女子の髪を乾かすだと……。
それ、韓国のイケメン俳優しかしたらダメっていう法律なかったっけ。
そして綾間さんはクスクス笑いながらドライヤーを渡してくる。
「それでは参ります……」
「なんでそんなに
そして恐る恐る手を伸ばしドライヤーのスイッチもオンにすると、乾きかけの少しだけ湿った綺麗な髪がドライヤーの風で
そして髪からはトリートメントの香りが鼻腔をくすぐる。
「はい、おしまい」
「え? 早くない? もうちょっと乾かしてほしかったなぁー」
「これだけ乾かせば十分だと思うけど……」
恥ずかしがる俺をからかって満足気な綾間さんは、ソファーに座った俺の後ろに回り込みドライヤーのスイッチを再び付けた。
「今度は私が乾かしてあげる番だよっ」
「ありがとう」
綾間さん、乾かすの上手いじゃん。俺がしなくてもできたんじゃ……
髪もすっかり乾いて綾間さんが隣に座ると、今度は自分の膝をポンと叩いた。
「寝そべって。耳かきするから」
「い、いいよ。そんなの……。なんか悪い気がするし、汚いし」
「夫婦だからいいのぉー。それに今日は疲れただろうから、ご褒美あげないと……」
そう言われては仕方がないので、綾間さんの膝に頭を乗せる。
柔らかくて華奢未来のお嫁さんは優しく耳掃除をする。
昔、母さんにしてもらっていた頃を思い出すなぁ……。
あぁ、なんか眠くなってきた。
「……今日は一日お疲れ様」
「……」
――翌日の朝。
俺はリビングのソファーで目を覚まし、綾間さんはその隣の小さなソファーで、ぐっすりと眠っている。
そして俺の体にはふかふかの毛布が掛けられていた。
俺は確か、リビングのソファーで耳かきしてもらって……。
あれ、昨日の夜のことって夢じゃないよね。
「綾間さん、ありがとう……」
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