第33話 初めてのアルバイトは曲者揃いだった。
「お金がほしい……」
「なんで?」
「今、欲しいアニメのフィギュアがあるんだけどお金が無くて買えないんだぁ」
最近はアニメ化、映画化といったアニメ好きにはたまらないイベントが盛りだくさんでお金を使うことも増える。
一応、父さんからお金は送ってもらっているけど、そのお金で遊びに使うのは気が引けるので生活費などにあてている。
だから実質、俺が使えるお金は毎月の小遣い1万5千円だけなのだ。
親が海外にいるのに一万5千円だけというのは、節度をもって使っていかないと結構厳しい。
なにか良いお金の集め方はないのだろうか……。
「それじゃあバイトすれば!」
「あぁ!! その手があったか! でもバイトってどこですればいいの……」
「お店探して、面接して、働くって感じじゃない?」
「ふーん。でも忙しかったり、難しかったりするのは嫌だなぁー」
「わがままだなぁー。じゃあ、図書館とかはどう?
この辺りではわりと有名で大きな施設で、俺も
「綾間さんはバイトしないの?」
「私は家でアニメ観てる方が好きだから大丈夫」
「いや、俺も好きでやるわけじゃ……」
もしかしたら綾間さんとバイトができるかもしれないと思ったんだけどなぁー。
綾間さんはどうやって月々のお金をやりくりしているのだろう……。
元国民的アイドルだから、一般人の何倍もお金を貰っていたのかもしれない。
「綾間さんは将来何かしたいこととかあったりするの?」
「うーん。幸太くんの専業主婦かなぁー」
なんとなく返しはわかっていたけれど、自然に聞けるんじゃないかと少しばかり思ってもいた。
俺はもっと綾間さんが、歌って踊って笑顔でファンに手を振るアイドルとしての姿をみたい。俺の勝手だけど思う。
◆
「――それじゃあカウンターはよろしくね。学校の委員会で馴れてるとは聞いてるから期待してるよ」
結局、俺は三日後に面接を受けてすぐ合格し、近所にある思い出の図書館でバイトをすることになった。
館長は筋肉質のムキムキボディーで顔も
面接の時も怒らずに下手な自己紹介を聞いてくれたし、俺は嫌いではないし怖いとも思わない。
だが一つ気になるのが、男なのにスカートを履いていて足がむちゃくちゃ綺麗だってこと。
下から少しずつ見上げて行くとまるでトリックアートだ。
「それじゃあ頑張ってねっ!」
「は、はい……」
はぁ、顔が近づいた瞬間、キスされるのかと思ったわ。
店長は事務室に戻り、俺はカウンターに座って仕事を開始する。
俺は週一回のシフトで一日三時間仕事をする。
そして俺の他にもこの時間帯のバイトが三人いるらしいのだが、俺は今日が初めてのバイトなので誰が来るかは全く知らない。
「シフト入りまーす」
後ろから男性の少しチャラそうな声が聞こえて振り向くとそこには、金髪の絶対リア充だろと言いたくなるような奴が眠そうな顔をして立っていた。
わぁ、耳にピアス……
「はじめましてぇー!
「あ、うん。よろしく」
雰囲気からして俺は少し苦手なタイプかもしれない……。
それでも俺は第一印象で決めつけるのも悪いと思ってちゃんと答えた。
「いやいや先輩!? 名前教えてくださいよぉー」
「え、先輩……。僕は
「先輩ぃ〜! 名前教えてくださいよぉ〜」
「だから真島幸太だって!」
「先輩お願いします!!」
「お前、気は確かか?!!」
ツッコミたいことが山程ありすぎて頭がパニック。
こいつはもしかすると、
「それで真島先輩、いつからここでバイトしてんすか?」
いや、ちゃんと名前聞こえてたのかよ……。
「今日が初めてで、さっき入ったばかりだから、まだよくわからないんだ」
「そーなんすか。じゃあ俺の方が先輩っすね先輩」
少し誇らしげな様子の自称俺の後輩は、見た目はヤンキーだけど中身はバカでわりとフレンドリーでいい奴。
だけどバイトにくる度に、人生最上級の面倒臭い絡みに付き合うのは、通常業務以上に疲れるのでよしてほしい。
「あぁ、そーなんだ。それでいつからバイトしてるんだ?」
「三日前に二時間っす」
「え、それって初心者じゃないか?」
「はい!そうっす!! 前回は本の整理だけだったんでカウンターは初めてっす」
俺と山寺でシフトを組んだ店長は何を思ってこの組み合わせにしたのだろうか。
何をすれば良いのかわからないので助けを頼もうと事務室の中を覗くと、パソコンの前に立ってワイヤレスイヤホンを付けた店長が、クネクネしながら一人でダンスを踊っている。
それでもこのままじゃ仕事にならないので、渋々話しかける。
「店長。あの……店長」
「あっハーン! イヤーン!! えっへぇ〜ん!!」
ここまともな奴は一人も居ないのかよ!!
朝から良からぬゲイに遭遇し、ヤンキに〜に遭遇し。
初日から心配で仕方がない地獄のバイトがスタートした。
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