第32話 趣味はお嫁さん?
俺、
でも他の人から見れば、『それ、にわかファンだろ』と言われてしまうかも知れない。そうだとしても俺の中では全て大好きな趣味なのだ。
そして新たに加わった趣味の一つが、MIXトラップである。
MIXトラップとは
綾間さんが引退した後も尚、活動は続いており、前までは全く興味のなかった俺も綾間さんと出会ったことがきっかけで好きになっていった。
そしてMIXトラップファンという趣味は俺だけが知る密かな楽しみなのである。
だから綾間さんにも知られてはならないのだ。
そして今日も、学校から帰って綾間さんとの夕食を済ますと、二階にある俺専用の部屋にこもってMIXトラップのネット番組や公式チャンネル動画をチェックしている。
数十分ほどパソコンを見続け疲れたところで、ヘッドホンを外し
それそろ遅いし寝室で寝よっかなぁ……。
パソコンを閉じて部屋を出て、一旦一階へと下りるとテレビの前にあるソファーに深く座った綾間さんと目が合う。
「幸太くん。上で何してたの?」
「べ、別にアニメ鑑賞だよ。うん」
「ふーん……」
綾間さんは目を細くしてジトーとこっちを見てくる。
これは完全に怪しんでいる様子。
穏便にこの場を切り抜けたい俺は、関係のない話を挟んでみる。
「今日の晩御飯美味しかったね。寒くなってきたし鍋はいいね」
「うん。それで二階で何してたの」
「恥ずかしいことなので答えたくないです……」
「も、もしかしてそれって……。ごめん、そうだよね! 幸太くんも男の子なんだもんね!」
「なんか勘違いしてない!?」
綾間さんの顔が一気に赤くなり一人で
性的な意味で変な勘違いをしているであろう彼女は目を逸したまま聞く耳をもたない。
「違うって!! 俺は上でMIXトラップの動画見てたの!!」
「えっ?……」
「う、うん」
綾間さんの顔が更に赤くなって噴火しそうな様子。
いや、もう噴火してるか。
「なっ!! なんでもっと早く言ってくれなかったのさぁ!!」
「いや、綾間さんがちゃんと聞いてくれなかったから」
「私は別に変なこと想像してたわけじゃないからね!!」
「うん、わかってるよ……」
綾間さんをからかってみたいものの、嫌われるのも嫌なので我慢する俺。
そして綾間さんは深呼吸した後、枯れた喉を水で潤す。
「それでさっきの話しだけど……」
「あぁ、変な想像はしてないってやつね」
「ち、違う!!」
「違うの!?」
「いや、違うこともない!! ん? もぉー!!」
むちゃくちゃ可愛い。からかわずして可愛いは生まれないのだ、許せ。
多分これくらいなら問題ないよね……。
「ごめんごめん。二階で何してたって話ね」
「うん。そーだよぉ……」
「さっきはMIXトラップの公式チャンネル動画観てたんだ」
「そんなのがあるの!?」
「うん。たまに綾間さんの話も出てくるよ」
「そうなんだ。私がいた頃は公式チャンネルなんてなかったから凄いよ」
なんでこんなにもMIXトラップが好きなのにグループから脱退して芸能界を去ったんだろう。
本人が嬉しそうに笑っているほど気になって仕方がない。
だけど軽々しく聞いてしまうのも場合によっては揉め事に繋がりかねないので、自分からは尋ねない。
だってデビューしてから一年という短期間で引退したのだから、大きな理由があってもおかしくはない。
「そういえば綾間さんは趣味とかあるの?」
「そうだねぇ……。アニメ鑑賞とフィギュア集めとクレーンゲームと服買うことかな」
「なんか俺と似てる気がする」
「そりゃー夫婦ですからぁー」
いやいや、まだ夫婦ではないし二つも趣味が一致するって相当だぞ……。
あとフィギュア集めとグッズ集めは、ほとんど一緒だし。
「それに幸太くんがオタクじゃなかったら私許嫁になってないから」
「俺、やっぱりオタク分類なのね……」
やはり、俺にカッコいいは似合わなかったかぁ。
若干落ち込み気味な気持ちで会話を終わると俺の許嫁、綾間優香は冷蔵庫から白色の箱を出してきた。
そしてそれには全く見覚えがない。
「その箱どうしたの?」
「今日ね!
「へー。爆弾入ってそうで怖いな……」
「入ってないよぉー。前に行ったショッピングモールあるでしょ? そこにできた人気のドーナツ屋さんのドーナツなんだって!」
そして綾間さんが箱を開封すると、不安とは裏腹にしっかりとしたドーナツが四つ入っていた。
「ほらぁー」
「ほんとだ……。あいつがまともな贈り物をするなんて」
「あ、なんか紙が貼ってある」
「ん? これは優香さんへのプレゼントなのでお兄は食べないでください?」
「私が全部食べてもいいのぉ!!」
「え、わけてくれないの!?」
あ、もう一つ二人の一致する趣味があったな。お互いをからかい合うことだ。
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